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階段
きゅ きゅ きゅ きゅ
階段を踏むたびに音が鳴る
上から降りてくるときに下の踊り場が
てらてらと光を照り返している
水が溜まっているのだ
日の当たらないコンクリートの廊下は
湧き上がるような水を床に置いている
誰かこぼしたのかなといわんばかりの水
靴の跡が薄水についていた
あらゆるものをしっとりさせる湿気が現れた
いつのまにか春は終わっていたようだ
冬の寒さなど露ほども思い出せん
白いはずの踊り場は暗くセピア色の世界を作っていた
一段、一段、
降りてゆく
踊り場を照らす蛍光灯に近づいているはずなのに
なぜか暗くなってゆく
心臓が一段下に位置を変えたのを感じた