4 ステップ1 手を繋いで学校に行く
『いいかおまんら! 恋人同士でまず初めにすることと言ったら手を繋ぐことだ。そんなんもできんで恋人名乗ったらあきまへんで!』
「ったくなんでこうなりやがる……」
おれは独りごちた。学校に向かう途中である。いつもの通学路を行くおれは、もちろん義理の妹――ちあきと手を繋いでいた。おれは頭を抱えているが、相手であるちあきは楽しそうに鼻歌を歌いながら腕をぶんぶん振っている。痛い。もげるだろうが。そして歩くペースが遅すぎる! いやはや女の子ってたいへんなんだなと思った瞬間であった。
「ねぇねぇ見てみて春斗くん! ちょうちょ! ふわ~!」
目を輝かせる義妹、それはおれを困らせる愚妹。ようちぇけらぁ! って言うかお前子どもかよ……。見た目も相まってまるで小学生である。おっと忘れちゃいけねーぜ。こいつは幼稚園生向け雑誌のファッションモデルなのだ。こいつこんな見た目で読モかよ……! 無自覚系ロリ、それがこいつなのである。いやはや人生とは多難じゃのう……とおれの脳内おじいちゃんがお茶をすすりながら言ってくる。うるさいくそジジイ! あっち行きやがれ!
そうこうしているうちに学校が近付いてくる。……はぁ。この姿をおれの友達に見られたらどうしようか。いやしかしだ。恋人同士である以上仕方のないことだ。周りの目を気にしていたら恋愛なんてできないと誰かが言っていた。誰が言ったか忘れたがその通りだと思う。周りなんてクソ食らえ! 一対一の関係性に首を突っ込む奴なんて無視していい。おれらにはおれらの関係性があるんだぜ! ヘイボビー、おれたち幸せかい!?
なんてむだなことを考えているうちに、アァちくしょう、よりにもよっておれの友達のうち一番の変人がおれらのことを見つけやがった。
近付いてきたのはおれの親友であり、極度の厨二病であるオルソン竜一であった。彼の容姿を説明するのであれば、真っ白いツンツン髪に、切れ長の目、そしていつも不敵に笑っている口もと。なんだか少年漫画の主人公のようであるが、こいつにはこいつなりの美学とやらがあるらしい。おれにはよくわからんが、こういう痛い奴って言うのは意外とどこにでもいたりするから不思議だ。
右目には漆黒の眼帯をつけており、耳にはこれまた漆黒にダークネスに真っ黒けに輝くピアス。そして両手の指にはドクロのリングがはめられている。こ、こいつあまりにも痛すぎて直視できねーよ!
「ほお。ついに伴侶を見つけたか我が親友よ。お前にしてはなかなかやる。そこの女子――」
「ひぃっ――! ねぇどうしよう春斗くん! 変な人に絡まれたけど!?」
「あー、案ずるな。そいつはおれの親友だ」
「親友! そういえばこの人学校で見たことあるかも! なんか一番かかわりたくない人だなぁっていっつも思ってた!」
「なんだこの女は。まさかこのおれにケンカを売ろうとでも言うのか? ふん、馬鹿馬鹿しいにもほどがあるぞ! 死ねぇ!」
そう叫びながらオルソン竜一は木刀を振りかざしてきた。ってあぶねぇ――よ! おれはすんでの所で真剣白刃どりを敢行する。いや真剣じゃないが、さすがにお前ちあきに向かって振り下ろすのはナシだろうが――!
