地球転生編 2-45 美少女降霊術師の心霊事件簿2: 心霊サークル夏合宿編 (2日目)
美少女降霊術師の心霊事件簿2: 心霊サークル夏合宿編 (2日目)
心霊サークル夏合宿2日目。流石にキャンプ場の標高が高いせいか、梅雨明けして夏到来の7月中旬のこの時期でも、朝はひんやりとして心地いい。かすみは普段から早起きすることに慣れてきたため、寝ている後輩たちを起こさないようにコテージの外に出で、この爽やかな朝のひと時を満喫していた。そして男子組が泊まるコテージを見ると、コテージ外のテラスにあるデッキチェアに部長の関と同じ4年生の玉石大吾がタバコを吸って寛いでいた。かすみはそんな二人に近づきながら
「全く、君たちは、この朝の清々しい空気を吸わず、
何でそんな害にしかならない物を吸うんだ!」
と一言ぼやくのであった。
「あっ、先輩、おはようございます。
先輩もどうですか?」
とタバコを差し出されたが、「あほか、いらんわ」と即拒絶するかすみである。それよりも、今日のスケジュール確認である。
「ところで、今日はどこを回る予定なの?」
ということで、今日は廃屋に向かうチームとラブホテルに向かうチームに分かれての行動となり、かすみにはラブホテル組と行動を共にして欲しいと要請された。本当は玲も参加させてもう一つのチームに付き添ってもらうべきだったが、神社の仕事があるのでこれは仕方ない。と言うことで、かすみは了解となった。ちなみに、ラブホテル組はここで一服している玉石がリーダーとなっている。
それから、みんな軽い朝食を済ませ、昼食用のおにぎりとお茶を用意し、午前9時になったので各チームはそれぞれの行先別の車に分乗して目的地に向けて出発した。ところで、廃屋に向かうチームを率いるのは部長の関であるが、玲やかすみを伴わないため、どうしても霊体を見つけるのに不利な状況になる。まあ、肝試しに有利とか不利はないのだが、それでも撮れ高を期待する彼らとしては切実な問題である。そこで玲は事前にある物を用意しておくといいよと関にアドバイスした。それはサーモカメラである。玲とかすみが召喚する霊視グラスも実はサーモカメラと原理的には似ているということで、霊体の有無を確認するだけならサーモカメラは意外と使えるのだ。しかもスマホに接続して使用するタイプとかがネットで買えたりするので、今回関のチームでは、サーモカメラを用意して撮影に臨むのであった。
コテージから車で1時間程の距離の所に今回訪れる廃墟と化したラブホテルがある。そこのラブホテルは、交通量の多い国道沿いに建てられており、それなりに需要が見込めると思われたのだろう。しかし、近くに高速道路が開通したことで移動の形態が変化してしまい、結果として経営に行き詰まり20年程前に廃業となったのであった。そのような情報をリーダーの玉石が現地に到着して説明していたのだが、実はそれだけが原因ではなく、どうやらこのラブホテルでは男女の無理心中もあって、それで評判が落ちたのではないかと言うネットの情報も併せて披露した。現地に到着して玉石からの説明を聞いている間に、かすみは既に何カ所かで霊体を確認していた。「うん、ここは結構いるな」と呟くのだが、このかすみの呟きに耳聡く反応したのが同行している西脇まど香であった。
「先輩、そんなにいるんですか?」
「あー、聞こえちゃった。ゴメン。
脅かすつもりはなかったんだけどね」
と謝りつつ、あそことあそこの割れた窓ガラスの所に2体ずつこっちを見ていると教えた。そのかすみの言葉は全員に伝わり、全員に期待と不安と恐怖を要り交ぜた表情にさせた。そして、玉石は関から教えてもらったサーモカメラを用意して早速その窓の所にカメラを向けた。ただ残念ながら、室内の気温の低さからか、サーモカメラで霊体を捉えることは出来なかった。
