17話 調査
あの後黄緑が風呂に乱入してこないように、母親の紫に見張ってもらったことで、青春は事なきを得た。
ただ、寝る場所は黄緑の部屋。
朝起きたら青春の布団に黄緑が潜り込んでたりと、結局彼女の暴走はあまり止められなかった。
多分何もされてないと思われるが……
♢
――その翌日。
休日のためどこか遊びに行こうと思ってた黄緑だったが、青春は遠出すると言ってきた。
どこへと黄緑が尋ねると……
「え? 昨日ニュースやってた場所? 猟奇殺人鬼が出たっていう?」
青春は頷く。
「なんで? 人がやったことでしょ?」
「犯人が言ってた事が気になってね。別に思い過ごしならそれでいいんだけどね」
「あの3バカ呼ぼっか?」
調査なら人手がいるか……と判断した青春。
「そうだね。お願いしようかな」
「OK、じゃあ学校前で待ち合わせって言っとくよ」
その後、すぐに準備を済ませた2人は朝早く家を出る。
道中は手を繋ごうとダダこねる黄緑に根負けして、仲良く手をつないで歩いた。
……青春は恥ずかしくて、少々人の視線が気になった。
待ち合わせ場所の学園の校門前に着くと、人の影が。
金髪天パ。ピアスを開けて、タバコをプカプカ吸ってるヤンキー風の女性だった。
年代は3、40代くらいだろうか? 目つきは悪いが美人ではある。
黄緑はあからさまに嫌な顔をした。
「何あの女~いい年こいて暴走族とかやってそー。青くんの教育に悪いから3バカくるまで離れてよっか」
と、思ったらそのヤンキー女性がこちらに気づき、青春と黄緑の元へ近寄ってくる。
なにやらにこやかに手を振って。
「え? なに? 怪しい……何を企んで」
不信感MAXの黄緑に、青春は一言。
「――母だよ」
……
キョトンとする黄緑は聞く。
「え? なんて?」
「母だよ。僕の」
グルンと首を動かしヤンキー女性を確認。
純粋でおとなしい青春とはイメージがあまりにも違いすぎる。
3バカの母親ならまだ理解できると黄緑は思った。
典型的ヤンキーな見た目してるから……
「青~頼まれたもの持ってきたよ~」
「……禁煙するんじゃなかったの」
「あ、ゴメンゴメン!」
タバコの火を消し、しまう。
青春の母はなにやら紙袋を持っており、それを届けに来てくれたようだ。
袋を青春に手渡したあと、彼女は黄緑に気づく。
「あら、こちらが例のお世話になってるお嬢さん?」
「うん。夏野黄緑さん」
「どうも~青がお世話になってるみたいでね~」
呆気にとられてた黄緑は、はっとしてお辞儀。
「い、いえいえ! 青くんかわいいからこっちとしては全然嬉しいというか!」
「だよね~わかる! ていうか、黄緑ちゃんデカイね! いろいろと!」
黄緑の背と胸付近を見てケラケラ笑ってる。
(あ、あまりにもイメージと違う! 青くんのママなら、もっとポワポワした美魔女みたいなお母さんだと思ってたから……)
だが美人だし、顔だけなら似てなくもないのだが。
ただ青春はヤンキー系ではないため、黄緑の想像とは全く当てはまらないのだろう。
「こんなかわいい子の家にしょっちゅう泊まるとか、青もすみにおけないねえ。そんなにすぐ結婚とかするなよ~?」
「何言ってんだか……」
結婚のフレーズに顔が赤くなり、もじもじする黄緑。母親はその様子に気づきニヤニヤ。
「青じゃなくてそっちがその気なのかな~?」
「からかわないの」
青春は窘める。
「お姉さんも困るでしょ」
「なるほど、お姉さんか~良かったじゃん青。こんなにかわいいお姉さんできてさ」
「……」
「青は一人っ子だから、お姉さんできて嬉しいんだと思うよ~黄緑ちゃんありがとうね」
……一人っ子?