「止めたか。……くく、お前もなかなか腕を上げたな。さすがは我がしんゆ――」
「るっせぇよ黙れこのポンコツが! お前おれの妹に手を出してんじゃねぇ――よ!」
「な、なんだと? 貴様そいつはお前の恋人ではないというのか。い、妹か……。そうか家族か……。すまぬ。我としたことがとんだ粗相をしでかした。死んでわびよう」
「お前なんなの!? 落ち着いてくれ! 頼むから落ち着いてくれ!」
そう、なにを隠そうこいつの家族に対する愛情は異常なのである。こいつの家はものすごく大家族で、妹とか弟とか、兄とか姉とか、とにかくたくさんいるらしい。こいつの親父はご近所さんから『ビッグダディ』とあだ名をつけられるくらいだ。まんまテレビのパクりっぽいが、まぁそこから来ているのは間違いない。
「ね、ねぇ春斗くん? この人本当に春斗くんの友達なの? よ、よくこんなのと関われるよねぇ?」
「いやまぁ。たしかにそれはおれが聞きたいくらいだが、なんだ、去年同じクラスで、わりと好きなアニメがかぶったっつーか」
「つまり春斗くんと趣味が合ったってことだね! いいじゃん! 男子の友情の成立した瞬間! 私そういうの憧れちゃうなぁ――! ねぇねぇオルソンくん! 好きなアニメってなーに?」
「……くっ! 近付くな! なんだ貴様は? おれの好きなアニメを聞いて笑おうとでも言うのか?」
「ち、違うよ! わ、私のアニメ見るの好きだから、オルソンくんと趣味あうかなぁって思っただけだよ! 決して他意はないよ! って言うか他意のある質問を私オルソンくんにしたりしないと思うよ!」
「くく……。なら教えてやろうではないか! おい娘。いい度胸をしているな。おれの好きなアニメの名、それは……す………………」
オルソンは顔を真っ赤にしている。タイトルを言おうとして急に恥ずかしくなってしまったらしい。やれやれ、こいつの厨二病は、本当に中学二年生特有の精神状態から来ているらしい。まぁでもたしかにその気持ちわかるぞ。他人に好きなアニメタイトル言うとき、緊張するよな。わかるわかる。おれも堂々と『エロマンガ先生』! となんて言えねーよ。あれこれべつの理由だな。
「す? す、から始まるアニメかぁ……。うーんなんだろ? ごめんわかんないや! 教えてオルソンくん! お、オルソンくん……?」
義妹は頭に?マークを浮かべて竜一の顔を覗き込む。オルソンは徐々に頬を赤らめていく。う、うわ……見てられない。オルソン竜一、またの名を思春期と呼ぶ。お、おれ先に教室入っていいかな。
まぁ仕方ないとは思うぜ。なんたってうちの義理の妹はか、かわいいからな……。おれだってこいつと目を合わせるたびにドキドキするぜ! お、おれの妹か……。
「オルソンく~~~ん? 教えて欲しいな~~~~~?」
「くっ離れろ! 我が、我が好きなアニメのタイトルは、………………す、ず………………みや」
「すずみや? ハルヒ好きなの!? うわ~~~オルソンくん奇遇だね! 私もハルヒ好きだよ!」
おれも好きだぞ、とは突っ込めなかった。って言うかたいていのアニメオタクそのアニメ好きじゃね? 谷川先生ってすごいよね。オルソンべつに自信持って言えばいいんじゃねぇの?
ちあきはオルソンの両手を握りしめて、ぶんぶんと上下に振った。そのたびに彼の顔の赤みが増していく。お前首まで真っ赤じゃねぇか……! 恥ずかしいよな! わかるぞその気持ち! こいつ将来絶対いい奴になってると思う。
「お、おのれ……! 触るんじゃない! き、貴様の汚れた手で触るんじゃない!」
「なんで!? 私の手汚れてないよ! へへ、ほらきれいでしょ? おるそんくん? おーい、こっち見てよオルソンくん!」
「………………うぅ……………………うわぁああああ。わかった。もうわかったぞ! お、お前の手は汚くない! だ、だが見せびらかすな! ききき貴様の手には邪悪な心を浄化する力が宿っているのだからな!」
なんだそれは? お前勝手に設定作り出すなよ。ほら見ろ、ちあきだってこんなに困ってんじゃねぇ――
「え! 私の手にそんな力が宿ってるの!? うっそぉ! オルソンくん見てみて! 私の手! きれいでしょ! へへ~、浄化しちゃうぞ~~~!」
「くぅうああああああああああ! やめろ! お前の手はおれには強すぎる! くっ! なんてことだ! おれの白かったはずの髪の毛が、貴様の手でこんなに赤く染まっていくではないか……!? むおわあああああああああああ! くっ! お前運がいいな! おれはここで去る! だが次あったときは容赦しない! さらばだ!」
「あっ、行っちゃった……。なんなんだろうねあの人。変な人だねー」
「あ、あぁ……、まぁな…………」
おれはちょっぴり悲しいものを見てしまったかもしれない。けどよ、親友のああいう姿を見るのもなかなか面白いよな。おれはちあきに見られないように、こっそりと掌で口を隠して笑うのだった。
他の中学校はどうだか知らんが、うちの学校ではクラス分けは昇降口前で先生が配っている名簿によって知らされる。おれたちは黄色の名簿を受け取って上履きに履き替え、廊下で来たるべきクラスの詳細を確認した。ちなみにちあきと手を繋いでの登校を他の奴らに見られたが、概ね「え!? ちあきちゃん付き合ってんの!? マジ!?」「手繋いでる~~~! やだ青春!」「ねぇねぇとなりの男誰!? めっちゃぱっとしないんだけど!? え、えぇ!? あの人いくら払ったんだろ!?」とかなんとか、ちあきに関しての評価ばかりで、おれに対してはほとんど黄色い声はなかった。まぁ当然っちゃあ当然なんだが、「いくら払ったの」って……。さすがのおれも傷つくぞ!
