3 ここでようやく本編始まるのかこのお話
我が家はお好み焼き屋だったりする。ってこれもう何回も書いたな。読んでいる側としてはこんなこといちいち説明されても困るだろ……みたいになっちまうよな。すまんすまん! 悪かったなお前ら!
おれはジョッキを片手に二つ持って座敷席に向かう。イヤーこれってお好み焼き屋の醍醐味だと思いませんかね? 思わねーって? うんおれも思わない。っつうかべつに酒飲むことが目的なんだったら居酒屋でもいいんじゃねーのとか言うツッコミは控えておこう。世のお好み焼き屋で働いている方々に怒られちまいそうだ。
「春斗くん見てきれいに焼けたよ!」
「お! お嬢ちゃんめっちゃうまいね! どれこっちのも焼いてくれ!」
「はーい! ちょっと待っててねぇ!」
とてとてと駆けていくおれの義妹。すげーなあいつ。あの性格でちゃんと接客できんのかと思ってたけどよ、おれよか優秀じゃねぇか……。たまに注文確認怠ったりすることあったり、お皿割ったりコップ割ったりしやがるのは玉に瑕だが、それ以外の面では案外お客さんに人気だったりで、超可愛いって詰みだな。うぜぇ。って言うか親父までおれよりちあきを頼みにする始末じゃねぇかよ……! おれの立つ瀬がなくなっちまうだろ! まぁもともとバイトよりも使えない人間扱いされてんだけどな! 世の中不平等だ!
「お嬢ちゃん可愛いね! 幼稚園生なのにちゃんとお手伝いできるなんてねぇ――!」
「ぶぐ――っ!」
おれは思わず噴き出してしまった。もうね、我慢できなかったんだ。これ我慢できる奴がいたらおれの元まで時速百キロで飛んでこい! 幼稚園生……! 幼稚園生って……! おれは仕事のできない劣等感から『ザまぁ見やがれ! ばーかばーか』と義妹をこっそり腹の中で見下してやった。おれってクズだな……。け、ケド世の中の兄貴ってだいたいそうなんじゃねーの? よくできた妹を持つと嫉妬するんじゃねーの? 兄の立つ瀬とか居場所とかなくなって、寂しい思いをして劣等感心の中でぶつけたりするんじゃねーの?
義妹は言われた言葉を理解するのに時間が掛かったらしく、しばらくぼーっとしていたが、やがてだらしのない笑みを浮かべた。――ん、待てよ? だらしのない笑みって?
「え、えへへ~~~~、そうかなぁ。わ、私仕事できるかなおじさん!?」
ダメ! ダメだよちあき! お前いくら何でもチョロすぎるぞ! あれだ! こいつ大学生とかになったら簡単に男に引っかかってお持ち帰りされちゃうタイプのダメな女の子だ!
「おいちあき働け。むこう注文まってんぞ」
「あ! はーい!」
「けっ! なんだよボウズ! おれたちはちあきちゃんと楽しく会話してるって言うのによ――! 青くせぇガキが!」
客が突っかかってくる。なんだとこら。ははーん、さてはこのおじさんは大して学生時代に恋愛してこなかった男だな。おれはお客様に対して、こっそりと中指を立てた。ばーかばーか
お店はいつものように繁盛していた。なんだろうな、たしかにろくでもないおじさん方の客は増えたような気がするけど、こういう人たちがきっちりとお金を払ってうちの商品を食べてくれるわけだ。そう考えると嬉しくもある。お客様は神さまかも知れない。仏様か。いやお客様は人間なのでお客様だな。ごめん、うちべつに大手スーパーでも高級レストランでもないからよ。
「ふぅおわったねー。ねぇ春斗くん! 打ち上げ行こうよ打ち上げ! 私ケーキ食べたいな!」
「黙れ! おれは今猛烈に傷ついているんだ! なんでお前なんかが人気を得て……おれが……ちゃんと働いているおれが……!」
「春斗くんも~、そんなこと言っちゃダメだよ! 春斗くんは私よりも仕事できるんだからさ! さぁ明日も張り切っていこ~!」
「「おー!」」義理の母親と親父の声。ちょっと待って。なんかおれだけ置いて行かれた気分だぜ……。
「あぁそうだ、春斗お前にちょっと後で話しあるけーな。ちょいとばかし面かしな」
「言い方! おれなんかしたの!? え!? ごめんな! おれが出来損ないな息子で悪かったな!」
「ふふ、そんなことないわよ春斗くん。あなたは素晴らしいお子さんだわ! さぁ早く私と結婚しましょう!」
「再婚したばっか! 二人も夫もちたいの!? あんたの価値観歪んでるよ! なにこの人たち!」
