プロローグ
連載始めます。よろしくお願いします。
「__どうしてわたしは、みんなと違うんだろう?」
縫い物をする自分の手を見て、わたしはため息を吐く。
指が5本あって、炊事洗濯の手伝いのせいかちょっとカサついた自分の手。側から見ればそれは他の人と何ら変わりない。でもわたしの目では全く違く見える。
「人は皆、何かの役割を持っている。前に誰かがそう言ってたね」
隣でハルさんが繕う手を止めずに言う。
あれは昨日男子が風魔法で破ったカーテンだ。危険だから無闇に魔法を使うなってハルさんに怒られてたっけ。
いいなぁ、わたしもそう怒られてみたい。不謹慎ながらそう思ったことは内緒だ。
「本当にそうだとしたら、わたしの役割ってなんだろう?」
「その時がくれば自ずとわかるんじゃないかい?」
「てきとうだなぁ」
そう言いながら手を前に伸ばす。
「フェルム・ラミーナ」
何も起こらない。
いや、起こるはずがない。
「こら、無闇に魔法を唱えるんじゃありません」
「大丈夫だよ――」
ただ伸ばしただけの手をもう一度見る。
真っ黒なその手を。
「わたしには、魔力がないんだから」
__生まれつき、世界が違く見えた。
夜だろうが明かりのない部屋の中だろうが、わたしには昼間と変わらないほど明るかった。
石やレンガ、道や建物は半透明の黒いフィルターを挟んだように暗い色をしていて、見上げた空には黒い太陽と黒い星の粒が散らばっていた。草木や魔物、もちろん人間も、生き物達はそれぞれ色の明るさ……明度って言うのかな、それを持って見えていた。でも死んだら皆、その明度を失って無機物のように黒くなった。
わたし自身も真っ黒く見える。死体よりも遥かに黒く。自分はもうこの世にはいないんじゃないかって思えるほどに。
わたしが見ているもの、その正体は“魔力”だ。
そう思ったきっかけは怪我したわたしを治すため、友人が魔法を使おうとした時。目の前にキラキラとした文字のようなものが漂い、集まってたくさんの陣を形作ったのだ。でも魔法は失敗、その文字のようなものは霧のようにどこかへ消えてしまった。その間に怪我したところからはいっぱい血が出てしまったのだが、その光が無性に気になったわたしはそれどころではなかった。
後でその子や周りにいた子たちに聞いてみたら、それはわたし以外には見えていなかった。その日以降、わたしはみんなのことを観察した。そしてあることがわかった。その光の文字みたいなものは魔法を使う時に、唱えた人の身体から出てくるのだ。そして、魔法をいっぱい使った人は使う前より黒っぽく見えた。
魔法を使う時は自身に宿る魔力を使う。それがこの世界の常識なのは知っていた。その常識と今まで観察したことを合わせれば、見えている光は魔力なんじゃないかと言う結論に至った。
そう考えたらなんとなく腑に落ちた。夜でも明るいと思うことも、空気中の魔力だとすれば納得がいく。暗い建物の中でもネズミがすぐに見つけられることも、かくれんぼでみんなをすぐに見つけられるのも、魔力を持つ生き物だけが明るく見えるから。たまにくる冒険者の人たちも、魔法使いさんだけ鮮やかなのは魔力いっぱい持っているからだろう…魔法使いさんだけおしゃれなわけではないと思う。
そしてわたしが真っ黒に見えるのも、わたしに魔力がないからだとすれば必然だった。
「いたっ」
気がそぞろになっていたようだ。針が指に刺さる。
真っ黒な肌からこれまた真っ黒な血が流れる。どちらも影がつかないほどに黒いから流れていることは指の感覚でしかわからないけど。
「あら、ちょっと見せてみなさい」
「いいよハルさん。ちょっとだし、わたしは見えていないから」
「つべこべ言うんじゃありません。ほら」
縫うのを止めたハルさんがわたしの手を見てくれる。ハルさんの色はとても明度が高く、ほとんど白に見える。輪郭や影があるから表情は見えるけど、まるでそこだけ色を塗り忘れたみたい。
わたしとは真逆の、魔力に満ちた色だ。
「“治癒の光”」
かざされた手が白く輝き、ハルさんの周りに光の文字が浮かび上がる。それが光の線に沿って丸く並び、たくさんできたその円を幾何学模様が繋いでいく。最終的に数枚の大きな円陣が出来上がると、優しげな光が傷口のあるであろう場所に流れ込む。ちょっとあったかい。
光はわたしの指に当たると同時に闇に呑まれるように消えていく。他の子にかけていた時はその子の中までハルさんの魔力が流れていたのに。どうしてもわたしの身体は魔力を受け付けないらしい。
「わたしも、魔法が使いたいな」
ぽつりと呟く。
それは叶うわけがない願望。それでもわたしが夢見ていること。
「なら、使うための方法を考えなきゃね」
「無理だよ、きっとそんな方法なんてない」
「それはどうかしら。貴方はみんなのように魔力がないけれど、貴方だけの力を持っているじゃない」
「わたしだけの力……?」
ハルさんと目が合う。彼女の言う力はきっとこの呪いのような目のことだと思った。
「こんな最悪な目、力になんてならないよ。魔力が見れたって、自分が惨めになるだけだもん」
そう不貞腐れると、ハルさんがわたしの頭に手を置いて優しく撫でた。
「本当にそうかしら。確かにその目は貴方に魔力がないことを貴方に教えたわ。でもその目の本当の価値はもっと別のところにあると思うの。それがわかったら、きっと魔法を使うという夢は夢なんかじゃなくなるわ」
「別の価値……」
その時のわたしにはわからなかった。
でも、キラキラとしたそれは、確かにわたしの目に映っていたのだ。
その力は自身の世界を大きく変えていくことに、この時のわたしは気づく由もなかった。
魔力
この世界でどんな生物でも持っているエネルギー
魔法
魔力を使うことでどんな生物でも自然的に、または能動的に使うことのできる力
わたしはそれを持たなかった。
わたしはそれが使えなかった。
ただ、持てなかったそれを見ることはできた。
だから考えた、作り出した。
魔力がなくても魔法を使う術を。
これは、魔法の使えないリナによる、魔法のような物語