「あっ! 春斗くんあったよ! わーい私たち一緒のクラスだね! 今年一年間よろしくね! あ見てみて! オルソンくんもいるよ! みんな一緒で楽しそーだねー!」
「ん、あぁそうだな。楽しみっちゃ楽しみなんだが、まさか竜一まで同じクラスとはなぁ……」
「あ! あそこにオルソンくんいるよ! おーい!」
ちあきが手を振って呼びかける先には、あいつなにしてんだ? トイレの陰に隠れる竜一の姿があった。
竜一はなにか敵を探すように辺りをきょろきょろと見回したあと、胸を張って堂々とこちらに歩いてくる。よくは知らんがターミネーターとかに出てきそうなカンジだ。ドッスンドッスンこちらに近付いてくる。歩くの遅いぞとか言っちゃいけない。彼には彼なりの流儀があるんだよ! わかってやれよ!
竜一はちあきの前に立つと、顔を真っ赤にしながらも腕を組んだ。なんちゅう見栄だ。
「ふん。なんだ貴様も我が同胞か。やれ騒がしい女は嫌いなのだがな。まぁいいだろう。ところでエヴァン春斗よ、お前先ほどはこいつのことを妹と言っていたが、それは本当か? 何やらお前らが付き合っているという噂が流れているのだが」
「事情を話すと長くなるんだけどよ、まぁ妹でもあり恋人ってとこだな。妹っつっても義理の妹で、昨日から付き合い始めたんだ。名前を秋元ちあきって言う。こいつけっこう騒がしくて危なっかしいところあるけど、意外としっかりした一面もあったりするから、まぁ同じクラスのよしみとしてよろしく頼むぜ!」
「ふん、おれは女は嫌いだ。だが貴様が仲良くしろと言うのであれば、その通りにしてやらんこともない。せいぜい感謝することだな!」
「なんだこいつクソめんどくせぇ! おれ今までたしかにこいつのことめんどくさいなって思ったことなんどもあったけど、今までで一番めんどくさくなってる!」
はっ! 今ごろ気がついたが、こいつちあきのこと好きになってんじゃねーの!? ややこしくなるから是非やめていただきたいところだが、人の恋心をバカにしたくもねーな。うーん、禁断の三角関係が出来上がりそうなそうでもなさそうな……?
「……貴様、今なんと言った? おれが面倒な男だと? なぜそう思うのだ? 貴様の方がよほど面倒な男だろうが。むしろおれほど愚直に生きている人間などそうそうおらんぞ!」
「どこで見栄はってんだお前! 裏で暗躍してるとかなんとか言ってるくせに、愚直に生きてるとかもう矛盾でしかねーよ! つうかお前の設定なんだっけ? うちの中学校の近くにある『黒のアジト』とやらを破壊するのがお前の目的だったっけ!?」
「貴様ァ――――! ここで言ってはいかんことをすらすら述べおって! 機密事項だとあれほど申しただろうが! 貴様にはデリカシーというものがないのか!?」
「お前はもっと常識を身につけろ! デリカシー以前の問題なの! そういうのは頼むから今年中に卒業してくれよ……! 親友であるおれが恥かくだろうが!」
「貴様は親友に恥などと申すのか? 人間生きていれば色々あるだろう、そして恥を掻くこともあるだろう。それを批判するのはいかがなものか」
「お前意外とセンチだよなぁ! 厨二病のくせにメンタルよえーのどうにかしろ! わかった! 言ってることは理解できる! すげぇ人間的! だけど厨二病キャラ貫いてお願いだから! 恥ずかしいよ! おれもう恥ずかしくてお嫁に行けないレベルだよ!」
