表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

65/179

【永禄四年(1561年)一月中旬~二月上旬】

【永禄四年(1561年)一月中旬】


 河越城で年越しした越後長尾勢の主力を加えて、古河へ進軍が行われた。城門に到達する前に、長尾景虎は下馬して臣下としての敬意を示した。それを受けて、古河公方・足利義氏が軍神殿を受け容れ、北条氏から離脱していれば、だいぶ話は早くなるところだった。


 けれど、実際は逃走して北条方へと奔ったのだった。


 想定していた俺は、落ち延びていく古河公方をわざと襲撃させ、潜伏を得意とする忍者、鷹彦に助けさせる芝居を打った。


 そのまま顔見知りとなるだけでも御の字だったのだが、どうやら下働き的な立場に収まったようだ。情報を得られるだけでなく、操れるようになってくれれば、今後がとても楽になる。鷹彦の活躍に期待しておこう。


 越後長尾勢は古河へと入り、簗田晴助らに迎えられた。義氏が不在でも、古河公方の家臣団は健在との認識でよいのだろう。


 そして、関白の近衛前嗣が古河へ入るにあたって、前久と名を改めたそうだ。


 いよいよ、公卿公方実現へ向けた野心が発揮されるのだろうか。まあ、鎌倉幕府でも守邦親王のような宮将軍がいたのだから、宮古河公方がいてもおかしくないのかも。お飾りになるつもりはなさそうだが。


 近衛前久が鎌倉公方に、長尾景虎が関東管領として、新田も含めた関東諸将がその下につく、との体制が実現するなら、当面の生き残りを考えれば悪くない展開となる。


 ただ、史実では足利義氏の兄、藤氏が古河公方に収まるはずだった。弟の義氏が公方となっていたのは、北条の当主の甥だったからというのが主な理由になるようだ。


 藤氏の方は、古河公方家の重臣的存在、簗田晴助の甥である。ただ、藤氏本人は、里見を頼っていて不在だった。



 そして、落ち着いたら、いよいよ小田原攻めに進発のようだ。常陸、下総の香取海北岸、西岸域の大名、国人衆らも、古河公方が去った影響か、手のひらを返して参陣する構えを見せていた。


 軍神殿はゆっくり過ごしているようにも見えたが、外交を続けていたのだろう。



【永禄四年(1561年)一月下旬】


 常陸、下野、下総からの新規参陣諸将らは、江戸城付近で集合する手筈となった。品川湊を守るために、越後長尾勢から一隊を借り受け、彼らが近づいたら品川に毘の一字を書いた旗をなびかせることとなった。これには、本庄繁長が立候補してくれた。


 ただ、すぐに品川湊に入って江戸城の北条家臣、江戸太田氏を刺激する必要もない。香取海北岸西岸勢が接近するまでは鎧島で待機してもらうと話がまとまった。


 越後長尾氏、岩付太田氏、成田氏、本庄氏、佐野氏の各軍勢は、河越城に集まる予定で、足利長尾、白井長尾も少数ながら一族を参陣させると表明している。


 関白殿が古河に残ったのは、やはり古河公方就任のための工作なのだろうか。どちらかと言えば、小田原攻めに参加した方が、擁立の機運は高まるようにも思うのだが。


 新田は水軍を持っているのもあって、ある程度自由な動きをさせてもらっていた。軍勢としては、鉢形城方面から南下する組と、船で岩付城辺りから上陸する組に分かれている。


 俺自身は、鎧島城へと向かった。




【永禄四年(1561年)二月上旬】


 鎧島で塩田の改良や防備の増強について対応を進め、本庄繁長とも交流を持ちつつ、新規参陣諸将の動向を探っていると、思わぬ知らせが舞い込んできた。上方からの海里屋の船が、蜜柑からの文を運んできたのである。


 記されていたところによると、正月に天覧試合が行われて、上泉一門が武名を轟かせたそうだ。


 中でも蜜柑は塚原卜伝と仕合いをして「一之太刀」を伝授され、今上から称賛されたそうだ。そして、新田義貞を朝敵から解除するので、俺に大中黒、一つ引きの印を使うようにとお言葉を賜った、とも書いてある。


 ……言っている意味がよくわからない。


 公に新田宗家として認めるとは言っていないが、一つ引きは確か新田惣流しか使えないはず。岩松氏も使っていなかったと聞く。


 おそらくは、大嘗祭の費用負担に対する反応なのだろう。どこの馬の骨ともしれぬ輩に官位は渡せないので、そういう対応なのか。ただ、いろいろとやばい展開な気もする。


 将軍の足利義輝公とも会って、横瀬国繁を討ったことをチクリと言われつつも、長尾景虎への助力に対する礼の言葉をもらったそうだ。国繁は岩松の名代として幕府に食い込んでいた、けっこうな重要人物だったらしいのにそれで済んだのは、剣聖殿の説明があったかららしい。


