11 日常パート多すぎて本編忘れかけている件
おれたちの関係性はステップスリーまで到達した。キスまではいってない。だがおれはこれはこれでよかったと思ってんだ。だ、だってキスだぜ! おれどうしたらいいのか分かんねーよ! もしちあきと顔が近付いたら、おれ速攻で顔離しちまう自信あるぜ? 情けねぇなんて言わせねーよ! これを読んでるお前らだってきっと同じような事態に遭遇したとききっとおれみたいな行動に出るに決まってる! そうだそうだ!
……閑話休題だぜ。ったく、今思えばどうしてこんな事態になっちまったんだかな。考えれば考えるほどドツボにはまる。
一応ステップスリー――つまりデートまではいったおれたちの関係性だが、考えてみれば本当に仲良くなったと言えるだろうか。おれはちあきにどんな思いを抱いているのだろうか。
正直なところわからん。自分の感情が一番わからねーよな、人間って。ちあきとかは表情に出やすいから喜怒哀楽もはっきりしている。だがおれは自分の感情がわからない。ボットかお前はといわれても、もしかしたらそうなのかも知れないと答えちまうくらいにはわからねぇ。
おれはちあきのことを、こ、恋人として扱えているだろうか? 恋人だと認識しているだろうか? はたまた、おれはちあきにふさわしい恋人になれているだろうか?
おれはちあきに対して愛情を向けているだろうか。恋愛感情を抱いているだろうか? お、おれはちあきのことがもしかして好きなのか?
とか考えちまう。だが考えている時点で――きっと答えはノーなのだろうとも思っちまう。だってそうだろ? 本当に好きな相手は自分でわかるもんだ。なんとなく目で追っちまう、そしてそんな自分の姿が恥ずかしくなっちまう。そういう相手がきっと本命なのだ。おれにとってのその相手はかなみであって、まぁこの前みごとに撃沈しちまったんだけどな。マイラブリーエンジェルかなみたんはおれの親友であるオルソン竜一のことが好きらしい。あれはもはや推し、というレベルではなく、崇拝というレベルだった。マジで怖かった。おれはオルソンを絶対に許さない。そう、絶対にな!
とか何とか考えてみても、おれたちの四角関係は揺らぎそうになかった。これがきっとラブコメで、純然たるフィクションであるならば、ちあきと結ばれるというエンディングも考えられたかも知れねぇ。ケド現実はいつだってさっぱりしている。淡泊だ。ヒラメの切り身くらい淡泊だぜ。だからおれがちあきに向けて恋愛感情を向けることはないし、きっと向こうがおれに対して恋愛感情を抱くこともねぇんだろうとは思う。おれにいいところなんてこれっぽっちもねぇしな。
だから現実はフィクションではないという結論に落ち着く。おれがちあきに向ける感情は、ずばり――親愛である。この一ヶ月くらいの間でずいぶんちあきと親しくなった。だが何度も言うぜ、おれはちあきに対して恋愛感情を持ってはいない。これは重要なことだ。
だからおれの感情も、メンタルも、これからずっと揺らがない。
そう思ってたんだ。
まったく、現実って言うのはいつも小説より奇なりなんだな、ってことを実感した。おれはこれまでちあきとの間でくだらない日常を繰り広げてきた。この物語を作品として世に送り出すのであれば、編集者は『日常系ラブコメ』と銘打って世に出すだろう。おれだってそうしたい。これは日常系だ。ふつうじゃない日常。だからこそ楽しい。まるで生徒会シリーズのような作品。おれの大好きな作品だ。おれはそんなような毎日を送ってきたし、その日々が楽しかったと言えるだけの自信はある。
つまりなにが言いたいかって? あぁ、なんだ、おれにもわからん。超わからん。因数分解って言う言葉くらい理解できないね。あれ三年になったらやるらしいぜ。三年生の教室をちょっと覗いてみたときにわけのわからない数式が躍っていて驚いたものだ。おれは来年あんなモンを勉強すんのかよ。親父……助けてくれ。おれは大好きなマイダディに助けを求めたが、「店を手伝え」と無碍に返された。何だよあの親父。ちょっとくらい話聞いてくれたっていいじゃねぇか。
えーっと、わりぃ。いつものおれのクセですげぇ話が逸れた。って言うか時系列どうなってんだこの文章。まぁいつものことだと思って見逃してくれや。たかが中学生が書いた文章なんだぜ? 寛大寛容なラノベ読者は見逃してくれると信じてるぜ。
なんの話だったっけ? あぁそうそう。この物語の最終局面を描かなくちゃならないんだったな。
結論から言おう。
いきなりシリアスになる。
……いやまぁ一応保険を掛けておくと、そこまで急降下するわけじゃない。それだけは言っておくぜ。ただまぁ、今までのペース配分と全然違うじゃねぇかとか言う突っ込みが入りそうなので、一応な!