「貴様の言動はいちいち面倒だ。だからクラス内でもおれ以外に親友がいないのだ、そうだろう? くく……おれが親友でよかったな」
「わかった。わかったよ。お前の存在価値はよくわかった。あれだろ? お前も厨二病キャラやってるけど、おれがいないところだとそのキャラ貫けないんだろ?」
「……」
「黙っちゃった! 悪かった! お前もキャラ保つのたいへんだよな! おれの発言が悪かった! 撤回するよ!」
「オルソンくんオルソンくん! ところで黒のアジトってなに? へへ、私そういうネタ大好きなんだよね~!」
「だから機密情報だと言っただろうこっ、このメス豚がぁ! 何度言ったら分かるんだこのボンクラが! お前には耳がついておらんのか? 理解できるだけの脳みそが足らぬのか? 足らないのなら義務教育を受け直してくるのだなぁ……くっくっくっ!」
「義務教育だよ! 私今義務教育まっただ中だよ! オルソンくん……闇の組織と戦いすぎて頭おかしくなっちゃったの……?」
「なに? 貴様ぁ、我の精神状態をおもんぱかっているのか? なるほど、貴様は気遣いのできるいい女だな。よし、特別にお前に許可をやろうではないか。おれと血の契りを結ばないか? さすればお前はおれにいつでもアポイントでき、おれといつでも繋がることができる」
「春斗くんごめん……、彼の言っていることがよくわからないんだけど……」
「あぁあれだ。お前にはわかりづらいかもしれんが、要するに連絡先を交換してくれとこいつなりに頼んでるんだ。ライン交換してやってくれ」
「な、なんだそんなことだったんだ! いいよオルソンくん! 私とライン交換しよ! えーっと、QRコード読み取りでいい!? はい! 私のコードだよ!」
「む! 貴様のコードは世に存在する七つの秘宝よりも美しい……! くっ! おれの目には直視できぬほどの神々しさだ! き、貴様……! 前世のどれだけの善行を積めばこんなに美しいコードが完成するのだ!? お前まさか前世女神だったりする!? だったらおれにチート能力を分けて下さらぬだろうか!」
「怖い! 怖いよ春斗くん! この人目が血走ってるよ! なんか特殊能力とか欲しがる気持ちは私にも理解できるけど、さすがにこの人怖いよ! 何か別世界の住人って感じがするんだけど!」
「悪いな……! こいつをこんな風にしちまってんのも、全部おれの存在の責任かも知れない……! すまんちあき!」
「なんで春斗くんが謝るの!? 悪いの全部オルソンくんだから! だからあやまらでよ春斗くん!」
「それにしてもなんて美しいコードなのだ……! これだけ美しいコードは珍しいぞ……! これがアカシックレコードという奴か………………!」
それはお前がライン交換あんましてねーからじゃねーの、とは言わないでやろう。こいつの名誉のためだ。言わない方が幸せなことだってあるからな。つうかこいつのライン持ってんの、学校に何人いんの?
ライン交換がすむと明らかに分かりやすく竜一は笑顔になった。お前ちょっと可愛いな……とか思っていると、チャイムが鳴った。
よ れ い で あ る !
