第5話 水の魔術師
下記内容を第二話に追記しました。
この国の聖騎士団は主に3つの隊に分かれる。
・国の警備にあたる憲兵隊。
・王家の警護にあたる聖国家兵隊。
・魔物の討伐や他国からの侵略抗戦にあたる聖討伐隊。
アカデミーを卒業し入隊を希望するものはまず憲兵隊に入隊し聖騎士団の基本を学び下積みを経験する。
その後、貴族の子息はキャリア組として聖国家隊に配属される。
聖国家隊は王室警護なので国防が徹底されているこの国では危険の少ない任務だからだ。
それ以外の実力者は討伐隊に配属される。
他国の侵略はほぼないため討伐隊の主な任務は国を囲む森に住む魔物の討伐だ。
そしてそれは大きな危険を有した。
ユーリは公爵家の令嬢だったが圧倒的な戦闘能力を考慮され、討伐隊に配属となった。
翌年には隊長の座につきそれから毎年、隊長に任命されていた。
「ヴォイド騎士、そなたの魔力を見せてみよ」
皇帝が目配せをすると、ヴォイドはゆっくり一歩前に出てグラスにかざした。
するとグラスの水が水柱のように上空に舞い上がり龍の形に姿を変え会場を飛び回った。
そしてヴォイドがパチンと指を鳴らすと水でできた龍は弾け霧雨のように皆の頭上に舞い落ちた。
会場には驚きの声が上がる。
ー水の魔術師か…
水をあれだけ増やした上で繊細に扱うことができるなんて・・・強い魔力の持ち主だということがわかる。
この世界には土、光、炎、水、風の魔術師が存在する。
土と光の魔術師は全魔術師の中で最も比率が多くおよそ8割の者がその属性だ。
この国が栄えているのは土と光の魔術師がその魔力を駆使して農業を行っているからだ。
一方水の魔術師は少ない上に魔力の扱いが難しかった。
炎の魔術はその魔力の強さに肉体が耐えられることがほとんどなく、炎の魔術師は覚醒すると死んでしまうか、運良く生き延びたとしても魔力を封印するしかない。
ユーリが唯一の炎の魔術師と言われるのは、常人とはちがうある能力が魔力を使うことを可能にしていた
風の魔術師は王家のみに遺伝する、と言われているが今の皇帝も皇太子もその能力は覚醒していなかった。
「実に素晴らしい。彼ならいい討伐隊長になれそうだろう。君といい勝負なんじゃないか?」
王は挑戦的な視線をユーリに送った。
「騎士として陛下のご判断に従うまでです」
「いつまでも君一人に頼ってるわけにはいかんだろ。そろそろ後任の教育をせなば」
「…おっしゃるとうりでございます」
「ユーリ騎士に憧れて騎士団に入団したらしい。身分こそないものの実力は保証する」
「…かしこまりました」
なるほど・・・身分のない騎士だから討伐隊長にして死んだとしても問題はないし、騎士団長の役職を与えたら王女の側におくとしても格好がつくわけか。
「そなたには彼と違って立派な身分があるだろう。公爵令嬢として国を支えるような良縁を持ってはどうだ」
皇帝は以前から皇太子とユーリを結婚させたがっていた。
「…まだまだ任務がありますゆえ、ご容赦下さい」
ユーリは権力や地位に関心はなかったが、皇帝はユーリを皇太子妃にして、その人気と強さを手に入れたかった。
「なに、これからはヴォイド騎士がその任務を引き継いでくれよう。そなたがいつでも安心して引退できるようにな」
引退と具体的に言ってきたことを考えると皇帝はそろそろ本気で皇太子との結婚話を進めてくるかもしれないと感じ、ユーリはゾッとした。
「ご配慮感謝いたします。しかしいくら新しい隊長殿が優秀であっても我が国の国防を一人で担いますのは困難かと。王都から離れた街はいまだに魔獣による被害が深刻ですので」
帝都から離れた国端への出兵を以前からユーリはのぞんでいたが皇帝はいつも許可をしなかった。
「…まあ、今日はとにかく新しいリーダーの活躍を期待して宴としよう」