「さぁ春斗、私の部屋に来なさい。あぁちあきちゃんもきんしゃい。ご褒美にチュッパチャップスあげるからね~!」
「わー、ホントに!? おじさんありがと! へへ、私おじさんについてく!」
「ダメな典型例! 小学生に見せたら一番ダメな典型例! お前本当に大丈夫か!? 将来が不安になってくるレベル! いやおれの将来も不安だけど、そんなおれですら心配になるレベル!」
「まぁまぁ春斗くんったら。心配はいりませんことよ。さぁ早く私たちの愛の部屋にいらっしゃい? ふふふ……」
「もうダメだこの家族……」
おれは肩を落として彼らの部屋に向かうことにした。って言うかいいんだろうか。夫婦の部屋って入って大丈夫なのだろうか――
――ってのはさすがに杞憂だったな。おれは部屋に入るなり「あ、ふつうの部屋だ」と呟いてしまったくらいである。ふつうに真っ白いベッド(大きい、二人分かな?)に、ソファとテレビ。うーむ、正直大人の玩具的なものを置いたりはしていなかった。うん健康的!
「さぁさ、お二人さん座りなさい。いいかい、これから話すことは絶対に他の人には言っちゃダメだぞぉ?」
「はーい! わかったよおじさん!」
「おおっとこらこら。私のことはパパと呼びなさいといったはずだぞ?」
「うん、わかったよパパ!」
「こらこらこら! いや義理の父だから正しいけどさぁ――! なんかあぶない! 塩素系漂白剤くらいなんかあぶない! 使い方正しければあってるけど、なんかあぶないんだよ!」
「うるさいぞ春斗。うるさくするなら追い出すぞこら」
「あんたが呼んだんだよねぇ――! 出て行ってもいいなら出てくよ!? おれなんのために呼ばれたの!?」
「うーむ、そうだったな。たしかにお前を部屋から追い出すとろくなことにはならんだろう。特にこの話は、きっちりとお前たちには聞いてもらわんと困るからな」
え? なんなのこの空気。さっきまで親父たちふざけていたはずなのに、なんか流れる空気が一変したって言うか、あまりにもシリアスなムードに入っていた。明らかに違いすぎて異国に来た気分だ。さっきまで飛行機に乗っていたのに、ハワイに着いた途端『あっつここ! なにここサウナ!?』と思ってしまうのに似ている。いやハワイ行ったことないから分かんねーけどさ、なんかそんな感じする。
親父はわざとらしく咳をして、義理の母親は「ふふふ……」とこれまたなんの意味があるんですかそれと突っ込みたくなるくらいの笑みを浮かべており、義理の妹はチュッパチャップスをペロペロとなめている。お前本当に中学生か……?
「んで、親父? 話したいことってなんなんだよ。くだらない話だったら本当に怒るぞ?」
「むぅ……。残念ながらこれは本当に重大なことなのだ。特にくろばとの再婚が危うくなってしまうような、な」
くろば? 言われて気づく。アァそういえば義理の母親の名前が『くろば』だった。自己紹介の時に名前を聞いたはずだったが、あまり印象に残らなかったのでスルーしてしまったらしい。
しかしくろばさんとの再婚に影響を及ぼすこと……? ま、まさかおれに弟か妹がもう一人できるって言う話だろうか。それはそれでめでたいことだ。面倒を見るのがたいへんだって言うんだったら、おれとちあきで面倒を見てやろうじゃないか。
「むぅ。お前もしかしておれたちに新しく子どもができているとか、そんなことを考えているわけじゃなかろうな」
「おれの思考読んだのかよ……。ズバリその通りだよ。って言うか考えられるのが、おれの頭でそんくらいだった」
「違う、とだけ言っておこう」
「なんだよ。あんたやけに濁すじゃねぇか。らしくねーじゃねぇか! もっと堂々と言いやがれ! あんたはおれの親父だろうが! なぁそうだろ――!? 考えたって仕方ねぇ――! 親父言ってたじゃねぇかっ! なよなよするのは日本男児らしくねぇって! じゃあ息子にその姿を見せてくれよ! 期待してるぜ親父! 悩みがあるなら息子に打ち明けてくれ――!」
おれは晴れやかに言い切ってやった。そうだ、家族なら隠し事はよくねーだろ? おれの悩みは親父やくろばさん、ちあきの悩みになって、逆に家族が悩んでるんならおれはいつだって相談に乗ってやらぁ!
