レモン
これはひょんな事からとあるアンドロイドのマスターになった人間とそのアンドロイドのお話である
目覚ましの音が鳴る、時刻は朝6時いつも通りの時間に起床する、いつも通りの朝しかしいつも通りじゃないのは
VOID「マスター、おはようございます」
彼の存在だ、昨日廃品置き場のパトロール中に倒れている状態で発見したアンドロイドだ、VOID特有のマークが未だに光っていたため近ずき様子を見ていると突如目が開く、どうやら上手く立ち上がれないようなので起きるのを手伝おうと手を貸すと手違いでマスター登録されてしまったらしい、そのまま放置する訳にもいかず、上司に報告するためにもパトロールを切り上げ署に戻り報告する
上司「処分は追って連絡する、それまでお前がそいつを管理しておけ」
竜胆「分かりました、私の家で保護しておきます」
上司をひと睨みして足早にその場を後にした。
私の家は1人で住むには大きすぎる家で大きな庭もついていた、部屋も有り余っていたので一室まるまる彼に貸し与えた
ちょうどよく長期休暇(有給を溜めすぎて上司にいい加減消化しろと注意された)でほぼ1ヶ月は休みだ、いつまで家にいるか分からないが彼のために色々準備が必要だろう。
とりあえず朝食をとることに、料理を始めようとしたところで彼が
VOID「マスター、私がお作りしましょうか?」
と提案してくる、今どきはアンドロイドに家事を任せる家庭も少なくないしかし我が家には家事用のアンドロイドは一体もいない、基本自分で家事炊事を行っていたからである、少し悩むも頼んでみることにした。
竜胆「じゃあ、お願いしますね」
VOID「了解です、マスター」
少し心配ではあったが彼に任せて座って待っていることにした、料理を誰かに作って貰うなどいつぶりだろうか、手持ち無沙汰になり本を読む、しばらくすると
VOID「おまたせしました、マスター」
と声がかかる、そして目の前に出されたのは…なんでしょう?え?これはいったいなんなのでしょう?白米と味噌汁、ここまでは分かります、この黒くてプルプルと震えてる謎の物体はなんなのですか?これがかの有名なダークマターというものなのでしょうか、あまり聞きたくはありませんが彼にこの謎の物体の正体を聞いてみる
竜胆「あのぉ、この黒い物体はいったい…?」
VOID「鮭、ウインナー、目玉焼き、そしてマスターの健康を考え色んな栄養素を取れるように色んな素材を混ぜ合わせた餡掛けです」
竜胆「なるほど??あとなぜこんな真っ黒なのでしょうか?」
VOID「時間をかけるといけないと思いいっぺんに焼いていたのですが火力が足りなかったので火力をいじって出力を上げたのですが上げすぎちゃいました。」
最後に「てへぺろ」とつきそうな言い方で苦笑いが出る、頼むから人の家のコンロ勝手に改造しないでくれというツッコミを抑え最後に1つ質問する
竜胆「で、味見は…?」
VOID「しましたよ、味覚機能を切って(ボソッ)、成分分析も行い沢山栄養素が含まれていることは確認出来てます!健康にいいはずです!」
今何か大事な事ボソッと言われ、勢いで誤魔化されたような気がしてより一層不安になる、だが出された以上残すわけないはいかない
竜胆「い、いただきます」
一縷の望みに賭け1口食べる、味は…理解し難い今の人類には早すぎる味だった、そして1つの決意を固めた今後は今まで通り自分で料理しようと。
私の食べてる時のなんとも言えない表情で察したのか、少ししょんぼりとした面持ちで洗い物をする彼、少々申し訳なさを感じつつもあれを美味しそうに食べるのもなかなか難しいと若干開き直る。
彼が洗い物が終わったタイミングで話しかけようとした時ふと思い出す、彼を拾った際彼には記憶が無いと言われ名前も思い出せないと言われた事を、呼び名が無いのは少々不便だと感じ少し考えてみる事にした。
5分ほど思考をしていると彼が声をかけてくる
VOID「マスター?大丈夫ですか?」
竜胆「少々考え事をしていました、すみませんね」
