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召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?  作者: 島ノ松月
地球転生編第二部

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地球転生編 2-49 ご神体クエスト(前編)

ご神体クエスト(前編)


最神玲と物部かすみが美土路(みとろ)神社での雑用係のバイトを始めて半年程経った9月初めのある日の朝、境内にある楠に止まる油蝉(あぶらぜみ)の「ジリジリジリジリ」という鳴き声を耳にしながら、二人は幣殿奥にある本殿周りの清掃を行っていた。そして玲とかすみは、今本殿の前で珍しく佇んでいる。てっきり本殿に安置されているご神体に手を合わせているのかというと、決してそうではない。


 ところで玲とかすみは、大学の卒業研究で民間伝承に関する研究を行っていたが、その過程で一般の研究者とは異なるアプローチをとっていた。ちなみに何気なく卒論で行っていた彼らの研究は後に注目されることになるのだが、それは本編とは無関係なのでここでは述べない。しかし彼らのアプローチ自体はこの物語とも深く関係するので、簡単に触れておく。玲とかすみが民間伝承を調べる過程で事の真偽を確かめるために行ったのが、本人を直接呼び出すというものである。確かに、関係者を呼び出して話を聞くのが手っ取り早く真実に近づく方法なのだが、何分(なにぶん)呼び出す相手は遥か大昔に生きていたであろう人物。まあ、仙人だとかファンタジーに出てくる長命種(エルフのフリ〇レンとか)であれば話を聞ける()()しれないが、現代日本にそのような人たちは存在しない。そこで彼らは、お得意の降霊召喚術を使ったのだ。しかも神社であればご神体に対して、寺であれば墓に対して降霊召喚を行った(ちなみに、仏像に対して降霊召喚しても仏ではなく、仏師が召喚されてしまう)。ところでご神体として祭られている霊体は既に転生しているのではないかと玲は当初考えていた。ところが実際に降霊召喚術をかけて呼び出すと、ご神体と所縁(ゆかり)のある霊体がほぼ必ず呼び出された(ただし、その人物が実在していた場合に限定されるが)。どうやらご神体として祭られることで、霊界における転生に何らかの制約がかかるのではないかと玲は考えたが、この結論は未だに得られていない。


 さて、降霊召喚で召喚した霊体に色々と尋ねた結果、その地方に伝わる話とは全く逆の事が真相だったり、伝言ゲームのように少しずつ変化をして後世に伝わったり、などの驚くべき結果が得られたのである。ただし、玲もかすみも別に驚くようなことではなかったので(かすみの感想は、「まあ、そんなもんだよね」だった)、上手くお茶を濁すようにして卒論としてまとめたのだが、後に彼らの研究を精査していた研究者らは、どうしてこの結論に辿り着いたのかに興味をそそられたのは事実である。



 そんな前科というか経験を持つ玲とかすみ。美土路神社の本殿に祭られているご神体を目の前にして、何もしないということはあり得ない。しかし、やはり自分達が管理する神社と言うこともあり、じっと我慢していたのであったが、やはり何れは猫をも殺すかもしれない好奇心が勝ってしまい、今こうして本殿の前に二人並んで佇んでご神体を眺めているのである。


  「ねえ、玲、やっちゃう?」


  「え、僕がかい?」


  「だって、玲は神も仏も信じてないんでしょ?

   それだったら、罰が当たらないんとちゃうん?」


などと玲に無理難題を押し付けようとしているかすみである。しかも神も仏も信じてなければ罰が当たらないという屁理屈は流石の玲でも全く理解できない。だが、玲も大いに興味はある。なので、


  「全く、仕方がない。

   神様、これはそこにいるかすみに

   (そそのか)されてやったことなので、

   全てはかすみに天罰を与えてください。召喚」


  「おい、玲、何てこと言うんだー!」


と言い終わる前に、ご神体の周りにアニュラス型召喚門が設置され、その中から何やら霊体らしきものが現れた。これには、玲から不穏な言葉を投げかけられたかすみも、まさか本当に天罰を下されるのか?と一瞬焦りキュッと目を閉じた。だが何か起きる気配が無さそうと感じて少しずつ目を開けると、確かにそこには今玲によって召喚された霊体が揺蕩(たゆた)っていた。だが、どうも目の前に揺蕩う霊体からは、神々しさを微塵も感じない。むしろ何時も降霊召喚する時に現れる霊体の持つ雰囲気を醸し出していたのであった。


  「ねえ、玲、この方がご神体?

   うーん、どう見ても普通の霊体よね」


  「かすみ、不敬にもほどがあるぞ!」


(たしな)める玲だが、そもそも不敬の概念すらない君に言われても痛くも痒くもありません、とかすみに突っぱねられてしまった。だが、かすみの言う通り、普通の霊体にしか見えない。ちなみに、卒論の時に召喚したご神体も普通の霊体ではあったが、どこかしら貴族や上級武士の持つ上品さとか威厳が漂っていた。それに引き換え


