地球転生編 2-83 最神玲、テロリストと間違われる?(前編)
最神玲、テロリストと間違われる?(前編)
9月に入っても秋の気配には程遠く、連日の猛暑で、最神玲も物部かすみもぐったりしている。今2人は麦わら帽子を被って境内の掃除をしているが、相変わらず境内の楠では油蝉が「ジリジリジリジリ」と鳴き続けて、もういい加減に休めよ、とかすみは思わず蝉にツッコミを入れていた。そんな美土路神社の社務所に郵便が届けられた。これは何時もの光景で、配達人とも顔馴染みになったので、「暑い所ご苦労様です」とかすみは一声かけて郵便を受け取った。
それから1時間程して、やっと境内の掃除を済ませた2人は、急ぎ社務所に飛び込んでクーラーの下で涼んだ。一心地ついたところで、かすみは社務所の窓口に置きっ放しの郵便物をみて、どうせDMか何かだろうと気にせずにそのままゴミ箱に捨てようとしたところ、ふとある封筒に目が行った。宛名はローマ字で書かれており、名前の所にはRay MokamiとKasumi Monobeとあったが、差出人は不明である。てっきりロムリアからの手紙かなと思ったが、玲のローマ字綴りが[Rei]ではなく、光線の[Ray]になっていたので、「あいつ、何時から光線出すようになったん?」と一人ツッコミを入れつつ、ロムリアからなら綴りは間違わないよな、と思い直してやっぱり捨てようとしたものの、どうしても気になって来たため、かすみはそのまま封を開けて中を確認した。するとA4サイズのコピー用紙1枚が同封されているだけだった。そしてそこに印刷された日本語の文面を読むと
[拝啓、最神玲様、物部かすみ様
我々は訳があって素性を明かせませんが、
是非あなた方にお会いしたく連絡させて頂きました。
つきましては、下記の日時に以下の場所に
お越し頂きたく存じます
日時: 9月〇日正午
場所: 米野市中央公園噴水前]
めっちゃ怪しい手紙である。かすみは早速クーラーの下で涼んでいる玲にこの手紙を渡した。すると、
「かなり胡散臭いよね、かすみ。
でもさ、かすみのことだから、
何か面白そうとか言って、
そこに行く気満々なんじゃない?」
ギクッ、と音がしたかは不明だが、玲には見透かされているようで少し狼狽するかすみである。そう、かすみは、「何か面白そうじゃない」と思い始めていた。だが、かすみは玲に自分の心を読み取られたことが何だか悔しいので、ここは、「そんなことある訳ないやろ、玲」と平静を装った。ちなみに、玲は「ふーん、そうなんだ。何かかすみにしては、珍しいね」だった。くそー、玲のやつ、何か腹立つな、と思いつつ、「とりあえず無視するか」と言って、その手紙をそのままゴミ箱に捨てた。大体、その日の正午は、神社の仕事中じゃ、しかもここから遠いし、とかすみは一人毒を吐くのだった。
結局、面会予定とされた日は何事もなく過ぎ去ったが、別段彼らの生活にも特に何ら変化はなく、何時もの気怠い日々を送っていた。だが、面会予定日から数日経った深夜、事態は急変した。玲は何時も通りにくたま軍団を警戒任務にあたらせていたが、日付が変わる少し前にそんなにくたまの一匹が玲の元に急ぎやって来て、何時もの肉球攻撃を仕掛けた。玲は寝ぼけ眼で「にくたま、何かあったの?」と聞くと「大変です。ご主人様。8名程の謎の集団が手に銃を持ってこちらに向かって来ます」と騒ぎ立てた。「え、銃!」と聞いた途端、窓ガラスが割られて何かが部屋に飛び込んできて、その直後に白煙を噴出した。催涙弾である。玲は煙を吸わない様に息を止め、直ぐにかすみの部屋に転移し、かすみを抱き抱えたまま拝殿の屋根の上にそのまま転移した。その間僅か数秒程だった。この短時間での複数回転移が出来るのは玲を於いて他にはいないだろう。そのお陰か、玲もかすみもかすり傷一つなく、拝殿の屋根の上で休んでいた。かすみは寝ぼけ眼ながらも漸く起き出したが、何が起きたのか全く把握しておらず、なぜこんな所に居るのかが分からないため、玲に説明を求めるために声を上げようとした。その時、玲がかすみの口を左手で押さえながら、右手人差し指を自分の口元に当てて「しっ」と囁いた。それから、かすみの耳元で事情を話したが、かすみの表情は、徐々に不安から怒りへと変化していった。
「玲、一体何者なの、あの連中」
と囁いたかすみが指さした方向には、何かが蠢く様子が確認された。玲は急ぎ軍事用暗視ゴーグル、かすみ曰く「キモイゴーグル」をかすみと共に装着し、その様子を見守った。
「あれって、何か映画か何かで見た
特殊部隊っぽいけど。
何でこんな所に居るん?」
