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すいません…またキャラを増やしてしまいました。
商業ギルド長に謝り倒した3人は、魔道具の製造状況や販売計画などを話したのち、商業ギルドを後にした。
「魔鉄板を何枚か注文してたけど、何か作るの?」
「うん。でもまだナイショ」
「なんやケチやなぁ。ま、またなんかオモロイもんできたら教えてくれな」
「いいよー」
そんな話をしているとリナのお腹がぐうと鳴る。
「そういえば、お昼まだだったね」
「リナもおるんやし、久々にあそこ行こか」
「お、いいね。二人にも会いたいし」
そう3人で決め向かった先は、一軒の小さな食堂。『フラン食堂』という看板が立つここは、学生時代によく通った店だ。友人の父親の店であり、今はその友人が店主を引き継いでいる。学生や冒険者向けのボリュームのある料理が売りの人気店だ。
もっとも、リナはそこまで食べられないのだが。
昼時は過ぎているので店の中からは賑やかな声は聞こえない。そのかわり懐かしい話し声が小さく聞こえてくる。
カインとトーリに勧められ、リナは戸に手をかける。少し緊張するのは1年間全く顔を出していなかった後ろめたさからだろうか。
(勢いが大事!えーいっ!!)
ガラガラと戸を開く音が響いた。
**
「……ふう、ようやくひと段落ついたな。おつかれ、アリア」
「ショウくんもお疲れ様です」
ランチタイムが終わり、客の数もまばらになった店内で店主のショウと妻のアリアは互いを労り合う。フラン食堂のある通りは普段から冒険者も多い上に、最近は近くで工事をしいることもありランチタイムは戦場と化す。小さい食堂だからと夫婦二人でやっているが、そろそろ人を雇ったほうがいいかもしれない。
「___にしても、あんの作業員の男、毎回アリアのこと目で追いやがって…オレの妻だぞ」
「まあまあ、減るものでもないですしいいじゃないですか」
「よくない。オレが嫉妬する」
「それは困りましたね。でも私はショウくん一筋ですので嫉妬する必要なんてありませんよ」
客がほぼいないのをいいことに惚気をしているとガラガラと戸を開ける声が聞こえる。甘々だった空間が瞬時に接客モードに切り替わる。
「「いらっしゃ__…っ!!?」」
だが、戸を開けた人物を見て、二人は固まった。
1年ほど全く音沙汰がなかった少女が気まずそうにはにかみながら立っていたからだ。
「ショウ、アリア…ひ、久しぶりだね」
「「リナ!!」ちゃん!!」
アリアは勢いよくリナに抱きつく。
「リナちゃん!1年も来なかったから何かあったのかと思って……!」
「大丈夫だよ。アリアは心配性だなあ」
「心配しますよ!幼馴染なんですから!あれからちゃんとご飯は食べていましたか?しっかり睡眠はとっていましたか?お風呂はちゃんと入っていましたか?ずっと机に向かってないでこまめに運動していましたか?お肌の手入れはしていましたか?それから…」
「お母さんかな!?」
しっかり抱きしめながら、アリアはリナに間髪入れず尋ね続ける。悲鳴を上げつつもこの過保護さも懐かしいと感じるのは、この幼馴染の習性をよく理解しているからだろう。
アリアはリナと同じ孤児院出身だ。光魔法に適性があり元聖女ハルファウナの師事を受けていた彼女は、魔力の見える瞳や得体のしれない実験などで怪我をしたリナの治療を行っていた。目を離すとすぐに怪我をするリナを何かと気にかけていた結果、彼女はリナのことになるとすごく過保護になリナの保護者と化していた。
そんなリナのおかげなのか、めきめきと治癒魔法を上達させたアリアは今世代最強の治癒魔法の使い手となり聖女候補に選ばれたのだが、婚姻が結べないことを知りあっさりと辞退。学生の頃に胃袋をつかまれ交際していたショウと結婚してこのフラン食堂の女将になった。
「うらやましいな、リナ」
「ショウも久しぶり。そう思っているのなら、奥さん剝がしてほしいな」
「アリアが嬉しそうにしてるんだ。しばらくそうされとけ」
「やっぱりアリアの味方かぁ」