おれたちは焦るようにして教室に向かった。全員同じクラスだから、なんかウキウキする。ちあきなんて鼻歌を歌ってやがる。ったく可愛い奴め。おかわいい奴め! おれはちあきの手をまた握り直した。べつにこれは純愛系のラブコメではないので、イチャイチャしたいい感じの甘い雰囲気が流れているわけでもない。実際顔を赤くしてるのはおれだけで、ちあきの方はもはや木の棒を握りしめているような感じだった。おれって木の棒以下なのかよ……。
そしておれはある衝撃的な事実に気がついてしまった。ふとした瞬間に竜一の方を見やると、あれ? あれれ……? おっかしいな――! なんで竜一くん鞄持ってないのかな!? 今ごろ気づいてしまったおれもおれだが、あのときはなんとなく荷物はクラスに置いてきたのかなと思ってしまっていた。でもよくよく考えればおかしい。
「竜一……? お前鞄どうしたんだよ?」
「よくぞ気づいた我が同胞よ! お前もしや邪眼の持ち主だなそうなんだな!? それとも千里眼の持ち主か……? そしておれは裸眼の持ち主だ! コンタクトなどクソ食らえ!」
「聞いてねぇよ! お前おれの質問に答えてねーよ! さっさと答えろこのアホが!」
「……なんだ貴様ハ。まさかおれに盾突こうというわけではあるまいな! おれの必殺『炎神光鋼拳』が発動したら、お前などたちまちのうちに海の藻屑となるのだぞ! ちなみに鞄は教室に置いてきた」
「しょうもない理由だった……。お、お前なんだか急に調子出てきたじゃねぇか! それでこそいつもの竜一だぞ!」
「そうであろうそうであろう! なにせおれは朝に弱い人間だからな! しかし、八時三十分を区切りに、おれの精神状態は徐々に加速していくのだ! アクセラレーション! ふっ、はははは! 川原礫大先生もビックリなくらいの加速ぶりだろう! おれにはお前らが止まって見えるぜ!」
「なんですって!? オルソンくんすごいね! じゃ、じゃあ私も止まって見えるってこと!?」
「あぁ! 静止画のようだ! 我が輩はもはやスペックホルダーなのかもしれん! 貴様など時を止めている間に、一網打尽にしてくれるわ!」
「わーすごいね! 私単体なのに一網打尽にできちゃうなんて、オルソンくんまさか無敵のバーサーカーだったりするね! その心狂気だね!? 狂喜乱舞だね!?」
もはやこいつらの会話の意味不明さは、素人が特殊相対性理論を理解するくらいに難解であろう。うーむ、おれも言っていることが意味分かんなくなってきたな。まぁだが、世の中にはナンセンス小説というものが存在するのだ。『不思議の国のアリス』だって、最初読んだときはよくわからなかったし、今もよくわかってなかったりする。アリス? なぜあなたはアリスなの? ねぇ教えてよアリス!
「ほう。強靱と名乗るのもまた一興だな。精神状態がある一定のラインを超えたときだけに、異常な力を発揮する。くく……お前など消し炭だ秋元ちあき!」
「な、なんだって――!? 私消し炭にされちゃうのー!? わー、死にたくないよー!」
こいつら意外と意気投合してねぇか? 何か意外と会話成立してるっつうか、内容はあれだけど傍から見ててものすごく楽しそうだ。え、笑顔が眩しい……! って言うか竜一の奴、笑ってやがる! あいつがめっちゃ楽しそうに笑ってやがる!
「私の名前はダークプリンセス秋元! 私のビームを食らった者はたちまち石化してしまうのだー! わっっはっはっは!」
ちあきがウルトラマンみたいなポーズを取って光線を送る。対する竜一はびくともしない。な、なんだってー! おれはとりあえず合いの手とばかりに叫んでやった。こいつらに付き合う義務はあんのかね? って言うか早く教室行かないとマズいんじゃね?
「秋元よ。お前に最後の審判を下そうではないか。プリンとゼリーだったら貴様はどちらを選ぶ!?」
「な、なんていう究極な質問! うーん、う~~~~~~~ん? そ、そうだなぁ! ふだん食べたいのはゼリーだけど、死ぬ間際に食べたいのはプリンだよ!」
「なぬ? 貴様は最後の晩餐はプリンがいいと申すか? なるほど、おれも同意見だ。な、ならば今宵、我とともに戦いに行かぬか? クリスタルハウスに……、とっ、とととととともに行かぬか?」
「??? 春斗くん、ごめん私わかんないんだけど、くりすたるはうす……ってどこにあるのかな?」
「お前わかってやれ。クリスタルハウスって言うのはうちの学校の近くにある喫茶店の名前だよ。そこで一緒にプリンでも食べないかと誘ってるんだ。わかってやれ」
「プリン! いいね! よーっし、じゃあみんなで行こうよ! この三人で! ね!?」
「ぬぅ……。ま、まぁよしとしようではないか。何だ小娘、お前プリンが好きなのか? くっ、くくっ、貴様もガキだな……。まぁよい。よいだろう。ふふ……」
キモいぞお前。って言うか放課後喫茶店か……。まぁお好み焼き屋の手伝いもあるっちゃあるケド、時間くらい作れるかな。今日五限で終わるらしいしな。
「へっへ~~、プリン! プリン! ぷっり~~~~~~ん!」
めっちゃ上機嫌である。竜一、お前ナイスだぞ! たしかにお前は二人きりで喫茶店行きたかっただろうけど、こんだけ喜んでくれてんならよしとしようぜ! な!
「…………くっ………………!」
しかし竜一は本当に悔しそうに呻いているのだった。