地球転生編 2-12 最神玲、タチアナと密会する
最神玲、タチアナと密会する
サモパラの会合とその後の懇親会で久々にサモナルド語で会話をして楽しんだ日から2週間程経過した10月のある日、最神玲のパソコンにタチアナからのメールが届く。相変わらず玲は、卒論で必要な資料採取のために、少しは慣れた音声入力でブラウザに検索ワードを掛けてはチェックする毎日を送っている。ところで、何時もは彼の下宿に来て長話をしたり、降霊召喚の練習につき合わせていた物部かすみはというと、珍しいことにここ何週間も玲の下宿を訪れていないのである。流石の玲も心配になって、かすみに電話やLINEをすると、ちゃんと応答したりLINEが返ってきたりするので、生きてはいる模様。まぁ、色々あったから、それで思うところがあるのかな、などと少し呑気に考える玲であるが、何か話したいことがあれば必ず自ら相談に来てくれるところまでは信頼をしているので、今は焦らずかすみの様子を見守ることにした。ただ、かすみが来ないために、玲の部屋はすさまじい状況となっているが。大概、世話焼きのかすみが何だかんだ文句を言いながらも、玲の部屋の片づけを手伝っていたりしたが、今は悲惨な状況。尤も、玲ことカーン自身は、片付けるという概念が乏しいため、この状況は本人としては気にならない模様。しかし、そんな状況も、タチアナからのメールを見て、一瞬にして血の気が引くほどの後悔に代わるのだった。
「えー!タチアナさん、うちに来るの!?
まじか!うーん、まずいぞ、まずいぞ、
この状況は凄―くまずい!」
そう、タチアナからのメールには、今度の週末に仕事で東京に行くので、その時にレイ君の家にお邪魔しまーす、と書かれていた。しかも、サモナルド語で。週末まであと2日。土曜なのか日曜なのか今のところ分からないが、来てもらう以上この状態を放置するのは絶対まずい。普通の人であれば、2日もあればゴミ屋敷でもない限り簡単に片づけて綺麗にできるが、玲ことカーンにとっては尋常ならざる事態。とにかく、この男は片付けるという概念に乏しく、散らかっていてもどこに何があるか把握しているため、何も困らないというから手に負えない。そのため、何をどこに片付けるかのプランニングを立てられなくなり、思考停止で立ち往生してしまう。だが、捨てる神あれば拾う神ではないが、実はタチアナのメールには続きがあり、追伸に「あなたのガールフレンドも同席してね」との文言が。かすみの同席OKなのか。そうすると、これを餌にかすみを呼び出して、一緒に片付けを手伝ってもらう(正確には、かすみにやらせようとする)ことを閃く玲であった。そこで早速かすみをLINEで呼び出すことに。要件は、[非常に大事な話があるので至急来て欲しい]という、読めば何やら緊急事態か、もしかして別れ話を切り出すのか(でも当人達には付き合ってる自覚はないが)、心配と不安を掻き立てる表現だが、玲にそんな心の機微を穿つ程の繊細さはない。案の定、LINEを見たかすみは一目散に玲の下宿へ。
「玲、あんなLINE寄越して、
何かあったの?それとも、…うん?」
そこには何やらニコニコした玲が佇んでいる。かすみは微かに体を震わせつつ、何だ気味悪い奴と思うが声には出さず。そして、かすみは気持ち悪い佇まいの玲から驚くべき知らせを受けたのである。
「えっ、え~、もう一つえ~、まじ?
