60話 乗っ取られる東京
――知事公館。
東京都知事となった信貴条……否、妖魔神四鬼は多くの同胞を周りにおきながらワインを嗜んでいた。
そこに鮫のような尾ひれが頭につき、鱗のような肌をした人型妖魔が膝をつく。
「四鬼様、都知事就任おめでとうございます! 皆のもの! 祝え! 東京全域は我らのものぞ!」
その妖魔が叫ぶと、周りの妖魔はどんちゃん騒ぎ。
「三蛟、でも配下の妖魔王はお前だけになってしまったねえ」
「なあに。吾輩一人いれば、四鬼様の護衛はなんの問題もありませぬ。そもそも護衛すら必要ないでしょうし」
「そうだねえ。オレの能力で東京都民は全て手中におさめたわけだし」
ワインをぐっと飲み干す四鬼。そんな彼に、意識のなさそうな人間が酒を注ぎにくる。
周りにはそんな人間達だらけ。妖魔達に平服し、従っている。そんな人々は全員目が虚ろで焦点もあってなく、よだれをたらしてるものまでいる。
四鬼に意思を消され、洗脳でもされてるかのように……
東京都民を手中におさめたという、四鬼の能力によるものと思われる。
「次は総裁選ですね。それで総理の座につくことで、日本の全てが四鬼様のもの……」
「焦るなよ。これはゲームみたいなものだ。そういうものには必ず邪魔がはいるものさ」
その言葉を聞くと、三蛟は目つきが変わる……
「二鳥や一兎を仕留めたガキ共ですかね?」
「うんそう」
「確かに邪魔しに来そうですね……なら吾輩が始末しますよ。他二人の尻拭い、させてください」
「勝手にしな。オレは興味ない。暇潰しくらいにしか思ってないからね」
♢
「都知事が四鬼ぃ!?」
黄緑が叫ぶ。
青春達はまた、尾浜の家に集合していた。
そこで新たな都知事、信貴条の正体が妖魔神、四鬼だと判明していたのだ。
判明した理由。それは奴が能力を発動したからだ。
東京都民全ては四鬼の洗脳に堕ちた。
今東京に住むもの達は全員奴に操られた状態となった。全員が全員意思を持たない人形のように、動かなくなった。
動く時は、四鬼の命令を受けたときのみ。
妖魔神、四鬼の能力は更なる調査でわかった。
立場の低いものの、全てを手中に納める能力。
四鬼の配下となったものは、全身全霊をもって、奴の命令を受ける。逆らう事は許されない。対象の意思を奪うか奪わないかは四鬼の裁量しだい。
東京都民は配下になったわけではない。ならなぜ能力に堕ちたか?
その種が都知事だ。
東京という地から選ばれた代表。それはある意味では権力者のようなもの。東京の代表、つまり、東京で一番偉いものと解釈されてしまうのだ。
つまり、東京都民は四鬼の配下となり、従わされることとなった。
都民の変わりようで、信貴条が四鬼だと組織は理解したのだ。
「達田も、そこまで必要な人材ではなかったわけだね……あいつが知事になったらなったで、奴を配下にし、間接的になにかする気だったのかもだけど、四鬼が都知事は一番最悪の一手だよ」
「……なんで?」
黄緑は首をかしげる。ちなみに青春を膝にのせて抱きしめてる。
「おいら達も都民だからだよ」
頭を抱える尾浜。それはつまり、彼らも四鬼の手中に堕ちたという事だ。
「操られてるように見えないけと?」
と、黄緑は疑問を口にする。
「おそらくおいら達は高い魔力を内に秘めてるからだと思うよ。でも奴を目の前にしたら……攻撃できるとは思えない……」
尾浜だけではない。冬黒に秋葉も東京都民。ゆえに縛られる可能性が高い。
つまり彼らは四鬼と戦えない……
「闇野くんと夏野くんは都民じゃなくてよかったよ……」
そう、青春と黄緑は都民ではなかった。学校も東京にあるわけではないし。
むしろ冬黒と秋葉が例外的に東京から通ってたのだ。
「でも四鬼の次の動きはわかる。奴は総裁選に出るつもりだよ」
「……ソウサイセン?」
黄緑は可愛く首をかしげる。
「青くん青くん! 知ってる? あ、じゃなかった。あらあら~知ってる青く~ん?」
「よくわからない」
「あらあら~そんなところもかわいい~」
ダメだこりゃと呆れる尾浜。
「総理大臣決めるやつだよ簡単に言うとね。総理は日本の代表みたいなもの……奴が総理になれば、日本国民が手中に堕ちることになる……」
「そして、他の国の代表に次々になって、世界征服……四鬼の狙いはそんなところでしょうね」
と、冬黒は補足する。
「こうなれば総理に就任する前に、四鬼を討伐するしかないですね。……自分としては春火さんの仇、四鬼をこの手で殺したいところですが……闇野、君に託しますよ」
「冬黒くん……」
「その代わり、負けは許しませんからね。最後の妖魔王は自分がしとめてやりますから、四鬼は任せます」
「うん」
話は決まった。
一刻も早く、妖魔神四鬼を討伐する。日本を奴に乗っ取らせないために!
