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2-2

短めです



「寝ちゃったな」


 肩にもたれすやすやと寝息を立てるリナに、寝辛いだろうとカインは膝を貸してやる。

 しかし久々に会った男の隣で寝落ちするとは、いささか無防備ではないだろうか。まぁこの孤児院に戻らなかったらしばらく野宿をしようとしていたような娘だ、何かされるなどとは考えもしないのだろうが。役得だが心配になるからやめてほしいとカインは常々思っている。


 カインはリナの寝顔を見遣る。うなされたその表情はなんとも苦しそうだ。


「こういう寝顔はあんまり見たくなかったな」



 カインは彼女の頭を撫でてみる。サラサラとした細い髪の毛の感触が指の隙間を流れていく。これでほぼ手入れなしなのだからすごいものである。

 魔力の量が色の明度に影響して見えるリナの目では、魔力のない自分は真っ黒だ。だから化粧をしても髪を結ってもわからないとリナは基本何も手入れをしないが、それでいて美人なのだから不思議なものである。

 

 

(側から見ればなんの変哲もないオリーブグリーンの瞳をした綺麗な目なんだけどね、不思議だな)


 そんなことを考えながら撫で続けていたら少し寝顔が和らいだ。カインはちょっと嬉しくなる。




「ずっとこうして撫でていたら、君は悪夢を見なくなるのかな」


「____その前にリナが禿げると思うわよ」

「っ!!?」


 突然背後から声がし、リナを起こすまいとカインは必死に声を殺す。声の主を軽く睨むとニヨニヨと二人を眺めるリズベットがいた。


「リズさん……いつから見てたんですか」

「うーん、カイン様がなんでここで勉強を教えているのか語ってるあたりからかしらね」

「めちゃくちゃ始めからじゃないですか、しかも全部聞いてたんですか」

「そりゃそうよ。年頃の男女2人なんて、神の御前であろうとも何が起こるかわからないじゃない」


 言葉の割に何故か楽しそうなリズベットにカインはなんとも言えない表情になる。


「楽しんでますよね?」

「それはもちろん。リナを見つけた時のカイン様の表情見たら察しがついたわ」

「……さいですか」


 そんなに顔に出ていたのか。恥ずかしくなった彼は顔を逸らす。


「大丈夫ですよ。リナは俺のことを友人としてしか見ていないし、俺も気持ちを伝えるつもりはありませんから」


 カインは自身のこの気持ちが何なのかわかっていた。ただ、かつて自分に向けられたこの気持ちの成れの果ては未だに彼に付き纏っていた。

 

 カインだって侯爵家に名を連ねる貴族である。そのため、かつては婚約者がいた。そこに愛があるかと言われると二人とも首を傾げるような関係性ではあったが、友人としてはかなり仲のいい相手だった。

 しかし、知らぬところでカインへの愛に狂った一人の令嬢が全てを壊した。ごろつきを雇って二人の乗っていた馬車を襲撃。婚約者を殺害し、カインを拉致監禁。カインはギリギリのところで助けられ、その令嬢も殺人と拉致監禁の罪で処刑されたのだが、その時のことは今も彼のトラウマになっている。


 正直、カインはリナにフラれたとしても、しばらく立ち直れないだけで問題はない。

 でももし、リナに対するこの気持ちを表に出して、この気持ちを伝えて、それが原因でリナが傷付いたら、リナが死んでしまったら……そう思うとカインは怖かった。

 この気持ちを知られずにこれまで通り友人として接していた方が何倍も心が軽いのだ。


 あんな悲しい思いは、もうしたくない_____

 

 そんな思いが顔に出てしまったようだ。リズベットは申し訳なさそうな顔をした。


「ごめんなさい。少しはしゃぎすぎてしまったわ」

「いえ、気にしないでください」



 小さくとも荘厳なステンドグラスの窓から月明かりが差し込む。



「枕にしているリナには悪いけど、そろそろ帰ります。リズさん、リナをお願いしても?」

「ええ。今日はありがとう、カイン様」

「礼を言うのはこちらの方ですよ。ご飯ご馳走様でした」


 カインは膝枕で眠っているリナをリズベットに託す。リズベットは身体能力強化もかけずにリナを軽々お姫様抱っこした。

 リナが軽いのか、はたまたリズベットがすごいのか。




「おやすみ、リナ」



 最後にリナにそう呟き、カインはハルファウナに挨拶し教会を後にした。

 

**


 