ってなわけで、そうだな、まずはお好み焼き屋の中の話から始めるとしよう。気楽に読んでくれ、気楽にな。
――――――――――
「ありがとうございやしたー! …………ふぅ、ちくしょう終わったぜ! アー肩こったな! ゲームしてぇ。ちあき、片付け終わったら一緒にゲームでもするか!? おれアタックブラザーズの最新バージョンやってみたくてしょうがねぇんだ! な! いいだろ! 頼むぜちあき! 一生のお願いだ! なんでもするぜ!」
「春斗くん違う! この間の春斗くんじゃない! 私望んでなかったよ! 春斗くんが元に戻るの望んでなかったよ!」
「ひでぇないきなり! 店終わった途端に態度変えるなよ! おれビックリするだろ! ビックリししすぎて顎落ちちゃうかと思ったわ!」
「春斗くん……違う。違うんだよ春斗くん。この間の春斗くんはもっと、積極的でいい感じだったんだよ……うぅ………………こんなんじゃなかった」
「だからなに!? おれお前になんかしたっけ!? おれたしかお前に対して最悪なことしでかしたよねぇ! あれおれの記憶違いかなぁ!? 嫌われてるかと思ったのに、なんで昔のおれの方がよかったみたいになってんの!?」
「春斗よ……のう春斗よ。お前もなかなか可哀相な性格をしとるのう。自分で気づかぬとは……」
「だから親父までなんだよ! 気色わりぃないきなり肩掴むな! 男にやられんのが一番キモいわ!」
「むぅ。若い頃はこうやって女の子をホテルまで誘ったものだ。しかし息子にまでその血が受け継がれているとはおもわなんだ……」
「思って! 受け継いでねぇよ! 受け継がれてたら今ごろおれ虚しくトイレで一人よろしくやってねぇわ! なんなんだ! おれは一体なにをしでかしたって言うんだ!」
本当に怖い。おれは一体全体ちあきにどんなプレイを強要したのだろうか。もしかしたらおれの脇腹辺りから触手が生えてきて、ちあきをいたぶりにいたぶったのかも知れない。そ、それもなかなかいい感じだとは思うが、まさかそんなことはしてないはずだ。第一おれの脇腹から触手が生えてくるという設定は存在しない。
「なんでこんなのに戻っちゃったんだろう……。ねぇパパ、私たち死のうか」
「いきなりなに言ってんだてめぇ! 死ぬほどのことをおれはしたって言うのか!? 悪かった! 謝る! この通りだ! ほら土下座! 土下座だぞ~~~マイラブリーエンジェルちあきた~~~~ん! ほらこっち見て! あ! それともワンワンプレイがお好みかな~~~~~、ほら、ワンワン! ご主人様なんでこの私にご命令をだワン!」
「気色悪い! やめてよ春斗くん! 人間としての尊厳はどこ行っちゃったの!? さすがにそれは見過ごせないよ! いいから顔を上げて! あ~~~~~~~んもう! なんでこの間の愛しの春斗くんは一過性なの! 継続的にあれがよかったのに!」
「わしもそう思うぞ。春斗よ、お前改心して元に戻れ」
「どうやって!? 元に戻ってんだけど!? これがおれの素なんですけど!」
「私の知ってる春斗くんじゃない……」
「お前の知ってる春斗だよ! なんなんだよ……。おれは一体どれだけ悪いことをしちまったんだ……」
おれは頭を抱えた。この悩みは一生消えることはないように思えた。多分おれはウェルテルよりも悩んでいるだろう。まぁウェルテルが誰だがよくしらねーんだけどな。
ひと心地ついて、お茶などを飲んだ。場所はお客様がよく使う座敷席である。こうやってお店の中で一家談らんっつうのもまた楽しい。何かこう、ふだんおれたちが使わないところを使うってなんかいいよな。わりぃ日本語がおかしくなっちまった点については目を瞑って欲しい。まだ中学生なんだ。日本語は不慣れだし国語の成績は三なんだよ。ふつうだろ? それがおれの人生なのだ。
しかし緑茶がうまい。こんなにうまいお茶を飲んだのは何年ぶりだろうか。一年ぶり? いいや昨日ぶりだな。よくよく考えてみれば毎日飲んでる。カレーとかは毎日食っていれば自然と飽きるがお茶は飽きることがないのはなんでなんだろうな。やっぱり体の構造がインド人ではなく日本人だからなのか。ちなみにカレーという食い物はインド発祥と言うよりもイギリス発祥らしいぜ。どうでもいい知識だろ? 昨日読んだ雑学本で知ったぜ!