VOID「いえ、大丈夫なら良いのですが、何を考えていらしたんですか?」
竜胆「あなたの名前ですね、名前が無いというのは少々不便だと思いましたので」
VOID「僕の名前ですか、マスターにつけてもらえるならどんなものでも構いませんよ」
考えること15分、1つ思い浮かぶ
竜胆「麗月…なんてどうでしょうか」
麗月「麗月ですか、いい名前ですね」
竜胆「麗月は『何をするにもよい、めでたい月』という意味があるんですよ、記憶が無く色々不安かもしれませんが、あなたのこれからがきっと上手くいくようにとそういう独自の解釈も含めてみました」
麗月「マスター、ありがとうございます」
竜胆「さて、じゃあ麗月君、しばらくここで生活する訳ですし、色々必要になりそうな物の買い出しに行きましょうか」
麗月「了解です、マスター」
2人はそこそこ大きめなショッピングモールに買い出しに行く、食材や衣類等必要そうな物を買っていく、麗月君は初めての場所のせいか2回ほど迷子センターにお世話になっていた、そのため仕事用の携帯のGPSを登録させた、これで迷子になっても自分の場所が大体は分かるだろう。
ある程度買い物を済ませ最後に立ち寄ったのはホームセンター、苗木などのコーナーを見ていると
麗月「マスター、園芸されるんですか?さっきから苗木ばかりみていますが。」
竜胆「そうですね、元々家の庭に桜の木が植わってたのですがだいぶ前の暴風雨の時落雷が直撃してしまいまして、桜の木がダメになってしまったのでこの長期休みを機に新しい物を植えようかと」
麗月「そうだったんですね、桜見てみたかったです」
竜胆「私も残念です、ですが気分転換も兼ねて果樹などを植えてみたいのですよね」
色々な苗木やある程度育ててある果樹などを吟味していっていると、麗月君が1つの果樹の前でジーッと立って見つめていた。
それは、檸檬の苗木だった
竜胆「そんなに檸檬の木が気になりますか?」
麗月「んー、なんでか自分でも分からないのですがすごく気になるんですよ、これがいわゆる直感?というものなのでしょうか、僕が言うのも変な話ではありますが」
竜胆「直感…ですか、じゃあ檸檬の木にしますか」
麗月「え?いや、僕の事は気になさらず、マスターが植えたい物を選んでください」
竜胆「まあまあ、いいんですよ、これといって惹かれるものが無かったので」
麗月「本当にいいんですか…?」
竜胆「ええ、いいですよ」
麗月「ありがとうございます、マスター」
しかし少し問題があった、ある程度育った状態の物しか売っておらず見た目に反してなかなかの重量があった、輸送にするほど家が離れていない上に送料がそこそこ高い、どうしようかと悩んでいると、麗月君が軽々と持ち上げ運び始めた、こちらを見て「どうかしましたか?」と一言、少々無茶ぶりかなっと思いつつ肥料などの重量物の運搬もお願いするとなんのそので持ち上げる、その光景は圧巻であった、それを見かけたちびっ子の口がポカーンとしばらく開いたままだった。
家に帰宅し色々準備してから早速苗木を庭に埋める、最近の植物は品種改良に品種改良を重ね大体どこでも極寒じゃなければ育つようになっている、肥料も忘れずに混ぜる
お店の人によると大体育っているもので後2、3週間もすれば実がつきはじめるとのこと、農家程の物になるとは期待してはいないが無事育ってくれれば何よりだ。
一通り作業が終わる、レモンを食べたことの無い麗月君のために帰り際にレモンを2個買っておいたので切り分け、瓶とはちみつを用意する、それを興味津々で眺める麗月君
「お試しで食べてみます?あまりこのまま食べるようなものではありませんが」と声をかけると私の顔とレモンを交互に見て「いいんですか」と顔で訴えてくる
苦笑いしつつ輪切りを1個半分に切り麗月君に渡す、恐る恐る口に運び1口パクリと食べる、俯きながらフルフル震えてるのを見てやっぱり酸っぱいですよねそのままじゃなどと思いつつ「大丈夫ですか?」と声をかけると
麗月「マスター…これ…すごく美味しいですね!」
竜胆「えぇ?」
