地球転生編 2-7 最神玲、大学に行く
最神玲、大学に行く
7月になると、大抵の大学は夏休みに入っている。当然、最神玲の通う東洛総合大学も例外ではなく、この時期にキャンパスに居るのは、教職員と大学院生くらい。そんな、どちらかと言うと閑散とするキャンパスのある場所に、最神玲と物部かすみは向かっているのである。
「ねぇ、かすみ、
昨日は何で口きいてくれなかったの」
「はあ、あんた、自覚無いんかいな。
全く。新幹線の中であんなに燥いで、
私がどんだけ恥ずかしい思いしたか、
分からんやろ!」
と、またここで地雷を踏んで、怒られる玲。一方で、自覚無いとか新幹線で燥いでってどういうこと、とキョトンとする玲。本当に本人には自覚はない模様。いやいや、そもそも電車と言う物に初めて乗って、大人しくできないでしょう、何言っているんですか、と心の中で言い返している玲であった。
それよりも、今日彼らが向かっているのは、心霊サークルの面々が集う部室。心霊スポット巡りをした成果を検証するために、本日は全員集合が掛かって、馳せ参じてきたところである。なお、当然のことながら、今の玲には大学の場所や、ましてやサークル部屋の場所すら分からないので、何か言われることを覚悟で恐る恐るかすみに電話して、今ここに二人で歩いているのであった。
「もういいわ。それよりも、玲、
あんた、就職とかどうすんの?」
「えっ、就職?」
「はぁ、何も考えてないな、その返事は。
私達みたいなマイナーな学科は、
それこそ就職先を確保するのが結構大変なんよ。
分かってる?」
「うーん、ゴメン、分かんない。
そういうかすみは、そのー、
就職先?決まったの?」
「決まってる訳ないやんか。
何言うてんねんな」
相変わらずどこの方言か分からん言葉で、なぜか玲に八つ当たりするかすみである。まあ、八つ当たりしたいかすみにも同情の余地はある。玲には何も言ってないが、彼女は既に数十社にESを提出するも、全て書類選考で脱落。東洛総合大学はそこそこ有名だがマイナーな学科だとこうも駄目なのか、と最近はかなり落ち込んでいた。そんなところへ玲の事故やら自身の生死にかかわるアクシデント、そして玲のダメさ加減と、彼女を取り巻く環境がここへ来てカオスな状態にあれば、流石に精神的にも参ってくるもの。そして、最後はそのとばっちりが何も知らない最神玲に向かうのである。そうか、就職か、と呟く玲。実は最神玲ことカーン自身、就職云々と言われても、特に苦労したことないので、その辺りの実感はほぼゼロ。かすみ、聞く相手間違っているぞ。とりあえず、卒業と就職のことを頭の片隅に置いておくことにした玲。こんなやり取りをする間に、目的の部屋に二人で到着。
「お疲れ様でーす。あっ物部先輩、
体の方良くなったんですか?」
と扉を開けて早々に声を掛けたのは、かすみの入院準備の手伝いをしてくれた3年生の榊原加奈子。
「うん、皆さん、
ご迷惑とご心配おかけしましたが、
わたくし物部かすみ、
無事退院することができました。
有難うございました」
と殊勝に頭を下げて、サークルメンバーにお礼を言うかすみ。そんな元気な姿を見て、ある者は目に涙を浮かべたり、ある者はかすみの無事を称えたり、など。それだけ、かすみは皆に愛されているんだなと、感心する玲であった。
「さて、みんな集まったので、
これから先日の合宿で記録した
ビデオを上映します。みんな、
心の準備はいいか?」
と部長の稲垣悟がメンバーに向けて問いかける。心の準備も何も、全く問題ないっすよ、と男部員の何人かが指摘して、いざビデオ上映会の始まり。
残念ながら、今回の動画の出来というか撮れ高はほぼゼロ。みんなかなりショックを受けて無口になってます。ところが、そんな中で二人だけは違った感想が。
「かすみ、あれ見えてた?」
「うん、居たね。あそことあそこに」
一応、他の人には聞こえないように小声で囁いているものの、何を話しているか分からなくても、仕草で何か感じるところがあるようで。1年の佐伯えりは、
「最神先輩、何か見えたりしているんですか?」
とド直球な質問。うーん、微妙だね、と玲は曖昧に答えるに留めたが、それで納得しているのかどうか。その時、かすみから素っ頓狂な声が
「えー、あれって、もしかして?」
見ると、カーンには馴染みの光景が。そう、あの召喚門。そして、その召喚門がかすみには見えたのである。これは、カーンにとっては尋常ならざる驚きをもたらした。なぜなら、召喚門は召喚術師にしか見えないからである。そして、もしかすみが召喚門を見ているのであれば、もしかするとかすみは…。それよりも、かすみの素っ頓狂な声で全員がかすみに注目することに。
「おい、物部、何が見えたんだ?
