地球転生編 2-81 物部かすみ、交霊会に参加する(前編)
物部かすみ、交霊会に参加する(前編)
タチアナ・エグリスコバが故郷のロムリアに帰還してから早くも2週間が過ぎた頃、日本はお盆の時期に入った。美土路神社でもお盆ということで何かしらの行事が行われるように思われるが、特に何か催すことはない。そのため、最神玲も物部かすみも、本来ならば盆休みは実家に帰省してもいいのである。だが、彼らは何故か帰省せずに、かと言って美土路神社での神職バイトは夏休みと言うことで、玲もかすみも時間を気にせず好きなことをしていた。玲に関しては、帰省しないのは何となく察しが付くが、かすみに関しては帰省しない理由は特に見当たらない。だが、強いて言うなら、今年の初めに実家に呼び出されて以来、余り良い関係を保っているとは良い難いこと、そしてタチアナから贈られた特殊な衣装、あれを使って召喚術でデザインすることに嵌っているため、かすみも今年は帰省しない予定だった。ところが、そんなお盆休みのある日、かすみのスマホにLINEのメッセージが入った。そこは、高校時代の仲の良かった友達数人と作ったグループLINEで、今も偶にだがチャットして近況報告をしたりしている。そして今回のLINEは何カ月ぶりかで、友人の俵京香から送られたものだった。そこには
[今週末に昔よく誕生日会を開いていた
レンタルルームで交霊会をやります
是非参加してね]
という内容だった。そう言えば、誰かの誕生日には、地元の商店街の外れにあったあそこのレンタルルームで盛大に飾りつけたり、あとケーキとお菓子と飲み物を持ち寄って皆で騒いでいたな、と昔を思い出して懐かしんだ。だが、交霊会とあるがこれって幽霊と交信するとか、そんなことか?と気になったので、京香に
[参加予定だけど交霊会って
幽霊と交信するやつなん?]
と送信した。するとすぐに
[ピンポーン かすみ大正解です
後で飴ちゃんあげるね]
と返って来た。何や京香のやつ、すっかり大阪のおばちゃんかいな、と苦笑いするかすみであるが、それよりも交霊会とは自分も得意ではあるが、他人がどうやって降霊するのかに興味が沸いたかすみである。早速、玲にこのことを報告したところ、「へえ、面白そうだね。何か興味深いことがあったら、帰ってから教えてね」と言うことで、週末に早速地元に向かうことにした。念のため時間を確認すると、夜8時から開催するとのこと。それと、どうやら京香が行う訳ではなく、何やら知り合いか誰かが行うらしいのだ。そして参加費用だが、1人1万円だという。それって、何か怪しくないか、と疑い深くなってきたかすみ。そんなかすみも、降霊術で5万円取るのだから、そこそこ良心的ではないかと思うのだが。とりあえず参加費は現地で支払うことになり、後は参加者がどれ位集まるのか気になったので後日京香に尋ねた所、グループLINE登録者は全員参加だそうだ。そうすると、ちょっとした同窓会だね、と少しは楽しみになったかすみであった。
お盆休み最後にあたる週末がやって来た。なお、交霊会は午後8時からだが、折角なので、午後5時にかすみの地元の駅前に集合して、それから各自食べ物と飲み物を調達して、交霊会の行われるレンタルルームへ一足先に向かってそこで同窓会をすることになった。そこで、午後5時少し前に玲の部屋にやって来て、「これから行ってくるね」と玲に挨拶してそのまま転移していった。実は玲ことカーンフェルトにとっては、同窓会の概念がそもそもないため、最初は「何それ?」であった。そこでかすみが、仕方なく説明して漸く理解できたのだか、それでもカーンとしては昔通った学院の仲間と集まる感覚は全くない。尤も彼にとっては良い思い出は殆ど無いためであるのだが。そんな暗い過去を態々かすみに明かすことはなく、かすみもカーンの暗い過去を知る由もなく、かすみは楽しそうに出掛けて行った。
その後かすみは無事高校時代の友達と再会し、昔と同じ様な感覚で騒ぎながら、手に飲み物と食べ物を持って昔よく利用したレンタルルームに向かった。なお、かすみ以外は皆どこかの企業に就職して、今は東京、名古屋、大阪などの大都市で働いているようだ。そんな彼女達を少しは羨ましいと思ったかと言うと、実はそれはなかった。それよりも、かすみとしては、今の生活の方が充実しており、むしろ彼女達よりも自由にやっているのではと思ったりして、少しだけだが心にゆとりが出たりした。だが、決してマウントを取ろうなどとは考えない所が、かすみである。そして、漸く昔良く利用したレンタルルームに到着した。
