地球激動編 1-173 タチアナの2度目の帰還 (中編)
タチアナの2度目の帰還 (中編)
タチアナ・エグリスコバがロムリアに帰還する日の朝、全員が何時もの時間に起きてきて、何時ものように朝風呂ならぬ朝露天風呂を満喫し、その後は最神玲と物部かすみと神室霊華が用意した朝食を堪能した。6人で食卓を囲むこの光景は、今日が最後である。やがて食後のコーヒーを味わっている時、かすみは1人離れに戻った。そして暫くしてから2つの物を手にして戻って来た。
「タチアナさん、これがうちを
召喚してもらう時に必要な血液です。
そしてこっちは...」
と言って手渡したのは、自分の血液を入れた小瓶とA4サイズの厚さ1センチ程の本である。ただし、何か文字が書かれているような本ではなく、所謂フォトブックである。当然、中身はと言うと
「今まで撮り貯めて来た写真を厳選して作った
フォトブックなんです。ホンマやったら、
もっと洒落た物にしたかってんけど...」
自分の実力では人様に渡せるものがまだ作れないと肩を落として嘆くが、そんな不器用な自分でも思い出に残るものだと結局これしかないかな、と思って作ったものである。
「玲に聞いたけど、ロムリアでは
紙の印刷物がないということらしいから、
かなりレトロ感があるかもしれへんけど、
良かったら受け取ってもらえますか?」
とかなり照れながらかすみはタチアナに自分の思いを伝えた。タチアナは手にしたフォトブックを1ページずつ開いてじっくりと眺め出した。そこには出会った頃に3人で撮った写真から始まり、玲の自動追尾型召喚門の犠牲になって走り回った時の疲れ果てた自分の姿や、パリに2人を招待した時の記念写真、そしてつい昨日の宇宙旅行でグレイのコスプレ姿で全員で撮った記念写真まで、玲とかすみと過ごした数年間の思い出がそこに凝縮されていた。そしてタチアナは、目に涙を溜めながらフォトブックを閉じて、
「カスミさん、こんな素敵な物を
もらって良いのかしら?
......本当、私って幸せ者なんかなー!」
と涙声になりながらも最後は笑顔になってそう感想を伝えた。かすみは果たしてこんなプレゼントを気に入ってもらえるかどうか不安で仕方なかったのだが、タチアナが心の底から喜んでくれたことを目にすると自分も感無量になって自然と目から涙が出て来た。そしてエンペラールがタチアナの背中を摩りながら
「セラちゃん、こんないい人達と巡り合えて、
本当に幸せな事だよね~。
この出会いは大事にしなくちゃね~」
と励ましの言葉をかけた。そんなエンペラールに対しかすみが
「あっ、エンペラールさんの分も作ってますから、
もしよかったら楽しみにして頂けると
有難いですが...」
と遠慮がちにそう伝えると、エンペラールも
「え~、私の分もあるの~?
わ~、今から楽しみにしておこうと!」
と満面に笑みを湛えてかすみに感謝の言葉を伝えた。
「ところでカスミさんとは、これでお別れなのね?」
「はい、ホンマはうちも一緒に
お見送りに行きたかってんけど...」
と何やら元気なくそう呟くのだが、その理由は毎年恒例の高校時代のあのメンバーが集まっての同窓会が、今日大阪で開催されるからである。流石に日程をずらしてもらうことは出来ず、かすみはタチアナとの別れの寂しさを心に抱えながら大阪に向かったのだった。
かすみが抜けたM&Mの別荘は、何やら静かな雰囲気に包まれている。尤もお通夜のように皆が沈鬱な表情を漂わせている訳ではなく、そこかしこで談笑したりしている。どちらかと言うと、上品な雰囲気が漂っているというべきだろうか。そんな雰囲気の中、タチアナが玲に対し、動物言語を理解する術式があるというのは本当か、と言うことを尋ねた。どうやらかすみがタチアナにデザインに関する相談をしていた時に、かすみからここの別荘は熊に襲わることが絶対ないことを教えられ、その理由が玲の召喚した熊もどきが地元の熊達と話をつけたからだ、と言うことを聞いたからである。すると玲は、「全く、熊もどきって...」とこの場に居ないかすみに対し毒づきながら、
「まぁー、そうですね。それは本当ですよ。
召喚した動物のどこを修正すれば
その動物の言語が分かるか、
と言うのが分かったんですよ」
とあっけらかんと答えた。これには、新しい召喚術に目がないエンペラールは早速玲のその話に食いついてきて、
「ちょっと、ちょっと、レイさん。
私にまだ内緒な術式があったんですね!」
と口を尖らせながらそう訴えて来た。玲は頭を搔きながら謝罪するも、余り大した内容ではないためスルーしていたと認めた。するとヴェレニエラが何やら興味を持ったようで
「すいません、その話って、
冗談とかではなく、本当の事なんですよね?」
もし本当なら是非何をしゃべっていたのか聞いてみたいです、とニコニコしながら玲に訴えた。ただ残念ながら召喚術師でなければ、召喚した動物の言葉を理解できないためその点を伝えると
「そうですか...ちょっと残念ですが......
