穏便に婚約破棄をしたい王子の話
『殿下、この成績は何でございましょうか?王族枠がなければ生徒会に入れないなんて、情けないと思わないのですか?』
『殿下、今の時間は剣術の時間でございます。何故、子息文庫を廊下の隅で読んでいらっしゃるのですか?』
『殿下、孤児院に視察に行くのにその華美な服装はあり得ません。着替えていらっしゃい!』
『殿下!殿下の机の引き出しから、令嬢の下着図鑑がはみ出ています。どこで手に入れたのですか?破廉恥な!』
『殿下、お口にお菓子のカスが付いてます。子供ですか?』
『殿下!』
・・・・・
「・・となっているワケだ。何か穏便に婚約破棄をする方法はないだろうか?」
「穏便にはございませんね」
「そこを異世界人の君に相談しているのだ!」
・・・はあ、この王太子殿下、何かおかしい。私はアズサ・ササキ、日本から転移して来た。
異世界人枠と成績が良かったので、特待生だ。カテゴリーは、平民の特待生。
別に、聖女のスキルがあるわけでもなく、この世界をかえるほどの専門知識を持っていない。
ただ、数学が得意で、化学の知識があるだけ。
私は通学中に異世界転移したので、教科書を持っていた。国の賢者様たちは喜んだ。賢者様たちは数学や化学の教科書を書き写した。私は解説もした。その功績で、報賞金を賜り、学園を卒業するまで、国から生活費が支給されることになった。
もう、日本に戻れないのね。何か、思ってた異世界転移とは違うけども・・・
「前世の記憶がある野心満々のピンクブロンドの男爵令嬢や、無邪気と言う名の無知な転移聖女も現れない。父上は絶対に婚約解消を許さないだろう」
「・・・どこで、手に入れた知識ですか?偏っています!」
「そこを何とか?」
・・・
「まあ、アメリア様。また、殿下が・・・あの黒髪、黒目の転移者と生徒会のサロンでお話をしてますわ」
「生徒会のお話でしょう。ほっといて差し上げなさい」
「でも、あんなに楽しそうに話していますわ。注意なさった方が」
「来年、進級したら、私は生徒会の役員になる予定ですわ。それまで、口出ししませんわ」
・・・
最近、殿下に、悪い虫が付いているわ。王族の婚約者の天敵、異世界人ですわ。
でも、ここで、嫉妬すると、殿下が更に異世界人と「きゃはうふふ、まて~」状態になりますわね。ここは戦略的放置が望ましいわ。
「ねえ、アメリア様は、こう仰っているけど、主の心配を取り除くのが私たち側近の役目ですわ。上級生のお姉様を動かしますわよ!」
側近たちが、それぞれ縁故を頼って、上級生のお姉様を動かした。
アズサは取り囲まれることになる。
「ちょっと、そこの異世界人、最近、生意気でなくって?」
「何がですか?具体的に言ってもらわないとわかりません」
「殿下のことですわ。最近、距離が近くなくって?」
「はあ、殿下のことですか?生徒会なので、話す機会が多いのです。代わって下さい。2年生以上で、成績上位10位以内なら、枠が空いていれば、希望すればなれます。生徒会に平民枠はないので、私は実力で生徒会に入りました。しかし、そう言うのなら、代わって差しあげます」
「「「はあ、生意気!」」」
「あ、殿下~~~~~~」
「「「!!!殿下?どこにもいないじゃない!」」」
「~~~~~の剣術稽古の相手のアルバート君、こっち、こっち!」
「いや~ご令嬢たち、申訳ない。アズサ殿を借りていく。おや、君たちは、成績が振るわない上級生のご令嬢たち!アズサ殿に勉強の相談に来たのかな?」
「い、行くわよ!」
「ウフフフフ、キャハ、ウフフ、アルバート君、行こ!」
「おお、一緒に城下の武器屋に行こう!」
「えええ~~~~~」
「何だ、嬉しいか?実は・・・武器屋の親父が、令嬢用のメリケンサックを開発したのだ。是非、試してもらいたいと」
「あ、それ、面白いかも・・な、ワケないじゃん!」
「頼む。次はアズサ殿の好きなところでいいから、帰りはお洒落なカフェに行こう!」
「ええ、まあ、それなら、いいか」
殿下は、アズサとアルバートのキャハウフフをカゲから、見ていた。
何故、あの異世界人は逆ハールートを狙って、かき乱さないのだ。
