地球転生編 2-64 物部かすみ、お見合いする?
物部かすみ、お見合いする?
寒い冬のある日、自宅で寛ぐ物部かすみのスマホに着信が入った。発信元は彼女の母親の物部京子からであった。
[もしもし、かすみ、
ちょっと話があるけど今大丈夫?]
[もしもし、お母さん、何かあったん?]
[ちょっとね…]
という何気ない会話から入ったのだが、実はかすみの将来を心配する両親が、彼女の今後の身の振り方について彼女に事情を聞くために実家に呼び戻す内容であった。流石のかすみも母親からの要請には拒否することはできず、仕方なく実家に戻ることにした。なお、神社での雑務は暫く玲が一人で行うことになった。
「じゃあ、玲、行ってくるわ」
「うん、気を付けてね。
お父さんとお母さんに宜しく言っといてね」
と今一つ実家に帰る気のしないかすみは、何気ない会話で挨拶をして、そのまま転移していった。ちなみに、今のかすみであれば実家までは余裕で転移できるのだが、直接行くのは絶対まずい。そこで、最寄り駅の目立たない場所に転移して、そこから歩いて実家に向かうことにした。
物部家は、駅から歩いて5分ほどのところにある10階建てのビルにある。正確には、ビルの屋上にある。なお、よく芸能人の「ビルの屋上にある小屋に一家で住んでいた」という昔の貧乏話を耳にしたりするが、物部家の場合はビルそのものが物部家の持ち物である。従って、屋上に建てられている家も普通の2階建ての家がそのまま屋上にあると思ったほうが正確だろう。そして、屋上の物部家に行くには、専用のエレベーターを使って屋上にいかないと到達できないようになっている。ところで、かすみであれば家の玄関前に転移しても誰にも気づかれずに家に入れるのだが、その場合専用エレベーター内に設置されている防犯カメラに彼女が映っていない状況が発生する。そのため、態々駅前から歩いてくることにしたのである。かすみのこの細かな配慮は、勝手知ったる我が家だからこそ出来たであろう。後、余談だが、このビルの1階と2階は物部不動産の店舗と事務所になっており、その上階は一般の企業が入居している。そしてかすみだが、勝手知ったる我が家のため、専用のエレベーターで屋上まで行き、そこから玄関に向かった。
「ただいまー、お母さん、帰ったよー」
と言いながら、かすみは靴を脱いでそのまま2階の自分の部屋に向かった。かすみの部屋は2階の東南の角にある広さ12畳ほどの洋室である。「まったく、何で帰ってこないといけないのかなー」とまだぼやくかすみだが、1階から「かすみ、帰って来たのなら、こっちに来なさい」と呼ばれたので、荷物だけおいて着替えをせずにそのまま1階に降りて行った。そしてリビングに入ると
「あれ、お父さんも居るの?仕事中じゃないの?」
そう、そこには平日の午後であるが、父の物部克敏がソファーに寛いでいた。
「おー、かすみ、帰ったんか。疲れたやろう」
と労わる父の克敏に対し、、母の京子は
「何言ってるんですか、お父さん。
たかが差間見から帰ってきただけですよ」
と身も蓋もない言い方をするのだった。もう少し私を労わってよねと抗議したくなるのだが、かすみはなぜか母には口答えできないのだ。序に言うと、転移して来たので、疲れはゼロなのだが。さて、
「で、何で態々私をここに呼んだんですか、
お母さん」
と何やら挑発するような口調で話し出すかすみであった。そんなかすみに対しても冷静に
「あらあら、実家にあなたを呼んだら駄目だなんて、
誰が決めたんでしょうかね」
と応酬する京子。この二人に挟まれた父克敏は、ただ黙って成り行きを見守るしかないが、これは何時もの物部家の光景でもあったのだ。
「まあまあ、二人ともそれ位にせえな。
かすみ、今日はな、
お前の将来をどないするかを
考えよう思って呼んだんや」
と何やらかすみにとっては余計なお世話のようなことを言い出す父親である。そこでかすみは
「将来も何も、今やってることは、
私には十分満足だし、
充実した日々を送ってますけど」
何か問題でも?とは付け足さなかったかすみだが、内心呆れているのは言動から伝わってくる。それに対し、
「かすみ、単におままごとをやっているだけでは、
この先暮らしていけないのは
わかっているでしょう?
