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7 おい、なんで男二人でティータイムなんだよ

 店内には落ち着いたBGMが流れており、おれは優雅な所作で紅茶をすすった。うまい。中学生二人で来るには場違いな環境ではあるが、おれとオルソンは割と大人びた恰好をしていたために周囲の風景から浮いていると言うことはなかった。


 しかしこの落ち着きようは異様だった。いや落ち着いているというよりかはショックがでかすぎて落胆しているといった方が正しいかも知れない。おれは好きな女の子から振られたショックで、オルソンも似たような理由だった。


 その証拠にオルソンの持っているティーカップは大地震でも起こってるんですかってくらいカタカタ揺れ動いていた。お前動揺しすぎだろ……。しかし表情はあくまで澄ましている。ポーカーフェイスはうまいのだが、明らかに動揺しすぎていて表情を取り繕ってもあまり意味がないような気もする春の午後だった。


「ふざっ、ふざけるな! なぜ! なぜなのだ! おれの行動と言動のどこが間違っていたというのか! くそ!」


 言動がもう明らかに自分の素を丸出しにしていた。お前落ち込むのはわかるけど、もうちょっとトーン抑えろトーン。


「まぁおれも精進のみだぜ。しかしまさか土屋さんとおれの義妹がいとこだったとはなぁ」

「くっ! 貴様はどうしてあんないい女がいながらべつの女にうつつを抜かすのだ! 許せん! 恥を知れ!」


 がたんっと、机が揺さぶられた。オルソンが机に拳をぶち当てた音だった。おれのカップからコーヒーが零れ落ち、おれは慌てて傍らにあったナプキンで拭き取った。なにもそこまで怒らんでもいいんじゃねーの?


「いいわけあるか! き、貴様がしていることがどれだけ卑劣なことだかわかっておるのか!? 二股を掛けようとしているのだぞ! 一人の男が愛せる女は一人までと、この世の理が示しておるだろうに! 本当に許せん! 縛り首にしてやろう!」

「待て! 落ち着け! いてぇ! いてぇよオルソン! いやたしかにお前の言っていることは理に適ってる! めちゃくちゃかなってる! むしろたしかにおれって今最悪なことしてるなって思いで一杯だ! だがこれには事情って言うモンがあってだな!」

「問答無用!」

「ぐはっ!」


 おれはオルソンに首を絞められる。どうやらこいつに対して弁解の余地は与えられないらしい。おれとちあきが偽物の恋人だと説明すればこいつだって納得してくれるはずだろうに、話を聞きやがらないとなると、おれの立場はよりいっそう苦しいものとなってしまう。それは避けたい!


「おれだって人並みの恋愛がしてみたい!」

「素を出すな! お前のキャラクターで言われると、駄々をこねてるただの中学生にしか見えねーよ! わかる! その気持ちも痛いほどわかってる! 男に生まれた以上女の子愛したいよな! めっちゃわかる! ケド落ち着け! おれとちあきはほんものの――」

「うるさい! 黙れ! うるさいうるさいうるさい! 聞きたくない!」

「話を聞く素振りを見せろ! ヒステリー起こしてんじゃねぇよ! せめて会話くらいしてくれ!」

「…………ほう。ではなにか申し開きがあるというのか?」

「アァ聞けよ、ったく。お前って奴は本当に早とちりだな。だいたい義理の妹と付き合ってるって時点でおかしいとは思わなかったのかよ」

「? どういうことだ? 説明願おうか。できれば三秒以内にしてくれ。おれの理解力が及ぶ効果範囲なのでな」

「お前どんだけ頭わりぃの!? そっか! だから会話が通じないのか! おれ去年からお前とつるんでるけど初めて気づいたわ!」

「えぇいうるさい! うるさいうるさいうるさい! 貴様に我のことを馬鹿にする権利などないはずだ。なぜなら貴様だって女に振られたばかりなのだからな」

「そ、そうだな……。お前にしては痛いところ突きやがるぜ。まぁ説明するぞ」


 おれはちあきとの関係性を洗いざらい話した。まぁ端的に言うと、ちあきとおれは本当の恋人ではないことを語った。ちなみにそうなった経緯までは話さなかった。おれの両親のことを話すのは気が引けたからだ。あんな恥ずかしい親のことをいくら親友の前でも話すわけにはいかない。