予想とは全く違う回答が返ってきた、目を輝かせながら満面の笑み、驚きすぎて今まで出した事の無い素っ頓狂な声が出た。
普通の人なら見ているだけで口に唾液が溜まる光景
麗月「マスター!もっと貰っていいですか!?」
竜胆「え、ええ、どうぞ…」
今までにない元気で勢いのあるおかわり要求をされ驚き過ぎて弱々しい返事しか出来なかった
結果的にはちみつレモン用のレモンは全て麗月君の中に消えていった。
それからというもの麗月君はレモンにお熱になったようで、毎日のように檸檬の木の世話をし日記も付けている様子、まだかなぁまだかなぁとずっとソワソワしている、何やら研究?のような事もしているようで檸檬の木の成長に良い物などを調べては試している模様、ここまで来ると最早関心までしてくる。
そして早1ヶ月が過ぎた、私は休みの内は基本庭に近寄る事は無く書斎に篭って読書をしたり、たまに外に出て散歩をしたりしていた、長期休みはあっという間に過ぎ去り仕事に戻る、しかし来年辺りに異動する身であるためやる事と言えば引き継ぎ作業ぐらいだった、だが驚いた事もあった、休み明け早々に聞かされたが麗月君がそのままパートナーロボットに指名されたと知らされた事だ、上は何を考えてるのやら、上からの指示を拒否出来るわけもなかったが半ば押し付けられた感覚だった。
とはいえそれ以外は特に何事もなった
そんなある日、麗月君に庭に来るよう言われる、どうやらレモンが無事実ったらしい、どれどれと少し期待をしつつ確認すると目の前に広がった光景は…まさに異様だった。
目が痛くなりそうなほどの黄色黄色黄色、レモンが所狭しと実っている、むしろ緑の面積が少ないぐらいだ。
言葉を失い唖然とする私を横目に麗月君は非常に満足そうな表情をしていた
ウッキウキで「じゃあ収穫しますね!」と言われるが言葉を返すことも忘れていた。
ドサッドサッと積まれていくダンボール、最終的に4箱パンパンのレモンが収穫された、もう何処からツッコんでいいのやら、そして麗月君が「これでしばらくレモンには困りませんね!」という言葉に対し思いっきりゲンコツをかまし、「やり過ぎです」と答えそそくさと自室に戻る、殴った手は赤く腫れていた。
そんなこんなでレモン狂のアンドロイドが誕生してしばらく、何も変わらず平穏な日々を過ごしていた、しかしとある大きな事件が起きた。
内容はどこぞの大きな会社の社長が何者かにより殺害されたようだ、第一発見者は社長の秘書、会議時間間際になっても社長室から社長が出てこず不審に思った秘書が中に入ると社長が血を流し倒れていたとの事、頭に1発確実に弾丸が撃ち込まれていた、会社周辺のゴミ捨て場に事件に使われたとみられる凶器の拳銃が捨てられていたそうだ、指紋も検出されその会社の1人の男性職員の指紋と一致、容疑者は40代男性職員A、数ヶ月前仕事上で不祥事を起こし左遷、左遷される前は課長を勤めていたらしい、犯行当日より推定3日から4日前から連絡が取れず行方がわかっていない状況、凶器をまだ隠し持っている可能性も考慮され緊急で捜査本部が立てられ、捜査会議が開かれた。
異動される身ではあるが一応まだ今回の事件の担当部署所属のため私も会議に出席する、ちなみに麗月君もパートナーとして隣の席に座っている、しかし妙な事に周りの捜査員達はアンドロイドを連れている者の方が少なかった、アンドロイドとのツーマンセルが義務化されたとはいえ受け入れ難い者も少なくない、そういう所が見て取れた。
どうやらまだ会議を指揮する係長が来ていない様子、少しすると会議室の扉が乱暴に開け放たれ1人の男が姿を現す、彼が係長そしてすぐ側にはサポートのアンドロイドも一緒にいる、ズカズカとふんぞり返りながら歩き壇上に立ち皆に向かって「それでは捜査会議を始める」と一言、遅れて来た事に対する謝罪は無いようだ。
彼についてあまりいい噂を聞かない、今となっては係長という立場にいるが功績を挙げたからという訳ではなく親の七光りという噂や、パワハラ、サポートアンドロイドをいじめて遊んでいるなど色んな噂が絶えない。