  「あのー、あなたはこの神社のご神体様でしょうか?」


  「・・・・・」


あっ、そうか、本人はご神体かどうかが分からないのかな、と思い直す玲である。


  「この短刀はあなたの持ち物ですか?」


  「・・・は、い」


  「あなたの名前を教えてください」


  「・・・さ、き、ち」


  「?」


あれ?今「さきち」って言ったよね、とかすみが叫んだが、そう確かにそう言った。しかしこの神社は戦国時代にこの地を収めていた豪族である美土(みと)一族が所有しており、どう見ても豪族の頭領が「さきち」と言う名前は似合わない。精々、○○衛門とか○○之介(のすけ)とかだよなーと呑気なことを言い出すかすみである。そこで玲は次の質問をすることにした


  「あなたは、武士ですか?」


  「・・・の、う、み、ん」


えー、と玲とかすみは二人同時に驚きの言葉を発する。


  「え、やっぱり違うんだ。

   しかも農民って言ったよ、こいつ」


  「こら、かすみ、こいつは無いだろ。

   これでも、一応はご神体なんだぞ」


  「玲、そっちこそ、

  『これでも』とか『一応』は余計じゃないの?」


と、ご神体の「さきち」の事はほっといて、二人で口喧嘩を始めてしまった。そして当の「さきち」はと言うと、所在無げにどこか寂しそうな雰囲気で揺蕩っていた。ところで、本殿周りの清掃に余り時間もかけられないので、今日はここまでにして「さきち」を霊界にお見送りした。以後、玲とかすみは暇を見ては「さきち」を呼び出して色々と尋ねた結果、次のようなことが分かった。



 佐吉は美土一族の治める領地に住むごく普通の農民であった。そんな彼がなぜご神体になったのか?それは短刀間違いのためであった。と言っても、領主の持つ短刀と一農民の持つ短刀では、見た目も価値も全く違うはずである。ではなぜ間違いが生じたのか?佐吉が言うには、彼は山で猪を狩っていて、その猪を解体する時に短刀を使用するという。ちなみに佐吉の持つ短刀は至ってシンプルで、持ち手に当たる(つか)と刀身を収める(さや)は何れも白木で出来ており、刀身も刃こぼれが酷い状態だったという。そして柄と鞘が共に白木のため、解体時には猪の血が刀身だけでなく柄にもこびり付くので、解体後は近くの川で洗ってから持ち帰っていた。ところがある日、何時ものように猪を解体した後で短刀を洗っていて、刀身を鞘に納めた時に誤って川に落としてしまったという。しかも前日に降った雨の影響で川の流れは速く、しかも水量が多かったため、結局その短刀を見失ってしまったのだった。


 一方の美土一族の方である。後に玲とかすみが調査をした結果分かったことであるのだが、掻い摘んで説明すると以下の様なことがあった。美土一族の治めるこの地域は、近在の豪族との領地争いが絶えない状況で、問題の日を含めた一月程は毎日のように小競り合いが起きたという。そんな中、桶狭間の戦いの織田信長の如く、領主の美土何某自ら敵に奇襲攻撃をしかけ、最終的には敵領主を打ち取ることに成功した。そして打ち取った敵領主の首を自分の短刀で切り落とし、槍の穂先にぶら提げて自領への帰還を果たしたのだ。その勝利を記念して行われるのが、美土路神社の秋の祭典[美土路戦勝際]である。ところで敵領主の首を切り落とした短刀であるが、戦からの帰還時に紛失するという失態が生じた。勿論領主自らその短刀を所持していた訳ではなく近侍の者が預かっていたのだが、何かしらの手違いで紛失させたらしい。もしこのことが領主に知られると当然近侍の者は処刑されるので、何かしら理由を付けて来た道を引き返して探していたところ、無事短刀を確保したという。ところが、その短刀こそが佐吉が紛失した短刀であった、というのがご神体間違いの真相らしいのだ。ちなみに、美土何某が所持していた短刀も、佐吉と同じく白木の柄と鞘であったが、刀身は丁子(ちょうじ)の花が咲いたような丸みのある刃文が浮かびあがる見事な細工の短刀であったのだそうだ。ただし、敵の領主の首を切り落とす際の刃毀(はこぼ)れや血糊(ちのり)の付着があったので、見た目は佐吉の短刀との違いが分かり難かったことは間違いないのだとか。


 そして、現ご神体の佐吉の願いは、ご神体のままだとあの世での生まれ変わりが全くできず、未来永劫ご神体としてこの地に縛り付けられることになるが、それはもう嫌だということである。そのためには、正しいご神体を見つけてそれを祭って欲しいというのが佐吉の願いであった。しかし、新たにご神体を探すというのはどうなのか。


  「ねえ、玲、どうする?

   私はこのままでも良いかなと思ったりしたけどね」


  「でもさ、このままにして、

   もし臍曲げて祟り神とかになったら大変じゃないの?

   と言っても、僕は祟りとかは信じてないけどね」


まあ、祟り神はさておき、このままにするのも可哀想だよね、と言うことで佐吉の霊には「見つかるかどうか分からないけど、一応探してみる」と伝えて、そのまま霊界にお見送りした。しかし、目の前にある大きさの短刀を差間見町とその周辺から見つけるのは、闇夜に烏を追う心境とでも言うべきか、あるいは海底の砂の中から一粒の真珠を探すようなものなのか、何やら途方もない難問であった。しかしかすみは、何やら不敵な笑みを浮かべて


  「ねえ、玲、なんかさ、

   お宝探すような感じがしない?」


何と前向きと言うか、呑気なかすみであることか。


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