「む、そうか! お前っていい息子だなぁ!」
「親父………………。泣くなよ………………てれんだろ」
「そ、そうだよな! うぅすまん! ………………では言うぞ!」
「おう! どんとこい!」
「――――再婚したはいいが、くろばの両親に挨拶しておらんのだ」
「クソ親父――ィ!」
「ちょっと春斗くんダメだって! どっから持ってきたのそのカッターナイフ! 父親! 実の父親だよ春斗くん! 抑えて! 抑えてよ! 私も初耳だったから! ってぇえええええええええええ! 話ついてないの!?」
「おせーよ! お前は納得できんのかよこの話!」
「で、できないと思うよ! 私だって結婚するときはちゃんと相手の親に挨拶しに行くモン!」
「だよなぁ――!」
奇跡だった。おれとちあきで意見が一致した。珍しいこともあるモンだなぁ、としみじみ嬉しくなっていると、ハッと現実に引き戻された。なぜなら話はまだ終わっとらんとばかりに親父がなにか言いたそうにしているからだ。こ、このクソ親父……! まだあるってのかよ!
いいだろう聞いてやろうじゃねぇか――! 家族なら隠し事はなしだよなぁ――! クソ、とんだブーメランだ……!
「で?」
「で、とはなんだ?」
「まだ言いたいことがあるんじゃねぇのか? おれとちあき呼んだってことは、なんかおれたちに頼みたいことがあるってことなんだろ?」
「お、おう……! 察しがよくて助かる!」
「んで、その用件は?」
「お前らに恋人同士になってもらいたい」
「「――――――は!?」」
おれとちあきは揃って声を上げた。なんだって? おれとちあきでこ、恋人……!?
恋人ってあれだよなぁ? 街中ところ構わずイチャイチャしたり、デートでなんかよくわからないハート型のストローで『それ本当においしいの?』って言いたくなるようなジュース飲んだり、キスしたり、あ、あげくの果てにはCまで行っちまうって言う、世にも恐ろしい関係性のことか――!?
おい、おいおいおいおい嘘だろ――!?
「ちょ、ちょっと待ってくれ親父! 落ち着いてくれ! おれはまだ話がよく理解できてねぇんだ。え? おれとこいつが恋人? なんで? その話と、あんたが挨拶すませてないで勝手に婚約したって言う話と、どう繋がってくるってんだよ?」
「そうだったな。お前は賢い息子だ。ベリークレバー。違うな。ソウクレバーな息子だ! それでこそ私の息子だ! 愛しているぞ我が息子!」
「気持ち悪いから! いいから話進めろ!」
「そうだったな。ご、ごほん……改めて説明するぞ。実はな、向こうのご両親がいらっしゃるのだが、くろばいわくものすごく怖いらしい。キレると手がつけられないらしくってな。それを聞いたらおれ、怖くなっていけなくなってしまったのだ」
「なにを被害者面して語ってやがんだこのクソ親父! 好きな女の人と結婚したいならきちんと挨拶すませてこい!」
いかん。おれは思わずキレ気味に正論を吐いてしまった。僕の悪いクセだ。しかしこの親父を見てるとどうも……いやキレたくなってくる。当然じゃね? おれ間違ったこと言ってる? もしかして狂ってるのおれの方なの……?