 孤児院の門をくぐると、そこには闇が待っていた。



 月明かりしかなく薄暗い夜道。周りには明かりも人通りもなく、なんとも不気味である。


 子供の頃に監禁にあってから、ちょうど今のような夜道を歩くことができなくなった。また攫われるかもしれない、また誰かを失うかもしれない。そんな思いが騒ぎ出し足がすくんでしまうのだ。




「こうやって夜道を歩けるのも、リナのおかげか……」


 カインは首から下がるネックレスを見る。中央で青い魔石がキラリと光るネックレスの下にあるつまみを回すと俺の周りに柔らかい光が満ち、見える景色が昼間のように明るくなった。同時にカインに巣食っていた恐怖も薄れていく。

 このネックレスはリナの作った魔道具なのだ。



 学生の頃、カインはリナに夜道が歩けないということを話したことがあった。その時は理由までは話さなかったが、彼女は笑うことなくその話を聞いてくれた。

 それからしばらくして、リナが一つのネックレスを作ってきた。これならきっと夜だって怖くないと。リナに言われるがまま半信半疑でそれをつけたカインは驚いた、目の前の暗がりが全てなくなったのだから。

 明るくなった暗闇に一歩踏み出した時の感動は今でも覚えている。



「ほんと、リナには感謝しかないよなぁ。これのおかげで護衛をつけずに一人で歩けるんだし、誰にも心配かけずに街を回れるんだから」



 このネックレスにはとんでもない副次効果があった。ネックレスの光には攻撃を防ぐ力があったのだ。

 


 リナいわく、このネックレスは防御魔法”防盾(ルーメン・)の光(スクートゥム)”を光の方向を変えて重ね掛けした魔道具なのだそうだが、その魔法の効果が異常なまでに強力だった。



 カインの兄達の攻撃くらいなら容易に防ぎ、水魔法の最高峰であるカインの父、ソーディス侯爵の全力の水魔法すら一撃なら防げる始末。あまりにも強すぎるためリナは侯爵家に召集され、侯爵たちとともに原因調査を行う事態になった。

 その調査の結果、その原因はネックレスに使われた魔石だと判明した。この魔石の魔力がカインのものに似ていたために、魔石に書き込まれた魔法陣が半暴走状態に。カインの魔力を想定以上に吸収し、魔法を増強することで最強の盾を作り出していたのである。



 あの頃はまだリナが魔道具を作り始めた時で、使用者と魔石の魔力の相性があることをリナは知らなかった。この強すぎる盾は設計不良による奇跡の産物だったが、その魔力の吸収量は常人ならつけた瞬間に魔力切れを起こしかねないほどだ。

 魔力量が極めて多いカインだったからこそ問題なく使えていたが、一歩間違えれば侯爵令息を殺しかけない危険なものだった。




 自分のしでかしたことの大きさに顔を真っ青にしたリナは平謝りに謝りたおしたが、そんなリナの心情とは裏腹に、カインを含めたソーディス侯爵家全員がリナに感謝の意を示した。



 他人が使うことのできないそれはまさにカイン専用、暗闇にトラウマを持つ彼を精神的にも物理的にも守ってくれるものなのだ。



 失敗作だろうがなんだろうが、これほど素晴らしいプレゼントはなかった。




「魔道具が役に立たないとは、塔の連中は見る目がない。いや、認めたくないだけかな」


 ネックレスを手に取り、カインは独りごちる。



 魔道具はこの国の常識を塗り変えるほどのものだ。


 安全な水が安定的に供給できるようになった。

 燃え上がる家屋も、己の炎に焼かれた火傷も街中でほとんど見かけなくなった。

 これまでにない、新しい料理の道が開けた。

 ポーションが手に入りやすくなり、誰でも怪我が悪化する前に治療できるようになった。


 国全体の生活の質が向上した。

 死亡原因として当たり前だったものが、稀な事例に変わっていった。


 

 リナの魔道具を認めている者は既に何百、何千、何万人もいるのだ。


 いずれ魔術塔も認めざるを得なくなる。

 自分たちが切り捨てた魔道具の力を、自分たちが馬鹿にしたリナの才能を。



 その時、彼らはどうするのだろうか。



 もしまたリナを害そうとするのなら、今度こそ守ってやりたい。




「……ま、それは今考える事じゃないか」



 カインは大きく伸びをすると、明るく見える空に浮かぶ月にネックレスを掲げる。カインの髪の色のようだとリナが言った、コバルトブルーの魔石がキラリと輝いた。




「今はただ、リナにまた会えたことを喜ぼう」




次話からは明るい話になると思います

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