表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
反撃  作者: りん
3/3

【3】

「今野先生」

 帰りの会が終わって教室を出た担任を追い掛けて、人気のない廊下で呼び止める。

 今野は、不機嫌さを隠そうともせずに僕の方を振り向いた。


「北条。何か用か?」

 用がなければお前なんかに構うわけないだろ。

 ……そもそも、朝の「事件」について何も知らないわけ? あれだけクラスの雰囲気がおかしかったのに?

 根本的に教師には向いてないし能力も足りないって自覚もないんだ。へーえ。


「ねえ、僕がここでお前を刺したらどうなると思う?」

 一歩踏み出し距離を詰めてギリギリまで潜めた声で囁きながら、カッターナイフを握ったままの右手を目の高さまでそっと持ち上げる。


 チキチキ、チキ……

 スライダーに掛けた親指に力を込めると同時に、刃先が僅かに顔を覗かせた。


「そ、そんなもの……! 自分が何をしてるかわかってるのか!? 早く仕舞いな──」

「わかってるに決まってるでしょ? ……ああ、この間の『話し合い』はお母さんが全部録音してるから。もちろん、そう(・・)なったら大々的に公開するよ」

 今野が大きく目を見開いた。流石に僕が言いたいことは通じたらしい。


「え!? あ、あれは、そんな、……そんなことされたら、俺」

「そう。お前はもし殺されても『イジメをなかったことにしようとしたクズ教師の自業自得』としか見られないってこと」

 自分でもよくわかってるんだろ?

 今更慌てても遅いんだよ。


「だからお前は、とにかく『担任教師として』の役目をきちんと果たせよ。その能力がないって言うなら、邪魔だからさっさと辞めたら?」

「……、……そ、れは。仕事、だ、から。そう簡単には……」

 無駄な抵抗を続ける今野に呆れ果てる。


 「先生」なんて呼ばれて持ち上げられて、自分の無能さに気づかなかった罰が今来てるだけなんだけどな。

 それさえまだ理解できてないんだね。


「もし僕が雨宮や他の連中を殺しても、お前はタダじゃすまないんだってちゃんと覚えといた方がいいよ」

 一から十まで説明しないとわからないみたいだから、面倒だけど教えてやる。

 僕の方が「教え子」のはずなんだけどね。


「『先生』ならもちろん知ってると思うけど、今のネットの人たちってすごいんだって。──家族も無事だといい(・・・・・・)ねえ?」

「……か、家族、は」

 目の前の男の声と膝が震えるのに、勝手に笑いが込み上げて来た。

 抑えるのに苦労するよ。


「もう一度言うね。『お前は、自分の、仕事を、しろ』。──わかった?」

 囁き声はそのままに、僕は役立たずのでくの坊に念を押す。

 今野が引き攣った顔で頷くのだけ確かめて、僕はカッターの刃を収めて右手を下ろした。

 膝も口元も震えるに任せるしかできない教師を置き去りに、僕はその場を立ち去る。


 家に帰って、仕事から戻るお母さんを迎えるために。


 ~END~


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