「いやーその通りって言うかぁ! 怖くって怖くってしょうがなくてぇ! 布団かぶってしばらく数ヶ月くらいブルブル震えてたんだけどぉ! ある日天啓のように閃いちゃって! 『あれこれ届だしゃ勝ちなんじゃね?』って言うこと閃いちゃってぇ! で勢いで出してきちゃった!」
「落ち着いて! 落ち着いてよ春斗くん! 拳で語ろうとしないで! 私も今同じ気持ちだよ! いくら何でもそれはないんじゃないかなぁ……と思っている最中だよ! このパパ最低だよ! ケド抑えて! 春斗くん世の中には抑えないといけない欲望もあるんだから!」
「くっ……! すまねぇ……! おれはお前に諭されるとは思ってなかった……!」
本当にそうだよ……。おれはなんでこんなに熱くなってるんだろうか。いや熱くなるような事柄ではあるんだけど、もうちょっと自分を律さないとな。すーはーすーはー。呼吸の安定は心の安定という。いでよ安定の呼吸! 二の型なんちゃら! すんません鬼滅あんま詳しくないですファンの方々本当にすんません!
「わかった。親父の言いたいことは分かった。納得はできねーけど理解はできることではあるからよ」
「さっすが我が息子――ぉ! いいねいいね! お前超優秀な遺伝子ィ!」
「ぶっ殺すぞこの親父…………………………!」
マジで腹立つな……。腹立ちすぎて本当にぶん殴っちゃうレベルだよ? いいの? やるよ? 本当にやっちゃうぞ! いいんだな! うら! ……うえーいビビったぁ! 小学生かおれは。
「それで、まだ話が見えねーぞ。あんたがくろばの両親を恐れていることと、おれとこいつが恋人同士になるってことのつながりが」
「そうそれだ。おれが言いたかったことはまさしくそれなのだ。あー、つまりおれが言いたいのはな、『おれがくろばさんと結婚したかったから結婚した』という事実ではなく、『うちの息子が相手の娘に恋をしてしまったから、仕方なく成り行きで親も結婚してしまった』という口実を作りたいのだ! どうだカンペキだろう!」
「カンペキじゃねーよ!」
おれは思わず立ち上がってしまった。一体全体どういう思考回路をすればこんな考えが出てくるんだろうな。おれは驚きで宇宙まで飛んでいってしまいそうになる。思わず銀河鉄道を越えちゃうレベル! 車掌さんもビックリだね!
「ちょっと待ってよパパ! 私いきなり……そんなこと言われても……心の準備って言うものができてないよ!?」
「それはそうだろうなぁちあきちゃんよ。だがパパのためにここは一肌脱いでくれんじゃろうか。頼む! この通りだ! 好きなもんなんでもかっちゃるけんな! なんだったらパパがお小遣いあげちゃうぞ!」
「えー! いいの!? やったーパパ大好きだよー!」
おれは喜んでパパの元に行こうとする茶髪ギャル(義妹)をせき止めた。まてまてまて! お前はちょっと待て! って言うかもうお前動くな喋るな! ダメ! お前もう人間としてあぶないから!
「お前ダメに決まってんだろ! つうか話聞いてたかちあき! おれたち恋人同士になるんだぞ! そんなの承服できんのかお前は――!?」
「はっ! なんてうっかりしていたんだろう私は――!? そうだった! 春斗くんの恋人にならないといけないんだった! うわどうしよう! べつに友達にしてもいいかなとは思うけど、恋人カァ……。うーん」
本気で悩まないでくれる!? いや確認とったのおれだけど、こんなにも考え込まれるとこっちとしてもショックだ。いやまぁこいつ顔はけっこう可愛いし、身長ちっこくて小動物っぽいところあってモテそうだから、案外男には困ってないのかも知れない。そう考えるとおれにもチャンスがあるってことか? たしかにラノベオタクってところは……おれと相通ずるところあるから、意外とうまくやっていけんじゃねーか?
――とか考えてしまったこの頃の自分をあとでものすごく悔やむことになるんだが、まぁもちろんこのときのおれは中学二年生だったし、恋愛してみたい年頃だったし、親父の言うことにも賛同してやってもいいかななんて考えちまっていた。
「どうかな? 君達の判断で構わないぞ? だがここは父さんを助けて欲しいんだ」
「あんたは黙っててくれ。これはおれたちの問題でもあんだぞ?」
「うーむ、たしかにそうだな。すまなかった」
おれはきっと冷静な判断力を欠いてしまっていたのだろう。じゃないとこんな話すぐにご破算だ。だって親父が向こうの両親に挨拶しに行かなかった口実を作らされるんだぜ? 納得するって話の方が馬鹿げてんだろ?
