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透明な虫籠
広場にトンボが漂っている
雨が明けた森の蚊のようだ
幼少の夕暮れ時に
赤蜻蛉を見し日が思い起こされる
秋霞に滲む紫橙
夕日に負けない赤の姿
肌寒い風にふわっと灯る蝋燭のようにふわふわと
繊細でゆったりした時間だった
ここ数日青くならない白い空を背景に
ヤシの葉が頷き続ける
今何を問うてもきっと首肯してくれるに違いない
台風は来るかい、サワサワ
被害は出ないかい、サワサワ
明日には風がおさまっているかい、サワサワ
我が身長はまだ伸びるかい、
ちぇ
ヤシは私のことなど眼中にないらしく
首を横に振ることもなく、ピタと動きを止める
不貞腐れながらトンボを見遣る
「手で掴めそうだ。」
通りかかった青年の話し声が聞こえる
ほんとだ、と心で青年に返答する
地面スレスレまで降りてきているのだ
ぶつからないのが不思議
3メートル立方の虫籠に入れられているように
うじゃうじゃと言いたくなるほどの数が
上に下に不規則に飛んでいる
よくみると皆同じ方向を向いている
風に乗っているのかなぁ