地球転生編 2-87 M&M心霊ファイル7: アメリカ合衆国国防総省のケース (第3部)
M&M心霊ファイル7: アメリカ合衆国国防総省のケース (第3部)
その後、ヘンドリクソンはもう一つの懸案事項である、個人的な問題について最神玲と物部かすみに相談した。そう、彼の妻の蘇生である。これに関しては、かすみからビジネスとして請け負うことと、その時の代金として500万円かかることを説明した。ところが、通訳のナカハラ大尉が何を間違ったのか、500万ドルと話してしまった。そのため、余りの高額料金でヘンドリクソンは、本日何度目になるか分からない位に、目を丸くして固まってしまった。それを見た玲は、ナカハラ大尉に500万円ですと訂正してもらうようにお願いしたが、500万円が何ドルかの計算が面倒になったため、仕方なく、「5万ドルにしてください」とナカハラ大尉にお願いした。そしてそのことをヘンドリクソンに伝えると、漸く安堵の表情に戻り、序にその金額で本当に蘇生できるのかを玲とかすみに尋ねてきた。そこで、かすみが蘇生における注意点を説明し、それでも構わないということで、蘇生契約を結ぶことにした。
本来ならUSB捜索が優先されるのだが、蘇生に関しては数分で終わるからそちらを先にしても大丈夫ですよ、とかすみが説明したので、その言葉に甘えてヘンドリクソン夫人が入院しているワシントン近郊のウォルター・リード軍医療センターに向かった。病院は、突然の国防長官の訪問で何事かと一時騒然となったが、夫人の見舞いだと知ってヘンドリクソン一行を集中治療室に案内した。
集中治療室に入って、玲はまず心臓、肺、そして脳が正常に機能していることを確認した。となると、後は魂だが、果たして魂が霊界に留まっているかどうかだ。そこで今回は、かすみに蘇生をお願いすることにした。かすみとしては初めての蘇生で、しかも責任重大である。だが、玲はかすみの実力でも十分対応できると感じていた。
「かすみ、兎に角いつも通り、リラックスしてね」
と声を掛けられ、「うん」と力強く頷いてから、早速降霊召喚門を夫人の周りに設置した。ちなみに、ヘンドリクソンとナカハラ大尉には、玲から先程の霊視グラスを渡されて、それを掛けた。すると、
「あ、奥様の霊魂はまだ転生してませんでしたね」
とかすみの安心する声が病室内に響いた。それをナカハラ大尉は、目の前に現れた霊魂に恐怖を感じたのか額に汗をかきながらも、何とかヘンドリクソンに通訳した。そしてヘンドリクソンは、まさかこの霊体が妻なのか?との疑問を持った。だが、その面影は確かに妻の面影であることも感じていた。そして
「じゃあ、このまま蘇生に入ります」
と宣言して、肉体と魂の同期を行った。すると、霊魂は肉体にスーッと入り込む様子が確認された。それを見ていたヘンドリクソンは、呆気にとられたように、瞬きを忘れて妻を凝視し続けた。そして暫くすると、
「う、う」
と夫人からのかすかなうめき声が聞こえてきた。どうやら、魂が無事に体に取り込まれたようだ。その声を耳にした途端、ヘンドリクソンが「ヘレナ!!」と声を出したかと思うと、彼女の両頬を自分の両手で覆い、彼女の唇に自分の唇を何度も重ねた。それから10分程すると、彼女の目が開かれるのをその場にいる全員が目撃した。そして、蘇生後の第一声がかすれた声で「ダニー、どうしたの?」だった。
「長官、これで無事に奥様は蘇生されました」
と玲はヘンドリクソンに宣言した。そしてヘンドリクソンは、玲とかすみの手を握り締めて、「有難う、有難う」と何度もお礼を述べた。その時ナカハラ大尉が、「これが蘇生術なんですか」と疑問なのか感想なのか分からないが、そう呟いた。その後、医療チームが病室に召集されて患者の様態を確認したところ、奇跡的に意識が回復しましたと、ヘンドリクソンに伝えた。勿論彼の中では奇跡ではなく、玲とかすみの蘇生術の賜物であることは分かっていたが、そのことを医療チームに伝えることはなく、医療チームの努力に感謝する言葉を伝えたのだった。
