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 小銅級冒険者になってから1週間が経った頃、リナは王城を訪れていた。




 指名依頼であるスピリナ草の採取について、直接話がしたいと国王陛下からの呼び出しがあったのだ。リナも色々と聞きたいことがあったので快諾し、本日謁見する予定を取り付けた。


 そもそも陛下直々の呼び出しを一平民であるリナが断れるはずがないのだが…。




「おお、リナちゃん!久しぶり!!」

「…!お久しぶりです!」



 リナに気がついた門番をしていた騎士が気さくに話しかけてくる。



 リナは王太子の友人なだけあり、学生時代から度々王城を訪れている。そのため、ここでは結構有名人だったりする。


 特に騎士団は魔術塔研究員になってすぐの頃にもお世話になっており、知り合いが多かった。





 最近はめっきりご無沙汰だったが、覚えていてもらえていたようだ。リナは少し嬉しくなった。



「えっと、本日10時から国王陛下に謁見を許されているのですが……」

「聞いてるよ。そんじゃ、身分証の提示をお願いします」



 そう言われリナは冒険者証を渡した。それを見て、騎士は不思議そうな顔をする。



「あれ、冒険者証……?研究員証ではないのかい?」


「色々あって…追い出されちゃいました」

「はぁっ!?」



 驚きのあまり、騎士は少しの間固まる。リナを知る者からすれば、彼女の魔術塔追放はやはり衝撃的なことだった。



「……詳しく聞きたいけど、今からリナちゃん謁見だから急がないといけないよね」

「あはは……すいません」


「リナちゃんが謝ることじゃないよ。また騎士団の宿舎においで、みんな待ってるからさ。

__よし、通っていいぞ」





 こうして王城に入ったリナに1人の女性が近づいてくる。真新しい騎士服を着ている彼女を、リナはよく知っている。



「お待ちしておりました、リナ様」

「……えー……っと、何してるの、レイア……?」


「何って、お迎えに決まっているじゃない。どう?似合うでしょ」

「いや似合うよ。似合うけどさぁ……。王太子の婚約者が出迎えって、わたしどんなご身分よ……」

「それはもちろん、わたくしの親友というご身分でしてよ!」



 レイアと呼ばれた女性はそう言うと、わざとらしい高笑いをした。

 久々に会ったからだろうか、なんだかテンションが高い。



「すっごいポンコツな悪役令嬢みたいになってるよ」

「ポンコツは余計よ!」




 悪役令嬢の方はいいのか未来の王太子妃よ。





 騎士服に身を包んだ彼女はレイアこと、レイリーア=アイサファイエ。

 王太子クラウスの婚約者であるアイサファイエ侯爵家のご令嬢。



 そして、リナの親友にして大ファンである。





「久しぶりね、リナ。今日は来てくれてありがとう」

「うん、久しぶり。全然連絡できなくてごめんね」


「そんなこと気にしなくていいのよ。こうしてまた会えたんだもの。

 __さ、行きましょ。陛下が待ってるわ」





 騎士服の侯爵令嬢に連れられ、リナは応接室に向かう。





「それで、その騎士服はどうしたの?」



「今ね、騎士団で剣を教わってるの。わたくしだって、クラウスのことを守りたいから」


「……そっか。レイアなりに頑張ってるんだね」




「いいダイエットになるわ」

「わたしの感動を返して」





 久しぶりのレイリーアとの会話に花を咲かせていると、あっという間に応接室に到着した。




「レイリーアです。冒険者のリナをお連れしました」

「入れ」



 扉の向こうから低く深みのある声で短い返事が返ってくる。

 レイリーアの後に続いてリナが入室すると、そこには3人の人物がいた。





 アスタリア王国国王であるクロード=フォス=アスタリアと、その王妃のフェリエス=フェン=アスタリア。

 2人の後ろには王立騎士団長のジークハルト=ガーランスが控えていた。



「小銅級冒険者リナ。陛下の命に従い参上いたしました」

「うむ、大義である」


 リナは綺麗なカーテシーをする。久しぶりにやったが、体はしっかりと覚えていたようだ。



「本日はお時間をいただき、至極恐悦でございます」

「よい、楽にせよ。儂も楽にする」



 そう言うと、クロードが姿勢を崩す。それと同時に、部屋に流れていた緊張感が霧散した。隣でフェリエスが頭を抱える。



「ふぅ、堅苦しいのは嫌だね。肩凝っちゃう」


「一応公式の場ですよ、クロード……」

「ここには僕らしかいないから大丈夫だよ。いやー、久しぶりだねリナちゃん」

「お久しぶりです陛下。中々顔を出せなくてごめんなさい」

「いいのいいの、気にしないで。ほら、座った座った」



 クロードに勧められ、リナはフカフカのソファーに座る。

 レイリーアは騎士団長に倣ってリナの後ろに控える。どこからともなく応援うちわを取り出しており、リナを応援する気満々である。



「落ち着かないからやめようね……」




 レイリーアは座らされた。








「カインくんから聞いたよ。魔術塔では災難だったね」



 紅茶をいただき一息ついたところで、クロードはリナに魔術塔の話を持ち出した。

 1年ほど前から音沙汰のなかった息子たちの友人が、ある日突然追放されて戻ってきたのだ。心配になるのは当然だろう。



「いえ、わたしに魔術塔研究員は身の丈に合っていなかっただけの話ですよ」

「そんなことないわ!あいつらの目が節穴なだけよ!気にしちゃダメ」



 自嘲めいた笑みを浮かべるリナ。そんな彼女の頭を隣のレイリーアはよしよしと撫でる。



「リナさんほど研究が向いている子はいないと思いますよ。すぐに自分を卑下する悪い癖は、まだ直っていないようですね」



