耳をすますと
食堂の外の葉っぱが揺れている
濃厚に自然を感じた
遠く高く透き通った夏空と涼しい風、
ポカポカとあたたかい程度の日の光と
果実の熟れた魅惑的なものと爽やかな葉っぱの匂いを
交互に醸し出す植物たち
隙間から漏れた光が葉っぱに幾何学模様をつける
それは記憶の中のピースたちが視覚情報から
感覚的情報を引っ張り出して
一番心地の良いものを組み合わせたものだった
目をとじる
隣の席のカップルの話し声
奥で水が流れる
プラスチックのお皿とお箸がぶつかる音
咀嚼音
右後ろで笑い声が上がる
先程までの幻想はどこかへ消えた
音と匂い、温度、触感は
外の世界とガラスで遮られていたようだ
食堂の中では食堂の世界が広がっている
ガラス一枚ですぐに外とつながりそうに見える
耳をすますと見えてくる世界は外とは別で
感じとる器官によって距離感は遠くも近くもなり
食堂という外とは別世界に入った気分だった
入り口の自動ドアを抜ける
うっ
茹で途中のやかんに放り込まれた
息が詰まるほどの湿気とぬるい温度
背中が痛い
日差しは厳しい
風なんてまるでなく
色んな生き物が音を作り出していた
葉は涼しい風に靡いていたわけではなく
ただ果てなく狂い踊っていただけのようだった