サモナルド編2-3 ルメインの思惑
ルメインの思惑
ルメイン・ローガン。彼は、ジンギスタ帝国の帝国軍召喚術師部隊を統括する総責任者であり、此度のジンギスタ帝国による侵攻作戦に関する総司令官でもある。ところで、ジンギスタ帝国には正規軍が存在し、正規軍には帝国軍総司令官という立場の将軍が存在する。ではなぜ、ルメインが総司令官足りうるのか?それは、彼自身の持つ戦力がずば抜けていることに起因する。彼の戦力の基盤、それはズバリ契約召喚による召喚獣の存在。そう彼は契約召喚のスペシャリストであり、しかも同時に複数体の幻獣を操れるほどの召喚エネルギーと高い使役能力を持つ召喚術師である。ちなみに、カーンフェルトが契約召喚をした場合、ルメインの操れる倍の数の幻獣を操ることが出来るが、幸か不幸かカーンの住むケンタリアとその周辺には幻獣は存在しない。加えて、カーンには幻獣はおろか、猛獣でさえそれを使役する能力が無いため、彼には契約召喚が宝の持ち腐れになってしまう。
ところで、幻獣という生物だが、正確にはそのような種族や固有種は存在しない。むしろ、野獣が狂暴化して強力になったのが猛獣と呼ばれるように、その猛獣が長い年月をかけてより狂暴化し強化されたのが幻獣になると思う方が正確なのかもしれない。そして幻獣となる存在には、猛獣が持ち得ない火炎を吐く、落雷を誘発する、あるいは羽ばたきで竜巻を起こすなどの特殊能力を持つ存在もいれば、強い自我を持って他の猛獣を支配する存在もいる。このような、サモナルドの生物学から見るとかなりイレギュラーな存在である幻獣は、それ一体で平均的な軍隊数千名分(1個旅団)の威力を持つことから、ルメイン一人で1つの大国を亡ぼすことは十分可能なのである。
さて、当のルメインであるが、今はジンギスタ帝国にある彼の執務室にて部下からの戦況報告を受けている。
「ガレンザニア国は6割程落ちました。
ザンガン公国は陥落。
現在ティンカーン連邦に進軍中です」
「そうか、ガレンザニアはともかく、
ティンカーンは簡単には落ちそうにないな。
時間をかけて攻略するなど
余り悠長なことをしていると、
こちらの損耗も無視できなくなる。
では、私が出るとするか」
その言葉を聞いて、報告に来た副官は緊張する。ティンカーン連邦は間違いなく短期間で滅びるのではないかと。ルメイン総司令官自らが出動となると、猛獣と幻獣が何体、いや十数体出撃することになる。これを迎え撃つには数万の軍隊が必要になるが、複数体の幻獣による同時攻撃というものは、その破壊力が凄まじい。例えば2体の幻獣が一斉に攻撃を仕掛けた場合、単純に幻獣×2の攻撃力となるのではなく、それこそ個々の持つ特性、例えば火炎と竜巻、が反応して、更に数倍の攻撃力となることがある。そのため数万の軍隊でも果たして持ち堪えられるか甚だ疑問になるレベルなのである。
ところで、なぜルメインはこれほどまでに戦況に敏感になっているのか。何が彼をこの侵略戦争に駆り立てているのか?それは、彼の一族、ローガン家の歴史と深く関係してくる。ローガン家は、ジンギスタ公国と呼ばれた古い時代の小国の頃から、このジンギスタに仕える名家である。そして、ローガン家には先祖代々大切に保管されてきた家宝がある。それは一冊の書物。正確には書物というよりかは、日記というか単に資料を綴ったもの、頁数は精々数十頁程。そのような、薄っぺらいと言っても過言ではない書物にどのような価値があるのか?実はこの資料は、大召喚師セラスティナが約1000年前に記したとされる書物の一部としてローガン家に伝わっている物である。もしこれが本当にセラスティナ本人の書いた資料であれば、ローガン家は莫大な財産を保有することになり、それこそ彼ら一族がジンギスタ公国の主と成り得ただろう。だが残念ながら、実際はセラスティナの弟子の執筆であることは分かっているため、資料それ自体に対する価値はほぼない。しかし、その資料は、誰が書いたかが重要なのではなく、そこに書かれている内容こそが重要なのである。一体何が記されているのか?その資料には簡単な転移術式と幾つかの有用な創成召喚術式が記されている。残念ながら転移術式は、参照する別の資料が必要となるため、現有する資料だけでは完全に解読することは不可能な状況にある。一方、創成召喚術については、例えば先に出てきた双眼鏡やトランシーバーと言った通信技術を始め、飛行機や車などの乗り物に関する術式も記載されている。そして、これらの術式から召喚された品々は、どれもサモナルドの世界には全く存在しない未知の技術力で構成されているのである。現時点では、双眼鏡やトランシーバーなど、日常に使えそうな品々の使用法に関しては歴代のローガン家当主による解読が行われたことで実用化の目途が立ったが、乗り物の類は召喚出来てもその扱い方が今もって不明なため、召喚してもほとんど意味をなさない。しかも、召喚エネルギーを多く消費するために、並みの召喚術師ではとてもまともに召喚することが出来ないのである。それでも、ごく一部の乗り物、例えば飛行船や熱気球と言った飛行に特化した乗り物に関しては、構造的な簡便さ故にほぼ使用法や運用法が分かってきており、徐々に実用化されつつある(ただし、飛行船は玩具程度だが)。これ程までに内容が凄まじいため、歴代のローガン家の当主はこの書物を門外不出の家宝として大切に保管しているのである。そしていつの日か未解読である転移術を含めてあらゆる転移術式を手中に収め、ローガン家がこの時代の転移術式の開祖足らんことを願うのである。
ところで、その資料には、もう一つ重大な内容が記されていた。それは、大召喚師セラスティナが、自ら記した転移に関する術式の資料や書籍を全てある場所に埋葬したということ。その場所がかつて栄えた巨大都市ロムリア。その跡地に埋葬したという。そもそも、ルメインがいるこの時代には、ロムリアの名前と歴史、あるいはその存在に関する資料などは一切残されていない。しかし、ローガン家、特にルメインはそれがいわゆるクレーターと呼ばれる場所の最深部であろうと推測しており、故に彼はそこを目指し、一族の悲願である転移術式の完全取得を実現したいのである。
だが、ローガン家あるいはルメインの悲願を達成するためだけにこの侵略戦争が仕掛けられたのかと言えば、決してそうではないと言っておこう。セラスティナの残した遺産の価値は、ルメインだけでなく、ジンギスタ帝国にも莫大な利益を齎すことは確実なため、現皇帝もこの戦争に異議はなく進められているのである。 ただし、ここで一つ問題があった。それはクレーターに隣接するサモナルド最大ともいえる国家、ケンタリアの存在。そして、ケンタリアの召喚術師を率いる若き天才、カーンフェルト。もし彼が前面に出てくると、流石のルメインも苦戦を強いられることは容易に想像できた。そのために、出来るだけ数多くの召喚獣を確保する事を優先していたのであるが、そのカーンも先の召喚実験で命を落とし今はもういない。そのためルメインは、進軍速度を速めるべく、自らが出陣することを決断したのである。
「後3年したら、
間違いなくクレーターの探索ができる」