それから、かすみを先頭にラブホテルに入って行った心霊サークルであった。所々で割れたガラスが散乱していたり、廃墟に付きものの壁の落書きがあったりする。後はラブホテルならではの設備として、円形のベッドが一部の部屋にセットされていたりすると、何やら昭和の映画やドラマに出てくる場面を思い浮かべる者もいたりして、これだけでもなかなか楽しませてくれるのである。ただし、ここは映画スタジオでもなく昭和のテーマパークでもない、正真正銘の心霊スポットであるのだが。そして、そう言った場所でかすみが指さすところにカメラを向けると、何かしらの影が写ったり、あるいはサーモカメラでも明らかに低温部分が確認できるなど、考えられない状況を目の当たりにすると、探索している部員一同、何やらテンションが高くなってきたのであった。
「物部先輩、ここに居る霊は何か悪さするとか、
僕たちに取り憑くとかはしないでしょうか?」
と聞いてきたのは、新1年生の江藤大樹。少し大人しい感じの、何となく玲を思わせるような雰囲気の青年である。
「うーん、大半は浮遊霊で、
単にこちらを見ているだけだね。
ただ、中にはこちらに取り憑く霊体も
あるかもしれないので、
注意しておくに越したことは無いよ」
と無難な回答をしておいた。何にしても用心するに越したことはないから、とは玲が何時も言っている言葉である。そんなことを話しながら先に進んで3階の廊下を探索していると、突然かすみの後ろから、「あれ、星野さんが居ない!」という声が耳に届いた。振り返ると、1年生の江藤が皆に向かって叫んでいた。どうやら、同行していた1年生の星野環奈が途中から見えなくなったという。どこかに迷い込んだか、車に戻ったか分からないため、とりあえず手分けして探すことにした。すると2階を探索していたチームから、「ここに倒れてます」という声が聞こえた。そこでかすみは急ぎ声のする部屋に向かったのだが、
「え、何あれ!」
とかすみが驚いて指をさす先にあったのは若い女性の霊体。だが何時もの霊体とは違い、かなり実態がはっきりして顔形が分かる霊体である。こういう霊体はかなりの霊力を持つから気を付けないと、と以前玲から聞いていたことを思い出すかすみであるが、こんなに強い霊力を持つ霊体を見逃すとは、なんて抜けているのだろうと悔しさを滲ませるのであった。そしてかすみの緊張は、その場の全員に伝わったのか、緊張を通り越して恐慌を来す寸前になっていた。彼らの眼にも薄っすらとだが何かが居ることが確認できたからである。かすみは一旦心を落ち着けて冷静になり、先ずは降霊召喚門を設置した。すると、
「たすけて」
と環奈が声を出したのである。「大丈夫、今助けるからね」とかすみは声を掛けて環奈を安心させようとするが、本人は何かに縛り付けられているようで身動きが取れない。そんな不安から助けを求めたのだが、かすみはそれよりも環奈を縛り付けている霊体を何とかしようと思案していた。
「あなた、名前はなんていうの?」
「あいり」
「え、今幽霊が喋ったの?」と驚く心霊サークルの部員たち。そんなことに構う余裕のないかすみは続けて、
「どうして環奈に取り憑いてるの?」
「つれてってほしい」
どこに連れて行って欲しいということか?と更に思案するかすみである。
「どこに連れてって欲しいの?」
「いえ」
「あなたの家はどこにあるの」
「案内する」
と言うので、かすみは直ぐに環奈を抱き起して、環奈に肩を貸した状態で一緒に歩いて外に出た。その間、あいりは環奈から離れようとしないのであったが。
「玉石君、車出してもらえる?
