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SAVE.EXTRA:青い、蒼い空のような①

 孤児院にいた時、俺は――まだアズールライトを名乗れる前の、ただのアキトは――ある渾名で呼ばれていた。


 化け物、だ。


 今にして思えば、それは仕方のないことだった。王都に突然現れた記憶のおぼつかない八歳の浮浪児、それが俺だ。だがそれだけの事では、孤児院に辿り着いた連中と大きな違いなんて無かった。そもそも過去を語るのに、孤児院は不十分な場所なのだから。


 最初、俺に向けられたのは羨望の眼差しだった。どういう訳か俺には文字の読み書きが出来たからだ。さらに言えば計算まで出来た。指の数以上の暗算を瞬時に行った時はまだ、凄いの一言で済んでいた。


 孤児達の目が変わり始めたのは、孤児院に出資していたアズールライト家現当主カイゼル=アズールライトから大量の本が届いた時だった。夜会で孤児への教育に対する支援を呼びかけた所、貴族が溜め込んでいた古本が思った以上に集まったおかげらしい。


 幼児向けの絵本はすぐに取り合いになった。冒険譚や恋愛物はそろそろ孤児院を出ていこうかという年長達でよく回し読みをされた。そして残されたのは、貴族の子弟を教育するための参考書の山だった。社交術から帝王学まで、擦り切れた物から殆ど汚れていない物まで。


 貴族たちも新しい版と買い替えるために捨てるような気持ちで渡したのだろう。そんな物に目を向ける人間なんて孤児院にいるはずもない……だがそこには暇を持て余していた化物がいた。


 内容は理解出来た、それも一度読んだだけで。誰も読みたがらない本を山積みにして、知識を頭に染み込ませていった。スープを匙で掬いながら、この国の政治形態を反芻した。毛布に包まりながら、頭の中で無数の戦術を試した。時折孤児院を訪れる大人には、世辞を交えて喜捨を募った。孤児院に辿り着いてから、半年もしないうちに、だ。


 俺を始めて化け物と呼んだのは、どこかの商人だった。孤児院相手にすら足元を見るような金に汚いどこにでもいるような連中だ。今年はどこも麦が不作だから去年よりも高くなる……そんな下らない嘘をついていた。


 だから俺は、それは絶対に有り得ないと滾々と説明した。


 海流の周期とその影響を、この国がどれだけ他国と貿易しているかを、不作なら他に何が高くなっているかを。その時の俺の説明はもしかしたら間違っていたのかもしれない。それでも嘘をついていた商人は、顔を真っ赤にしながら逃げるように孤児院を後にした。


 ただ俺を『化け物が』と、吐き捨てるような台詞を残して。


 その時の俺は、ようやくここで自分を受け入れてもらえるなんて舞い上がっていた。覚えた知識で自分たちの居場所を守ったのだから、そうされて当然だと。だが子供という生き物は思った以上に残酷だった。訳のわからない本を読み漁り大人を言い負かした俺よりも、何でこんな奴がここにいるんだと吐き捨てる商人に共感したのだ。


 化け物。陰でそう呼ばれるのを何度か聞いてようやく、俺はそれ以上本を読まなくなった。


 それから俺は年相応の少年らしい振る舞いを覚え、演じた。読破した本の山を理解する事と比べれば、それはあまりに簡単だった。陰口が消え、子供達から信頼され、どこにでもいるようなガキになって二年。


 転機はある日突然訪れた。アズールライト家が養子を探し始めたのだ。

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