リアルなまじ?超絶リアルなまじ?」
驚くのも無理はない。大好きなブランドの、しかもその経営者兼デザイナーのタチアナ・エグリスコバが態々玲に会いにこの下宿に来るという。でも、何故にセレブなタチアナが、こんな小汚い所(否、絶対汚い所)に、しかも何のとりえもなさそうな平凡な男に会いに来るのか、この点は未だ理解が及ばないのである。いや、こいつ絶対私を騙そうと何か企んでるな、と疑心暗鬼になるかすみである。まだ、霊界から閻魔大王が訪ねてくる、の方が断然分かり易いか。
「それで、かすみに少―し
手伝って欲しいなー、
なんてね。いいかなー」
下心丸見えな表情でかすみに猫なで声をする玲。は、はーん、何となく読めたぞ、こいつ。タチアナさんに会わせる代わりに、この部屋の掃除を手伝えってところか。くそー、お前、卑怯だぞー。
結局、かすみは玲の掌に載せられる状況で、部屋の片づけを行ったのである。この借りは何時か必ず返してもらうと心に誓いながら。
週末の土曜日の昼のニュースで、タチアナの来日の模様が短くだが報道され、やっぱり来たんだと、なぜか身を引き締めている玲。そんな玲の傍には、あー本当に会えるんだ、とワクワクするかすみの姿が。ただ、今この時間でも彼女からいつ会おうという具体的な連絡は来ておらず。えっ、もしかして忘れてたりしないよね、と不安になる玲であるが、その不安の元はまさに隣で期待に胸膨らませているかすみの存在である。もし何も連絡なくてそのまま帰国とかになったら、僕絶対生きていないという変な確信が生まれるのであるが、そもそもかすみを利用した時点で、そうなっても自業自得であると自覚すべきであろう。そう言った不安で身悶える玲と期待で胸膨らむかすみの元に、タチアナからのメールが届く。見ると、今晩そちらに行きまーす、だって。あっ、そうか転移してくるんだ。そんなことを、かすみに伝えると、転移って何?となる。念のため、[僕の家の場所が分かり難いでしょうから、どこか分かり易いところで待ち合わせますか?]と返信して、近くの洛王神社の境内で午後7時に待ち合わせ、ということになった。えーっと、2時間後か。流石にまだ迎えに行くには早過ぎると思った時、かすみが夕飯どうする?途中どこかに寄って食べて行く?と尋ねてきた。そうだね、時間的には夕飯の時間だよな、と思い、タチアナが同意してくれるのであれば、人目に付かないお店で食べてこっちに来るでどうだろうか、と一先ずかすみに提案。それと、万が一何かしらデリバリするなり持って帰ることも想定して、台所の隅に追いやられて荷物置き場と化した二人用のダイニングテーブルと椅子2脚を急ぎ元あるべき位置に運んで綺麗に整えることに。足りない椅子は居間で使っているのを使えば問題ない。これで取りあえずタチアナを迎える準備は完了。あっ、丁度6時半。
「そろそろ迎えに行こうか」
と言って、二人で連れ立って一路洛王神社へ向かった。10月のこの時期は午後5時半には日没を迎えるため、午後7時となると辺りは立派な夜の姿に変わっている。更に、どこよりも暗く濃い夜を感じさせる神社の境内には、玲とかすみ当人たち以外人の気配は一切ない。そして、定刻の時間になったとき、玲とかすみの後ろから「今晩はレイ君」とサモナルド語で声を掛けられる。境内の雰囲気に飲まれたのか、ビックリして二人が同時に声のした方向に振り向くと(ちなみに、かすみは玲の動きに釣られて)、そこには黒いロムリアのキャップを目深に被ったタチアナ・エグリスコバその人が微笑みながら手を振って佇んでいた。ただ玲とかすみは、その姿は神社の神秘的だが何か不気味さを感じさせる雰囲気と相まって、一瞬亡霊か何かかと錯覚したが、そんなことは二人とも口にすることは無かった。
「お久しぶりです、タチアナさん。
あっ、こちらが僕の友人の
カスミ・モノベです」
僕は一応サモナルド語で答えたが、
「初めまして、かすみさん。
私はタチアナです。宜しくね」
とタチアナは英語で挨拶をする。かすみも何とか聞き取れたので、英語で自己紹介を行う。
「あっ、かすみさんには、
これを使ってもらいましょうか」
といってタチアナが玲に手渡したのは、どこにでもありそうなワイヤレス・イヤホン。これで英語と日本語で会話するのだろうと思ったら、タチアナから思いもかけない言葉が飛び出した。
「これで、サモナルド語と日本語の
同時通訳が出来るのよ」