 フェリエスもリナの隣に座り、彼女の頭を撫で始める。



「両手に花で羨ましいね。僕の入る隙間はなさそうだ」

「ははは…」



 2人に撫でまわされ、リナは照れくさそうに笑う。

 そんな彼女にクロードは優しく語りかける。



「__リナちゃん、彼らに何を言われようとも、君は自信を持っていいんだよ。なんたって、この国トップの僕らが認めている魔法の研究者なんだから」


「陛下……ありがとうございます」



 本当に人に恵まれている。今までそれに気がつけなかった自分が、恥ずかしくなるくらいに。

 リナは目頭が熱くなるのをグッと堪えた。




「でもねリナちゃん、なんで始めに僕らに相談してくれなかったのさ?そしたら物理的にも政治的にも精神的にも彼らを潰すことができたのに」

「だからですよっ!!」


「陛下、今からでも遅くはありません。やっちゃいましょう」

「レイアも何言ってるの!?」





 ……物騒なのが玉に瑕だが。







「リナちゃんが困っちゃうからこの話はこのくらいにしようか。

 ……こう言っちゃ不謹慎なんだけど、リナちゃんが戻ってきてくれて本当に助かってるんだ」


「……クラくんとマリちゃんのことですね」



 リナの言葉にクロードは頷く。



 クラくんこと、王太子クラウス=フォス=アスタリアと、マリちゃんこと、マリアンナ=フェン=アスタリア。

 『不覚醒症(ふかくせいしょう)』と呼ばれる未知の病に冒された2人の希望は稀少な薬草であるスピリナ草だった。そして、それを安定的に採取できる唯一の存在が、魔術塔に行ったきり音信不通になったリナだったのである。



「君が冒険者になったって聞いてまさに僥倖だと思ったよ。まさか依頼をする前にスピリナ草が届けられるとは思っていなかったけど」

「あれは偶然ですよ。でも、この目がこんな形で役立つこともあるんですね」



 リナはオリーブグリーンをした自身の目を指差す。魔力が明るさとして見えるこの目は、魔道具を作る時以外はただ見づらいだけだ。

 そんな目を活かせる数少ない機会であるスピリナ草採取が、友人の助けになる日が来るとは。





「……陛下、そろそろ」

「ああ、そうだね」



 後ろで待機していたジークハルトがクロードに耳打ちをする。クロードは時間を確認し頷いた。




「何かご予定が?」


「いや、あの子たちが目覚める時間なんだ。スピリナ草の薬でも投与してから効果が出るまで1時間ぐらいかかるんだよ」

「なるほど、そうでしたか」



 リナは納得すると同時に不思議に思う。




 スピリナ草は極少量でも強力な抗睡眠作用を持つ。それを使った薬でも目覚めるのに1時間かかるとは、随分と重病のようだが……。


 それがここ1、2年で急に、しかも2人ほぼ同時に発症することがあるのだろうか?




「リナちゃん、会っていくよね?」

「もちろんですよ」


 会ってみれば何かわかるかもしれない。と、思ったところでクロードにそう聞かれ、リナは即答する。




「ありがとう、あの子たちも喜ぶよ。じゃあ、行こうか」



 クロードに案内され、向かった先はクラウスの執務室。学園生時代から何度となく通ったことのあるそこに、2人はいるらしい。



 いつの間にか部屋の外で待機していた近衛騎士2人も後ろにつき、計7人の大所帯で移動する。


 前には国王と王妃、隣には王太子の婚約者、後ろには騎士団長と、騎士の中でも一握りしかなれないという近衛騎士が2人。



 今更ながら豪華なメンバーの中にいるものだとリナはしみじみ思った。





 そんなことを考えているうちに、目的地であるクラウスの執務室が見えてくる。

 扉の前にいた宮廷医にクロードが声をかける。



「2人の様子はどうだ?」


「陛下、お二人とも目覚めておいでです。健康状態も問題ございません」

「ご苦労。下がってよいぞ」

「は、失礼いたします」



 報告をした宮廷医は頭を下げ、去っていった。

 こうした威厳のある姿を見ていると、クロードはやはりこの国の王なのだと改めて思う。



 リナの前ではただの気のいいおじ様でしかないのだが。




「よーし。それじゃあ入ろうか」



 リナの聞き慣れた話し方に戻ったクロードが部屋の扉を開ける。




「おはよう、クラウス、マリアンナ。調子はどうだ?」


「おはようございます父上、母上。今日は快調です」

「おはようございます、お父様、お母様。わたくしはまだ少し眠たいです」


「おはようございます、2人とも。今日も2人の顔が見られて嬉しいわ。まだ病は治っていないのだから、眠気がきたらいつでも眠っていいからね」




 そんな挨拶の後、クロードに手招きされてリナたちも部屋に入る。そこには2人の男女が向かい合うようにソファに座っていた。



 2人は1年ぶりのオレンジブロンドの髪の少女に、笑顔で声をかける。




「やあ。久しぶりだね、リナ」

「お待ちしておりましたわ、リナお姉さま!」






 しかしリナはその姿を見て固まっていた。




「……リナ、どうした?」



「……っああ、いや。おはようクラくん、マリちゃん。久しぶり、だね……」





 なぜかしどろもどろなリナに皆が疑問を感じる。



「どうしたのリナちゃん?様子が変だけど」



「……すいません、陛下。こんなこと初めてですので混乱してます。

 ………見えないんです……2人の、色が」



「「「色?」」」





 色が見えない___



 リナの目には、クラウスとマリアンナの姿がモノクロに写っていた。






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