ヘンドリクソン夫人の蘇生が無事終わったことで、次は愈々あの問題への対応となった。ところで、玲とかすみが向かうのは、心霊スポットではなく、どこかの森林地帯とか遊歩道のあるところでもなく、ニューヨーク市。そう今回見つかった降霊転移門は、ニューヨーク市内にあるのだ。ただし、人通りの多い場所ではなく、スラムと化した一体の路地裏とも呼ばれるような狭く汚い所である。なぜこのような場所に設置されたのかについては設置者に聞くしかないが、どうみてもそこを人が通ることは滅多にないことだけは確かだ。と言うのも、分かり難いことも去ることながら、治安が凄く悪いのだ。そして、USBを持つ人物は、誰かに、あるいは何かに追われていたのか、逃げ回るうちにこの路地裏に足を踏み入れてしまい、そこで霊界に迷い込んだのだった。
さて、玲とかすみであるが、陸軍を中心に急遽編成した捜索チームに加わって現地入りした。現地の治安状況を考えて、この捜索チームは総勢20名程となっている。しかもその半数は特殊部隊の隊員たちである。また残りの半分だが、降霊転移門を発見したエラン中尉を始めとした、所謂霊が見える隊員で構成されていた。そこで、先ずはニューヨーク市警の協力の元、消失した地域を中心に非常線を張り、非常線内に人がいない様にしてもらった。とは言え、その地域は殆ど誰も住んでおらず、精々ギャングのアジトがある程度である。従って、警察としても連中を追い出すための口実が出来て、内心有難かったのだ。なお、この非常線は、ここに危険物が隠されているという偽情報の元で行われている。そして玲とかすみだが、危険物処理班ということで、防護服に身を包んで同行することになった。その後降霊転移門が設置されていた路地裏に到着するが、残念ながらそこには既に何もなかった。恐らくタイマーが作動して消滅したのだろうと玲は推測した。ただし、これは恐らく玲にしか分からないが、ほんの少しだけ空間に違和感があるのを察知した。そこで、玲はその場所で降霊転移門を召喚することにした。その時、一緒に行動していたエラン中尉以下数名の霊能力を持つ隊員が、一斉に驚きの声を上げた。やはりあの人たちはこれが見えるんだな、と玲もかすみも同じ感想を持った。そして玲は、通訳のナカハラ大尉を通じて、その場にいる捜索チームにこれからの予定を伝えるが、その前に玲は、手荷物の中からある物を取り出した。それはビニール紐。紐の束を外で待機するかすみに持ってもらい、もう片方は玲が自分の右足首に結び付けて、只管真っ直ぐに霊界を歩いて行く。約30分後に、かすみは玲に紐で合図し、玲はそこで一旦停止する。その後かすみが霊界に入り、玲が設置した降霊転移門前で紐が解けないように自分の足首に巻き付けたまま立つか座っている。玲は紐を地面に這わせながら、かすみを中心に円運動をする。もしその紐に何かが触れれば、そこに死体があることからそれを調べる、という単純だが確実な方法を採用した。ところでかすみだが、長時間霊界に居れるのかという問題がある。玲は、あの時のトラウマを心配したのだが、かすみはその覚悟が出来ているから大丈夫だ、と玲にはっきりと伝えた。そして玲も、かすみのその言葉を信じており、かすみの召喚エネルギーであれば1週間は霊界に居続けられることを知っている。