それと皆はどうするの?」
とかすみに問われても、どうすべきか分からず戸惑う部員たち。そこでかすみは、
「どうせここに残っても、
もう大した収穫はなさそうだから、
次に行く予定を変更して、この霊体を家に連れて行く
ミッションに変更でどうかな?」
かすみの提案に反対する者は誰もおらず、むしろ思わぬハプニングでもしかしたら何かしら撮れ高が期待できるかも、という皮算用をする者もいたりして、結局全員であいりの家に行くことにした。かすみは先導者ということで、玉石が運転する車に同乗して先頭を行くことになった。そして後部座席にかすみと環奈を乗せた車はかすみの指示に従って進み始めたのだが、環奈は霊体に憑依されたことによる精神的な苦痛と疲労から意識を失うように眠りに落ちていた。ちなみに、あいり程の霊力を持つ霊体であれば、召喚門を通じた会話をする必要はなく、かすみは直接あいりから目的の場所を聞き出すことが出来た。
これからかすみ達が向かう所は、宿泊するキャンプ場からは更に遠ざかる方向に車で1時間半の一般道を走った先にある△△市内にある。そしてあいりの家は、市の北部の住宅街の中にあり、2階建てのごく普通の一軒家である。かすみが車から降りてその家を確認しに行くと、表札には[伊達]と出ていた。だが留守なのかインターホンを押しても返事はない。念のためかすみは、車に戻ってあいりに「ここで間違いないか」と尋ねると、「ここ」と言う返事が返って来た。そしてもう一度戻ってインターホンを押すも何も応答はない。ところで、9人の若い男女が車から出て来て屯しているのが目についたのか、近所に住む年配の女性が表に出て来て胡散臭い目で彼らを見ていた。そこで、玉石がその女性に近づいてこの家の方に用事があって来ているのだが留守なんでしょうか、と尋ねた。すると
「え、伊達さん所かい?
もう5年位前に家族の方は亡くなって、
今は空き家になってるよ」
と驚くべき事実が明かされた。そこで、かすみはその女性に近づいて「ここにあいりさんと言う女性が住んでいましたか」と尋ねた。すると、
「あー、あいりちゃんね、えー居ましたよ。
ただ、あいりちゃんが行方不明になって、
それでここの御主人と奥さんが方々探してたんよ。
そんな時に交通事故に遭って、
二人共亡くなったんだよ」
という痛ましい事実が明かされた。そうか、あいりは家に帰りたかったんだ。でも今は誰も住んでいないという、何とも悲しい現実がそこにはあった。とりあえず、その女性にお礼を言って、かすみは車に戻ってあいりにこの事実を伝えた。すると
「お父さん、お母さん、ごめんね。私ね…」
と言ってかすみに語ったのは、あいりは好きな男が出来てその男と駆け落ちしたという事実である。ところが、その男には妻子がおり、しかも別れる心算がないことがわかったため、最後は男を殺して、自分も自殺したのだという。それが、先程の廃ラブホテルで起きた事件である。そして、何時しか家に帰って両親に謝りたいという執念がそのままこの世に霊体として残ってしまい、今に至るということであった。
事情を聞いたかすみは、あいりに二つの選択肢を示した。一つはこの家に霊体として移り住むこと、もう一つは霊界に行って両親に謝罪する事。当然あいりとしては、両親へ謝罪したいという思いが執念として残っていたので、霊界に行くことを選択した。そこで、車の中で降霊召喚門を設置し、お見送りにして「召喚」と呟いた。するとあいりは抵抗することもなく召喚門に消えて行ったのである。これで除霊完了。車の外からかすみを見守っていた部員達に状況を説明し、今無事に除霊が終わったことを告げた。すると彼らも何やら緊張の糸が切れたのか、あるいは漸く安堵したのか、ホッとした表情をするのであった。除霊後暫くすると環奈も目を覚ましたが、かすみから「霊体はいなくなったよ」と告げられると、恐怖から解放されたことへの安心からなのか、かすみに抱きついて突然泣き出してしまった。かすみは環奈の頭を優しく撫でながら落ち着かせて、環奈に事の真意を語って聞かせた。それから、一度車から出て、様子を見守っていた部員達にもあいりから聞いた話を伝えて、この件は無事解決したと宣言した。こうして、思いがけない霊体験をした心霊サークルの部員たちは、興奮冷めやらない中を来た道を戻って宿泊先のコテージに帰って行った。




