第7話 深酒
「あの、皇帝タヌキジジイが!」
「ちょ、ちょっと!ユーリ!!」
ケビンがユーリの口をあわてて両手で塞ぐ。
夜もふけ、ユーリ、ヴォイド、ケビンの3人は騎士団の待機所に移動してさらに酒を飲み交わしていた。
酒の量も夜がふけるとともに増え、ユーリはすっかり酔っている。
「ユーリ!しぃー!皇帝侮辱罪で投獄されちゃうよ」
もごもごとユーリは何かをしゃべっているがユーリの小さな顔はケビンの大きな手で顔の半分まで覆われていたので何を言っているかは全くわからなかった。
「ユーリこんなに弱かったかな?ヴォイド騎士はお酒強いんだね」
「そんなことないですよ」
ユーリが次から次へとワインを注ぎ飲ませ続けたがヴォイドは顔色一つ変えないで終始ニコニコしている。
「いつもは、もうちょっとまともなんだけど・・・ユーリに幻滅した?」
「いえ、どんなユーリ様も素敵です」
「そ、そう?」
そうかな、とケビンは首を傾げ、にが笑いをした。
「おい!お前!」
ユーリはケビンの両手から抜け出しヴォイドを指差す。
「お前・・・なんでそんなにキラキラしているんだ?」
うつろな瞳でヴォイドを見つめる。
「光の魔法使いめが!そんなんじゃ、わらしは騙せないぞ」
「ユーリ・・・ヴォイド騎士は水の魔術師だよ」
「水か・・・水がなんだってんら。わらしは、火を使えるんだぞ!」
そういうとユーリは手のひらに小さな火の玉を出した。
「!・・・素晴らしい!」
ヴォイドは火の玉をまじまじと見つめた。
「ほおら!しゅごいだろお!お前なんかより、じぇったいに強いんだから・・・」
「もちろんです、私はユーリ様の足元にも及びません」
「ふーん。・・・なのになんでお前が隊長なんだよお」
ユーリは唇を尖らせ、ふぅっと息をはいて火の玉を消した。
「それは・・・私が王女様にお頼みしたのです」
ヴォイドは言いにくそうに眉を寄せる。
「ふーん・・・うわさどーりのクズなんだな」
ユーリは呆れたと言った表情でグラスに残っていたワインを飲んだ。
「ちょっとちょっとユーリ!もう、飲みすぎちゃって・・・ごめんね」
ケビンはユーリからワイングラスを取り上げた。
「いいんです・・・卑怯な手を使った以上は責められて当然です」
「おまえ、ばかだな…」
ユーリはヴォイドの額に人差し指を指すようにグリっと当てて言う。
「・・・討伐隊の隊長なんていつ死ぬかわかんないんだぞ」
ー身分が欲しいからって、まだ18歳なのに命が惜しくないのだろうか、怖くはないのだろうか。
さらにグリグリと指を額に押し当てる。
「死んでもいいぐらい好きなのか?」
(あんな王女を本気で好きなのか?)
「・・・はい!」
その顔に迷いはなく恐れるものなどないかのようで、相手への愛しさが溢れでるような笑顔でヴォイドは答えた。
ー嫌なやつ、なはずなのに…こんな表情するなんて反則だ。
「‥‥まぶしっ」
ユーリはパチンと額に指を弾かせる。
「いたた」
弾かれたヴォイドの額はほんのりと赤くなった。
ユーリはふてくされたように机に突っ伏して目を閉じる。
「ヴォイド騎士はいつから魔力を使えるようになったのですか?」
「お恥ずかしながらつい1年ほど前のことです」
「ええ!それは驚きだな!私も水の魔法を使うのですがあのように繊細な動かし方まずできませんよ」
「…なぜか感覚でわかるんです」
「へぇ、感覚か…ユーリもよくそう言うんですけど、僕には全然わからなくて…」
ユーリは机にふしたまま、ケビンとヴォイドの話を聞いていたが、低い声が耳に心地よくうとうととまどろむ。
夢か現実かあいまいな意識の中、
ユーリは自分が覚醒した10歳の時のことが頭を巡った。
それはユーリにとって人生を変える最悪の出来事だった。
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