そして彼は開口一番とんでもない事を口にする
係長「犯人は40代男性職員Aで決まりだな、証拠も出揃っている、他に考えることもないだろ、こいつの足取りを掴み見つけ次第確保せよ」
捜査員はどよめく、各捜査班の報告や情報整理をフル無視し、即決で方針を決めたのだ、あまりに会議らしからぬ会議に流石に物申す者が出る
捜査員A「係長、流石に断定するには早いかと…我々の報告を聞いていただいた上で決めていただきたい」
そう1人の捜査員が口にすると係長はその人をひと睨みし、捜査員に歩み寄る、そして
係長「俺の指示が聞けないのか?」
座っている捜査員に対し上から目線で威圧する
捜査員A「しかし…」
なおも引き下がろうとする捜査員に対し怒りをあらわにし
係長「下っ端はな!!俺の指示に従っていればいいんだよ!!」
そう言い放ち手を振りあげ、捜査員の顔目掛け手を振りおろす。
捜査員は咄嗟の事に驚き衝撃に備え目を瞑る、しかし係長の手は捜査員の顔に当たることはなかった、捜査員が目を開けると、いつの間にか係長の後ろに見覚えのある男性が立っており係長の腕を掴んでいた。
捜査員A「竜胆さん…!」
ここまで怒るのも久々だろう、ただただ静かに冷酷に
竜胆「やめなさい…」
腕を掴んでいる手に力が入る、何処にどう力を加えれば痛みが増すか、熟知しているためそこに全力で力を込める
相当痛かったのか係長は急いで手を振りほどく、そしてこちらを睨みつけ
係長「くそっ!誰かと思えば馬鹿な落ちこぼれじゃねーか、お前まだいたのか、俺に歯向かうつもりなら異動だけじゃすまないぞ!」
怒鳴り脅しをかけてくる係長、しかし言い返すでもなくただ静かに睨みつける。
係長はたじろぐ、バツが悪くなったのかもう一度「くそっ」と悪態をつき部屋を出ていく、それにサポートアンドロイドもついて行く。
「お騒がせしました」皆に謝罪をし一礼する。
再び会議室はどよめく、これからどうする、係長は出ていってしまった、解散か?など、方針が有耶無耶になり困惑が広がる。
竜胆「はぁ、仕方ありませんこれがこの部署での最後の仕事ですかね」
誰に聞かせるでもなくボソリと呟くそしてそのまま壇上の方に移動する、私が壇上に立つとピタリと静かになった
竜胆「これから臨時で私が指揮をとります、異議がある者、異動される落ちこぼれなんかに従えるかという者は出てもらって構いません、判断はお任せします」
そう言い放つ、しかし出ていくものは誰1人としていなかった。そして続ける
竜胆「皆さんお久しぶりです、こうやって指揮をとるのは昔の現場ぶりでしょうか、協力感謝します。」
捜査員達に敬意を払い深々と一礼する
竜胆「さて、それでは本題に入りましょう、各班報告をお願いします」
その言葉にともない、各々の班が報告を始める、そして最後の班が報告を終える
竜胆「皆さん、報告ありがとうございます、ここからは皆さんの意見をお聞かせ願いたい、この事件についてどう思うかなどどんな些細なことでも構いません、いらっしゃらない場合私の見解を述べさせていただきます」
手は上がらなかった、「ではっ」と話を続けようとした時恐る恐る1人の捜査員が手を挙げる、先程勇敢にも係長に意見した捜査員だ、「捜査員Aさんどうぞ」そう促す
捜査員A「はい…私はこの事件少し不自然だと感じております」
竜胆「と、言いますと?」
捜査員A「はい、証拠が揃いすぎているそんな気がするのです、見つけて欲しいと言わんばかりの場所に凶器が捨ててあり、指紋もベッタリ、誰にも気づかれず社長を殺す程用意周到の人物が証拠品を残すようには思えません、まるで男性職員Aに罪を擦り付けるかのような…」
竜胆「意見ありがとうございます、私もそこは気になっていました、そもそもただの一般人が銃を入手出来るとも思えません、裏に何者かが関与しているそう考えて捜査した方が良い気がします。」
「とりあえず、方針は当面は男性職員Aの捜索、保護です、裏で何が蠢いているか分かりません、くれぐれも無茶はしないようにしてください、いままで一緒に仕事をして来た皆さんを信頼しています、それでは解散!」
