63話 妖猫ヒルダ
「ワタクシはこの家で生をうけましたわ」
「この家?」
ヒルダの言葉に首をかしげる冬黒。すると……
『ニャア』
ヒルダではない鳴き声が後ろから聞こえた。
振り返るとそこには猫が見えた。
ヒルダは言う。
「母ですわ」
「……母?」
猫が母。それはつまり、ヒルダはれっきとした猫だったという事実に他ならない。
「ワタクシは生まれたばかりの子猫の時、青春に優しく抱き抱えられながら散歩していた事を覚えてますわ。その時……現れたのですわ。妖魔が」
「襲われたんですか」
「ええ。当時青春は姉の仇を追うために、姉の残していた資料を元に力をつけていました。でも妖魔は強大で……」
「負けたんですか?」
「いえ、勝ちはしたんですわ。代わりにワタクシは死にましたが」
死んだ? 今この場にいるじゃないかと、冬黒は思った。
「守りきれずに幼い命を失ったワタクシを青春は必死に治療しました。すると思わぬ事が起きたのです」
「思わぬ事?」
「死亡した妖魔とワタクシの死体……いえ、死にかけだったのかもしれませんわね。それが融合するように重なり……」
「……まさかそれで妖魔として生まれ変わった?」
ヒルダは頷く。
元々はただの猫だったヒルダ。それが妖魔と融合したことで今のような妖猫へと進化したのだった。
「その死んだ妖魔、おそらくサキュバス的な能力の持ち主だったと思われましてね……ゆえに青春への愛の重さ、そして執着と嫉妬が大きかったのかもしれませんわ」
「……サキュバスってそういう存在でしたっけ?」
「さあ? そして倒した妖魔を吸収できるのもそれが理由かとおもってましたが」
むしろヒルダの固有能力なのではないかと冬黒は思った。
「そうして妖魔となったワタクシは、人の言葉を話せるようになっており、青春に感謝を伝えました。そして、この力があれば青春の手助けができると思いました」
「妖魔が味方だなんてどういう事かと疑問に思ってましたが……元は飼い猫だったからってわけですか」
少し納得がいった様子の冬黒。
人間に協力する妖魔なんているわけがないというのが彼の持論だった。元が妖魔でないからこそ、融通がきく妖魔になったのだろうと思った。
もっとも最初の頃は嫉妬に狂い、青春も抑えるのに苦労していたのだが。
「そうして青春とワタクシは一心同体のように契約しました。妖魔と人の契約……それは過去にもおこなった者がいたらしいですわ。資料によると」
「それをマネしたってことですね闇野は」
「青春が得た能力はナイフを自在に操るものですが、ワタクシが昼間が苦手な体になってしまい、青春はワタクシとの契約で得た莫大な魔力を夜しか使えなかったわけです」
「倒した妖魔が昼に弱かったのかもしれませんね」
「おそらく」
『ニャア』
母猫が鳴き声をあげると、それで話は終わったと言いたげに、ヒルダは地べたに座り込む。
すると秋葉が反応する。
「え、もう終わりでござるか?」
「終わりですけどなにか?」
「いや普通過去回想っていうのは、長く、みんなが嫌になるほど続くものでは」
「そんなこと言われましても、終わりは終わりですので」
「オタクとしては納得いかないでござる」
変なこだわりがある秋葉だった。
「そんなことより、闇野のこと放っておいていいんですか?」
冬黒が言った。そう、そもそもの目的は黄緑が青春になにかしないかの確認のためだったのだ。話がそれていた。
「やったあ! ワタシの勝ち越し!」
黄緑の声が部屋から聞こえた。どうやらゲームで勝ったようだ。
「お姉さん……強いね。僕も相当やり込んでたんだけどな……」
「お姉ちゃん、ゲーマーだもん。ゲヘヘ~勝ったから次やるゲームはお姉ちゃんが決めるよ」
「いいけど」
「ゲヘヘ。じゃあ負けた方が服脱ぐ野球拳ルールで」
「……? なにそれ」
「純粋で可愛い!」
さすがにまずいなと思った秋葉は乗り込もうとするが……
「……まあなんにせよ、お姉さんには世話になってるし、お願いくらいなんでも聞くけどさ」
「え、な、な、なんでも?」
「うん」
「……じゃ、じゃあさ……」
黄緑はらしくなくモジモジしだす。青春は首をかしげる。
「け、け、け、」
「毛?」
「けけけけけけ」
「笑ってるのお姉さん?」
普段セクハラまがいな行動してるくせに、こういう時は照れるのかと内心笑う秋葉。
黄緑は頭を床に叩きつけるかのような勢いで頭を下げ……言う。
「結婚を前提に付き合って下さい!」
「いいよ」
中学生を相手になにを言ってるんだこの女は……そう呆れる秋葉。
……
……
……?
