表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
反撃  作者: りん
1/3

【1】

(とおる)! どうしたの、それ……!」

 玄関を開けた僕を見たお母さんの、悲鳴のような声。


「お母さん、仕事は?」

 しまったなあ。

 まさかお母さんが、この時間に家にいるなんて思わなかった。


「この間、日曜に半日出たから午後は代休なのよ。……それより何があったの!?」

 僕が着ている薄い青のシャツの前裾が、血で汚れている。ハンカチを巻き付けた左手も不自然だよね。

 あいつ(・・・)に突き飛ばされて当たった窓ガラスが割れたから、手の甲を切ったんだ。


「ちょっと、クラスのやつに……」

「誰に何をされたの!? 徹、お母さんには教えてちょうだい。たった二人きりの家族じゃないの!」

 それを言われたらもう逃げられないよ。

 お母さんにとっての僕も、僕にとってのお母さんも、何よりも大事な唯一の『家族』なんだ。

 無視も嫌がらせも別にどうってことなかった。強がりなんかじゃなくて本当に。

 どうせすぐに飽きるだろう、ってこっちの方こそ無視してたんだ。耐えてた、って意識は全然ないな。


 ──そういうところもあいつには気に食わなかったのかもね。一人じゃ何もできないやつには。


「六年生になってから──」

 しぶしぶ切り出した僕の話を聞いていたお母さんの、握り締めた拳が小刻みに震えているのが目に入る。

 だから知られたくなかったんだ。

 僕を育てるために毎日必死で働いてくれてるお母さんに、余計な心配掛けるのだけは嫌だったのに。


「相手の子の家に行きましょう。本人はともかく、親と話したらなんとかなるかも──」

「無駄だよ。……お母さん、そいつ雨宮(あめみや) (はな)って名前なんだ。普通の『植物の花』の花だよ」

 僕の言葉に、お母さんは予想通りの反応を見せた。


「え!? 女の子なの?」

「ううん、男。……息子に『花』なんて付ける親に、まともに話通じると思う?」

 お母さんは溜息を吐いて同意してくれる。誰だってそう感じるよね。


「そういうことね。じゃあ学校に行かないと」

「それも意味ないと思うな。あの担任じゃ何もできないし、……する気もないよ」

 だけどお母さんは、今度はあっさり引かなかった。


「それでも学校には行かないといけないのよ。相談実績だけでも作っておかなきゃ」

 実績。そういうこともあるんだ。僕じゃあ、そこまでは思いつきもしないよ。


「だったら、話し合いは録音しておいて。お母さん、ICレコーダー持ってるよね?」

「……わかったわ。とにかく病院に行かなくちゃ」

 僕の真剣な声に、お母さんも難しい顔で頷いてくれた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