だって。そんな機能があるんですか。て、いやいや、サモナルド語が一般の翻訳イヤホンに装備されている訳がないことは、地球のハイテク音痴な玲でも分かること。でも、どうやら本当にできるようで、試しにかすみに説明して片方を付けてもらい、もう片方はタチアナがつけて、玲とタチアナがサモナルド語で会話するのを聞いてもらったところ、理解できたとか。すげー地球のテクノロジーと感心する玲である。実はこれは種を明かすと、タチアナの知り合いのチーター経由で手配してもらった特注品であり、今のところタチアナだけが持っているものとか。確かに、サモナルドの仲間内では全く必要ないし、今回のようにサモナルド語と他言語が入り混じることはあり得ないので、当然ではあるが。
さて、こんなところで立ち話も何なので、玲の下宿に皆で移動するが、結局夕飯は玲の下宿でとることに。と言っても、何かしらデリバリを頼むわけでもなく、タチアナはニコニコしながら、「まずはレイ君のおうちに行きましょう」と言ったので、取りあえず玲の下宿に向かう3人。着いてから、キッチンのテーブルを囲む椅子に座ってもらってお茶でも出そうとしたところ、いきなり
「ちょっと、待っててね。
今食事をとりに行ってくるね」
と言って台所でいきなり転移をするタチアナである。残された二人は呆気にとられて、暫し呆然と眺めている。かすみは当然初めての体験で何が起きたのか、どうしてタチアナが消えたのか、あれこれ質問しながら玲に迫ってくる。一方、玲ことカーンはそんなかすみをスルーしつつ、実は転移を目の前で見せられるのは初めて。そのためカーンの本領が発揮され「そーか、転移ってこうするんだ、あっ、こんな術式なのか!」とか「おー、これってここにマーカーを残すことかな?そうすると、また同じ場所に戻れるのか?」などと、もう初めて見る術式に見惚れて興奮状態。この二人のカオスな状況も、タチアナが玲たちの前から転移して1~2分経過した時、転移門の中からいい匂いが漂ってくるのを感じることで終止符が打たれた。転移門を見ると、食事を運ぶ小ぶりのワゴンに見たこともない肉料理とサラダが載っていた。タチアナの指示でそれらをキッチンテーブルに載せて、再度タチアナは門の中に消えていく。そして暫くしてから、今度はパンやスープ、そして飲み物のワインが運ばれてきた。流石に全部をテーブルに載せるのは無理なので、暫しワゴンに待機してもらうことに。
その後、暫く食事をしながら近況報告をしたり、かすみは色々聞きたいことがあったようで、それをタチアナに尋ねたりと、有意義な食事タイムが過ぎて行った。その後食器等をワゴンに載せて、また転移。タチアナは今度は直ぐに戻ってきたが、その手には綺麗に包装された薄く平たい包みが。
「これ、かすみさんへのプレゼントよ。開けてみて」
と言って差し出され、早速包みを開けるかすみ。中から出てきたのは、ロムリアブランドのシルクのスカーフ。広げるとその柄は、サモナルドでの幸運のシンボルでもあるクリモアル柄がデザインされている。そして、隅に何やら文字が刺繍されており、それは[親愛なるかすみへ]とフランス語で刺繍してあると教えてくれた。至れり尽くせりのプレゼントに感動したかすみ。しかも、このスカーフ、かすみのために作られた1点物だとか。この話を聞いた途端、余りの感動で泣き出してしまった。ちなみに、玲にはスカーフと同じ柄のネクタイがプレゼントされた。
「タチアナさん、有難うございます。
でも、僕の方では何も用意してないので、
何か申し訳なくて」
と恐縮する玲であるが、タチアナは全く意に介さず。それより
「いいのよ、レイ君。それよりも、
あなたには手伝って欲しいことがあるの、
それでチャラにしてね」
まあ、僕でよければ何でもお手伝いします、と返事をしておく。
さて、今回タチアナが玲の下宿に来た目的は、単に一緒に食事をするためではなく、そこには幾つか確認したいことがあった。
「さて、先ず、レイ君が先日メールでくれた件
なんだけど、あれって本当の事なんだよね?」
そう、あれと言うのは、ケンタリアの東方にある巨大なクレーターのこと。前回の会合の後、クレーターの事を思い出し、次回聞こうかと思ったのだが、やはり直ぐに確認しておこうとして、タチアナにメールしたのであった。
「一応、サモパラに登録してもらっている
メンバーに聞いてみたんだけど、
誰も知らないのよね。
それで、そのクレーターか、
先ずは具体的な場所とか
教えて欲しいんだけど」
と言って、召喚して取り出したのはサモナルドの地図、と言うよりも、地球儀ならぬサモナルド儀。流石の最神玲ことカーンも、このサモナルド儀は見たことない。感心しながらクルクル回していた時、ある地点に目が止まった。それは、ネオヒマラヤ山脈とネオエベレスト山。このサモナルド儀はその山の形と位置をほぼ正確に描いており、そこから判断した結果、自分の居たケンタリアがどの辺なのかの検討を付けることが出来た。そして、そこから東に辿った先にあったのが、
「ロムリアですか」