「でも今のままであいつに勝てるかはわからない……」
前回、あっさりと四鬼に青春達は敗れている。対策もなしに挑んでも勝てるとは思えない……
※54話参照。
「わかってる事は、奴は木属性、それも風使いってことだけ」
「風ねえ~ワタシの腕切りやがって、万倍にして返す!」
風の刃で黄緑は腕を落とされた。
何事もなかったように、今は腕がついているが。
黄緑の身体能力強化はさらにパワーアップしていた。
切れた腕を再びくっつけることが可能になっていたのだ。全く違和感なく。
「あらあら~そういえば青くん。ヒルダは大丈夫なの~?」
「ああうん。両断されたけど治ってるよ」
「化け物ね~」
お前が言うなと、周りの者達は思った。
「倒した妖魔を取り込み、ヒルダはさらに成長してる。冬黒くんが倒した奴も後で吸収しておいたからね」
「そっか、青くんは倒した妖魔をヒルダの血肉にしてるんだっけ?」
「うん。100%力をものにできるわけではないけどね」
二鳥にコカトリス。二体の強大な妖魔を食ったのだ。相当パワーアップはしてるはず……
だがそれでも四鬼を相手にするにはまだ足りない。そんな気がしていた。
「総裁選の時期は?」
「1ヶ月後だよ」
「それまでになんとかしないとダメってことだね……」
黄緑は素朴な疑問を口にする。
「てか都知事になったばかりで総理になれんの? やとーだかなんだかの人じゃないとダメなんじゃないの?」
「東京都民が奴の手中なんだよ? どうにでもしてくるさ。現在の総理も都民だから操られるし」
「じゃあ都民全員ぼこぼこにして気絶でもさせる?」
なんて野蛮な事考えるんだこの子はと、一同呆れる。
「都民何人いると思ってんの不可能だよ……」
「メス猫都民かなあ? ぼこぼこにしたい」
「やめなさい」
「はぁ~い青くん。チューしていい?」
青春が手綱握ってないとなにしでかすかわからないなこの女と、みんな思った。
「都知事になったことでむしろ、奴の動きはつかみやすいかもね。表向きには都知事の仕事とかするんでしょ?」
青春はそう言った。
確かに、そうかもしれない。行方がつかめないことで有名だった四鬼の居場所がつかめる。そこは大きな事……
「総裁選までに、奴に勝てるように修行でもするよ。妖魔狩りでもしながらね」
姉の仇を見つけて、前のようにならず、冷静でいる。
今の青春なら安心かもしれないと、皆は思った。
四鬼を倒すための切り札……
闇野青春と夏野黄緑。
日本の行く末はこの二人に託された……
「ねえねえ青くん。仇とれたらお姉ちゃんご褒美ほしい~」
「はいはい。わかったよ」
「……言質とったよ……フフフ」
卑しく笑う黄緑……
青春はヤバい、失言だったか? と、少し後悔した。
(でもお姉さんにはお世話になってるし……大目に見ようかな)
――続く。
「ご褒美がなにか? 内緒~」
「次回 修行開始。何はともあれ強くならないとね!」




