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召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?  作者: 島ノ松月
地球転生編第二部

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地球転生編 2-54 物部かすみ、母に翻弄される

物部かすみ、母に翻弄される


美土路(みとろ)神社の境内に植えられている楓(かえで)がほんの少し色づきだしてきて、もう1、2週間すると綺麗に赤く色づいて見事な紅葉を楽しませてくれる、そんな期待を抱かせる今日は、11月初旬の平日である。そんな日の午後、特に急ぎで片付けないといけない作業がないため、今は社務所で寛ぐ物部かすみのスマホから着信を知らせるメロディーが流れて来た。


  [もしもし、かすみ、元気にしてる?]


  [もしもし、え、お母さん?何かあったん?]


  [別に何かあったら電話するとかはないでしょ。

  かすみの事が気になったから電話しただけよ]


普段かすみの事を余り構うことのないかすみの母物部京子であるが、この日は何やら様子が違うようで。


  [えー、用事なければ切るよ。今忙しいからね]


  [あら、つれないわね、かすみ。

  あっ、そうそう、今ね神薙(かんなぎ)家に来てるのよ]


  [・・・・・?]


  [それでね、ちょっとかすみの様子を見に

  そっちに行くから、と思って電話したのよ。

  じゃあ後でね]


と言って一方的に電話が切れた。えっ、こっちに来るの?何で?と、かなり動揺するかすみである。その隣で、かすみと違ってキッチリと事務作業をこなす玲は


  "おや、かすみ、珍しく動揺しているぞ。

   何かあったのか?"


となぜか嬉しそうにしていた。



 それから1時間ほどした午後3時頃、社務所にかすみの母京子が訪ねて来た。


  「こんにちは、最神さん。

   かすみが何時もお世話になっております」


  「あ、こんにちは、かすみのお母さん。

   今日はどうされたんですか?」


とかすみを他所に玲と京子がお互いに挨拶をしそのまま会話を続けている。そして


  「お母さん、邪魔するんだったら

   帰って欲しいんですけどね。

   うちら、これでも忙しいんで」


  「あらあら、母親を邪険にするとは、

   あなたどれだけ偉くなったのかしら?

   そもそも、ここを紹介したのが誰なのか

   忘れてないわよね」


かすみの心に何かがグサっと刺さったようである。ところで、なぜかすみは焦っているのか?


  「ところで、最神さん、かすみ、

   あなた達に折り入って

   相談したいことがあるのですが」


と言って、社務所の集会室にて話し出したのが、次のようなことであった。


 かすみの母の京子は、玲とかすみが「心理療法」を研究していると勘違いしているが、元はかすみが「超心理学」と言ったのを「超心療学」と勘違いしたことを訂正しなかったことに由来する。そして、心理療法を志すというか研究するかすみと玲に対し、心理療法を必要とする京子の友人がおり、彼女に彼らを紹介するために訪れた、ということであった。これを聞いた玲は、「か、す、み」と睨みつけたのであるが、かすみは明後日の方を向いて我関せずを貫こうとしている。全く困ったお嬢様だ。


  「えーと、そうすると、

   僕らがその方のお宅にお邪魔して、

   何かしら相談に乗れば宜しいのでしょうか?」


  「あら、流石は最神さん、

   察しが宜しくて。

   それに引き換え、かすみときたら…」


あちゃー、かすみ、かなり動揺しつつ、玲に対する敵愾心(てきがいしん)をむき出しにしているぞ。危ない玲。まあ、ここは、かすみの顔を少しだけたてて、


  「じゃあ、かすみ、ちょっくら行くとしますか」


と声を掛けたのであった。勿論まだ仕事中なので、仕事終わりでも構わないかを京子に尋ねるが、この時間は誰も神社には訪れないから、今から行っても大丈夫よ、と言われた。何といっても、美土路神社は京子の実家である神薙(かんなぎ)家が事実上管理している神社であるため、管理者の許可が出ている以上、大手を振って行くことは全く問題ない。そこで京子の言葉に従って、玲とかすみと京子は、そのまま心理療法を必要とする京子の友人宅に向かった。



 件(くだん)の友人宅へは、神社から歩いて10分程の距離にある。そして道中は、かすみを真ん中にして、その両側に玲と京子が並んで歩くのであるが、かすみはずっと不機嫌な様子で何やらぶつぶつ呟いている。玲が気になって聞き耳を立てると、「もう、何で私も行くのよ」とか「いい加減にしてよね、お母さん」とか「玲の奴、調子こいて、後で絶対しばく」などの不穏な言葉を発していた。相当にご機嫌斜めである。しかし、隣に居る京子は涼しい顔をして、黙って歩き続けている。