「あ~、ここの扉、ちょっとヘコんでたん
覚えてるけど、ほんま昔のまんまやわ~」
と今回集まったかすみの友人の一人の谷田美鈴が懐かしそうに扉を眺めていた。彼女は東京にある証券会社に勤めており、今回集まった中では一番稼いでいる。尤も、高校時代から性格はおっとりした、何となく姫様という感じでかすみ以下他の仲間たちは接していた美鈴だが、意外と細かい所を見ていたりするし、しかも記憶力は抜群であった。そして、
「美鈴、相変わらずそんなんよう覚えとるな!」
と美鈴の性格を熟知する山本明日香が、半ば呆れながらも美鈴の注意力と記憶力に感心する。彼女も美鈴と同じく今は東京に住んでいるが、明日香は某中央官庁に勤めるキャリア官僚である。昔からかすみ達のなかでは頭がよく、かすみも宿題を手伝ってもらったりした経験がかなりある。
「それにしても、昔よう使ってた部屋取れたん、
めっちゃラッキーやんな〜!」
と少し軽い感じの女性、村上希美が、昔を懐かしんで声を上げた。彼女は今は名古屋の某自動車メーカー本社に勤務している。実は近々結婚するということで、今は凄く幸せなのだという。
「ま、昔のことは置いといて、
今日はこれからここで交霊会すんねんけど、
その前にプチ同窓会やるから、
みんなよろしゅうな〜」
とこの降霊会の呼びかけ人である俵京香は幹事の如く仕切りだした。彼女は、地元に近い大阪市内で小さいながらも飲食店を経営している。そして彼女の店に通う常連の一人が、今回交霊会を行う人物なんだとか。そんな三者三様ならぬ五者五様の展開になったが、それでも高校時代に仲の良かったメンバーだからこそ、本音で語り合えたりもするのだった。その後、早速テーブルに持ち寄ったお菓子やアルコールを並べたが、かすみはふと、かつてはコンビニで買い込んだ炭酸飲料やお菓子を手に、誰かの誕生日にこのレンタルルームに集まって、他愛もない話で夜遅くまで笑い合ったそんな光景が、まるで昨日のことのように胸の奥から蘇ってきた。けれど今、テーブルの上には缶ビールやワインのボトルが並び、グラスに注がれた琥珀色の液体が灯りを映していた。炭酸の代わりにアルコールに変わっただけなのに、それがとても不思議で、どこかくすぐったい。あの頃の自分が、こんなふうに大人になって、みんなとまたここでグラスを傾ける日が来るなんて、想像できただろうか。ふとそんな思いが胸をよぎり、グラスの中で弾ける泡をぼんやりと見つめた。変わってしまったものと、変わらずにここにあるもの。そのどちらも、今のかすみにとっては愛おしい。
かすみはグラスに注いだビールを片手に、一人ぼんやりと昔を思い出しながら物思いに耽っていたが、かすみ以外の女性達はアルコールが入るや否や、仕事の鬱憤が溜まっているのか、やれ上司がどうとか、同僚のあいつは使えないとか、そんな愚痴を言い合ってストレスを発散することに夢中になった。そんな中、かすみだけは特に何か吐き出す訳でもなく、ニコニコしながら彼女たちの愚痴を聞いている。そんなかすみをみて、やはりかすみは謎が多いようで、どうしてもここにいる全員がかすみのことが気になってしまう。
「かすみってさ、結局就職せんとどうしてん?」
と明日香はストレートに聞いて来た。そこでかすみは、
「うちは神社でバイトしてんねん。
せやけど、一応こんな会社も立ち上げてん」
と言って、皆にM&Mの名刺を配った。
「なぁなぁ、超心理学研究所って、
なんかヤバいことしてへんの? かすみ」
とアルコールが入って上機嫌の京香がストレートに問いかけてきた。そこで、別に隠すことはないので、何をしているのかを皆に話した。
「うちらはな、心霊現象とか研究してんねん。
ちなみに、うちも相棒の玲ゆう奴も、
降霊術とか除霊できるで」
と少しだけセールスを加えながら、今やっていることを説明した。すると、
「え~、 ほな今日の交霊会も~、