―――――――――――――――――――――
『実の姉を亡くした青春には……』
―――――――――――――――――――――
黄緑は前に青春と契約してる妖猫ヒルダの言葉を思い出した。
※4話参照。
(そうだよ。青くんには亡くなったお姉さんがいるとか前に聞いたけど……)
それとも亡くなって今は一人だからということだろうか?
いや、それにしても亡くなった娘がいるなら、姉できてよかったなどと言えるだろうか?
「そうそう! 名乗るの忘れてたけど青の母、闇野巳春でーす。よろしくね黄緑ちゃん」
「あ、はい」
「じゃあお母さん行くからね青。今日は帰ってきなよ?」
青春は頷く。
そして巳春は青春の頭を撫でてからそそくさとその場を去っていった。
巳春の姿が見えなくなると、黄緑は質問する。
「青くん。お姉さんいたって言わなかった?」
「いたよ」
「でも、お義母さん一人っ子って」
しれっとお義母さん呼ばわりしてる黄緑。
青春はそこにはつっこまず、涼やかに質問に答える。
「……母、いや、父もなんだけど……姉さんの事忘れてるんだ」
黄緑にとっては衝撃の事実だった。
(記憶喪失? いや、姉だけピンポイントで忘れるなんてことあるの?)
青春は説明を続ける。
「四鬼という妖魔に、姉さんの存在ごと喰われたせいだよ。それにより、全ての人物から姉さんの記憶が失われた」
「き、記憶ごと食べたって事?」
にわかには信じられない話。
青春の姉がこの世に存在していたという事実すら失くすほど、全てを喰らったというのだろうか? その四鬼という妖魔は。
「……青くんが探してる妖魔ってそいつの事?」
青春は頷く。
要は姉の敵討ちをしようと動いてるわけだ。
黄緑は青春の目的をついに知る事ができた。
「あれ? 全ての人の記憶から消え去ったなら、青くんはなんで覚えてるの?」
当然の疑問だ。青春だけは姉がいると覚えてる。それだと全ての人の記憶から消え去ったわけではない。
なにか理由が……?
青春は目を閉じ、重い口を開く。
「……正確に言えば、覚えてないよ」
「え!?」
「僕が覚えていたのは、四鬼に対する憎しみ。何が理由かはその時点ではわからなかった」
青春はポケットから手帳を取り出し、開く。その中身を黄緑に見せると……
【姉さんを忘れるな。姉さんを忘れるな。姉さんを忘れるな。姉さんを忘れるな】
殴り書きの、姉を忘れるなという文字が、ぎっしりとページ全てに埋め着くされていた。
「手帳だけじゃないよ。自宅の部屋にも紙を張り付けて置いてあった。そのせいか、親には姉がほしいのかと勘違いされてるけどね」
「もしかして、記憶を失う前に青くん自身が書きつくしたってこと?」
「多分ね。僕の字だったし。……そして察したんだ。この憎しみのわけをね」
四鬼に対する憎悪までは消えなかった。理由がわからなくても消えない憎しみ、それが姉を奪った怒りなら……と、青春は合点がいったのだ。
「そして四鬼を調べるにつれて、奴が記憶ごと喰いつくすことを知った。ここで確信に至ったんだ。僕には姉がいて、奴に喰われ忘れてしまったのだと」
「……」
「紙に書く余裕があった理由とかはわからない。四鬼をこの目で見たかもわからない。何もわからないけど、僕は行動を開始したんだ」
「辛かったね青くん」
黄緑は優しく青春を抱きしめた。
「お姉ちゃんの胸で泣いていいよ?」
「……悲しい事に、姉さんを覚えてないから泣くこともできないんだよ。思い出も、何もかも残ってないからね」
悲惨な事実だった。
忘れるなと必死に殴り書きしていた事から察するに、青春と姉はおそらく仲がよかったのだろう。
だからこそ四鬼に深い憎しみをもった。
なのに、その大事な姉の事を忘れ、悲しみにくれる事もできないなんて……
――そんな二人の数メートル前に3バカトリオは立ち尽くしていた……
「「入っていきづれえ……」」
――つづく。
「悲しい! 可哀想! 青くんをもっと慰めなきゃ!」
「次回 事件現場へ それどころじゃなくない!?」