「あっはっはっは! まさかそんな痛快な事情があったとはなぁ! 貴様らしいことだ! くっくく! なるほど貴様が振られて落ち込む理由もわかるというものだ! おい店員! そうだ貴様のことだ! ようく聞け! おかわりだ。もう一度言う。お か わ り だ ! こんなにめでたい日に飲まずにやっていられるかって言うのだ! ぐはははは!」


 オルソンが上機嫌になった。て、てんめー、人の不幸を笑いやがったな! こういうのをなんて言うんだったか、そうシャーデンフロイデだ。


「道理で貴様に似合わぬ女子だと思うたわ! くっくく! 痛快だな。あのような女子はおれにこそふさわしい。違うか?」

「いやそれは絶対に違うと思うぞ! お前十中八九ちあきに嫌われてるどころか存在の認識すらして貰えてねーからな!」

「ふん。いくらでも言うといい。おれはあの女に惚れたのだ。男が女に惚れるなど当然の摂理、違うか?」

「いやあってるけど! あってるけどお前の言い方なんかやらしいんだよ!」

「ふん。男などみな獣だ。貴様だってわかっておろう?」

「ぐ。否定できねーのが辛いところだが、せめてそういうのはオブラートに包めよ! 仮にもおれの彼女だぞ!」

「貴様の本当の彼女ならな。でも貴様の女ではないのだろう」

「いや、そうだな言い方を間違えた。仮にもおれの妹なんだぞ。それでも手を出そうって言うなら、まずはおれを倒してからにしやがれ!」


「なん……だと………………!? まさか貴様が四天王のうちの一人、バルサンだというのか!? くっ、抜かったな。我としたことがこんな抜かりがあろうとは……。魔界の王子がなぜここに……!」

「おれはバルサンじゃねぇよ! なにお前ガッシュの世界にでもいんの!? 魔界の王を決める戦いでもしてんの!? だとしたらちあきの扱いなに!?」

「決まっておろう。王女だ。姫殿下をお救いするため、おれは戦うのだ」

「勝手な妄想つけたしてんじゃねーよ! お前の妄想痛々しすぎる! ラノベ作家のメモ帳並みにいてーんだよ! だいたいここは魔界じゃねぇ、日本だ。お前は知らねーかも知れねーが、ここは日本だ。よく覚えときやがれ!」

「ふん、貴様に言われずとも分かっておるわ。しかしちあきというあの女、どうやったらあのような美貌を手に入れられるのだろうか。若き女は良い……」

「お前思ったけど一年の頃からキャラ変わったな! だいぶ欲を隠さなくなったな!」

「男とはそういうものだ。好いた女は何があろうとも手に入れる。くく、せいぜいおれに奪われぬよう気を付けることだ」

「あれ!? なんかラブコメっぽくなってきた!? 気のせいか!? こいつ一番ラブコメに不向きな存在かと思ってたけど、実は一番の功労者なの!? めっちゃ怖い! おれがもしラブコメ主人公だとしたら、こいつの存在実は一番あぶないんじゃね!?」


 とはいえおれにとってのラスボスは義理の母親の両親である。おれは彼らにちあきとのラブラブな場面を見せつけて、親父たちの再婚を承諾させねばならないのだ。遠い。……道のりがあまりにも遠い……。


「ところで貴様、何か重大な案件を忘れてはおらぬか?」

「重大な案件? なんだそりゃ?」

「決まっておるだろう。あの黄色くて淫靡な食べ物のことだ」

「プリンのことか……? お前プリンのことをいやらしく言うなよ。プリンだって頑張って製造されてんだぞ! 好きであんなぷるぷるになったわけじゃないんだぞ!」

「貴様まさか本物を見たことがあるというのか!? ふざっ、ふざけるな! 我ですら見たことのないものを、貴様は見たことがあるというのか!?」

「くだらない! 心底くだらない! お前の発言のすべてがいかにも中学生クサい! 妄想言うのいい加減卒業しようよ! おれもうそういう下ネタ言いたくないんだよ! 中学二年生になって一皮剥けたいんだよ!」


