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反撃  作者: りん
2/3

【2】

北条(ほうじょう)さん、イジメってそんな大袈裟な。単に友達同士のふざけ合いでしょう。たまたま徹くんがちょっと怪我をしてしまっただけで」

 教室で三人揃って始まった話し合い。

 お母さんが事情を話し終えた後の、担任の今野(こんの)の最初の台詞がそんなふざけたものだった。


「『ちょっと』って、病院で二針縫ったんですよ!? 傷害じゃないですか! 他にも証拠がいろいろあるんです。ノートや教科書に酷いことを書いたり──」

「お母さん。小学生の男の子なんてそんなものですよ。神経質になり過ぎない方が、徹くんのためにもいいんじゃないですか?」

 顔色を変えて食って掛かるお母さんに、今野は面倒そうに返して来た。

 言った通りだろ?

 今野(こいつ)は自分だけが大事などうしようもない無能なんだ。

 この程度の人間にも務まる仕事なんだね、「教師」って。

 結局、「話し合い」は何の中身もないままに終わった。


「徹。もう学校には来なくていいから。あなたの命より大事なものなんて、この世にひとつもないのよ」

 校門を出る直前のお母さんの言葉に、ありがたいと同時に申し訳ないって感じるんだ。


「学校には来るよ。僕はこんなの全然平気だから。心配しないで、お母さん」

「……でも、どうしても『無理』になったら正直に教えて。それだけ約束してくれるなら、徹の自由にすればいいわ」

 僕はお母さんに迷惑ばっかり掛けてるね。

 口に出したら「何言ってるの!」って叱られるのが目に見えてるから、心の中だけで思う。


 ──だから僕は、自分でかたをつけるよ。お母さんをこれ以上悩ませないで済むように。



    ◇  ◇  ◇

「よう、北条。相変わらずすかしてんなあ」

 翌朝、教室に入った僕に雨宮が絡んで来た。

 これは予想通り。

 だから僕も予定通りの行動を取る。教室に入る前から準備してたからね。


()。僕はもう我慢しないことにしたんだ」

 いきなり喉元に突き付けたカッターナイフのスライダーに親指を掛けて、笑いながら告げる。

 普段なら『花』って呼ばれたら真っ赤になって怒るのに、固まってどうしたの?


 刃は出してないよ。脅しだから。

 そして本気でもなかった。今は、ね。

 こんな目立つところでやったら、それこそお母さんを困らせてしまう。

 おそらく、笑顔の僕に「普通」じゃないものを感じたんだろう。

 いつもの偉そうな態度はどこへ、ってくらい狼狽えて、周囲に助けを求めるように目を泳がせるけど、誰も声一つ掛けない。

 僕がクラスメイトにさっと巡らせた視線は、ことごとく逸らされた。

 「お友達」にも見捨てられたの?

 あんなに結束して見えたのにね。お前たち、その程度の仲だったんだ。

 期待した味方も得られない雨宮に畳み掛ける。


「ここで僕がお前を殺しても、十一歳だから死刑になるわけでもないしね。どっか施設に入ることにはなるんだろうけど、ただそれだけ。殺され損、ってやつだ」

「あ、あ……。もうお前にはなにもしない! だから──」

 怯えて震える声で『命乞い』はするくせに、ひとことも謝りはしないんだな。

 もし殺すなら誰も見ていない、「僕じゃない」ってきちんと通じる場面を選ぶよ。

 もちろんカッターなんて使わない。

 僕はお前(雨宮)みたいな単細胞とは違うんだ。

 まあ『花』なんて付けるような親なら、「やったあと」のことなんて何も気にする必要ないよね。

 僕のお母さんとは違ってさ。そこは同情しなくもないよ。


 ──さあ、次は。


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