方針が決まったところで、玲とかすみ着ていた防護服を脱ぎ、玲はかすみにビニール紐の束を渡した。そして玲は急ぎ自分の右足首をひもで縛った。そしてそのまま降霊転移門から中に入って直ぐに出口用の降霊転移門を霊界に設置した。何時もの顔出しをして状況を確認したが、その様子を見ていた捜索チームから悲鳴が上がったのは言うまでもない。それから、玲は円空を呼び出した。円空は直ぐに玲の所にやって来たので、玲は
「薄い青色のスーツを着た
ヒスパニック系の男性が
ここから迷い込んだと思いますが、
どこにいるか分かりますか?」
と尋ねた。だが残念ながら、円空自身は霊界で色を認識できないこと、そしてヒスパニック系がどういう人かが分からないことを玲に伝えた。ただし、ここから入った人物が男性でスーツを着ていたいたのは確かだと言う。勿論今は死んでおり、その遺体がどこにあるかは分からないが、暫く歩き続けていたのは確かだといった。これ以上の情報は手に入りそうもないので、玲は円空に礼を言って別れた。仕方ない、当初の方法で探すか、と言うことで、降霊転移門から離れるように真っ直ぐ先へ進んで行った。
かすみは、手元にあるビニール紐の束から紐が空中に送られていく様子を黙って見守っていた。そして時間を30分にセットしたスマホのタイマーが音を奏でたのを機に、玲に紐を引っ張って合図を送った。すると空中に送られ続けていた紐が停止するのを確認した。そこで、今度はかすみが降霊転移門から中に入って行った。かすみは当初の予定通り、玲が設置した降霊転移門前で紐を右足首にぐるぐると巻いて紐を引っ張って合図し、その場に座り込んだ。それから時計回りに玲の円運動が始まったのを紐を通じて確認した。そう言えば、考えたら外から霊界を覗いたりすることはあっても、霊界に直接入ったことはあの日以来なかったことをかすみは思い出した。だが、凄く不安だとか、トラウマになって精神的に追い詰められるという感覚はない。なぜなら、今は最も信頼できる玲が一緒に居るから。そんなことを考えていた時、紐に何かが引っかかった感触が伝わって来た。もしかして、と思うもののかすみはその場から動けないため、もどかしさを感じつつじっとその場に居続けた。かすみはどれくらい待ったか分からないが、また玲の円運動が始まったので、違う死体だったのかと少しがっかりした。その後何回か引っかかたが暫くすると玲は円運動を再開した。これを繰り返し、今度は降霊転移門の裏側の領域に回ろうとした時、紐が降霊転移門の端で引っかかった。え、そんなことあるの、と訝しく思いながら、でも確かにこのままだと外の世界に出ちゃって変なことになるよな、と思い直し、自分が降霊転移門の端に移動することにした。そうして、また玲が回転運動を始めた。すると、また何かが引っかかる感触が伝わって来た。再び玲が近寄って確認しているだろうと考えた時、なかなか次の回転運動が始まらない。そしてそのままじっとしていると、かすみの目の前に突然玲が現れた。余りにも唐突だったので、思わず「わっ」と声を上げたが、その声は当然どこにも届かず、自分の耳に骨伝導で伝わるだけだった。それにしても、まさか見つかったのか?と聞こうとしたが声は出ない。その代りに、玲が手に持ったUSBをかすみに見せた。おー、見つけたんだ、と思った途端嬉しくなって玲に飛びついた。玲は突然かすみが飛び掛かって来たのでびっくりして倒れそうになったが、何とか立ち止まってかすみを受け止めた。玲はUSBをポケットに仕舞い、代わりにホワイトボードを取り出して、「どうしたのかすみ?」とペンで書いて見せた。かすみはそのボードを取り上げて、「嬉しくてタックルしただけ」と書いて見せた。本当は「嬉しくて抱き着いた」と書きたかったのだが、恥ずかしくなってタックルしたと書いたのだ。それでもかすみの気持ちは伝わったようで、玲は親指で降霊転移門を指差して、2人は何時間ぶりかに元の世界に戻って来た。