とかすみは玲に尋ねたが、玲もそんなこと知る由もない。その襲撃者たちは、目には暗視ゴーグルを着用し、鼻と口元はガスマスクで覆い、黒っぽい戦闘服の上には防弾チョッキを着用し、両手でマシンガンらしき武装を持つという、平和な日本では全く見かけない姿である。そしそんな連中が家の外と中に分かれて行動していた。玲も、ただこのまま黙ってやられっぱなしなのは悔しいので、家の中と外のあちらこちらにトラップを召喚して仕掛けた。序に、にくたま軍団にも加勢に回ってもらって、対応することにした。そのうち、何やら悲鳴が聞こえてきたが、明らかに日本語ではないため、玲もかすみも直ぐには理解できなかった。だがかすみは、「これって、英語っぽいけど、あいつら何者なん?」と言葉だけは何なとなく分かったようだ。勿論、玲には全く分からない。それから、数分後に、何の成果も得られなかった襲撃者達は、その場から立ち去ろうした。だが、玲はそのうちの一人の足元に再びトラップを召喚して捕らえ、序に拘束器具を召喚して身動きできない様に雁字搦めにした。そして、残りの連中はそのまま退却していったが、にくたま軍団に後を追跡するように指令した。さて、捕らえられた兵士だが、自分達が探していた人物が襲撃直前までは確かに部屋に居ることをサーモカメラなどで確認していたが、いざ室内に踏み込むとそこには誰もおらず、しかも建物内のどこにも見当たらず、だがどこからか急に現れ、しかも自分を何らかの手段で拘束したことに、驚愕し言葉をなくした。加えて、特殊部隊での厳しい訓練と豊富な実戦経験を積んでいる自分が素人相手にいとも簡単に制圧されたことに、ただ愕然としたのだった。
さて、そんな兵士を尻目に、玲は早速尋問を行うことにした。尋問の方法は、相手に物理的な苦痛を与えるでもなく、自白剤のような薬物に頼るでもなく、何日も寝かせないなどの精神的な苦痛を与えるでもない。単に魂を肉体から分離して、その分離した魂に直接聞くという方法である。実は、ケンタリアでは捕虜やスパイの尋問を行う手段として、魂に直接聞くことが一般的な尋問方法なのだ。
通常、肉体を持つ人間は、サモナルド人も地球人もそうだが、ある程度尋問に耐えるような操作なり修練がされることがある。ところが、魂に関しては、実は何も操作されないし、そもそも出来ない。ちなみにサモナルドの場合は、魂への干渉を阻止するような召喚術式などは存在しない。それと念のため、情報漏洩を阻止すべく舌を噛み切って自害するシーンが映画とかで見られるが、魂に直接尋問する場合は全く無意味であり、むしろ魂を分離する手間が省けるだけだ。そしてケンタリアでは、召喚技術研究所の第五部が魂を肉体から分離して捕虜などへの尋問を担当する。地球では、玲とかすみを含む召喚術師が魂を分離する技術と能力を持つため、玲は早速捉えた兵士をこの方法で尋問することにした。先ずは玲が降霊召喚門を設置し、その人物の魂を肉体から分離した。そして、
「えーと、あなたの名前は何ですか?」
「・・・」
ん?何も答えないぞ、と玲は訝しむが、かすみが横から、「玲、この人って日本人じゃないから日本語無理なんとちゃう?」と言ってきた。「あー、多分そうかもしんないけど、そうすると僕は英語分からないや、はは」と呑気に答えたが、玲は何を思ったか一度自分の部屋に向かった。そして戻って来た時、彼の手にはスマホが握られていた。そう、スマホの翻訳機能で会話を進めることにしたのだった。
「名前は何ですか?」
「・・・ジョ、ナ、ス」
「あなたの所属先はどこですか?」
「・・・デ、ル、タ、フォー、ス」
デルタフォースって何だ?となったので、その場でスマホで検索すると、アメリカ陸軍所属の対テロ特殊部隊、通称デルタフォースと出てきた。するとかすみは
「えらい所に目をつけられたな、玲。
あんた何かテロ活動とかしてたんとちゃうん?」
「いやいや、それよりもかすみじゃないの。
最近あちこちで、色々とやらかしてるだろ。
それが偵察衛星か何かで察知されたんだよ、
きっと」
と言い出す始末。結局、双方何時もの言い合いになったが、ここで結論が出る訳でもなく、それよりも尋問だ。とりあえず、相手の身元は分かったので、次は目的である。
「僕らを襲撃した目的は何ですか?」
「・・・わ、か、ら、な、い、
め、い、れ、い、さ、れ、た」
そっか、下っ端なんだね、とかすみは身も蓋もない言い方をする。確かに、下っ端には命令さえしておけばいいので、ある意味便利な駒だな、と思わずにはいられなかった。何れにしても、これ以上何か聞いても意味が無さそうな気がしたので、とりあえず魂を元の体に戻した。ちなみに、魂は自分が何か聞かれたことを記憶することはないという。その理由は、玲に言わせると、魂は記憶を取り出すことは出来るが、新たな記憶を保存することはできないから、という。丁度コンピューターで言うところの、ROMと同じことになるだろうか。もし記憶を保存したければ、肉体に戻ってから行うしかないようだ。そのため、尋問を受けた特殊部隊員は、自分が何を喋ったかは記憶しておらず、そのまま解放されるやどこかに去って行った。だが、一緒に来た連中は既にトラックに乗って去っているので、果たしてあの人はどうなるのだろう、と他人事ながら心配する玲であった。




