地球転生編 2-48 最神玲、殺人事件の容疑者にされる?
最神玲、殺人事件の容疑者にされる?
「最神玲さんですね、
少しお話を伺っても宜しいですか?」
美土路神社の境内で掃除をしている玲の前に二人の背広を着た目つきの鋭い男性が声を掛けて来た。両名とも肩幅のがっしりした体格をしており、何かの武道を嗜んでいる印象を受ける。そして、徐に懐から身分証明書を取り出して
「私は県警捜査一課の立花と申します。そして」
「私は米野警察署の鈴木と申します」
と名乗った。立花は30代後半で背丈は玲よりも少し高い、髪型は全体に短く刈り込んだスポーツマンと言っても通用する印象を受けるが、彼の身分は巡査部長である。一方の鈴木は、40代後半位の典型的なベテラン刑事という風貌である。背丈は玲よりも少し低く、七三分けの髪型と口髭が特徴的である。身分は巡査部長。そして彼らが玲の所に赴いた理由は、殺人事件の捜査に関することであった。
玲が刑事二人に呼びかけられる丁度1週間前に、差間見町のある家屋で深夜に殺人事件が発生した。被害者は青田何某という60代後半の男性で、胸と腹をめった刺しにされて殺害された。犯人は当然その場から逃走したのだが、防犯カメラの映像から中肉中背の若い男性と判明。ただし、帽子を目深に被っているため顔は分からず。そしてその犯人は犯行後に美土路神社に向かうのを別の防犯カメラが捉えていたが、そこからの足取りが全く掴めないという状況である。そのため、容疑者の風貌と似ている玲に刑事たちは声を掛けたのだ。
ところで、この時物部かすみはと言うと、この様子を社務所から見ていたのだが、まさか刑事が来ているとは想像する事が出来ず、お祓いか何かを頼みに来たのだろうくらいにしか考えてなかったので、そのまま自分の作業を続けていた。もし彼らが刑事でしかも殺人事件の捜査で来たことをかすみが知ったら、間違いなく好奇心から玲にくっ付いていったであろう。後日この時の事を玲から聞かされたとき、「なんで、私に教えてくれなかったのよ」と大暴れしたのであった。
さて、刑事から事件当日のアリバイを聞かれた玲であるが、当然その時間は熟睡中。従ってアリバイはないですと答えた。まあ、刑事たちもその返答は当然予想していたので、被害者の青田何某との面識はあるかと尋ねる。しかし、玲もかすみも、そもそもこの街に来て日が浅く、どこに何があるかとか、誰が住んでいるとかの知識がほぼなく、しかも年配者との接点はないため、それらの点を踏まえて知りませんと答えた。まあ、刑事たちもこの辺も想定済み。むしろ刑事の直感でこの人物が白か黒かを判断しに来た、と言うのがこの訪問の目的か。そしてこれ以上玲に聞くだけのネタをまだ持ってないため深くは追及せずに帰ろうとした時、玲から訳の分からない提案がされた。
「刑事さん、被害者に聞いてみてはどうですか?」
「・・・」
「・・・」
彼らは内心「何言ってんだ、このガキ。殺されたガイシャに聞けるわけねーだろ。頭悪いなー」であろう。だが、玲ことカーンフェルトが住んでいたケンタリアでは、殺人事件では直ちに被害者に対する降霊召喚を行い、犯人を突き止めることが頻繁に行われていたので、そのノリで尋ねたに過ぎなかった。だが、あっそうか、地球ではそんなことできないんだな、と思い直したのである。
「あー、そうか、えーとですね、
僕は霊体を霊界から呼び寄せて
話すことが出来るんです。
それで、ついそう言ってしまいまして、ははは」
いや、そこ笑うところか?とお互いに顔を見合って思う二人の刑事である。しかも、ガイシャの霊を呼び寄せてホシを挙げるなど聞いたことないし、そんな捜査は前代未聞であると思うのであり、上司にどう説明したらいいのかと悩む案件でもある。とりあえず、玲に対する事情聴取は終わったので、二人の刑事は玲に挨拶をしてその場を去った。
それから1カ月程したある日の午後、美土路神社の社務所に県警捜査一課の立花から電話が掛かって来た。たまたまその場には玲だけが居たのでその電話に出ることにした。
[もしもし、こちらは美土路神社の社務所です。
どのようなご要件でしょうか?]
[もしもし、私県警捜査一課の立花と申します。
以前そちらの最神玲さんにお話を伺いに訪れましたが…]
[ああ、僕です。どうしたんですか、刑事さん。
まさか、警察署への呼び出しですか?]