  「あそこのお宅よ」


と言って京子が指をさしたところは、神薙家からも近い2階建てのごく有触れた一軒の住宅。門柱にある表札には[指子]とあった。かなり珍しい苗字の様である。


  「こちらはね、ゆびこと書いて[さしこ]と読むのよ。

   かなり珍しい苗字なのよね」


と京子に教えてもらう玲とかすみである(が、かすみは殆ど耳に入ってない模様)。そして京子が呼び鈴を押して暫くすると、玄関から年配の女性が姿を現した。


  「こんにちは、おば様。

   神薙の所の京子です。

   朱美(あけみ)さんは御在宅でしょうか?」


  「あら、いらっしゃい、京子さん。

   ええ、朱美は自分の部屋に居りますが、

   どうも体の調子がまだ悪い様で、

   寝たり起きたりを繰り返しております。

   もし良かったら、会ってあげてもらえませんか?」


ええ、その心算(つもり)で伺いました、と朱美の母親に告げて、


  「おば様、この二人、うちの娘のかすみと

   その友人の最神玲さんですが、

   心理療法を研究しているんですよ。

   それで、朱美さんの様子を見て頂こうと思いまして、

   今日連れてきました。

   差し支えなければ、彼らも同席させたいのですが、

   構いませんでしょうか?」


ええ、それは是非そうしてください、あら、京子さんの娘さんですか、お母さんに似て別嬪(べっぴん)さんですね、と朱美の母親に言われると、何だか照れ臭く感じるかすみであった。この頃には、かすみの不機嫌さも少しは緩和されたようである。


 さて、朱美の部屋に案内された3人であるが、早速玲とかすみはその部屋の異変に気付いた。


  「玲、あそこにいるよね?」


  「うん、いるね」


とかすみと玲は小声で囁き合うのであるが、ベッドに目を閉じて横たわる朱美の丁度真上の天井付近に、何やら霊体が浮遊していた。一見すると浮遊霊のようだが、ずっと朱美を見沿えている状況からすると、何やら因縁めいたものを感じる玲とかすみであった。念のため、玲が降霊召喚門を呼び出すようにかすみに伝えようとした時、その霊体が急に動き出したかと思うと、かすみの元に襲い掛かって来た。「キャー」と叫んでしゃがみ込んだかすみであったが、襲ってきた霊体はしゃがみ込んだかすみの頭上を通り過ぎて、また元の位置に戻って行った。かすみは、間一髪で助かったということだろうか。


 ところで、京子はと言うと、かすみと玲が何やらぶつぶつ呟いたかと思ったら、かすみが「キャー」と叫んだかと思うといきなりしゃがみ込んだりしたため、彼らが何をやってるのか分からず、ただ唖然と立ち尽くしていたのであった。


  「あなたたち、そこで何をしているの?」


と場の雰囲気にはそぐわない穏やかな口調で、しかし誰もが思う当然の質問を発した京子である。そこで


  「ねえ、玲、お母さんにあれ渡してあげたら」


と言われて、玲は何時もの霊視グラスをカバンの中から取り出して(実際はカバンの中で召喚したのだが)、それを京子に渡したのである。


  「ねえお母さん、その眼鏡をかけて

   天井付近を見てみて」


と娘に言われた京子。訳が分からないまま、とりあえずかすみの言う通りにして天井を見た時に


  「え、あれは何?

   かすみ、何がどうなってるのか説明して!」


  「聞いて、お母さん。

   あそこに見えるのは霊体で、

   どうやらあの霊体がお母さんの友人の朱美さんに

   取り憑いているようなの。

   そして、私と玲は、

   その霊体を除霊することが出来るの。

   分かった?」


と京子の眼を見つめて説明を続けるかすみ。そんなかすみの真剣な表情を見て、京子は何も言わずただ頷いた。


 さて、玲であるが、攻撃的な霊体を扱うのは初めてではないにしても、では簡単に除霊できるかと言われるとそうとも言い切れない。よく観察すると、再び玲とかすみに襲い掛かる気配が今の所見られない以上、かすみを襲ったのはかすみへの牽制のように思えてくるのである。そうなると、何かしらの因縁を持ってこの場、あるいは朱美に取り憑いているようであり、そうするとその因縁を排除しない限り、何度も朱美に取り憑いて来る危険性はあるだろう。この点をかすみと、今は状況を把握するのに精一杯の京子に対し、玲は説明したのである。すると


