表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

121/179

【永禄八年(1565年)十月上旬/十一月上旬/十一月中旬】

前話の護邦とリーフデとの会話について、乾燥欄で意味が通りづらい部分があるとのご指摘を受けまして、応急処置的に手を加えております。


位置としましては、

「こちらの得られるものは、利益の折半だけか? と訊いてきています」

以降の数行となります。(頷きが肯定なのか否定なのかわかりづらく、さらにやや流れが変になっていた部分の修整となります)


ご指摘いただいた読者様、この場を借りて御礼を。ありがとうございました。

【永禄八年(1565年)十月上旬】


 関東の情勢が安定していることから、西進計画が発動された。船上からの臼砲による砲撃は、まだ試験実施段階だが、それでも威力を発揮してくれている。


 予定通り、旧結城、小山領から飫富昌景、春日虎綱軍団を呼び寄せ、小田原に抑えとして残して西進が行われた。香取海北岸・西岸地域には、厩橋、箕輪辺りから常備軍を転任させている。


 戦端を開いた後ではあったが、今川との交渉を持った。異例だが、当主同士の直接交渉となる。


 あちらからは、今川氏真と祖母にあたる寿桂尼が、こちらは俺が出て、どちらも重臣が同席した。


「すまんが、海外線一帯を攻め取らせてもらいたい。内陸には手を出さない。こちらの都合だが、上杉と武田と不可侵同盟を結んだ関係で、西への道が塞がれそうでな。松平と勢力圏を接するのが目的となる」


「そちらの都合だけで、名分もなく攻め込むとは、なんと無茶な」


「無茶なのは百も承知だ、決戦をしてもかまわないのだが、申し出を受けてくれるなら、今川の存続のために力を尽くそう」


 いや、確かに無理筋なんだ。ただ、こちらも生き残りがかかっているわけで。


「海岸線とは、どこまでです。田畑は取らないと申されますのか」


「うーん、自活できるだけの田畑は、正直欲しいが、条件を出してくれれば考える。海岸線の城と、水軍を傘下に収めるのは譲れない。他は、わりと柔軟に考えるぞ」


「海への出口がなくなれば、通商ができなくなるではありませんか」


「いや、確保した湊についても高額の津料を課すつもりはない。さすがに入港料くらいは、維持費向けに残させてもらうが、他は自由に交易してくれ」


「漁民はどうなります」


「湊に魚を卸して、それを誰が買うかは、商人に任せる形でどうだ」


 どうやら武田から圧迫を受けているらしく、今川はだいぶ苦しいのだろう。氏真は不満そうだが、寿桂尼主導で概ねの話はついた。






【永禄八年(1565年)十一月上旬】


 今川との話がついたからには、抵抗は皆無ではないにしても、散発的である。


 先陣が遠州灘を進み、御前崎の新野城に到達したところで、急報が入った。高天神城が武田家に攻め落とされたという。


「なぜ、武田がそこにいる」


「どうやら、今川の危急を救うためとして、天竜川を下ってやってきたようです」


 それでも、だいぶ距離があるはずだった。


「曳馬城を素通りして東進してきたのか」


「新田に対抗するとの話で、現地の豪族たちを強引に説き伏せたようです」


「通り抜ける隙は……、ないんだよな」


「はい、海沿いまで武田の旗が翻っていました」


「やられた」


 新田の今回の駿河侵攻が、西への進路を欲してのことだというのは、特に秘匿してないし、今川にも通告済みである。となれば、今川から手引きがあったのか……。


 当然ながら、義元を失った今川の家中も割れていて、決して一枚岩ではない。まして、遠江辺りとなると、従属国人衆の支配地がほとんどとなる。


 ともあれ、武田によって進路を塞がれたのは間違いない。武田からすれば、新田の今川領への進出に対応するためとの名分が立ち、今川と遠江、三河の国人衆、また松平にも睨みを効かせる妙手ではあるのかもしれない。


 押し通ってしまうかとの考えも過ぎったが、同盟破棄を幾度もしてきた武田相手とはいえ、上杉を交えて交わした約定を破るのは危険である。まして、今回の武田の行動については、講和の精神から外れているとは言い難い。


 水軍だけで先に進んでも、孤立してしまう。奥州でならともかく、武田と織田、そして松平がひしめくこの先で、飛び地の獲得は無謀過ぎる。


 かくして、新田の西進計画は一頓挫を迎えたのだった。




【永禄八年(1565年)十一月中旬】


 西方への道が閉ざされた以上は、長居をする必要はない。確保した城の防備を固める手当てを済ませて、関東へ戻るとしよう。


 海沿いのみを確保した関係から、事実上の主力は水軍となる。そこは伊豆に拠点を確保した九鬼嘉隆に任せ、各城の統括役には真田幸綱を置き、依田信蕃、真田信尹の若手組を付けてみた。