「「「はい!!」」」
気迫のある返事が揃って返ってくる、少し懐かしさを覚えた。
この一部始終を開け放たれた会議室のドアの外で見ている人物がいた、他の捜査員とは一風変わった制服を身にまとった黒髪の男性
彼は「ほおぉ」と関心を示し会議が終わる前にその場を後にする
元々の情報自体が少ない上に証拠品も擦り付ける用に揃えられたような物しかなく会社の監視カメラなどにも不審な人影などは写っていなかった、捜査は困難を極めるそう思われていたが意外な所で手がかりが見つかる、なんと凶器が見つかったゴミ捨て場に荒らし対策用に非公認の監視カメラが設置されていた様だ、この際非公認な事には目を瞑る、監視カメラの管理者に話を通し急いでデータをもらう、確認すると怪しげな3人組が銃を捨てる決定的な瞬間が写っていたのだ。
この情報を元に周辺の監視カメラの映像を見直す、すると怪しい3人組が会社から5km離れた廃ビルの中に入っていくのが確認出来た。
再び捜査会議を開く
竜胆「犯人と思わしき3人組は◯◯廃ビルの中に入っていくのが監視カメラで目撃されました、拳銃などの武装を行っている可能性があります、A班、B班は周辺を固め包囲、C班、D班は武装をし廃ビルに突入C班は裏手非常階段からD班は正面からお願いします、私はD班に加わります。」
「危険をともないます、最悪命を落とす可能性もあります、引くなら今のうちです、誰も攻めはしません」
降りる者は出てこなかった、皆覚悟を決めた表情でこちらを見ている
竜胆「覚悟は出来ているのですね…時刻◯◯をもって作戦を実行します!皆さん死なないでくださいね」
会議を終え準備を整え現場に向かう、張り込みをしていた捜査員と合流をする、どうやら数分前に容疑者3人がまた廃ビルの中に戻って来た模様、作戦通りの配置につく、流石に突入前となると少し緊張を覚えた、そんな様子を察してか麗月君が話しかけてくる
麗月「大丈夫です、マスターは僕が守ります」
幾分か緊張が和らいだ、そんな気がした、そして作戦実行の時間、それぞれの班に合図を出す、突入開始。
D班、私と麗月君を先頭に4名が後ろに続く麗月君以外にアンドロイドはいない他の者は連れてきていないようだった。
5階建ての廃ビル、外からは分からなかったが中は壁が少し残っている程度でほとんどは柱が剥き出しの状態だった、各階慎重に確認していく、1~3階まで特に異常なし、4階についた時点で異変に気づく、出入口に何かの機械が設置されている、更にC班から無線が入る
無線『こちらC班、裏手非常階段4階到着、しかし少し問題が…』
竜胆「何かありましたか」
無線『4階の出入口にのみ真新しい扉が設置されており、鍵もかかっている状態です、アナログな鍵穴ではありますがだいぶ複雑な形状のようでピッキングは困難です』
竜胆「そうですか、こちらも出入口に不審な機械を発見した所でした」
麗月「マスター、予測ではありますが人感知センサーの可能性が高いです、1個だけではないようです、避けるのは不可能かと」
竜胆「どうやらこちらの不審な機械は人感知センサーの可能性が高いようです、避けて通れないようなのでこちらは強行しようかと思います」
無線『了解しました、そちらの突入に合わせこちらも鍵の破壊を始めます』
無線が切れた
竜胆「さて皆さん、話は聞いていたと思います、これ以上の隠密は不可、容疑者達との銃撃戦も予測されます、覚悟はいいですね?」
私の声掛けに皆力強く頷く
竜胆「それでは、突入!」
合図と共に皆が中へなだれ込む、麗月君の読み通り不審な機械は人感知センサーだったようで壁の奥の方でブザーが鳴り響く、ブザーの鳴る方から「侵入者だ!!」などと聞こえてきたそして容疑者達と相対する、人数は7名全員武装は拳銃、激しい銃撃戦が幕を開けた。
そこからは一進一退の攻防が続いた、仲間の奮闘で後1人という所まで追い詰めた、しかしこちらも手痛い反撃をくらっており残るは私と麗月君のみ、他は負傷し自力で撤退出来る者は自力で撤退してもらい無理な者は麗月君が運んでいた