  「でも、どうやってあの霊体から聞き出すかよね。

   私が降霊召喚門を展開しようとしたら、

   いきなり襲って来たんだから」


  「そうだね、でもそれだったら、

   僕がやったら良いかもしれない。

   召喚門の展開は瞬時にできるからね」


と言い終わるや否や、玲は降霊召喚門を天井付近に展開した。すると、霊体は不意を突かれたのか、身動き取れずに捕らわれてしまった。そして玲が霊体に質問を始めた。


  「あなたの目的は何ですか?」


  「・・・わ、か、ら、な、い、し、じ、さ、れ、た」


目的は分からない?しかも、「しじされた」って


  「だれかに命令されたのですか?」


  「・・・そ、う」


「命令されたって!」とはかすみの驚きの叫びであった。玲も京子もビックリしてかすみに注目するのであるが、かすみが言うには


  「霊体に命令するってことは

   呪いとかじゃないのかな」


  「ん?呪い?」


  「そう、呪い。ほら、以前、親友の翼の件で、

   呪いのビデオを扱った時、

   その後で少し呪いについて調べたことがあって」


と言ってかすみは語りだした。呪いの方法は様々あれど、結局は呪う対象者に対し、自分が生霊となって相手に取り憑いて害を加えるか、霊体を使って害を加えるか、恐らくそのどちらかになるだろう。仮に生霊だと、降霊召喚術でその魂を霊界に送ってしまうと、呪いを行っている者はある意味「呪詛返し」をされたが如く自分に危害が生じる。そしてこの場合、魂が霊界に送られるので、即死である。一方、霊体を使うということは、ある意味霊体と契約することと等価と考えらる。「もしそうなら単に霊体による契約召喚だな」、と玲は言うのである。呪いと言うと何やら禍々しさが漂うが、こと契約召喚だと言われるとストンと腑に落ちるかすみは、もう既に立派な召喚術師であった。そうなると、一体誰が契約したのか、と言うことになるのだが、それは朱美本人から聞くしかない。それよりも、先ずはこの霊体をどうするかであるが、


  「とりあえず、霊界にお引き取り願おう」


ということで、玲は「お見送り」で霊体を霊界に送った。ただし、再度ここにやって来る可能性はあるので、その原因をこれから調べないといけないのだが。


  「お母さん、大丈夫?」


とかすみの声で京子の方に振り向く玲だが、どうやら余りに衝撃的な光景を目の当たりにしたためか、腰が抜けてしまったようである。


  「だ、だ、大丈夫よ、かすみ。

   あー、ビックリしたわ。

   何だったのあれは?」


と言うことで、かすみは母親が立ち上がるのを手伝いながら、あそこに居たのは霊体と言うか分かり易く言うと幽霊であり、朱美が誰かから呪いを掛けられたのではないか、と説明したのである。すると、


  「とりあえず、朱美を起こして

   話を聞くことにしましょう」


と言って、京子は立ち上がって朱美の傍に向かった。そして、


  「朱美さん、京子です。

   お見舞いに来ましたよ。

   今日は娘のかすみとその友達が、

   あなたを助けるために一緒に来ているのよ」


と言って朱美を起こした。暫くして朱美が目を覚まして落ち着いた頃合いを見計らって、かすみから聞いた話を京子の口から説明したのである。朱美は暫し無言で京子を見つめていたが、京子の真剣な表情からこれは冗談ではないことを察し、漸く重い口を開いたのである。


  「京子、心配かけて御免ね。

   それとかすみちゃんと最神さんでしたっけ、

   態々来て頂いて有難うございます。

   京子の話を聞いて、

   何となく分かりかけたことがあります。それは…」


と言って朱美が語りだしたのは次のようなことである。


 朱美が務めている会社は某自党車メーカーで、その事務員としてこの近くの支店に勤務していた。朱美は社内でもベテラン社員で、新入社員などを教育する係も任されていた。そんな時、一人の女性社員が朱美の指導の下で働いていたが、どうもその社員は何かと問題が多かったという。資料の誤字脱字は勿論、必要な書類の準備を怠ったり、電話で取り次いだ取引先からの要件を担当に伝え忘れたり等々、数え上げるときりがないほどの問題を起こしていた。そこで、彼女を教育する立場にある朱美が彼女を注意するのだが、それをパワーハラスメントだと主張して朱美の上司に訴えた。だが、その上司は朱美の行動をよく理解しており、訴えた女子社員に問題があることは十分に分かっていたので、パワハラ問題ではないとの判断で片付けてしまった。そのため、その女子社員は頭に血が上ってしまい、最終的には朱美や上司を出るところに出て訴えてやると息巻いていたが、結局誰からも相手にされずそのまま会社を辞めてしまった。そのため、もし自分に対する恨み辛みがあるとしたら、その子ではないかと言うのである。