言っては悪いけどもアルバートは、騎士爵の二男、この学園にはもっと高位の貴公子がいるのに
私は王の器ではない。毒にも薬にもならない王族枠をゲットして、好きな本を読んで一生暮らしたい。
「アズサ嬢、どうか、逆ハールートを狙って、かき乱してくれ!」
「い、いくら、殿下でも、怒りますよ!」
「そうだ、私と城下町デートをしよう。そして、串焼き屋で、私は王宮の料理は冷めているのにこの串焼きは温かい、これが庶民の味か!と感動するぞ!」
「ちょっと、いい加減にして下さい!」
アズサは怒った。
「いくら、王太子殿下でも、言って良いことと悪いことがあります。そんなに婚約破棄をしたいのなら、アメリア様の前で、
『うるさいことを言うと、プティングの角に頭をぶつけて死ぬぞ!ウヒョーーー』と仰って下さい!それで解決します!」
バタン!とアズサは乱暴に席を立ち。去って行った。
「・・・これが、異世界人の予言か・・良し!」
・・・
殿下は、唐突に、下級生のクラス、婚約者アメリアの前に現れた。
アメリアは一瞬だけ、パァと顔が明るくなったが、すぐに令嬢教育で習った表情が読み取れない顔に戻った。
「あら、殿下、お久しぶりですわ。最近は学園でもお会い・・殿下、何故、プティングが盛ってある皿を持っているのですか?それに・・目が・・」
「うるさいことを言うと、このプティングの角に頭をぶつけて死ぬぞ!ウヒョーーー」
殿下はプティングの入った皿を掲げてアメリアに宣言した。
「・・・・・・え?」
・・何だ。まだ、足りないか?良し。追撃だ!
「ウヒョーーーーー!ウヒョーーーー!」
と叫び。プティングの角を頭にぶつけた。当然にプティングは、砕け。殿下の頭はプティングまみれになった。
「殿下が、更に、馬鹿になったぞ!」
周りは大騒ぎになって、侍従が殿下に上着を掛けて連れていった。
「え、え?」
アメリアは呆然とすることしか出来なかった。
☆一月後
王の裁断は
「まあ、様子見じゃな。婚約者がしっかりしているから、大丈夫だろうと思っておったが、また、ウヒョーと言ったら、廃嫡も考えねばならない」
だった。
しかし、学園では殿下は斜め上にこの事案を捉えていた。
「アズサ嬢、有難う。あの後、アメリアが、急に、大人しくなった。私に優しくなったのだ!」
「えっ!」
『殿下、人には得手不得手がございます。私が、勉強を教えて差し上げますわ』
『まあ、殿下も男の子ですわ。下着図鑑絵モデル付を読んでいても仕方ないですわね』
『まあ、剣術の稽古ですか?アルバート先輩、殿下の頭に衝撃が行かないように、お願いしますわ。そうだ。殿下は鉄兜を被って頂くのは如何でしょうか?』
・・・それって、私、とんでもないことを言ったかも。殿下はアメリア様に心配されている。
良いことなのかな。下級生に勉強を教わるなんて、そうか!この人、プライドはない!そこをアメリア様に説明すればうまくいくかも。
「では、殿下、アメリア様と婚約破棄はなさらないのですか?」
「ああ、アメリアの優しさに気が付いた。私は何て愚かなことを考えたのだろうか」
・・これはダメだ。殿下は勘違いし、自分の信じたいように考えている。
アメリア様の心の負担が大きくなる。
ここは正攻法で、アメリア様に正直に話すしかないわね。
☆☆☆ハーバード侯爵邸
アズサは、賢者の伝手を頼って、侯爵家に手紙を出し、アメリアとの面会を希望したが、すんなり、会うとの返事が来た。
「・・・まあ、そのようなことが」
「はい、私が怒りのあまり、そんなことを言って、申訳ありませんでした」
「まあ、良いのよ。貴方は学園では先輩ですわ。それに、殿下が馬鹿なのは、元々ですわ。想定外だったということ。誰も悪くないわ」
「殿下はプライドがないです。言い換えれば、傲慢ではない。そこが美点だと思います」
「はい、私も、下級生の私から、勉強を教わる殿下を見て、そう思いましたわ」
「「フフフフフフ」」
アメリアの卒業後、二人は結婚をし、後に即位することになる。特に国力が増大することもなく、かといって、国力が著しく下がることもなかった。
ただ、宮廷料理から、プティングは消えた。
最後までお読み頂き有難うございました。