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夏の夕方
振り返ると空が赤かった
目の端から端まで収まりきらない夕焼け空は
美しかった
ただただ美しかった
太陽は優美に踊っていた
力強く手先まで細やかに繊細に
放たれる赤い光は
牛車を引き連れる太陽の宰
入道雲を後ろに従え
時と共に姿を変える
胸が焼かれる
情熱的な心踊る空は段々と動きを止めて
意識が浮かびあがたような光の世界へと変わっていった
金を人は美しいと思う
それはこの夕焼けを美しい、と思い、
金に空を見ているからかなぁ
ふと、後ろを見ると
満月がいた
ぼんやりの淡く輝く彼は
太陽の出番を見送るように静かに佇んでいた
高貴で柔らかく慎ましい
藍色を帯びてきた空に音立てずある君
月影がくっきりとみえた
それは微笑んでいるようだった
蝉の鳴かない夏