というか、お前も何か見えるのか?」
と部長に指摘されるが、そうだった、かすみが見えることはまだ誰も知らないんだよな。そのうち、えーまじ、とか、先輩方何が見えるんですか、とか、あちらこちらから声が上がる始末。そこで、半ば諦めつつ少し曖昧な表現で玲が答えることに。
「うん、何か靄が掛かっているけど、
何かがあるという感じ。
ゴメン、僕もよくは分からないんだ」
へー、とかなーんだ、とか、リアクションは様々だが、唯一かすみだけは何かを察したのか、玲を見つめた状態で押し黙ったまま彼の脇腹を肘で突いている。ちょっと玲、後で別室に、みたいな雰囲気を出しながら。
「残念だが、俺達には全く見えんし、
分からん。と言うことで、
残念ながら今回の合宿の成果は
無しということになります。みんなゴメン」
そう言って部長の稲垣は頭を下げた。まぁ、部長に何も責任はないっすよ、などと温かい声がかかる。とりあえず、今年の成果報告は以上です、との稲垣の終回の挨拶があり、この会はお開きとなった。その後は、午後6時に駅前の「居酒屋剣ちゃん」で打ち上げです、と打ち上げ担当から今日の予定が告げられ、そこで一旦解散となった。
さて、玲とかすみは、二人で学内にある喫茶室に向かい、ティータイムを満喫することに。尤も、かすみにはどうしても玲に問い質すことがあるようで、各々が注文したアイスコーヒーを一口ずつ飲んで、かすみが玲に尋ねることに
「ねぇ、玲、さっきのことだけど…
まず、あれって、
私がうっかり入っていった門なの?」
あー、あれね。仕方ない、ちゃんと話すとしようと、決意を固めた玲。
「うん、そうだよ。
君がうっかり入ってしまった門であり、
この世とあの世、
つまり霊界を繋ぐ門でもある」
先ずは玲に話してもらうのが先決だと言わんばかりに、黙って頷くかすみ。
「そして、君はその門の中に入っていったけど、
実は門の近くにはいなかったんだ」
その言葉を聞いて、かすみの目は大きく見開かれる。えっ、どういうこと?
「多分その門の中に入っただろうとは
思ったんで、僕もその後に続いて入っていった。
で、暫く探し回るうちに君が
倒れている現場に出くわした。
ただ、その時には、君は文字通りと言うか、
虫の息だった。
だから急ぎ元来た道を戻って
君を門の外に連れ出した」
「そう、そういうことだったのね。
でもそうすると、なぜ私は倒れて、
あなたは無事だったの?」
「それについては正直、僕も分からない。
多分だけど、僕の交通事故後のことが
影響しているのかな、
と思ったりしているけどね」
「ふーん、そうなんだ。
実はね、さっきあの門を映像で見て
思い出したんだ。あの時何があったのかを」
「?」
「私ね、門は見えなかったけど、
そこに入った途端に、
周りの景色が一変するのは分かったの。
あっ、何か変なところに
来ちゃったんだって思ったりして。
で、急いで振り返って元の所に
戻ろうとしたんだけど、
そこに門はなかったの。
でも変だよね、玲はその門から
元の世界に戻ったというのに、
なぜ私は戻れなかったんだろう」
「!?」
「ねぇ、玲、何か隠さないといけないことが
あるならこれ以上聞かないけど、
でも一つだけ教えて。あなた何者なの?」
「うっ」
そうか、変に嘘をついたことで矛盾が出てたのか、迂闊だったと後悔する玲。しかも、もうこれ以上隠しようが無いと悟り、何か吹っ切れた感じでかすみに真相を話すことに決めた。ただし、この場で話すのは避けたいということで、一旦玲の下宿に二人で向かうことに。そして、そこで玲は語るのである。