あっ! そうか! 召喚した動物の言語処理部分を
あれに組み込んだらいけるのかな...ふむふむ...」
と何やら一人で考え始めた。どうやら翻訳イヤホンみたいな物を作れないかと思案しているようだ。そんなヴェレニエラは脇に置いて、玲は猫のにくたまを召喚してエンペラールとタチアナにその部分に関する術式を早速披露した。
「ねぇねぇ、レイ君。これってどの召喚動物にも
必ずあるものなの?」
とタチアナは玲にそのスイッチが常にどの召喚動物にも存在するのかを確認した。それに対し玲は
「はい、少なくとも、かすみや神室さんの
召喚した召喚動物は全て組み込まれてました」
と答えた。するとタチアナは、「ちょっと表に出てもらっていい?」と言いながら玲を外に連れ出した。エンペラールはタチアナが何をするのか予想出来るようで、そのままリビングにてヴェレニエラと話を続けた。神室霊華は外で何が起きるのか興味津々なため、玲の後について外に出た。するとタチアナは、その場にある動物を召喚したのだが、玲と言うか中身のカーンフェルトはその動物を見た途端、馴染みのある動物を目にして笑みが零れた。だが神室霊華はと言うと、玲とは全く対照的に、その巨体を見た途端、その場で目を回して卒倒しそうになった。それ位にタチアナが召喚した動物は、神室霊華に対して強烈なインパクトを与えのだが、ではその動物とは一体?
「おぉー、これってリベロンでしたっけ?」
「へぇー、レイ君と言うかカーン君の居た時代でも
そう呼んでいるのね?」
と2人がニコニコしながら見ているその動物は、犀に似ているが、更に額から生えている2本の角が特徴的な恐竜のトリケラトプスである。そんなトリケラトプスが目の前に突然現れたため、神室霊華はこれは夢か幻を見ているのかな、と思いながら失神寸前に陥いって地面に倒れそうになったのだが、すんでのところで玲に腕を掴まれて難を逃れた。そして何とか落ち着いたところで玲にその動物のことを尋ねた。
「先ずね、サモナルドには、地球で言うところの
恐竜みたいな大型の爬虫類かな、
あれが沢山生息しているんだよ」
と言うことをまず教えられた。そしてその恐竜達は、生活に必要な様々な資源を提供してくれる有難い存在だという。ただし、
「たまにね、凄く凶暴なのが現れたりして、
その対処のためにハンターや軍隊が
動員されるんだよ」
と言うことである。そして目の前にいるトリケラトプスのリベロンだが、
「これはね、凄く大人しくて、しかも力が強いんだ。
だからね、僕の居た所では物を運んだりするのに
使われていたんだけど...」
ロムリアでは転移があるからそれは必要ないですよね、とタチアナに確認した。タチアナは頷いて、
「ただね、ロムリアから遠く離れた地方の街では、
確かに運搬用に使っている所もあるみたいね。
尤もロムリアではどちらかと言うとね、
そうねぇ...」
と顎に手を当てて何やら考えだすが、直ぐに何かに思い当たったのか、
「あっ、こちらだとサーカスの像かな、
あんな風に芸をさせたりしているのよね」
である。時代が変わるとこうも役割が変わるのか、と玲は思わずにはいられない。それよりもタチアナとしては、このリベロンことトリケラトプスの言語に関する術式を玲に見てもらいたくて召喚したのであり、その点を玲に早速確認してもらった。
「えぇーとですね......あっ、これだ、これ、これ。
タチアナさん、これがそうですよ!」
と言って召喚の書のあるページに書かれている術式を玲は示した。とその時
「うわー、リベロンだ。
私も子供の時に何かのイベントで
見たきりなんだよねー。懐かしいなー」
と感嘆の声を上げるヴェレニエラと一緒にエンペラールも外に出てきて、早速
「セラちゃん、どれが言語能力に関する術式なの?」
と質問を始めた。タチアナは玲から丁度今教えてもらったその部分をエンペラールに説明すると、エンペラールの顔は驚きに満ちた表情へと変化して行く。そして
「よくこんな所を見つけれましたね、レイさん!」
と何やら感心し出すエンペラールに対し、玲はこれを見つけた経緯を話した。するとタチアナが
「全く、レイ君の召喚術の能力って、
ほんと変態的ですよね、先生!」
「そうよね~。そんなこと出来るのは、
レイさん以外見たことありませんよ~」
私だって恐らくどちらかを覚えてからでないとそんな作業は出来ません、とエンペラールは白旗を掲げるようにそう宣言した。そんなエンペラールとタチアナの態度を目にした神室霊華は、
「私や師匠のかすみさんは全く分かりませんが、
お二方であれば簡単にできるのではないのですか?」
と少し遠慮がちにそう尋ねた。自分やかすみは無理として、てっきりどんな召喚術師でも簡単にできるのかと思っていたようだが、するとタチアナは首を横に振って
「先ず普通は無理ね。レイ君の場合は、
これを映像として記憶しているんだったっけ?」
「はい、そうですね。なぜか僕は
全て映像で記憶できるんですよ」
と事も無げに玲はそう答えた。その答えを聞いた神室霊華は、絶対自分では真似できないし、今後も真似しようとは思わないようにしようと心に誓った。