 いや、しかし……、上泉秀綱と義輝公が知り合いだとは聞いていたけど、剣術者の交流ぶりって、なんだかそこだけ世界が違っているようにも見える。


 戻ってくる時に仕官希望の武芸者を連れ帰るけどいいか、とは蜜柑からの質問だったのだが、返事の出しようもない。まあ、そこは蜜柑判断で問題なかろう。




 迎え撃つ形となる北条は、引き続き江戸城、世田谷城は増援小規模での籠城態勢で、横浜線的な小机城、滝山城ラインでの防衛を志向しているようだ。


 軍神殿としては、城を攻略するよりも、鎌倉から小田原城を目指すつもりらしい。……このあたりが、本気で北条を降すつもりがあるのか、疑問が生じるところとなる。


 本拠を落とせば滅亡に追い込めるのは確かだが、一撃でそこまで至らなかった場合には、城をこまめに奪っておけば、勢力を大幅に削ぐことができる。


 軍神殿にとっての理想の展開は、小田原城を攻囲して屈服させた上で、共に上洛しようというものなのだろうか。そうならそうで、事前にざっくりとでも合意を取っておくべきにも思える。


 ただ、ある程度気安い関係を築けているとは言え、そこまで踏み込むのは立場を越えるだろう。実際、古河公方の擁立方針も知らされていないし。


 その点について、三日月配下が探ってきたところによると、古河では近衛前久擁立工作が展開されているものの、簗田晴助が先代の本来の嫡子、足利藤氏を擁立すべきだと強硬に主張しているそうだ。甥っ子だけに無理もない。


 簗田晴助を放逐して、近衛前久の古河公方就任を強行した上での小田原攻めだったら、また印象が違っていたのかもしれない。まあ、今さらの話ではあるのだが。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【スピンオフ作品】
「新婚剣術少女の永禄上洛行 ~新陰流一門の戦国旅紀行~」
時期的には、第二部途中のお話となります。ネタバレの関係で、第二部終了後にお読みいただけるとうれしいです。

【イメージイラスト】
mobgouzokupromo.jpg
山香ひさし先生にイラストを描いていただきました。


【主要登場人物紹介】
<【永禄三年(1560年)八月末】第一部終了/第二部開始時点>


ランキングに参加中です。
【小説家になろう 勝手にランキング】


【第一部周辺地図、ざっくり版となっております】

モブ豪族初期周辺地図
国土地理院Webサイト掲載の地図を利用させていただき、加工(トリミング、イラスト、文字載せ)は当方で行っております。
※現代の地形であるため、ダムによる人造湖、河川の氾濫による流域変化、用水路などなどが作中と異なるのはご留意ください。すみません、そこは作者も把握できておりません。


【第一部の舞台外側の有力勢力の配置地図、ざっくり版となっております】

モブ豪族第一部舞台外地図
国土地理院Webサイト掲載の地図を利用させていただき、加工(トリミング、イラスト、文字載せ)は当方で行っております。
※現代の地形であるため、ダムによる人造湖、河川の氾濫による流域変化、用水路などなどが作中と異なるのはご留意ください。すみません、そこは作者も把握できておりません。また、東京湾の埋め立てが進んでいるので、雰囲気として感じていただければ幸いです。>
香取海は、霞ヶ浦周辺の青くなっている辺りまでが湖だった、くらいの感覚で捉えてください。>







【三毛猫書房 友野ハチ作品(電子書籍@Amazon)】
sengoku.jpg

この作品の電子書籍版を含めた友野ハチのインディーズ形式での電子書籍が、アマゾンにて販売中です。
「月降る世界の救いかた」「転生魔王渡世録」「戦国統一オフライン」「時限式平成転生」の各シリーズ全作品が「Kindle Unlimited」対象ですので、ご利用の方はいつでも追加費用無しでお読みになれます。

    【Youtube「戦国統一オフライン」紹介動画】
― 新着の感想 ―
[一言] 前久の古河公方擁立、面白い展開ですね。 普通に考えれば関白にまで上り詰めた彼が大臣クラスのさらに下、権大納言や参議でしかない室町将軍のさらに下に位置する古河公方になるかと言われると全く考えに…
[一言] そういえば主人公の旗印ってでてなかったんですね… やったね護邦くん!これで君が宗家だよ! 更新楽しみにしてます!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