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椰子の木
椰子の木が揺れている
澄んでどこまでも、どこまでも、続いている
空に終わりはない
建物がなければ、
海と混ざり土と同化しどこまでも続いてゆく
幾星霜ひとの見てきた空
色も違う背丈も違う場所も違う時代も違う
ひとが見てきた
生きとし生きるものが見てきた
空だった
笑う親子の背中が見える
車にかかる影
後部座席の窓には太陽と遠山、雲に椰子の木
活動写真が上映されていた
細くしなやかな指は風に微笑む
女性の黒髪の如く不規則であやしい動きをする
太陽が雲に隠れると
今度は色彩動画へと変貌していく
雲の合間には薄い水色が挿さされるのであった