第1話 異例の選抜
「今年度の聖騎士団討伐隊長に任命されたヴォイド・ブラックです。若輩者ですが、どうぞよろしくお願いいたします」
屈強な男たちが集まるホールで、丁寧に礼儀正しくヴォイドは礼をした。
異例の選抜にどよめく人々。
それもそのはず、国の騎士団隊長に、わずか18歳の若い騎士がなったのだから。
その場にいる人々から歓迎されていないことはわかっていた。
誰もが認める隊長がいるのに、なぜお前が・・・と人々の視線が物語っている。
だが皆から批判されることなどヴォイドにはどうでもいいことだった。
自分が憧れの存在に近づくには、隊長の地位につくことが何よりも近道なのだ。
そしてヴォイドは刺すような敵意の強い視線を背後から感じた。
その熱い視線はヴォイドの背中を貫いて浮ついた胸をたかならせる。
(あの人に違いない)
振り向いた視線の先にいたのは一人の黒髪の女。
その女こそがヴォイドが憧れ、本来なら今年も隊長に任命されたであろう人物、誰もが恐る女騎士ユーリ・クロフォードだった。
陶器のように染みひとつない真っ白な肌、透けるような艶のある長い黒髪、美しいくエキゾチックな真紅の瞳は見たものが恐怖を感じるほど魅力的だ。
華奢で小さく儚い身体は、その細い腰に剣を刺している。
その麗しい見た目に反してこの国のどの騎士より強いと国中の者が認めていた。
なぜならユーリはこの国で唯一の炎の魔術師なのだ。
炎の魔術は本人がその気になれば一夜で国土の全てを焼け野原にできるとさえ噂されていた。
ーやっと、あの真っ赤な視線に入ることができた。
その事実がヴォイドを高揚させた。今までに感じたことのない興奮で鼓動は早く、強く打ち慣らし始め、手にはしっとりと汗が滲む。
ユーリの燃える様な視線。
たとえその視線が敵意に満ちていても彼女の視線に入らない人間よりよっぽどいい。
ヴォイドは炎のような紅い瞳をまっすぐ見つめ、まるで吸い寄せられるように彼女に向かってゆっくりと一歩踏み出した。