そう、ロムリア。タチアナの住んでいた都市であり、カーンの時代にはその名すら残っていない幻の都市、ロムリア。
「そうか、まさかとは思ったけど…」
と複雑な表情になるタチアナ。ただし、何だかロムリアってでかくない?と疑問に思った時、その縮尺当てにならないよ、とのこと。どうやらこのサモナルド儀は一般人が使う程度の物たそうで、もっと精巧なものもあるが、そう言うのは機密事項に属するので持つことは出来ないとのこと。ケンタリアも、市内の精巧な地図はカーンでも特別な許可が無いと閲覧できないのであったが、それと同じことである。
「ただ、そうすると、
ここで2つの仮説がでてくるの。
一つは私とレイ君は、
同じサモナルド人だけど
別の世界に属すること。
つまりパラレルワールド説。
もう一つは、レイ君は私のいた時代よりも
後の未来から来たという説」
この時この状況で結論は出そうにもないと思われたが、会話の中でタチアナが自分の事をカーンではなく玲の事として話しているのに違和感を持ち、そう言えば自分の転生を話してなかったと思い至ったため、そのことをタチアナに話したのである。
「・・・・」
無言になるタチアナ。すいません、肝心なことを話し忘れてまして、と只管謝る玲ことカーン。そう言えばかすみには話していたから、てっきり話しているものと勘違いしていたことに気づくも後の祭りか。すると、
「いいの。そんなこと気にしないで。
それよりも、・・・
そうか、そう言うことなのね!」
と何かしら結論が出た様子のタチアナ。実はタチアナも、玲を見て会話した時にちょっとした違和感があった模様。その違和感の正体は結局その時には分からなかったが、今この事実を知ったことで、その違和感に気づくことになったのである。
「レイ君を最初見て話をした時、
何か違うというか、
レイ君だけどレイ君ではない
何かを感じたんだけど、
そう言うことだったのね。
これでスッキリしたわ」
そして、タチアナの得た結論は、最神玲ことカーンは自分達とは異なる「転生者」ということである。ちなみに、カーンは転移者も転生者も同じ言葉と勘違いしていたようで、なので会合でも自分も転移者となっていたのだが、そこは違うことを知って自分の無知さ加減に恥ずかしくなり、穴があったら入りたい気分となっていたのである。
そうすると、一つ大きな問題はクリアしたものの、尤も肝心な、「なぜロムリアがクレーターになったのか」は全く分からずじまい。ただ、この面々でそれを議論しても埒が明かないのは当人たちには分かっているので、この話は一旦ここで終了となった。
ここで一旦休憩に入り、玲は緑茶を入れて、タチアナとかすみに湯のみを渡す。ところで、かすみであるが、話の内容が余りにも突拍子過ぎるというか、まさに異世界の会話であったため、話の途中でフリーズしていた模様。おかげで玲とタチアナは、途中で何ら遮られることなく会話を続けるに至るのであるが。
「とりあえず、私が確認したかった事は
完全とは言えないけど、
ある程度はクリアになったわ。
有難うね、レイ君、いやカーン君かな?」
「あっ、どちらでもいいですよ、タチアナさん。
それじゃ次に僕から幾つか聞きたいことが」
と言って、まずは転移術に関して専門的なことを含めてあれこれと質問することに。それに対しタチアナは、的確にかつ分かり易い回答をすることに。そのとき、玲は
「タチアナさんって、本当に転移術を完璧に
マスターされてるんですね。
何か、僕がケンタリアで友達と観た
舞台演劇に出てくる
大召喚術師セラスティナみたいですよ」
と感想を言った。それに対しタチアナは、一瞬「ん?」と言う表情をしてそのセラスティナの演劇ってどういう話なのと尋ねたので、玲は舞台の内容をタチアナに話すことに。すると、なぜか途中で「ぷすっ」と空気を漏らすような音を出し、その後は平静を装うも、なぜか顔を赤らめていく。そして、玲が話し終わると、
「ブフッ、あーはははは。ご、ゴメンね。
ちょっと可笑しくって、
しかも変なツボに入っちゃって」
と何やら意味不明なことを話し出す始末。暫くタチアナがお腹を抱えて笑う姿を眺めて、漸く落ち着いたところで、驚きの発言が。
「えっとね、そのセラスティナって、私の事なの」
「・・・・・・? えっ」
一瞬、この人何言ってるんだろう見たいなキョトン顔でリアクションをする玲である。えっ、タチアナ=セラスティナ、まじ?と思う間もなく、口をあんぐりと開けた状態で思考停止。
「うん、ゴメンね。
別に黙っていた訳ではないけど、
サモパラの参加者は皆知っているから、
てっきりレイ君も知っていたと思ったのよね。
だから、ゴメンね」