[いいえ、違います。実は先日お会いした時に、
最神さん霊体を呼び出して話せるとか
仰ってませんでしたか?]
うん、確かにそんな事言ったな、と思い出す玲である。そして、立花からの要件と言うのは、現場で降霊術か何かで被害者の霊を呼び出せないかと言う申し出であった。実は警察の方では犯人の足取りを全く掴められず、しかも被害者近辺にそれらしい人物が見当たらないため、捜査に行き詰まっていた。そこで、立花としては、泥水をすすってでも何かしら手掛かりがつかめるのであれば、と藁をも掴む思いで玲に電話したのだ。そこで玲としては承諾したいところであるが、やるからにはビジネスとして請け負うべきと考え直して、立花に降霊術は有償であり、1回につき5万円だが大丈夫かと尋ねた。すると、受話器の向こうではしばしの沈黙が起きた。玲はてっきり警察相手に金儲けとかしていけなかったのか?という謎の懸念に動揺していたのだが、一方の受話器の向こうの立花は「自腹覚悟で頼んだが、えっ、こんなに安いの。てっきり数十万とかふっかけられると覚悟していたんだけど」という謎の安堵感で思考が一時停止したことから来る沈黙であった。沈黙に耐えられなくなった玲が「あのー」と声を掛けた時、
「あー、すいません、最神さん。
ええ、有償での降霊術の件は問題ありません。
それと、この件は私個人からの
お願いになりますので、
どうぞ署の方には内密でお願いします」
と告げられた。後は現場に向かう時期を調整した結果、今日の午後8時に現場で待ち合わせとなった。一応、現場の場所は確認しており、神社から1km程の距離のため、行くこと自体問題なさそうと玲は判断した。後はかすみであるが、以外と面倒毎に突っ込みたくなる性格のため、今回は部屋から転移で出掛けることにした。
さて、午後8時に現場近くの雑木林の中に転移した玲である。そこから現場までは50m程離れているが、玄関前には規制線を示す黄色いテープが張られたままなので、被害者宅は直ぐに分かった。そして現場に近づくと後方から声がかけられたのでビックリして振り向くと、そこには立花が電柱の近くの暗闇の中で佇んでいた。
「最神さん、夜分にお呼び立てして申し訳ない。
では、私が案内しますので、付いてきてください」
と言ってそのまま玄関から室内に入って行った。玲も後からついて行き、血の跡がまだ畳に残ったままの現場となった部屋に案内してもらった。
「ここが殺害された部屋です。そして、…」
と言って玲に手渡したのが、被害者が愛用していた腕時計。しかもスイス製で時計単体でも百万は下らない代物である。意外と殺された人は金を持っていたか貯め込んでいたんだな、と感心する玲である。
「では、これから始めますが、
立花さんはこの眼鏡をかけてください」
と言って、何時もの霊視グラスを立花に渡した。
「この眼鏡を通して霊体が確認できます。
そしてその霊体が被害者であれば、
立花さんが彼とお話ししてください」
と言い置いて、玲は降霊召喚を始める。やがて、「召喚」と呟くと、召喚門から1体の霊体が姿を現した。この光景を眼鏡を通してみていた立花は、その場で腰を抜かしてしまった。そして玲に「立花さん、お話ししてください」と声を掛けられたとこでやっと我に返り、急ぎ立ち上がってその霊体に近づいた。そして、
「あなたは、青田さんですか?」
「・・・は、い」
立花はまさか自分が霊体と、しかも殺人事件の被害者と会話するとは夢にも思わず、まさかあの青年に騙されているのかと半信半疑になったりした。だが、青田との会話を続けるうちに、彼の口から事件当日の状態が明らかにされるれにつれ、玲への疑いは綺麗さっぱり無くなった。
「・・・お、れ、は、や、ま、の、に、
こ、ろ、さ、れ、た」
ヤマノ?そのような名前は捜査線上には上ってきてないぞ、もしこれが事実なら、我々の捜査は完全に間違った方向に進んでいるぞ、と驚愕する立花である。そこで、そのヤマノなる人物がどこのだれかを尋ねたのである。すると、
「・・・む、か、し、の、あ、き、す、な、か、ま」
これ以上のことを聞いても青田の記憶が既に薄れているようで、何の手がかりも得られないため、召喚はここで終わりにした。そして事件が思わぬ方向に進むことを直感した立花は、興奮した様子で玲にお礼を言って、そのまま飛び出していった。まあ、何かしら役に立ったのかな、と腕組みしながら何時もの飄々とした様子で佇む玲である。さて、一人取り残された玲であるが、自分もちょっと捜査の真似事をしてみたくなって、その場に白猫のにくたまを召喚した。ちなみににくたまは、ほぼ毎夜召喚されて神社内をパトロールしていたのであるが、今回は事件捜査で招集された。
