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召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?  作者: 島ノ松月
異世界サモナルド編第一部

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サモナルド編1-5 ラーゲルの思い

ラーゲルの思い


  「くっそー、何でいつもこうなんだ!」


執務室の机の上に置かれた一枚の書類を目にした途端、それを丸めてゴミ箱に捨てた怒り心頭の男。その書類には、[サリベリーナ・ツェルペスを第一部への転属を命じる 召喚技術研究所長 クライフェルト・トーラス]と書かれた辞令。ここは、召喚技術研究所第5部の上席研究員の執務室。彼はこの執務室の主であり、サリの直属の上司である上席研究員のラーゲル・セディスト。


  「どこまであいつは、俺からサリを奪うんだ!」


怒りで言葉がおかしくなっているものの、普段は沈着冷静な男。仕事をそつなくこなし、上司からの覚えも良く、若干20歳で第5部の上席研究員に昇進したエリート。そんな彼の唯一の欠点が、幼馴染のサリベリーナの存在。なぜ彼がここまで彼女に固執するのか?また何に対して怒りをぶちまけているのか?後者に関しては、その原因は第一部の主であるカーンに対してである。そして、前者に関しては、彼の生い立ちとも深く関係する。


 ラーゲルの生家であるセディスト家は、ケンタリアの政治の中枢を担う名門であり、その歴史はケンタリアがまだ旧市街地域のみで構成されていた頃にまで遡る。ケンタリアはジンギスタなどの君主国とは異なる独特な政治体制を持つ国であり、この世界で数少ない共和制を敷いている。君主に当たる執政官は在位期間は終身だが、その身分はケンタリア議会に委ねられている。つまり、議会から不適格との烙印が押されると、執政官は直ちにその身分がはく奪される。逆に執政官が議会を解散させることは出来ないものの、軍の統制権を持つなどかなりの力を有している。そんなケンタリアの政治機構を構成する元老院議員の一人が、セディスト家の当主でありラーゲルの父であるフランメル・セディストである。ではなぜ、このような有力な議員の一子息がサリに固執するのか?それは、サリの実家であるツェルペス家も同様の民選議会議員であり、議員としては同期と言うことで、セディスト家とは家族ぐるみの付き合いをするくらい親密な間柄のためである。このような関係故に、何時しか両家の間に生まれてくる子には一緒になって欲しいなどと親の勝手な願いがそのまま両家の約束事のように絡みついてしまった。当然、セディスト家の長男であるラーゲルも幼少の頃から親の意向を何となくでも分かっていたようで、ツェルペス家にお邪魔する時もサリベリーナに対し丁寧な接し方を心得たりしていた。勿論、何もわからないサリも、相手の好意を好ましく思うところがあり、何時しかこの人のお嫁さんになるのかな、などと考えた時期もあったようである。ただそれも、サリが5歳の時の生死を彷徨う病に患うまでの話。


 サリが危篤状態だとの一報は、当然セディスト家にももたらされ、当主以下頻繁にお見舞いに行くほどになっていた。何とかサリの病が峠を越えて落ち着いたころ、ラーゲルもサリのお見舞いに同行したものの、病床のサリを見てひどく怯えてしまったことを、彼は今でも後悔している。余りに痩せこけて別人と化したサリ。ついこの間まで一緒に遊んでいた可憐な美少女の面影は今は一切なく、そこにはやっと生還したが生気が抜けて魂があるのかと疑うほどにげっそりやせ細った少女がいたことに、彼は恐れとも怯えともいえぬ感情を持ったのであった。


 ほどなくして、サリもいつものサリに戻ったかのように見えたが、ラーゲルから見たサリは、以前のサリとは別人に見えてしまっていた。以前のサリは、おとなしく優しい女の子であったのが、今目の前にいるサリは、明るく活発な、以前とは全く異なる性格の少女になっていた。病によって心境に何かしら変化があったのか、とは幼いラーゲルには分からないことではあるが、もしかしたら、サリに見た恐れとか怯えに対する負のイメージが自分の中によくない方向に作用したためか、と思ったりしている。そんな自分の心境から来る負い目みたいなもののために、何時しかラーゲルは、サリの家に足を向ける機会を少しずつ減らしていったのである。


 その後ラーゲルは、召喚術師養成学院に入学する。実は彼は、サリと同じ降霊召喚が出来る召喚術師。ただし、サリとは異なり、先天的にその能力を持って生まれた殆ど例を見ない稀有な存在であった。そんな希少性と上流階級者の持つカリスマ性から、必然的に彼の周りには同種の生徒が集まるようになっていた。しかもラーゲルは、同じ年の子供とは比較にならない位に、降霊召喚術に長けていたのである。ただし、そんなラーゲルにも一つだけ弱みがある。それがサリの存在。サリが困っているのを見かけると、すかさず近づいて当然の如く彼女を助けるのである。そのためか、彼の取り巻き連中も、皆サリには一目置くようになっていった。そんな養成学院での生活がしばらく続いたある年、イレギュラーな生徒が転入してきた。極平凡な普通の男。何のとりえもなさそうだが、凡そ数十万分の一以下の確率で契約・創成召喚術師としての能力が開花したのが最近だという。そして、その召喚能力がずば抜けているということは、既に全校に知れ渡っていた。こうなると面白くないのが、ラーゲルを囲む連中であった。何かしら因縁をつけてはその転入生カーンフェルトを甚振(いたぶ)ったり虐めたりしていたのだが、カーンは決して逆らったり反撃したりはせず、何時も耐えるだけであった。そして、そういう時に何時もカーンを庇うのが彼らのマドンナ的存在であったサリである。流石の取り巻き連中もサリが前面に出てくると、それに従うを得ない。そうなると、彼らはストレスを抱えてしまい、更にカーンの虐めに発展していく。最終的には、サリがラーゲルに話を付けて、以後カーンに拘るな、と宣告されたのである。こうなると、ラーゲルとしては堪ったものではない。自分の許嫁であるサリにそのような仕打ちをされることは彼のプライドが許さなかった。だが、その怒りは決してサリに向くことは無く、全てはサリに庇い立てされるカーンに向かうのであった。そして、ラーゲルのカーンに対する憎しみの極めつけは、優等生かつエリートであった自分よりも先に、カーンが飛び級で卒業し、そのまま召喚技術研究所の第一部に配属されるに至ったことで、遂にピークを迎えたのである。つまり、ラーゲルにとってカーンは、自分とサリとの間に割り込んだ邪魔者というだけでなく、自分の優等生というプライドまで踏みにじったと感じた憎き敵なのであった。



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