「………………あのぅ、お客様……? 他のお客様のご迷惑になりますのでそういった会話はお控えいただけますでしょうか?」

「ふん。何だ店員、おかわりを持ってきたと思ったら我々に説教しようというのか。何だ貴様、何様のつもりだ?」

「ひぃ! 申し訳ございません! で、ですが女性のお客様もいらっしゃいますし、て、店員はすべて女性ですし……あの、そのぅ…………」

「いいからおかわりだ。おれは喉が渇いて仕方がないのだ」

「あ、はい、こちらになります……」

「ふんわかればいいのだわかれば。……あぁそうだついでに貴様、プリンを持ってこい」

「あはい! 特製プリンですね! お二つでよろしいですか?」

「うむ。貴様はものの勘定ができるタイプの人間であるようだな」


「当たり前でございます(こいつ何様のつもりなんだ)、その通りでございますがなにか?」

「よかろう。貴様年はいくつだ。三秒以内に答えろ!」

「ひぃっ! あの私お客様になにか粗相をいたしましたでしょうか!?」

「しておらん。答えろと言っている!」

「わ、私は二十七歳でございます……」

「二十七か。きれいな女だな」

「え、あぁそうでございますね……」


 いや店員さん照れないでくれよ! たしかにオルソンくんさっきから暴走気味だけど、そこ真に受けちゃダメだって!


 どうやらオルソンは、その気のない女性に対しては紳士的であるらしい。なんて損な性格をしているんだと思わなくもないが、待てよこれって得な性格なのか? とも思っちまう。こいつ案外女性の扱いうまいんじゃね?


「肌もきれいだ。スタイルもいい。ネイルも怠っていない。ほう、お前はこの街にいるのがもったいないくらいの美貌の持ち主だな」

「う、うん……ありがと」


 おいおいおい! 唐突にラブコメを始めるな! 


 おれはこれはいかんと思い、慌ててストップとばかりに手刀を切った。このままだと勢いでこの店員さんを自宅に連れ込みかねない。いや逆のパターンもあり得るけど、とにかくそれは倫理的にマズい。


「お前なにいきなりナンパ始めてんだ! 店員さん困ってんじゃねぇか!」

「? ナンパとは何だ?」

「お前素でやってたの!? ある意味天才だよ! お前付き合うんだったら年上にしろ! 絶対幸せになるから! お前それすごい才能だぞ!」

「なにを言っておる。おれが好きなのはちあきだけだ。後にも先にも他の女子を好きになることなどない! 断言してやろう」

「断言しないでくれ! いや恋をするのは自由だと思うし、素晴らしいことだとは思うけど、お前に対するちあきの反応気づいてないの!? あれもう完全に脈なしだと思うぜ!」


「ふっ、貴様は早計だな。早計すぎて草が生える。いいか貴様にはある事実を教えてやろう。単純接触効果と言ってだな、何回も顔を合わせているうちに好きになるという科学的実験で証明されている概念がある。おれはそれを利用して、あの女を落とす。ふはは! 身も心もおれの物だぁ!」

「待って! お前がものすごく頭のいいことはわかったけど、最後の一言! 最後の一言マジでよけいだった! お前欲は隠せ! 好きなのはいい! ただいやらしい言い方すんのはやめてくれたのむから! 仮にもおれの彼女なの!」

「ふん、いずれあの女はおれのことを好きになる。てめぇなんかに渡してたまるかこの三下がァ――!」

「怒った! 本気で怒った! あのオルソンが本気で怒ったぞ! ケドタイミングそこじゃなかった方がもっと嬉しかった!」


 おれこれからものすごくたいへんになるんじゃねーの? という密やかな予感を胸に、午後のティータイムを楽しむのだった。まぁ飲んだのはティーじゃなくてコーヒーだったわけだが、そんな小さなことは気にしないで戴きたい。


 ちなみに例の店員さんは、バックルームの手前で他の店員さんに「私ナンパされちゃった! やった! ちょ~うれし~~~!」とかおぼんで顔を隠しながら自慢していた。


 何かこの時間すげーむだだと思ったけど、結果的にみんなハッピーになれたんじゃね? とか思うおれだった。

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