地球転生編 2-35 物部かすみ、遂に転移術を覚えるか?
物部かすみ、遂に転移術を覚えるか?
ワールド・クローズの若林成政との会食を控えた土曜日の前週の土曜日、物部かすみは何やら深刻そうな表情で玲の部屋に来ていた。実はかすみは、降霊召喚術が使えるだけでなく、カーンフェルトのいたケンタリアでさえ誰一人として成しえていない降霊召喚術と契約・創成召喚術を習得していたのである。そして更なる高みを目指すためには、やはり最神玲ことカーンが最近多用している転移術、あれを自分もやりたいと思うに至ったのである。そして、これらが全て出来た時に初めて、彼女の理想とする美少女召喚術師が完成するのであった。そんな野望を抱きつつ、ではどうやって転移術を習うのか、いや、そもそも自分の力量で可能なのかが分からないため、玲に相談しに来たのであった。
「ねえ、玲、ちょっと相談があるんだけど」
と何やら深刻な表情のかすみを見て、玲は自室の椅子に座ったままで姿勢を正すのであった。
「ん、どうしたのかすみ。何か深刻そうだけど。
僕でよければ話を聞くよ」
と言った途端、かすみは跪いて玲の両膝に自分の両手を置いて頭を下げながら転移術を教えて欲しいと懇願するのであった。これに対し玲は
「うーん、そうだね。
今のかすみの召喚エネルギーなら大丈夫かな」
あれ、速攻でダメ出しされると踏んでいたんだけど、なんか拍子抜け?と言う表情で玲を見上げるかすみである。
「ん?かすみ、何か気になることでも?」
いいえ、いいえ、とにこやかに手を振って答えるかすみである。そっか、自分も出来るんだと、期待に胸を膨らませるのであった。
「じゃあ、今からやってみるかい?」
と言われて、先ずは術式の設定の仕方から教えてもらう。転移術も降霊や創成召喚術と同様、アニュラス型かベンダグラム型の召喚門を必要とする。この場合どちらでも問題ないかすみであるが、後は地面に設置するか空間中に設置するかの違いも出てくる。大量の物資の転移とか多人数の転移であれば、必然的に地面に設置した方が効率が良いのであるが、それ以外はどちらでも問題ないとのこと。そこで空間中にアニュラス型を設置することにした。それから
「降霊術式の代わりに転移の術式を記述すること。
まあ、これはそんなに難しくはないけど」
と言って、教えてもらった転移術式を記述するかすみである。ここまではOK。次に
「それから、転移先の座標を召喚門の真ん中に
記述するんだけど、座標はこの召喚門からどの方向に
どれくらい離れているかで設定するんだ。
例えば、かすみの部屋であれば、北に7m程かな」
と言ってその術式を書き込んで、普通はその後に「召喚」とするのだが、転移の場合は召喚ではなく次の2つの術式が使われる。一つは転移先の状況を調べるための術式である「サーチ」と、もう一つは実際に転移門を「設置」してからの「転移」である。これらの違いが通常の召喚術とは異なる。それと、転移の場合の召喚エネルギーは、主に転移先と転移元の転移門の設置で消費され、転移自体の召喚エネルギーの消費はない。また、「サーチ」モードは転移先に転移門を設置する前なので、転移元の転移門の設置で消費する召喚エネルギー以外の消費はない。ところが「サーチ」から「設置」に変更すると転移先に召喚門を設置するため、召喚エネルギーは消費される。しかも、遠距離になればなるほど召喚エネルギーの消費量が増えるため、現在の玲が超遠距離転移をする場合、ギリギリ最接近時の金星まで行くか行かないか、と言うことになる。一方のかすみの場合は、今の状態だと数十キロ程度は大丈夫だろうと伝えたのである。そんな感じでかすみは、先ず自分の部屋へのサーチを行い、確かに自分の部屋であることを確認してから、術式を設置から転移に変更して転移した。すると、玲の部屋に居たかすみは転移門を潜った途端瞬時に消えて無事自分の部屋に転移したのであった。その時の喜びの叫びが、玲の部屋まで届いたことは言うまでもないのであるが。そして再び玲の部屋に来て
「ねえ、玲、転移出来たんだけど。何か凄くない?
もしかして、私って地球人で
唯一転移できる人じゃない?」
イヤー、スゴイネ、と淡々と返事する玲である。そんなに騒がなくてもね、と思うのだが。そして、また自分の部屋に転移して玲の部屋に戻ってきて
「ねえ、玲、転移術ってこれだけなの?」
何という不謹慎な発言をするんだかすみは、と怒鳴りたくなる玲であるが、そこは抑えて、
「そんなわけないよ。例えば、...」
と言って次のようなことを説明した。転移では転移先を複数設置することが可能だが、ただし自分が複数の転移先に転移できる訳ではないこと。この使い道は、例えば演説とかで自分はここに設置した転移門に立って演説したとすると、その姿と声が転移先の門から現れて、如何にもそこで演説しているように見せられたりする。また同じ理屈で複数個所に同時に荷物を転移させるとかも可能だが、この場合は転移門の数だけ品物を用意する必要があり、それで一気に品物を送れたりするということ。
「まあ、基本的にはそんな使い方みたいだね。
もっと詳しい話を聞きたければ、
タチアナさんに聞くのが一番だよ。
何といっても彼女は、僕の居たサモナルドにおける
転移のスペシャリストだからね」
と長々と説明したのだが、果たしてかすみの頭にどれだけ残っていることやら。
その後、ことある毎に、玲の部屋に態々転移してくるかすみの姿を頻繁に見かけるのであった。こうも勝手に転移されると、僕のプライバシーはどこに行った、と叫ぶ玲が気の毒になるのである。




