青アリス
いつの日か、いつの時代かはわからないが。
ユウとアリスはどこかの星の上、宇宙空間で共同訓練をしていた!
ユウは、通称青ユウと呼ばれるフェバル本編最終形態である。
彼女は、青い海のようなオーラを纏っている。
その本質とは、心の力である。
彼女の想い描く理想の姿を現実にまで到達させることによって、物理的制約、人間的限界をも遥かに超えた凄まじい力を得る。
その力、まさに想いの果てまで届く。世界をも斬り、理をも斬ることができるという。
この宇宙で唯一、ユウだけが手にすることができた、奇跡の力であった。
そんな恐るべき力であるが、しかし友達が相手であるから、いい具合に手加減はされていた。
一方のアリス。
彼女は、ユウの《マインドリンカー》によって超絶強化されている。
この技、ユウと心を繋げることによって、相手にも青ユウ効果みたいなものを与えることができる。
だが彼女と100%心を繋げ合わせることは(他人である以上)できないから、効果のほどはオリジナルには及ばない。精々が1~2割程度といったところだ。
星の上、真っ暗な宇宙空間。派手な魔法の撃ち合いから、格闘戦へと移行していた。
そのときである。
アリスが、覚醒した。
《マインドリンカー》の補助のおかげか、何かのコツを掴んだのか。
純度100%。海色のベールを纏っている。
なんと、青アリスだ!
ユウが目を見張る。アリスは笑っている。
明らかにユウが手を抜き加減された状態から、死闘には決してしない程度の本気の訓練へ。
最初こそユウが押していたが、青い力に慣れたアリスが徐々に押し返していく。
宇宙から大気圏へ。徐々に下降しながら激しい拳の応酬が続く。
いつしか地面へと到達し、爽やかな平原での地上戦へ。
「えいえいえいえいっ!」
ついに左パンチのラッシュが、ユウを打ちのめした。
ガードの上から崩して、顔面を連続で殴打する。
しかし重い打撃音やダメージなどはなく、ぽこぽこぽことまるで労わるような可愛い音がした。
青の力とは心の力。打撃一つとっても、想い通りのイメージが乗せられるのだ。
痛みはなく、しかしのけぞらせるには十分な衝撃で。
たまらず、ユウは尻餅をついた。
勝負あり。
青ユウ VS 青アリスは、青アリスの勝利である!
「わー負けたあ」
人類最強の守護者は、だが負けたというのにやけに楽しそうであった。
「よっしゃ!」
アリスもまた、無邪気に喜んでいる。
そして尻餅をついたままのユウに向かって、アリスは手を差し伸べた。
「あなたの強さとか、気持ちがよくわかったわ」
引っ張り起こして、そして愛おしむように力強く抱き締める。
ユウもまたアリスを抱き締め返した。彼女は嬉しくて、ちょっぴり泣いていた。
ああ、きっとそうなのだ。
星海 ユウ。
彼女は、誰よりも心が強く。誰よりも過酷な運命を背負い。
どこまでもどこまでも無理をして。あまねく世界を救うために、たった一人で先へ行ってしまうから。
ずっと孤独な旅をしているから。
だからアリスは。あなたは一人じゃないよと。
あたしはここにいるからと。いつまでも側にいるからと。
きっと、そう言いたかったのだ。