ショウは平民出身でありながらとても多い魔力量とそれに見合った炎魔法の才能を持つ魔法使いである。学生時代からその炎魔法は一目置かれ、騎士団のスカウトもあったそうだが「父の料理屋を継ぎたい」と辞退。今はその炎魔法を料理やパフォーマンスに使っている。
「どうや?やっぱリナを先に行かせて正解やったやろ」
「その分僕らの影が激薄だけどね」
「お、なんあ二人も来ていたのか」
「ほら、気づかれてすらいなかった」
こうして久々に5人の学友がそろうことになった。本来はあと3人いるが、1人は冒険者で遠征に行っておりこの街におらず、残りの2人は気安く集められる身分ではない。
「なんか食っていくだろ。準備するよ」
「ありがと。久々のショウの料理楽しみだよ」
「おう!期待しとけ!!」
ようやくリナを解放したアリアに席を勧められ、皆でカウンターに座る。ショウたちも今から食事だそうでみんなで食べることになった。
「リナちゃんはこの1年何を?」
「ずっと研究かな。なにせ魔術塔から出してもらえなかったからね」
「「え?」」「は?」
唖然とする3人にリナは塔でのことを説明した。それを聞いた3人は塔のリナに対する仕打ちに憤りを覚えた。
「なんやそれ!軟禁と変わらんやないかい!!」
「本当ですよ!いくらなんでもひどすぎます!!」
「リナの研究こそ認められるべきだろ!!カイン、侯爵家の力でなんとかならねえのか!?」
「ちょちょちょ!そんな大ごとにしないでよ!!」
「父上に相談はしたんだけど、塔を牛耳ってるアルマトリス家とは派閥が違うからね…難しいかも」
「すでに侯爵様巻き込んでる!!?」
予想外の人物まで登場し驚愕しているリナをよそに、現状打つ手がないことにみんなの表情が沈む。
「……あー、やめやめ!せっかくの飯の場や、もっと明るい話しよか!」
暗くなってしまったテーブルの空気を切り替えるため、トーリは手をパンッと叩く。
「それもそうだね、暗い話になっちゃってごめん」
「気にしないでリナちゃん。リナちゃんの話が聞けてよかったわ」
「そうだな。話してくれてありがとな!」
そう言ってくれる2人に、本当にいい友人を持ったとリナは心から思う。恥ずかしくて口には出せないが。
「そうだ!次はアリアたちの話を聞かせてよ」
「お、いいぜ」
「待て待て、それは確実に長くなるし惚気になるで」
「いいんじゃない?僕らは耳だこだけど、リナからすれば久しぶりなんだし」
「うん、ぜひ聞かせてほしいな」
「では、遠慮なく語らせていただきますね」
それから、3人はショウとアリアからたくさんの話を聞いた。トーリの懸念通り9割以上が惚気だったが、リナにとってそれはとても楽しい時間だった。
**
「おいしかったし、楽しかった」
「それはよかったよ」
久々に友人たちと食事をとったリナは、カインと共に孤児院への帰路についていた。
今日は子供たちに勉強を教える日だったためそのまま一緒に行くことにした。トーリは別の用事があるとのことで、フラン食堂で別れた。
別れ際にカインに何か耳打ちし赤面させていたのだが、一体何を言ったのだろうか?カインに聞いても「何でもない」の一点張りだったのでリナには疑問だけが残った。
チューン……
「……ん?」
その時、リナは小さな声を聴いた。立ち止まり辺りを見渡すと、視界に明るい何かが横切った。
「どうしたの?」
「何かいる。こっち」
リナは横切ったものの方向に歩を進める。たどり着いたそこは周囲を高い建物が覆う袋小路だった。
一見すると何もいない。しかし、リナの目には暗い石畳の一点だけが妙に明るく見えていた。
「私たちに敵意はないよ。出ておいで」
腰の短剣をしまい語り掛ける。
すると地面だったところがゆらぎ、小さな生物が現れた。
「チューン」
「影魔法!?しかもトーカマウスが…!?」
その魔法にカインが驚愕する。それもそのはず、影魔法は上位のアンデッド系の魔物や一部の魔法使いしか使えない希少な属性なのである。
目の前にいるネズミはトーカマウスという低位の魔物だ、体毛が黒いところを見るに変異種であろう。
トーカマウスは名前の通り10日で成体になる魔物で、生殖のサイクルも早いため変異種も生まれやすい魔物だ。そんな魔物だとしても、影魔法が使える変異種が生まれるのは非常に稀なケースである。