  「そうすると、一番手っ取り早いのは、

   その女性を説得することだけどなー」


  「そうね、でも今はどこにいるのか

   分からない訳でしょ。

   もし真剣に探すなら、

   探偵でも雇って調査してもらうとかかなー」


まあ、そうなると僕らの仕事の範囲を越えちゃうね、と玲とかすみはお互いに頷き合った。ただ、そこまで深い怨念を持つ相手を説得できるかと言われれば、玲もかすみも無理と即答するであろう。これは、召喚術云々ではなく、単に人生経験の差から来る結論であるのだが。とりあえず、かすみは現状自分達に出来ることはここまでであることを京子と朱美に伝えた。勿論2人共に釈然としないところが無い訳ではないのだが、朱美に呪いを行っている当人を見つけ出さない限り対応はできないことは分かっているようだ。そこで、玲からは、もしまた体に異常が見られるようなら、美土路神社に居るので何時でも来てください、と伝えたのである。そして、結局結論を出せない状態の中、玲、かすみ、京子の3人は、指子家を後にした。



 美土路神社に帰る途中、京子は


  「かすみ、あなた私に嘘をついてたのね」


とかすみに怒り出した。玲は何やら親子喧嘩が始まるのかと静観しているのだが、かすみの方は


  「お母さん、私は別に嘘はついてないよ。

   ちゃんと超心理学研究所と言ったんだから。

   そうしたら、何やらお母さんが勝手に

   ちょう心療学研究所などと誤解したんじゃない」


と言い返すのであるが、母はかすみの更にその上を行く人である。


  「だったら、かすみ。

   その時にちゃんと私に訂正して

   伝えるべきだったでしょ?

   まあ、あなたのことだから、

   何かしら悪知恵が働いたんでしょうけどね」


と何やら不気味な笑みを浮かべた。それを見たかすみは、一瞬身震いしたかと思うと、


  「お母さん、ごめんなさい。」


と殊勝に頭を垂れて謝った。うーん、普段のかすみとは何か違うけどお母さんには頭が上がらないのか?と思う玲であった。



 さて、指子家の除霊から半月後事態は急変した。朱美は玲とかすみの除霊のお陰で体調が回復し、職場に無事復職が適ったのだが、復職後暫くして職場の朱美宛てに1通の小包が届けられた。送り主は朱美を呪ったとされる問題の女性社員である。何か不吉なものを感じた朱美は、上司と相談してその小包を開けることにした。すると中から血塗れになった人間の人差し指が出て来たのである。朱美も彼女の上司も余りにも凄惨な光景を目の当たりにしてその場で腰を抜かして尻餅をついてしまったが、何とか起き上がった上司は直ちに警察に通報することにした。警察の方では事件性を鑑みて早速捜査を行うのであるが、後日分かったことは、警察官が小包の送り主の女性宅を訪問した時、中から異臭がしたためそのまま中に入ったところ、女性が室内で首を吊って自殺していたのを発見したという。そして、その自殺した女性の左手人差し指が欠損していることから、本人の指が送られてきたのは確かだということだ。また、周辺を聞き込みしたところでは、半月ほど前からその女性が少しずつ異常をきたす様子が確認されており、近所の人からも狂人扱いされ誰も近づくことは無くなったという。


 以上の出来事を指子朱美は、美土路神社にやって来て玲とかすみに語った。


  「指子さん、大変でしたね。心中お察しします」


  「最神さん、どうもお気遣い有難うございます。

   それよりも最神さんとかすみさん、

   まだあなた方にお礼を言ってなかったので、

   改めてこの場を借りまして

   お礼を述べさせてください。

   その節は本当にお世話になりまして、

   有難うございました」


  「これで、恐らく朱美さんへの呪いは

   無くなったはずよね、玲」


  「うん、そうだね。

   僕らが除霊した時に、

   恐らくそれが呪い返しだったっけ?

   そんな風に作用したのかもしれないね」


確かに玲が言う様に、霊体を呪詛者が意図しない方向に仕向けた、この場合は霊界に送り返したことで、それが呪い返しあるいは呪詛返しになったのであれば、今後同様の案件が発生しても何とか対応できそうだなと、玲とかすみは考えるのであった。ちなみに今回の除霊に関する報酬は、かすみの京子に対する問題発言(とはかすみは今もって思ってないが)のため、結局ただ働きとなってしまったのである。これには玲も「かすみ、来月の小遣いはなしな」と言ったかどうか。

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