「にくたま、この部屋の持ち主以外の臭いを
嗅ぎ取って欲しいんだけど」
と伝えて、まずは部屋の隅にあった箪笥から青田何某が来ていた衣服を1着取り出し、それをにくたまに嗅いでもらう。そして、これ以外の臭いが残っていればそれを教えて、と言うことを伝えた。すると
「新しい臭いがご主人様ともう一人分ありますね」
あー、それは先程の立花刑事のだな、と思い至り、それは除外してと伝えた。そして、
「かすかですが、臭いが残っていまして、
玄関まで続いております」
と言って玄関に向かうのであった。
「じゃあ、にくたま、
その匂いの持ち主を探してもらえるかい」
了解です、と言ってにくたまは玄関を出るや、夜の闇の中に溶け込んでいった。そして玲であるが、その後すぐに自室に転移した。
夜の11時を回った頃、玲の部屋の窓の下を叩く音がした。白猫のにくたまである。玲が窓を開けて中に入れると、早速にくたまから
「ご主人様、臭いの元は隣の堺町の
アパートまで続いておりました。
如何いたしましょうか?」
との報告を得た。ただ、こちらも捜査に深入りする気はないものの、アパートの場所位は確認してもいいかな、と考えて、夜中なので、アパート前の道路の街灯が当たらない暗がりの中に転移先を設定して転移した。にくたまの案内でやって来たのは、どことなく玲の以前の下宿を思い出させる佇まいのアパートであ。そこの1階の101号室が犯人の住処だという。表札には何も名前が表示されていないが、電気メーターは回転しているので、誰かが居ることは確かだろう。アパートの横手に回って、転移門を「サーチ」にして内部を確認することにした。すると、部屋の中には若い男女が寝ている姿が確認できた。そして男の方はどことなく玲に似た雰囲気を醸し出しているので、多分こいつが犯人だろうと考えた。念のため、一旦転移して部屋の中に入り、その顔をスマホで撮影して、直接転移で神社に戻ることにした。
さて、降霊召喚で立花が霊体の青田から情報を聞き出した夜から1週間程した平日の昼間に、社務所に電話が掛かって来た。今回はかすみが傍に居たのでその電話を取ったのだが
[もしもし、こちらは美土路神社の社務所です。
どのようなご要件でしょうか?]
[もしもし、私、県警捜査一課の立花と申します。
失礼ですが最神玲さんはお見えでしょうか?]
[はい、少々お待ちください]
おやおや、玲君、何かトラブったのか、とニヤニヤしながら玲を呼んで受話器を渡すかすみである。勿論、しっかりと玲にくっ付いて聞き耳を立てることは忘れない。そんなかすみの態度に不穏な空気を感じつつ玲は受話器を受け取る
[はい、最神です。あー、刑事さんですか。
…はい、成程、それは良かったですね。
…はい、えーと、支払いは後日で結構です。ではまた]
と言って受話器を置いた。結局犯人はヤマノ何某(28歳)の犯行であり、動機は空き巣グループの纏め役の青田何某に分け前の増分を交渉に行ったのだが門前払いを食らってしまい、そこでカッとなって犯行に及んだという。ちなみに、青田の自宅からは、かなりの盗品が見つかったということで、警察は空き巣グループの全容解明も急いでいるとのことだった。以上の報告と支払いに関する確認を立花は電話で知らせたのであった。すると、かすみはすかさず
「玲、一体なんなん。あんたやばいことしたんかと
思って内心冷や冷やしたけど、
何を感謝されてるんや。
こら、ちゃんと話さんかい!」
と言って玲に詰め寄るのである。結局、かすみには殺人事件の容疑者になったことや、その後被害者を召喚して加害者を特定し、別件での逮捕歴のあるヤマノ何某に辿り着き、自供を得たということを説明した。すると、案の定
「な、ん、で、わ、た、し、に、
そ、う、だ、ん、し、な、い、の、か、なー!」
と言って玲の両頬を抓るのである。更に、「そんな、美味しい話をあんただけ一人占めは絶対に許さへん」などと吠え出して暴れ出した。それもこれも、玲の自業自得であろう。まあ、事件の方は無事解決したようで、自分への嫌疑も晴れたので、良しとしたいところだが、かすみだけは…誰か助けて!と叫ぶ玲であった。