 配置を追えて、東へ向かおうとしたところで、急報が入った。佐竹、宇都宮、里見、さらには太田が連合して、新田を討伐しようと挙兵したというのである。足利義氏を奉じて古河を目指しているらしい。


 上杉勢の大半は越後へ去り、新田の主力は小田原城攻囲と東海方面へ転じている。そして北条は小田原に押し込められているからには、関東の西半分は、武力面で真空地帯に近くなる。


 近畿への道を塞がれる恐怖から、西へと目を向けすぎた。そして、佐竹と宇都宮が仕掛けてくることはあっても、太田が加わるとは正直思っていなかった。


 相前後して、足利義氏の側近となっている鷹彦からの同じ件での急使もやってきた。佐竹を頼っている古河公方は、事前に相談される立場ではなく、決定を通告される状態のようだ。


 そして、嫡子の佐竹義重が方針に反対し、謹慎させられているとの話も出ていた。そういや、まだ代替わりしていないのか。


 しかし、この状況は正直まずい。一気に崩壊するとまでは思わないが、一時的な敗勢とはなるだろう。


 東への出立前には、再び今川と交渉を持った。現占領地の海沿い部分のみ確保し、今後は攻め込まないと約束する。水軍と港湾はこちらの支配下に置き、海賊行為は組織としてはさせず、周辺の町の防備と治安維持には力を尽くす。


 また、物資の流通は制限せず、商いも自由とするのを確認した。


 寿桂尼は、やや肩を落としている。


「今川の今後はどうなります」


「どうなると言われても……。武田との同盟が生きているのなら、共に西を目指されてはいかがか。義元公の目指された道だろう」


「新田が不可侵の約定を守る保証がどこにあるのです」


「戦国の世に保証は難しいが……。新田は、他勢力との約定を破ったことはないぞ。上野の金山城を不意討ちしたとか言われているようだが、先にあちらが攻めてきたわけだしなあ。約定も別にしていなかったし」


「これまでしなかったとしても、今後もしないとの保証にはなりません」


「それはそうだが、新田から人質を送れば、信じられるものでもなかろう」


「こちらからの人質は?」


「不要だ。有望な若者を預かるのは歓迎だが、その場合もいつでも復帰して構わん」


 そうして、今川とのひとまずの手打ちは成立したのだった。まあ、新田の苦境が大きくなれば、仕掛けてくる可能性はありそうだが、そうなったら、いずれ攻め込む名分が立つのだと割り切ることにしよう。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【スピンオフ作品】
「新婚剣術少女の永禄上洛行 ~新陰流一門の戦国旅紀行~」
時期的には、第二部途中のお話となります。ネタバレの関係で、第二部終了後にお読みいただけるとうれしいです。

【イメージイラスト】
mobgouzokupromo.jpg
山香ひさし先生にイラストを描いていただきました。


【主要登場人物紹介】
<【永禄三年(1560年)八月末】第一部終了/第二部開始時点>


ランキングに参加中です。
【小説家になろう 勝手にランキング】


【第一部周辺地図、ざっくり版となっております】

モブ豪族初期周辺地図
国土地理院Webサイト掲載の地図を利用させていただき、加工(トリミング、イラスト、文字載せ)は当方で行っております。
※現代の地形であるため、ダムによる人造湖、河川の氾濫による流域変化、用水路などなどが作中と異なるのはご留意ください。すみません、そこは作者も把握できておりません。


【第一部の舞台外側の有力勢力の配置地図、ざっくり版となっております】

モブ豪族第一部舞台外地図
国土地理院Webサイト掲載の地図を利用させていただき、加工(トリミング、イラスト、文字載せ)は当方で行っております。
※現代の地形であるため、ダムによる人造湖、河川の氾濫による流域変化、用水路などなどが作中と異なるのはご留意ください。すみません、そこは作者も把握できておりません。また、東京湾の埋め立てが進んでいるので、雰囲気として感じていただければ幸いです。>
香取海は、霞ヶ浦周辺の青くなっている辺りまでが湖だった、くらいの感覚で捉えてください。>







【三毛猫書房 友野ハチ作品(電子書籍@Amazon)】
sengoku.jpg

この作品の電子書籍版を含めた友野ハチのインディーズ形式での電子書籍が、アマゾンにて販売中です。
「月降る世界の救いかた」「転生魔王渡世録」「戦国統一オフライン」「時限式平成転生」の各シリーズ全作品が「Kindle Unlimited」対象ですので、ご利用の方はいつでも追加費用無しでお読みになれます。

    【Youtube「戦国統一オフライン」紹介動画】
― 新着の感想 ―
[気になる点] >そうなったら、いずれ攻め込む名分が立つのだと割り切ることにしよう。 名分も無く攻め込んでいて何故気にするのか? また、今川が名分も無く奪われた土地を取り返そうと新田を攻撃してきたら…
[一言] >となれば、今川から手引きがあったのか……。 今川が同盟国(甲斐)に知らせなくても、今川に居る信虎(もしくは関係者)から詳細まで通報されると思う。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