かすみやったら出来たりすんの~?」
と美鈴が、アルコールが入ったせいか仄かに赤みを増した目元から覗く潤んだ瞳でかすみを見つめながら問いかけてきた。
「うん、降霊術は普通にできるけど、
ここで言う交霊会と同じかどうかは
全然わからんわ」
と率直な感想を述べた。ちなみに、かすみ、幾らくらい稼いでるの?とあからさまにというかストレートに聞いてきたのは希美。そこで、
「昨年で1300万位かな」
と答えた途端、皆一斉に「えー、まじ?」となった。しかも京香に至っては、「何か怪しいことしてへんの、かすみー」となったが、まあこの反応は別に不愉快でもないので、「そんな事せーへんは!」と何時ものかすみモードで答えた。
「ほなさー、なんか幽霊とか出してみてや〜」
と少し酔い気味に希美が話しかけてきたので、
「なんか霊と縁あるモンがあったら、
それで呼べるかもしれへんけどな」
と言うと、美鈴が
「うちのこのお守りなんやけど、
実は死んだおばあちゃんが
大事にしてたモンなんよ。
これでいける?」
と言うことで、一応霊体が霊界に留まっていれば大丈夫だよと断ってから、各自に霊視グラスを渡した。
「これな、うちらのとこで作った
幽霊っちゅーか霊体を見えるようにする
特殊なメガネやねん。
これで霊が出たかどうか見てな」
と言って、皆に渡した。「なあーに、これー、めっちゃ変なメガネやん!」と希美がまたも酔い気味に揶揄ってきたが、そんな希美を無視して、霊視グラスを皆に掛けてもらい、かすみはお守りに対して降霊召喚を行った。すると
「おー、なんか出てきたで!
美鈴、この人がおばあちゃんなん?」
と美鈴に問い掛けたが、その美鈴は、目の前に生前と同じ佇まいの祖母が現れたため、気が動転したというか、半分気を失っていた。だが、かすみからの問いかけで我に返って、
「ね、ねー、かすみ、
お、お、おばあちゃんなんやけど...」
「ほな、おばあちゃんに声かけてみ?」
と言いながら、とりあえず、かすみが「あなたのお名前を教えてください」と尋ねた。すると、
「・・・ま、え、の、い、ね、こ」
「ま、ま、前野稲子って、や、や、やっぱ
お、お、おばあちゃん!」
と突然美鈴が叫び出した。そして、「おばあちゃん、美鈴です。分かりますか?」と美鈴が尋ねると
「・・・み、れ、い、
・・・わ、た、し、の、か、わ、い、い、ま、ご」
と言って美鈴を優しい目で見つめてきた。それを見た美鈴は、目に涙を浮かべて、祖母に抱き着いた。尤も霊体なので抱き着くことは出来ないが、それでも美鈴の祖母は、美鈴の頭を優しく撫でる仕草をした。これを見た、他の4人は最初は呆気に取られていたが、美鈴と彼女の祖母の優しい眼差しを目にして、感動の再会を目にした如く目に涙を浮かべていた。
「かすみ、ホンマにおばあちゃんやった!
これって奇跡ちゃうん?」
「ちゃうで、美鈴。うちの降霊術やったら、
こんな感じで霊と直接会えて話もできんねん」
とかすみは自信を持って美鈴と他の同級生達に語った。そのとき、
「ちょ、かすみ! こんなんしたら、
この後の交霊会どないすんねんな、もうっ!」
とあきれながらかすみに注意する幹事の京香である。確かに、この後で本日のメインイベントの交霊会が行われるのに、いきなりここでメインディッシュが出されたら、身も蓋もなくなるのだ。そこでかすみは、
「はは、ごめんごめん、京香。
まぁまぁ、とりあえずこっちは置いといてな」
とかすみは蟀谷をかきながら京香に謝った。その時明日香が、
「ところでさ、かすみ、
そんだけスゴい降霊術あんのに、
なんでこの交霊会来よ思たん?」
と誰もが抱く疑問を投げかけた。それに対するかすみの答えは、何となく面白そうだから、であった。そう、最近の玲は、昔なら絶対に自ら首を突っ込まないようなことも、なぜか積極的に首を突っ込もうとするが、その背景には、かすみの「何となく面白そうだから」があった。やはり、近くにいると、その人の性格が移ってしまうのだろうか。何れにしても、かすみの霊能力が本物だという認識を皆が持ったことで、この後の交霊会が盛り下がったかというと、全く逆で、むしろこの交霊会でかすみが何をしでかすかと言う、変な期待で盛り上がってしまった。