「この子、足を怪我してる」
「誰かに追われたんだと思う。影魔法使いのトーカマウスなんて珍しいどころじゃないからね」
貴族や研究者の中には珍しい魔物や変異した魔物を収集する者が一定数存在する。彼らは大金を出して魔物を買い取るため、金目当てに珍しい魔物を捕獲しようとする者も後を絶たない。
目の前の変異したトーカマウスはまさに格好の獲物だろう。捕まえて売れば相当な金額になるのは確実だ。追われる過程で怪我をした可能性は十分にある。
もっとも、リナとカインはそんな非道徳的なことはしないし、そんな危険なものを集める趣味もない。ついでに金にも困っていない。
「おいで、治してあげる」
リナはポーションを取り出し黒いトーカマウスに近づく。だが、トーカマウスは警戒しており、距離が縮まらない。
「うーん、どうしよ」
「多少荒療治だけど仕方ない、“盾水”」
カインはポーションの中身を水の膜で包み上げる。
防御魔法“盾水”は本来分厚い水のシールドを作る魔法だ、これを魔力操作で薄い膜上にできるあたり、さすがは水魔法の名門ソーディス侯爵家の子息、器用なものである。
……なんとも地味であるが。
水の膜に包まれたポーションをトーカマウスの頭上までもっていく。そしてカインは“盾水”を解除、重力のままにポーションがトーカマウスにふりかかった。
「チューン!!?」
「うわぁ、本当に荒療治だ…」
思ったよりもひどい絵面にリナは苦笑いだが、ポーションはちゃんと効いたようだ。トーカマウスの足の傷口がみるみるとふさがっていく。
「チュ…」
トーカマウスは足を動かし確認する。ポーションをあげたことで警戒心が解けたようだ、トーカマウスはちょこちょことリナに近づいてきた。
リナが恐る恐る指を出してみる。トーカマウスは指先の匂いをスンスンと嗅ぐと、立ち上がり両前脚を使って握手をしてきた。
「チュ〜ン」
「あかんこれかわええ」
リナに効果はばつぐんだった。
「この子連れて帰ってもいいかな!!?」
「それは孤児院で相談して。ぼくにその裁量権はないよ」
そう言いながらカインもトーカマウスに指を近づける。なんだかんだ彼もかわいいもの好きである。
が、トーカマウスはそっぽを向いてしまった。
「き、嫌われた……」
「ポーションをぶっかけたのが誰かわかってるんだね。偉い偉い」
「それで怪我が治ったんだから少しくらいは…」
「…ヂュッ!」
「だめだって」
「そんなぁ」
警戒するから仕方なかったとはいえ、冷たいポーションを上からかけたことにはご立腹のようである。動物には優しく接しようとカインは反省するのだった。
**
トーカマウスを孤児院に連れて帰ったところ、あっさりと受け入れられた。
さすがは孤児院、来る者は拒まず。
トーカマウスは野生動物だったため念入りに洗われ、ポーションの応急処置を受けた治癒魔法もかけなおしてもらった。今日はなんだか水をかぶることが多いとも思ったが、今回お湯があったかかったのでトーカマウスはご満悦である。
冷たいポーションをかけたカインは許さん。
「それで、この子の名前はどうするの?」
治癒魔法をかけているリズベットに訊かれ、リナは考える。
「小さくて黒いから『クロまめくん』はどうかな?」
「安直ね……」
「チューン……」
1人と1匹に残念なものを見る目で見られたが、拾ってきた本人の命名なのでトーカマウスは受け入れることにした。
だがトーカマウスはメスである。”くん”付けは猛抗議され、最終的に『クロまめ』に落ち着いた。
そこは譲れないクロまめだった。
ちなみに、子供たちの興味がクロまめに集中し勉強に身が入らなかったため、今日のカインの授業は延期になった。
生物に触れ合うのもいい勉強になるが、何のために孤児院来たのかよくわからなくなったカインだった。
「…ヂュッ!」
「…まだだめ?」
「チュン!」
「そっかぁ…」
最後までクロまめは触らせてくれなかった。
ハツカネズミ(二十日ネズミ)ならぬトーカマウス(十日マウス)
動物には優しくしましょう。