「え、」
「「ええええええええええええええええええええええええ!」」
秋葉も絶叫したが、同時に黄緑も絶叫していたため、声がかき消えていた。
唖然とする黄緑に、少し照れくさそうに鼻をかく青春。
「よくよく考えるとさ、僕の都合でいつもお姉さんを振り回して……協力してもらって……この前なんて怪我までさせちゃった」
「そんな……気にしなくても……」
「ううん。女性に守ってもらって、怪我までさせちゃ、男が廃るってものだと思うんだ。僕なんかでその責任を果たせるというのなら」
「で、でも、責任感だけじゃ良くないよ?」
急にまともなこと言い出す黄緑に皆は驚く。いや、彼女は喜んではいるのだ。ただ、あまりに想定外の答えが返ってきたから気が動転しているだけで。
「僕、お姉さんのこと好きだよ」
「うっ……」
完全にハートを射貫かれた黄緑は卒倒しそうになる。……が、なんとか耐える。
「ほ、本当に……? ワタシ変なことよくしてたけど……」
自覚はあったのか……と思う秋葉。
「まあ、そこも……ね。好かれてると思えば……さ」
「うう……」
「お姉さん、僕でよければ……」
「青くん!」
黄緑は青春を抱き締める。
「メス猫の事は好きじゃないのね!」
「メ……桃泉さんの事? いや好きだけど」
「もう! 浮気はダメだよ! でもワタシが正妻なら許す!」
許すのか……
「青くんならもう許しちゃうなんでも! 重婚だろうがなんだろうが! ワタシが一番、ワタシが正妻なら!」
「うん。お姉さんが一番好き」
「う……」
また倒れそうになる黄緑だが、耐えて……
「こ、これはもう……その先の扉に……」
「その先?」
「セ……」
「お待ち! でござる!」
ついに秋葉参戦。黄緑を青春から引き離す。
「ちょっとクソアマ! 青くんはワタシが好きと言ったからいいの!」
「誰がクソアマでござるか! 未成年未成年!」
「ワタシもまだ未成年だ!」
「ならオッケーとはならんでござる!」
「学生結婚最高!」
「相手は中学生!」
「関係ない! 戦国時代はオッケーだった!」
「今は戦国時代じゃないでござる!」
「ああ言えばこう言う!」
「それはお前だ!」
「ござるつけろアホオタク!」
「黙れ変態ショタコン女!」
「殺す……」
二人は取っ組み合いの喧嘩を始める。
止めないとダメなのだが、青春は自然と笑ってしまっていた。
仇を前にし、姉を思いだし、達田を守れず気落ちしていた気持ちはだいぶ楽になった。
この前も笑えたし、やはり黄緑という存在は、青春にとってかけがえのない存在だと再認識していた。
姉のように失うことだけは絶対に避けたい……
大事な人だから。好きな人だから……守りたい。
共に戦って勝利してみせる。
……もう四鬼に、なにも奪われたりするわけには……いかない。
青春は強く決意する。
……総裁選までの日数まで、青春は黄緑と修行しつつ、楽しく過ごそうと思った。
負けるかもしれないだとか、死ぬかもしれないからだとか、そういう後ろ向きな考えではない。
黄緑に笑って楽しく、それまでの時間を楽しんでもらいたいから。
自分もまたリラックスして……その時を向かえるために……
……決戦の日は……近い。
「お姉さん、好きだよ」
「「うっ……」」
黄緑だけでなく、なぜか関係ない秋葉まで萌え死んで倒れた。
「やっぱ青くん……かわいすぎる……」
――つづく。
「えんだあ~いやあ? (ドヘタ&クソ音痴)あらあら~どうも~闇野黄緑ですわよ。うふふ」
「次回 決戦の日……来る。早い! デート回とかいちゃこら回とか○○○○回とか入れなさいよ!」