おもむろに残弾を確認する、残りはあと1発、これを外したら近接戦闘に切り替えねばならない、だが相手との距離が離れている、接近しなければならないが相手はまだ弾の余裕があるようでまだまだ景気よく威嚇射撃もしてくる、相手のリロードの隙をつき接近を試みる、少しずつ柱から柱へ、しかし相手もそこまで馬鹿では無かった、何をしたいかの意図を読まれてしまった。
リロード音が聞こえたと思い柱の影から出ると、リロードフェイクだった、まんまと騙された、やってしまった、後悔している余裕は無かった、そのまま無理やり走るそれに合わせ乱射される、後もう少しで遮蔽という所で弾が足に当たる、当たった衝撃と痛みで派手に転け受身をとることもままならなかった。
転けた私を見て勝ち誇った顔を浮かべこちらに拳銃を向けてくる、私は死を悟り目を瞑る、「パンッ」乾いた銃声が1つ鳴る、その直後「キンッ」と金属同士の衝突音の様な音が聞こえた。
恐る恐る目を開けると目の前には麗月君が私を庇うように覆いかぶさっていた
麗月「言ったじゃないですか、マスターは僕が守りますって」
突然の事に焦った容疑者は麗月君に向かって拳銃を乱射する、当たる度に「キンッキンッ」と弾く音がするがたまに麗月君が少しよろめく
竜胆「麗月君!どいてください!あなたの体がもちませんよ!」
麗月「僕はいいんです、ボディがいくら傷つこうが、マスターが無事なら、そんな事よりマスター拳銃をお借り出来ますか?」
竜胆「…何をするつもりですか」
麗月「大丈夫です、信じてください」
私は麗月君をじっと見たあと拳銃を渡した、麗月君は素早く立ち上がりくるりと相手に向き直るとすかさず発砲、麗月君が撃った弾は吸い込まれるかのように相手の拳銃の穴に入っていき拳銃を内部から破壊して見せた
「バキンッ」相手の拳銃から聞いた事のない音が聞こえてきた
そして容疑者は「ひっひぃぃぃ」と情けない声を上げ逃亡を始めたその瞬間
「確保おおおお!!!!」怒号と共に複数の捜査員が逃亡しようとした容疑者に向け飛びかかり抑え込む
どうやらようやくC班が合流出来た様だ
C班班長「遅くなり申し訳ない、なにぶん扉の鍵が頑丈で…って竜胆さん怪我なさってるじゃないですか!すぐに救急車手配します!」
竜胆「反応が忙しいですね、大丈夫です足に当たっただけです、幸い弾も貫通しているので止血処置をすれば自分で歩けますよ」
麗月「マスター、おんぶしましょうか?」
竜胆「ははは、この歳にもなっておんぶは遠慮願いたいですね、せめて肩を貸してもらえますか?」
麗月「お易い御用です」
ふと麗月君の背中に目がいく
麗月君の背中は私を守るために弾丸にさらされ所々外装が禿げ中が見えてしまっているのが見受けられた、しばらくじっと見ていると
麗月「マスター?どうかしましたか?」
竜胆「…直せるから、とはいえあなたが傷つく事はやはり容認出来ませんね、次からは無茶しないでくださいね」
そう言い麗月君の肩をかり頭を撫でた、麗月君は何も言わなかった。
事件のその後は他の捜査員に任せ私は身を引いた、どの道もうすぐ異動も控えていたのでここいらが引き時だろうそう考えていた、大丈夫皆優秀な者達ばかりだなんの心配もない。
異動間近になってようやく異動先の部署が明かされた、何やら新しく出来た課らしく、名前を「ドロ課」というらしい、パートナーロボットは麗月君がそのまま継続するらしかった、まあ麗月君がパートナーなら安心…やや不安はあるが大丈夫だろう。
(すれ違う職員に片っ端から「レモンいります?」と話しかけているのを目撃してしまったが故の不安だが…)
そして時が経つ
竜胆「うへぇ、パトロールの日に限ってまた雨ですか」
麗月「まあまあ、マスターそう言わずに仕事ですから仕方ないですよ」
竜胆「はぁ、そうですね、仕事ですからね、仕方ないですね」
これからパトロール以上に大変な事が巻き起こるとはこの場にいる誰も知らないだろう…
VOIDへ続く…?