ちゃんと定職に就いて収入を安定させなきゃ、
これからあなた、
何十年と生きていくのに大丈夫なの?」
と母からは説教されてしまう。勿論かすみも定職に就いて安定した生活を送れる方が良いのは十分に分かっている。だが、今の仕事はそんな安定した生活からは得られない驚きや喜び、そして時には怒りや悲しみを自分にもたらしてくれる。もしこれを手放したら、二度とは自分のところに戻ってこない、そんな予感さえ抱くのだった。そして、心霊に関係する需要は減ることはないから、そういう意味では、今の仕事も安定した生活を送れるようにできなくはないのだが、これはかすみには楽観過ぎるだろうか。そんなことを考えていると、いきなり母から
「ちなみにかすみと最神さんの会社では、
今までに幾ら稼いだの?」
と聞かれた。なんだ急に?と身構えたが、ここはあれを見せたほうが良さそうだと思い直し、スマホの銀行系アプリを立ち上げて
「昨年の4月から始めて
まだ1年にはなってないけど、
M&Mの収入としては1300万程だよ」
と言いながら残高を父と母に見せた。京子としては、「どうせアルバイトか小遣い程度位しか稼いでないんでしょう」と思ったのだが、その意に反してそこそこどころか、結構稼いでいたので内心「まあ、あの子たちにしたら結構頑張っているのね」と少しだけ見る目が変わった。ちなみに、かすみであれば「ちっ、おもんない」となっていただろう。なお、この収入は主に玲の蘇生が3件あり(1件はワールド・クローズ社長の若林の孫の蘇生、1件は心霊サークル部員の彼氏の蘇生、もう1件は若林の紹介で請け負った蘇生)、後はかすみも絡む事故物件と降霊術と除霊が複数で結果この金額となった。大卒で初年度から2人でこの金額を稼ぐのは外資系に努めないと難しいのではないか、とかすみは考えるのだが。況してや、かすみが順調に就職していても果たしてこの半分を稼いだかとなるとそれはあり得ないことである。尤も両親としては、この状況が永続的に続けば何も問題ないのだが、その保証は残念ながらどこにもない。そこが恐らくかすみの両親の心配の種なのだろうが、かすみにその思いが伝わったかどうかはわからない。何れにしても、暫くは様子見と言うことで、この件はこれで落ち着いた。
それから、急に話題が変わって、京子は突然
「それとねかすみ、
実はあなたにお見合いの話が来ているんだけど」
と言って、リビングの整理棚から1枚の写真とプロフィールの書かれたメモを取り出してかすみに渡した。かすみにとっては、まさに青天の霹靂か。そしてかすみは、
「はあ?お母さん、私まだ社会人1年目よ。
何で今から見合いなんてしないといけないのよ!」
とかなりご立腹な様子で抗議し始めた。かすみのこの様子は両親共に予想しており、真剣に見合いを進める訳ではなく、
「勿論あなたのことは分かってますよ。
まあ、これはね、一応話を通しましたよ、
というポーズみたいなものね。
だから今のところは余り真剣に
受け取らなくても大丈夫なんだけど…」
と何やら語尾が怪しい京子である。かすみも更に警戒を強めて、
「とりあえず、今後も私は見合いをする気
ありませんからね。もし今後そなんことしたら…」
親子の縁を切ります、ときっぱり宣言するのだった。これには、父親の克敏は驚いたようで
「か、かすみ、そないなこと言わんといてえな。
とにかく、わしも母さんも
お前の将来が心配やから言うてるだけやねんで」
分かってるわよ、とかすみは父に対して少し優しく言うのであった。
そんなこんなで、かすみは数日間実家で過ごすことになり、かと言ってずっと実家にいると息苦しくなるので、高校の時の友人に連絡して遊びに行ったりして時を過ごした。
「玲、ただいまー」
「あ、お帰りかすみ。どうだった」
「それがねー…」
と早速美土路神社の自宅に転移で戻って早々、事の顛末を玲に愚痴ったのだ。そして、
「その序か何か知らんけど、
見合い話まで持って来たんだよ。
まったく」
とまだ怒りが収まってないかすみだが、見合いと聞いたときに一瞬戸惑いの表情が玲に現れたのをかすみは見逃さなかった。そっか、気になるんだな、うんうん、と少しホッとしたのだ。
「ねえ、玲、今日はどっかに飲みに行こうよ!
何かさ、バーッと飲みたい気分なんだなー」
おいおい、飲みすぎて何時かみたいに二日酔いになるなよ、と笑いながら応じる玲であった。玲も偶には2人で飲みに出かけるのも悪くないと思い、早速地元の差間見町商店街にある居酒屋に向かうことにした。道すがら玲は、かすみが留守中に起きた件について話していた。それを聞いたかすみは、何やら深刻な顔つきになるのだが、一言、「そっかー、大変だったんだねー、玲も」と言ったきり、黙って歩き続けた。そして、かすみは
「まあ、お互い色々とあったけど、
今日はそんなことは忘れて飲むぞー」
と一人燥ぎ出す始末。まあ、普段と変わらず明るく接してくれるかすみに、玲は心から感謝した。だが一応、玲は
「かすみ、と、に、か、く、飲みすぎるなよ。
ここから神社までおんぶして帰るのだけは勘弁な」
と釘を刺すことは忘れない。だが、数時間後
「全く、あれ程飲みすぎるなよ、と言ったのに」
と玲はぼやきながら、だが時折振り向いては微笑みながら、かすみを背負って帰宅するのであった。ちなみに、かすみは玲の背中が気持ちよくて、すやすや眠っていた。時折笑顔になるのは、何やら楽しい夢でも見ていたのであろうか、それとも玲に背負われていることに幸せを感じたのだろうか。