お茶をすする音、時計の針がカチカチ動く音だけが室内に響き渡る。おーっとそうだった、他にも換気扇の音と空調の音がするぜ。うちはお好み焼き屋だから臭いには気を遣ってんだ。二階の寝食を行うスペースまで臭いが侵蝕されちゃあ困るからな。え! 今おれ『シンショク』って言葉と掛けたんだけどわかった!? おれの渾身のギャグを皆様にもわかって戴けただろうか!? ははん! おれってば天才だな!
ふぅ。落ち着こうか。なんの話だったか。こうやっていっつも脱線しちまうのはおれの悪いクセだと思う。ちあきにも『春斗くんってなんかいつも独り言多いよね! ストレスでも溜まってるの……?』と本気で心配されたことがある。しかも隣のちあきの自室にまで聞こえていたらしい。それは悪かった。けどよ、独り言を気づいたときに喋っちまうって言うクセ、意外と誰にでもあると思うんだがそうは思わないか?
「あーお前ら! おれは重大なことを今からいわなければならん! 覚悟して聞けい!」
「なに! 大事な話ってなに!? もしかしてお誕生日パーティーでもするの!? わーい! 私ケーキ買ってくるね!」
「待て待てちあき! お前毎度のごとく暴走しすぎだ! そろそろ落ち着きという言葉を覚えたらどうなんだよ!」
「春斗くん、いたいよひっぱらないでよう!」
おれはちあきの首根っこを掴んで正座させた。はいよくできたな。あとで散々褒めてやろう。おれは何様なんだという話だが、正直ちあきを放っておくとろくなことにならない。こいつはもしかしたら願望を叶える能力でもあって、いつか地球を滅亡させるかもしれんからな。え? なに? んなわけねーだろばーか? はは! 悪かったごめんなさい。
「貴様らには重大な任務があったな。覚えているだろうか」
「覚えてるもなにも、そのためにおれたち偽物の恋人演じてるわけだからな。くろばさんの実家でおれたちがいちゃつく瞬間を見せつけることで、彼らを納得させるって言う寸法だろう? おれたちが恋愛関係にあるから、成り行きで親同士も恋愛関係になっちまいましたと。だから結婚を認めてくださいと」
今考えるとめちゃくちゃな作戦だよな。なんでおれはそんなことにも気づかなかったんだろうか。あれか、恋は盲目って奴だろうか。でもおれはちあきに恋愛感情なんぞ抱いちゃいねーぞ。偽物の恋人は、やっぱり偽物の恋人でしかない。親愛感情は湧いたけどな。
「わかってるよパパ! パパのために絶対成功させるよ! 春斗くんと私めちゃくちゃいちゃつくからね! もうこれ以上ないってくらいいちゃつくからね! 何なら途中で膝枕して耳かきまでしちゃうくらいやるよ! 私それくらい春斗くんのこと大好きだからね!」
「よくもまぁそんな白々しいこと言えるよなお前。って言うか無茶してもしょうがねーんじゃねーの? おれたちは今まで通りの会話をしてりゃ、それなりにくろばさんの両親も納得してくれると思うぜ。気楽に行こう気楽に」
「ダメだよ春斗くん! いつだって恋愛は本気で向き合わないといけないんだよ! じゃないとお互いの気持ちが離れていって、最終的にはどっちの利にもならない結果が待ち受けているんだよ! 引き裂かれた愛は、もう一生戻ってこないんだよ! その辺わかって言ってるの!? 私少女漫画大好きだもん! それくらい! それくらいラノベ読みの春斗くんなら理解してよ!」
「いやラノベと少女漫画じゃ対象読者ほとんどちげーから。まぁでも一生懸命やりたいって言うお前の感情は尊重するぜ。たしかに手を抜こうとしたのはおれの落ち度だな。すまん。やるからにはしっかりやるか!」
「そう来なくっちゃ春斗くん! あれだね! 気合いの入った春斗くんはまるでウルトラマンみたいだね!」
