55話 立ち上がれ!
戦線離脱した黄緑は、青春を抱え自分の家に帰宅。
腕を切り落とされていた黄緑だったが、ちゃんと切られた腕も持ちかえっていた。
――そして……
「いったぁ!!」
切られた部位に腕を強く当て、魔力を注ぎ込む。その後包帯を強く巻くと……
落ちずにくっついたように見える。
黄緑の身体強化能力は、部位を切られてもこうしてつなぐ事ができるのだ。
魔力をもってすれば誰にも出来なくはないのだが、黄緑のそれは能力も味方して精度が高い。
一日もすれば、自由自在に動かせるくらい治ることだろう。その間は動かさず安静にするのが大事だが。
黄緑は痛みに泣きそうになるが耐え、ソファーに塞ぎ込む青春に近寄る。
「青くん……」
「……」
青春は何も答えない。
ショックがでかすぎたのだろう。その上四鬼にも実質敗北。絶対的な自信も砕け散った。中一の少年にはあまりにも大きな心の傷が出来ていた。
「とりあえず、今日は泊まっていきなよ。お姉ちゃんがずっと側にいてあげるから。ね?」
「……」
優しく黄緑が抱きしめると、青春の方も体を委ねるかのように、彼女の特大な胸に顔をよせる。
すると黄緑は雷に撃たれたかのような衝撃を受ける。
(え、え? 可愛すぎない? え? こ、これってさ! も、もしかして……手をだしても、一線越えても○○○○)
黄緑はやはり黄緑だった……
こんな状況でも黄緑だけど頭はピンク色。
「あ、青くーん……お姉ちゃんの部屋にい……」
「なにしてんの黄緑ちゃん」
母親の紫登場。
「あ、ママ……」
娘がヤバい事考えてそうなため引きはなそうとするが……
青春の様子がおかしい事に気づく。
「どうかしたの? 青春くん」
「え、いやその……」
母親には妖魔の事などは黙っているため、紫は事情を知らない。だが、なんとなく察する。
「親御さんには話しておくから、黄緑ちゃんは優しく、側にいてあげなさい。でも、変な事しないようにね」
「……はーい」
めちゃくちゃ不満そうだった。
♢
「闇野の様子は?」
翌日、冬黒と秋葉が訪ねてきて、青春の状況を黄緑に聞いてきた。
「青くんは戦えない。当分は……」
黄緑は一日ずっと側にいたのだが、青春は塞ぎ込んだままだったのだ。
「情けない奴ですね」
冬黒は呆れるようにため息をついた。その発言、さすがに聞き捨てならない黄緑。
「ちょっと冬黒くん! 青くんは中一でまだ子供なんだよ!? そんな言い方……」
「自分も同い年ですけど」
そう。大人びているが、冬黒もまた中一だ。
「自分ならあの程度で塞ぎ込んだり、ショックなど受けません」
「だからって……」
「自分は何だかんだで闇野を認めてたんですよ」
少し苛立ちが見える冬黒。
出されていたコーヒーをゆっくりとすすった後に言う。
「一人で戦い続け、ひっそりとほぼ無償に近い報酬で妖魔を退治してきた。そんな奴の手腕、尊敬に値する」
「そっか、ワタシと会う前はずっと一人だったんだもんね」
「それが、姉を久しぶりに見て、記憶を取り戻したと思ったらまた奪われた。たったそれだけでショックで戦えないなど……ガッカリですよ」
曲がりなりにも認めた相手、それが心を折られて戦えないだなんて……
冬黒は失望していた。
どんな事があろうとも、妖魔と戦い続ける信念があると思っていた。
だが所詮、それは姉の仇をとる事のついでだったのではないのかと、冬黒は思い始めていた。
「とりあえず、我々は保護した達田の評判を落とすための行動をとる事にしました」
「なにそれ」
「またテレビの生放送を使うんです。奴らの手が回ってない所で、前回の事について話させるつもりです」
「それでまたあることないこと言うわけね。でも手が回ってない保証は?」
「ありませんよ残念ながら。でもやるしかない。保護したとはいえ、必死に取り返しに来ない所を見ると、達田が都知事になりさえすればいいのかもしれませんしね」
そうなると、なんとしても達田を落選させる必要がある。
ならばもう一度、リスク覚悟で達田の評判を下げる必要があるだろう。
テレビ局が四鬼の支配下ならば待ち伏せもありうる。
