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ミスト
「ミストみたいですね。」
そう告げると先輩はふふっと笑みをこぼした
首を傾けどこで懐柔できたのかと問うてみる
「小雨だと思っていたわ。ミスト、面白い表現ね。考えつかなかったわ。」
上品なお声に乗って返事が来た
車のライトに照らされた空間には
白い線がたくさん映し出されている
降っているこの雨はライトに照らされて
初めて存在が肉眼で確かめられた
じめじめとサラサラを往き来している
梅雨と呼ぶには湿気が生ぬるい
ぬるま湯で朝夕の区別がつきづらい
曇り空は太陽を隠し
この世が平坦でこれまでも変わらずこれからも変わらない
ずっと続いていくような
自然の在り方はそのまま人間にも影響する
頭の中が溶けたチョコのような
ぬるぬるのドロドロのふわふわの
抜け出せぬ快楽地獄の様を呈する
やらねばならぬことがある
分かっている故に体心と頭の戦いが起こる
戦うのは快楽の先にある地獄が見えるからだ
すべては幻覚、幻想
この霧が生み出した幻であり、夢だ
しばらくはこの寝惚けたままの世界が続いていく