「適当! 褒め言葉が適当! なんか今また目あったぞ! べつに褒めるとこねーなら褒めんな! アクア様かお前は!」
「へへ~~~、春斗くん悶絶しちゃうよう! もうバカっ!」
「いてぇよ! 肩叩くなよ! 痛い! お前意外と力つえーな! その細身のどこにそんな筋肉詰まってんだよ!」
「春斗くんが私をカニ扱いした……」
「なんでだよ! べつにカニ扱いしてねーよ! 身が詰まってるとかそういう意味かよ!? わかんねーよ! お前に合わせんのたいへんだわ……」
おそらくこいつと結婚する奴は苦労するだろうぜ。なんたって自由奔放でマシンガンみたいな奴なのだ。あっちへ行ったらあっちへ行き、こっちへ行ったらこっちへ行き、太陽に向かったら太陽に連れて行かれる。精神持つだろうか。たしか恋愛というのは本人のメンタルが最重要だと聞いたことがある。つまり自滅が一番よくない。いつだって精神状態はクリーンにしなくちゃいかんのだ。
「春斗くんと私ならなにも問題ないよ! ね! ママ!」
「え、えぇそうね! あなたたちの成長は著しいわ! 私の目玉が徐々に眼窩から飛び出そうになるくらいには、あなたたちは素敵な恋人同士になっていると思うわ! 私の目は節穴じゃなかったってことね…………くふふ」
「せめて母親くらいはふつうのキャラであれよ……」
おれは嘆いた。嘆いて嘆いて、穴に落ちたいくらいに嘆いた。なんなんだうちの家族は。ホテルへの誘い方を教える父親に、頭のおかしい母親。そりゃあちあきも頭おかしい奴になっちまうよな。遺伝って怖い。これべつに差別してるわけじゃないぞ(コンプライアンス)
「あーいいか! とにかくお前らには明日! そう明日だ! 最終決戦に向かってもらう! もちろん我々もついて行く! 異論は許さんぞ! 明日は盛大にいちゃついてもらうからな!」
「ちょっと待て明日!? 早すぎだろ!? 準備とかさせろよな! お、おれたちまだ心の準備ができてねーよ!」
「ふぅ、このどら息子よ。お前はまだまだ勉学が足りんのう。いいか、人間の脳というのはだな! 考えれば考えるほど悩みが増加していくシステムが備わっているんじゃ! だから決断したらすぐに実行する! これが我が家の掟だろうが! うだうだ悩むくらいなら、スパッと早いうちに終わらせておいた方がいいだろう。やるべきことなら手短に済ますのがラノベ主人公というものではないか?」
「おれべつにラノベ主人公じゃねーし、古典部シリーズをラノベと定義するかどうかも議論の余地も生まれそうだが……まぁ親父の言い分もわかるわ。たしかに下手に時間長引かせるよりも、スパッとやった方がいいもんな!」
「そうだ! それでこそ我が息子だ! ホテルに行くことを渋っているような男にはなってはならんぞ!」
「誰も聞いてねーよ! くろばさんあなたどう思うわけ!? こんな親父と結婚してよかったわけ!?」
「当たり前でしょう? ねぇ春斗くん? お父さんのことバカにしたらダメなのよ? たしかにこの人はどうしようもない人で、『無職転生』のパウロみたいな存在だけれど、それでも立派に働いてお金を稼いでいる方なのよ! 私の目は節穴じゃないの。だから私は彼に一生付いていくわ!」
愛が重い……。これが女の愛って奴か。言いたいことは分かるが、何というか、盲目なんだだな本当によ……。世の中狂ってるとかは言いたくねーが、なんだろうな、常識が歪んでいく感覚がしてきた。この世の理はどこにあるのだろうか。それは神のみぞ知るってか? 何という皮肉! つうかお義母さんラノベ読んでたんだな意外だ……。
「わかったなら今日は早いうちに寝ておけ。………………相手はものすごく手強い。おれもくろばさんから話を聞いた限りだと、奴らは元ヤンだそうだ。マジで怖いから気を付けろ?」