今日この日、玲ことカーンにとって一番の驚きは、転移術を目の当たりにしたことよりもセラスティナ本人に会ったことであった。ちなみに、セラスティナがツボに嵌ったのは、彼女の師である大召喚術師エンペラールのところ。タチアナが言うには、エンペラールは男性ではなく女性。しかもタチアナより年齢が一回り程違うだけの同性から見ても魅力的な女性だとか。この事は、恐らくカーンの居た時代の誰も知らない事実。だが、もしカーンが元の世界に戻ってもそれを裏付ける証拠がなく、単に妄言を吐く野郎とか気が触れた輩かと思われるのは必至。結局、この事はカーンの胸の内に留めるだけとなったのだが。タチアナ=セラスティナの事実に対する興奮が冷めぬまま、もう一つ玲には聞きたいことが。
「すいません、タチアナさん。
実はこの術式なんですが」
と言って実際に示したのは、先に玲とかすみが霊界に転移する切掛けとなった降霊召喚門。ただし、玲には門の形に見覚えは全くなく、しかも書かれている術式も意味がよく分からないところがあったりする。それに対しタチアナは、
「これは!?うーん、この門の形は
私も見たことは無いわね。
ただ、私が居た時代よりももっと古い時代には、
四角い召喚門があったとの記述はあるのよね。
そこから推測すると、その派生形って
感じもするけど。
ただ、それ以上にそこに書かれている術式ね。
召喚タイプを記述するところだけど、
前半はレイ君の言う通り降霊召喚の宣言。
そして後半は、これ転移に関する術式に
似ているわ」
やっぱり、そう言うことか、と納得する玲ことカーンである。そうすると…
「この召喚門は、降霊転移というものになるのかしら。
確かに、降霊召喚門だけだと、
生身の人間は絶対に入れないから。
でもあなた達二人はそこから霊界に行ったのよね?」
はい、と返事して、その後の経緯を説明することに。その時になって、かすみも興味が出てきたようで、二人の会話に参加して来た。
「うーん、私も玲に後から聞いたけど、
その誰、円空って人、全く会わなかったな。
まぁ、それ以前に意識を失ってしまったんだけどね」
「レイ君、その円空って人、
仏教の僧侶に似ている、人なのか霊体ってこと?
で、その円空さんは、どこに召喚門を作れば
自分の目的の場所に行くことが出来るかが分かる、
と言うことなのね?」
「ええ、そうみたいです。
それで教えてもらった場所に、
先程の降霊転移門を設置したところ、
元の場所を確認したんです。
あー、これで帰れると思ったのですが、
その前に円空さん、何かお礼をと申し出たところ、
ならば僕の寿命を1年分を頂戴できればと
お願いされて、それでお礼をしましたが」
と付け加えた。これを聞いてかすみは、身震いしていたけど、かすみが直接霊界に行くことは多分ないから心配しなくても大丈夫だよ、と一応声を掛けておいた。これで安心したかどうかは分からないが。そして、タチアナは、この玲の言葉に何か思うところがあるのか、暫し黙して考え込むのであった。やがて、
「レイ君、有難う。今夜ここに来て
あなた達とお話しできたことは、
大正解だったわ。
東京での仕事の話よりも、
こちらでの会話の方が私にとっては
途轍もなく重要だということよ」
と、お世辞にしても偉く感謝される二人であった。しかし、このタチアナの感想は、決して大袈裟なことではなく、彼女の、そして玲ことカーンのこれからを大きく左右することになるとは、この時の当人たちには想像できないことであった。
さて、またしても短くも濃い時間が過ぎていき、気づくともう直ぐ日付が変わろうとしていた。
「あっ、ゴメンね、こんなに遅くまで付き合ってもらって」
と謝るタチアナであるが、玲もかすみも全く気にすることなく、逆にこちらも得るものがあったようで、お互いに満足して解散となった。
「じゃあ、私はこれで向こうに戻るけど、
多分レイ君というかカーン君には
恐らく今後も相談したいことが出てくるので、
その時も協力して頂けると有り難いです」
となぜか丁寧な挨拶になるタチアナである。恐らく、タチアナに何か劇的ともいうべき心境の変化があったんだろうと察するも、その内容までは推測が出来ない。何れ連絡があったらその時に対応しようと思うカーンであった。
「さようなら、タチアナさん。
そしてプレゼント有難うございました」
「カスミさん、私もいい思い出が出来たわ。
こちらこそ、有難うね。
じゃあ、レイ君、またね」
と言って、タチアナは東京のホテルに転移していった。
「かすみ、家まで送るよ」
と言ったが、かすみは首を横に振り、今日はここに泊まっていくと言う。いやいや、着替えも何もないですが、と言っても、あんたの古着でもいいから貸しなよ、と無理矢理クローゼットを漁って適当に着る物を調達するのである。仕方ない、ベッドはかすみに譲って、自分は床で適当に寝るとするか。