だがこのときのおれは馬鹿げてしまっていた。そうバカだったからだ。平凡な学力を持つ中学二年生なんてそんなもんである。
おれは声を裏返してこんなことを義理の妹に聞いてしまった。ふつうだったら断る話を、断れなかった理由。それはおれにもワンチャンあんじゃね? と思ってしまったからに他ならない。
「わ、私はいいよ! だってちょっと面白そうだもんね!」
ちあきはそう答えた。おれはといえば、ちょっとその返答に嬉しくなってしまっていた。そう、偽物とは言え、恋人ができるという口実を貰えてしまったからである。
そう考えると……親父、結構うまい提案持ちかけたな、とも思うわけで。
実際問題――おれはうなずいてしまっていた。いやまったく、うなずいちまったぜ。とほほ……。もっと冷静な判断できてりゃあよかったのになぁ。
「わかったよ。あんたの言うとおりにしてやる。ただし期間を設けよう。じゃないと契約成立できない」
おれは言った。
「むぅ。べつに期間は設けん。ただ今度向こうの――つまりくろばの両親に挨拶しに本格的に行こうと思うちょる。そんときに事情を話そうかと思ってる。お前ら子ども同士が付き合っている、という事情をな」
「なるほどなぁ。つまりその瞬間にラブラブな感じを出せばいいってことだな? なぁんだ、至って簡単じゃねぇか! 要は振りをすればいいってことだろ?」
「それなのだけれどねぇ――」
おれが意気揚々と答えると、くろばさんが口を挟んできた。くろばさんが口を挟むと言うことは、なんとなくおれにとってはいやな予感しかしないのだが、おれは仕方ないので振り返った。くろばさんの困ったような顔が、おれの網膜に飛び込んでくる。
「うちの両親、目だけはいいのよ。昔から私が嘘をつくとすぐに見抜いてくるの。つまりなにが言いたいかというと、小手先の恋愛模様だけじゃあの人たちには通用しないってこと」
イヤー、最悪だ。ここまで来るともう話は見えてきた。
親父はぽんとちゃぶ台に拳を載せて、言った。
「お前らには偽物とは言えど、きっちりと恋人同士になってもらいたいのじゃ。まぁひとまずのミッションとしては、我々から見てちゃんと恋人に見える、ちゅうラインをクリアしてもらいたい。わかるか? 小手先の恋愛など彼らには通用せんちゅうことじゃ。だからあの人たちの家に行くまでに、お前らは恋愛の練習をしてこいっちゅうことや!」
「マジかよ……! おれたちに本格的に恋愛しろって言うのかよ!? お、おれなんて恋愛未経験だぞ!? ち、ちあきの方はどうかは知らねぇけど、そんないきなり恋愛しろなんて言われてもむりがあんだろうが!」
「大丈夫だ! そこはわしらに任せときぃ。おれたち新婚夫婦が、真の恋愛ちゅうモンがどんなもんかみせちゃるけんな! 安心してお前らはおれたちの真似をしとりゃあいいんじゃ!」
「ってすげぇ生々しいところまで行かねぇよな! さすがにそれは……! おれはいいけど…………ち、ちあきの方が……!」
「ま、まさかキスとかするってこと!? わあなにそれ楽しそう!」
めっちゃ乗り気だった。お前のメンタル一体どうなってんの? 精神構造をレントゲン写真に撮ってやりたい気分だ。って言うかお前の生々しいラインってのがキスまでなんだな。なんか安心した。
「と、とにかく! けっきょく期限あんじゃねぇかよ! んで、いつまでに仕上げてくればいいんだ?」
「それはお前らに任せるッちゅうとるんやアホタレが! お前は本当に大日本の義務教育受けとんのかアホが! お前らがきちんとラブラブできるようになったら、向こうの家に行くことにするんや! わかったかバカ!」
「バカ――ァ!? あんたにだけはバカと言われたくない! ッつうかあんたらのせいじゃん! 両親説得できなかったの、全体的にあんたが悪くね!?」
「ご、ごめんなさい……」
「反省した!? そこはお願いだから反論して! 親としての威厳を見せてくれよ……! 情けねーぞ親父ィ……」
とにもかくにも、だ。
こうしておれたちの不思議な生活が始まってしまった。