「ちょっと待って!? じゃあくろばさん何者なの!?」
「? なにを言っているのかしら? 私は第七代『グランドスフィア』の総長よ!」
「衝撃の事実! 親! 親が怖い! 継母をこれ以上怖いと思ったことはない! おれの継母がこんなに恐ろしいわけがない! もう本当に一家全員狂ってやがる!」
「なにを言うか春斗! お前の親は狂ってなどおらんわ! 見てみろ、ちあきちゃんだってうなずいておるではないか」
「そうだね、春斗くんなんか最近変だもん。私たちが言っていることに対して激しく突っ込むし、わ、私の体に乗ってくるし……、本当になんなんだろーね」
「悪かった! マジでその件は謝る! おれは媚薬を生み出してしまったんだ!」
「あらぁ? 一体なんの話かしら? 私聞いていないのだけれどぉ? ねぇ春斗くん? もしかして一線越えちゃったとか、そんな話じゃないわよねぇ? ねぇなに目を逸らしているのかな春斗くん? こ っ ち み ろ」
こえええええええええええええええ! グランドスフィア第七代総長マジこえええええええええええ! おれこの人敵に回して生きていける自信ねーわ! 親父! よくあんたこの人落とせたね! おれ尊敬しちゃう!
おれは頑張ってくろばさんに目を合わせた。冷や汗だらだらである。すごい、お尻から大量の汗が出てズボンとパンツをべちゃべちゃにしている。
そのあとおれは何とかくろばさんに事情を説明し、謝り倒し、その後就寝した。
――――――そして夜が明けた!
おれは車の中でもまだ悪夢にうなされていた。けっきょく昨日くろばさんからは怒られなかった。寛容な人だ。おれが素直に謝ったら許してくれた。もう二度としません、後生ですから許して下さいとなんども頭を下げた。まぁそういうならとくろばさんは許してくれ、なぜかちあきに至っては「お母さんよけいなことしないでよね!」とプリプリ怒っていた。わけがわからん!
まぁそんなことはどうでもいいんだ。おれは今日の決戦にしっかり備えなければいけないのに全然眠れなかった。くそう、社畜の方々っていつもこんな思いをしているのだろうか。
しかしくろばさんのご両親は元ヤンだったと言うことで、おれは今まで持ち得ていた自信をけっこうな勢いで削がれていた。元ヤンか。そりゃ親父もビビるわけだ。もしかしてイレズミとかしちゃってるんだろうか。だとしたらもう帰りたい。って言うかおれ冷静に判断して、帰ってよくね? なんで一番の部外者に一番の責任を押しつけようとしてるんだこの親父。しかも運転席で鼻歌なんぞ歌っておるし。こういう自由なところにくろばさんは惚れたらしく、くろばさんも楽しそうにハミングしている。
そしてちあきはというと、これもこいつでわからんもので、「おじいちゃんとおばあちゃんに会える~~~~! へへっ! 楽しみだなー。お小遣い貰えちゃうかな~~~~でへへ!」と呑気なことを言っている。お前の脳みそはお花畑でできているらしいな。
おれは胃が痛いのを我慢して――ふとあることに思い至った。
ちあきのおじいちゃんおばあちゃんってことは、かなみのおじいちゃんおばあちゃんでもあるってことだよな。ん? 違うか? いやあってる。くろばさんの姉の娘がかなみだ。つまりかなみも元ヤンの血を引いていると言うことか。なるほど……納得した。あいつの性格の部分はそこに由来しているというわけか。なんちゅう伏線回収だ。望んでねーよこんちきしょう。
そうこうしているうちに車はくろばさんの実家にご到着した。長かったぜ。そしておれたちの戦いはこれからだ!
…………はぁ、打ち切りって便利だよな。しかしおれの戦いは本当にこれから始まるのである。勘弁してくれぇ。