だからとりあえずは妖魔に恐れをなして、前回の弁明という呈でテレビ局に向かう予定。それなら仮に支配下でも達田を招き入れる可能性がある。
逆らう気をなくしたと思ってくれるのならばだが。
「で、闇野は?」
「昨日はうちに泊まったけど、今は自分のお家に帰ってる。後で様子見に行く予定なんだけど」
「煽ってやろうかと思ったんですけどね」
「冬黒くん!」
「冗談ですよ」
と、笑うものの、冬黒の目は笑っていない。
「黄緑氏、青くん泊めたでござるか?」
秋葉が怪訝な目線を黄緑に浴びせるが、まず黄緑が不機嫌そうに答える。
「ワタシ以外が青くんって呼ぶな」
「わかったわかったでござる。とにかく答えてでござる」
「泊めたからなんなの?」
「……変なことしてないでござろうな」
「……シテナイヨ」
視線を反らす黄緑。
「おいこらアバズレ。今後青春くんに近寄るの禁止でござるね」
「はああ!? あんたにそんな権利ないでしょ先輩! それにママいるんだから大したことできなかったって! 一緒の布団で寝たくらいで……」
「一緒のって……何かしたんじゃ」
「まあちょっとチューとかは」
「あんたって子は!」
やいのやいの言い争う二人に呆れ、冬黒は帰り支度。
「一応闇野に伝えておいてください。その作戦の事」
「いいけど、行かせないよ? ワタシも行かない」
「え、夏野さんも?」
「うん。青くん一人にしておけないから」
まさか主戦力二人が欠けるとは……さすがに想定外すぎると思う冬黒。
「夏野さんは闇野に甘すぎるし……ここは桃泉さんに任せますか」
「は!?」
聞き捨てならない発言だった。
プルプル震える黄緑。
「なに? なんでメス猫?」
「励ましに行くだとか言ってまして。彼女が闇野を立ち直らせればうまいかな、なんて。そう簡単にはいかないでしょうけど」
「もしかして今、メス猫と二人きりの可能性も?」
「あるかもですね」
黄緑は般若のような形相で怒り狂う。
「メス猫~! 殺す!」
「あの、冗談でもそれは言い過ぎです」
「冗談じゃない! 青くんに手を出してみなさい……許さない!」
「手を出そうとした女に言われたくないでござろうな~桃泉氏も」
ボソリと呟く秋葉。
冬黒は立ち上がり、そうだ。と、忘れてたように黄緑に言う。
「闇野のところに行くなら言っておいてくださいよ」
「え?」
「あの、闇野姉が一瞬現れた時、自分も記憶を一時的に取り戻しました」
あの一瞬、全人類から消えた闇野春火の記憶が復活したのなら、彼女を知ってると思われてた冬黒もまた思い出すのも当然の事。
闇野春火は組織に属してたと思われていた上に、冬黒と組んでたかもしれなかったわけだから尚更。
「自分もすぐ忘れてしまいましたが、思い出したときの感情はなんとなく覚えてます」
「感情?」
「ええ。どうやら自分は、闇野春火さんの事が好きだったらしいです。恋愛的な意味で」
「ま」
口元に手を当て、恋愛話が好きな人みたいな反応をする黄緑。
とはいえ黄緑は他人の色恋に興味なんてないのだが。
「好きな人を奪った四鬼を自分は許せません。だからこそ戦い、四鬼を潰す」
「……」
「闇野は好きなお姉さんを奪った四鬼を放っておいていいのですかね? そう伝えてください」
「話長すぎて忘れちゃったよ。それじゃ伝えらんない」
ガクッとなる冬黒。
「自分の好意と、四鬼を放っておいていいのかだけ言っておいてください」
「はーい。とりあえずメス猫追い出しに行こ」
そう言うと、冬黒よりも先に家を飛び出す黄緑。
「あの行動力、妖魔退治にすこしでも回してほしいものですね……」
黄緑の行動力は青春依存。青春が妖魔退治するなら手伝う。青春が戦えないなら青春の側にいて戦わない。
なかなか困ったものである。
「四鬼とやるには、二人の力が必須……闇野、だから立ち上がってください。春火さんのためにも……」
――つづく。
「メス猫……距離縮ませたりなんてしないんだからね……嫉妬嫉妬嫉妬……」
「次回 姉のため、みんなのため。ワタシは青くんのため~♡」




