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【永禄十四年(1571年)七月】


【永禄十四年(1571年)七月】


 本願寺勢力を押し込んだ信長に対して、関白の二条晴良主導で、新たな幕府を開くかどうかの相談が朝廷から行われたらしい。本願寺を世俗勢力だと考えなければ、織田家による畿内制覇……、天下統一は果たされたことになる。


 新たな幕府を開いて統治するのか、あるいは、別の政治体制を取るか、との問いも発せられようとしているらしい。これは、事実上の三職推任なのだろうか? ……なんだか、やけに歴史が加速している気がする。これは、史実では十年くらい後の話ではなかったか。


 前関白の近衛前久が東国にいる関係で、摂家を二分する両派の勢力争いのような形になっているのか、あるいは別の要因があるのか。


 ただ、朝倉を討滅し、河内、大和を鎮圧し、丹波、播磨に兵を進める織田勢は、かなり効率的な攻めをしているようにも見える。陸遜の献言が効いているのか、あるいは元の史実が信長に不利に振れ過ぎていたのか。


いずれにしても、これで天下人が誕生するわけか……、と感慨にふけっていると、追いかけるように急報が入った。織田信長が本能寺にて殺害されたというのである。どういうこと?


 


 続報が次々ともたらされているが、だいぶ混乱しているようだ。分析を済ませた後に報告するからと、俺は道真によって執務室から放り出された。色々と聞きたがるのが邪魔なのだろう。ひどい扱いである。


 いい機会なので子どもたちと戯れようとしたが、柚子や柑太郎、渚の年長組は、既にそれぞれ興味ある分野に夢中のようで、あまり父親にかまってくれなくなっている。


 柚子は剣術に、柑太郎は菓子からスタートして料理全般に興味を示しており、渚は書物に夢中のようだ。一方で、共に六歳の来夢と汐太郎はまだまとわりついてきてくれる。この二人も、あと二年も経ったら父親との遊びよりも興味深いものが多く出てくるのだろう。それはきっと、とても健全なことなのだ。


 二人を交互に持ち上げていると、やや腰が痛くなってきた。あぐらをかくと、左右の膝に子らが腰を下ろす。穏やかな時間が、その部屋には流れていた。


 と、軽やかな足音が歩み寄ってきた。


「父様」


「お、柚子。たまには遊ぶか」


「ううん、決めたことを、知らせておこうと思って」


「ほう、どんなことだい」


「この国で一番強い人と結婚しようと思うの。いいよね?」


「一番強いって……、雲林院松軒や神後宗治は結婚済みだし、諸岡一羽か? 剣じゃなければ、青梅将高なんかお勧めなんだが」


「うーん、みんなちょっと違うかな」


「まさか、上泉秀綱やら塚原卜伝なんて言わないだろうな」


「なんで、お師匠様とおじじさまが出てくるのよ。……まだ見ぬ強い人がいると思うの。その時が来たら言うから、取り持ってよね」


「お、おう……」


 言いたいことだけ言って去っていくあたり、舐められているのだろうか。いや、信頼され、慕われているんだよな、きっと。




 幹部陣の情勢分析の結果、どうにか確定情報が得られたようだ。


 本能寺で織田信長が殺害され、本願寺の僧兵が京を制圧した。


 同時に、紀伊と越中では一向衆門徒による水軍が活動開始し、東西の船の往来を遮断しているという。まあ、日本海側も、太平洋側も、新田の船はほとんど沿海部の航行はしていないのだが。


 信長を殺したのが誰なのかが、いまいち判然としない。襲撃から間を置かずに京を制圧したからには、本願寺勢力の仕業かと思ったのだが、どうも違うらしい。


 通商面だけ考えれば、東国と上方以西の交通が遮断されても、さほどの破綻はない。東北での食料生産は急伸しており、関東の購買力も急上昇している。まあ、それは新田単体の話で、直江津を仕切る蔵田五郎左衛門親子は青くなっているかもしれないが。


 東北で作られている工芸品や水産加工品、砂糖などは、明への輸出と関東や東海、北陸で問題なく消費できる。蝦夷で開発中の商品群も、上方に流せないのは痛いが、関東で消費した上で、輸出を目指す形なるだろう。


 だぶつくのは金くらいだが、まあ、腐るものでもない。




 信長は死んだが、嫡子の奇妙丸……、史実で信忠となるはずの人物は健在である。元服はまだだが、既に十四才。俺がこの時代にやってきたのと同じ年齢で、一人前と扱われておかしくない年頃となる。


 家臣団が結束すれば、一体感は保たれそうだが……、さて、どうなるだろう。


 陸遜は、この機会に独立するのか、あるいは織田の行く末を見守るのか。まだ二十五歳の若手だが、三十代前半の木下秀吉と並んで、家中では新進の人材と目されているはずだ。


 ただ……、この段階では、柴田勝家、丹羽長秀が双璧扱いされているはずで、信長の腹心的存在だった池田恒興も含めて、重臣らの意向が強く作用するだろう。


 信長の弟としては、史実では伊勢長島の一向一揆との戦いで敗死するはずの織田信興が、本願寺参戦のタイミングのずれからか健在で、奇妙丸を後見する形も考えられる。この信興を擁立する動きが出ると、またややこしくなるわけだが。



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【スピンオフ作品】
「新婚剣術少女の永禄上洛行 ~新陰流一門の戦国旅紀行~」
時期的には、第二部途中のお話となります。ネタバレの関係で、第二部終了後にお読みいただけるとうれしいです。

【イメージイラスト】
mobgouzokupromo.jpg
山香ひさし先生にイラストを描いていただきました。


【主要登場人物紹介】
<【永禄三年(1560年)八月末】第一部終了/第二部開始時点>


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【第一部周辺地図、ざっくり版となっております】

モブ豪族初期周辺地図
国土地理院Webサイト掲載の地図を利用させていただき、加工(トリミング、イラスト、文字載せ)は当方で行っております。
※現代の地形であるため、ダムによる人造湖、河川の氾濫による流域変化、用水路などなどが作中と異なるのはご留意ください。すみません、そこは作者も把握できておりません。


【第一部の舞台外側の有力勢力の配置地図、ざっくり版となっております】

モブ豪族第一部舞台外地図
国土地理院Webサイト掲載の地図を利用させていただき、加工(トリミング、イラスト、文字載せ)は当方で行っております。
※現代の地形であるため、ダムによる人造湖、河川の氾濫による流域変化、用水路などなどが作中と異なるのはご留意ください。すみません、そこは作者も把握できておりません。また、東京湾の埋め立てが進んでいるので、雰囲気として感じていただければ幸いです。>
香取海は、霞ヶ浦周辺の青くなっている辺りまでが湖だった、くらいの感覚で捉えてください。>







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― 新着の感想 ―
[良い点] 急展開! 信長を殺ったのは誰だ!?
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