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第9回 偶には大妖怪らしいこともする格ゲーマー

 そこは、とある県のとある町。

 その一角、一隅、一部、一端。

 そこには、ゲーマー妖怪サティスファクション都の妖怪屋敷がある。

 見た目の印象としてはただの邸宅だが、醸し出す雰囲気は流石に妖怪屋敷というものがある。

 実際、妖怪でもあるその邸宅が、周りにヤバイと感じさせる妖気をまいているので、そりゃあ雰囲気はそうもなろう、ではある。

 さておき、そこで一つの依頼が行われていた。


「妹が、おかしい?」

 そう言うのはサティスファクション都である。

 本日は『ギルティギアストライヴ』のβテスト、本来の終了日。しかし、ネットワークエラーで出来ない期間があったので、終了日は延長となった。

 ので、感謝の対戦としゃれこんでいたのだが、唐突に対戦相手が言い出したのだ。

 妹がおかしいと。

 それをいったのは、サティスファクション都の隣でちょこんと正座している大寒桜である。相変わらず美人の顔つきだが、ちょこんとしていると美しいより可愛いが先に立つ。

「そうなんだよ」

 その桜は画面を睨みつけながら、応対する。

 対戦は当然続いているが、ちょっとどちらの動きも怪しい瞬間はある。流石に心配事を話しながら対戦、というには無理があるのだ。

「あの子が、右馬子の様子がどうもね」

「どういう状態?」

「格ゲーを、『ギルティギアストライヴ』をしてないんだよ」

 成程、これはトンチキな話だな、とサティスファクション都は理解する。

「飽きたとかじゃないの?」

「勝子は大寒家でも一等格ゲー好きなんだ。

 最新作を数日で飽きるなんてありえない」

「一等好きだから見切ったとかは?」

「ストライヴは名作だよ!?」

 そう言う問題ではない。というのは言っても分からないだろうと、サティスファクション都は理解する。

 なので話をサイドにずらす。

「年頃でしょう、大寒の妹さん。中三くらい?」

「中三」

「流石に格ゲーに狂っている場合じゃない、ってなっているんじゃないの? 何せ中三よ? あれもあるでしょ、受験とか」

 大妖怪とはいえ人間のことに精通している訳ではない。

 だから完全に印象論で言うサティスファクション都であったが、そこに桜は否定気味に言う。

「あたいが中三の時はGGXrdR2に狂ってたぞ?」

「あんたの来歴は聞いてねえのよ」

 対戦は続いている。だいぶしっかりとした試合運びとなっているが、それでも時折ミスもあり、話が対戦に対して負荷をかけているのが如実となってきた。

 そこで、サティスファクション都が一戦勝利した。

 いいタイミング、とばかりに対戦をやめ、サティスファクション都は問いかける。

「まあ、妹さんが格ゲーに興味を失っているという点についてはそうだとしましょう。

 でも、それでなんであたしにそのことを言う訳?」

 サティスファクション都は大妖怪だが、つまり妖怪であって人間ではない。

 人間のカウンセリングとか、全然出来る訳がない。

 妖怪のカウンセリングも無理というかすぐ手が出る始末なのだから、人間のカウンセリング? である。

 なのに、何故話を振ってくるのか、サティスファクション都は不思議であった。

 だが、次の言葉で、成程、と一応の納得は出来た。

「あたいは、右馬子の身に何かしらの超常現象が起きていると思っている」

 つまり、妖怪の関係じゃないか、と桜は言っているのだ。

 それなら大妖怪と謳っているサティスファクション都に話をするのも、あるいは当然とは言える。蛇の道は蛇。であるということは、妖怪の道は妖怪である。

 だが。

「超常現象だとして、でも、妖怪のせいにされるのは困るわね」

 とサティスファクション都は返す。

 確かに世に害する妖怪がいない訳ではないが、超常の事が常に妖怪のせいではない。

 妖怪以外のそれらも、色々と存在するのだ。

「あなたは妖怪が近くにいたから、妖怪のせいにしているだけよ。宇宙人がいたら宇宙人の、幽霊がいたら幽霊のせいにしていたでしょうね」

「……」

 図星を突き過ぎたか、とサティスファクション都は思う。

 とはいえ、ここはちゃんと言っておく必要がある。

「そういうのに、私は基本関与はしないわ。というか、むしろそういうのは城に頼んだ方が早いわよ」

「城先輩?」

「あの子の家は代々退魔の者でね。妖怪だけではなく色々な怪奇に対処しているの。こういう時には頼りになるやつよ」

 と、諭したのだが、桜の視線はサティスファクション都を向いている。

「……、でも、今は城先輩はいないんだ」

「そうね。大会に行っているんだわね。

 ……、そんなに急を要することなの?」

「好きなゲームが全然できない、というのはあなただって嫌だろ、サティスファクション都さん」

「あー……」

 正直言えば理解出来る。

 出来てしまう。

 出来てしまった。


「私もつくづく甘いわね……」

 大寒家の前で、サティスファクション都は呟く。

 結局、桜の一言が効いてしまって、サティスファクション都は大寒家にやってきていた。

「妖怪のせいかどうか、一目見るだけだからね? 違ったら帰るからね?」

 と念押しはしているが、自身でもこれがかなりフリになっていると自覚はしている。

 このままなんやかやあれば、手伝ってしまうだろう。

 そう言う性分が、サティスファクション都である。

 そうでなければ、そもそも人里でゲーマー生活していないのである。

 気の迷いであってくれ、とサティスファクション都は願うばかりであった。

 そういう葛藤など知らずに、桜は家へとサティスファクション都を招き入れる。

 雰囲気は、普通である。これでも色んな家に上がり込んだことのあるサティスファクション都においても、その普通さは、特段に普通過ぎるとかではなく、本当にただ普通であった。

 いってしまえば、いい意味で凡庸であった。

 ただ、一ヵ所異彩を放つ部分がある。それはゲーム機も置いてあるリビングの、そこのソファーに座る一名だ。

 その一名について、サティスファクション都は非常に、この家にいる誰よりも知っていた。

「パッション郷」

 名を出されて、その一名、パッション郷はこくりと頷いた。

「そういうアナタはサティスファクション都」

「なんであんたがいるのよ」

「それはこちらの台詞です。なんでアナタがここにいるのですか」

 言葉自体はそれ程険のあるものではない。

 が、両者の間に流れる空気が、物理的にねじ曲がっているのでは? というくらいにひずんでいる。

 流石に何かあると察する桜は、サティスファクション都に聞く。

「あの、サさん、この御仁は?」

 ケェー! と口を変形させて、サティスファクション都は言う。

「パッション郷。妖怪よ」

「え……」

 白貌白髪で、黒い装束を纏うその姿は、あまりに人間離れしている美貌もあって、確かに妖怪と言われたら信じてしまう存在感だ。

 そして実際に妖怪である。

 そのパッション郷が、言う。

「勘違いされる前に言いますが、今回の事にワタシは関わってはいません。これから関わるかも、ですが」

「格ゲーしてないからおかしい、ってのにまともに取り合うやつだとは思わなかったわ」

「それもこちらの台詞です。まあ、まるで人間みたいにお人よしなあなたなら、と考えれば納得も出来ますが」

「喧嘩売ってるの?」

「まさか。そう感じるのはこの意見が正鵠を射ているからなだけです」

「どういう関係かは大体分かったよ」

 と、桜はとりあえずまとめる。このまま会話の主導権をこいつらに任せていたら酷いことになるのが見えたからだ。

 だから、反感が来る前に話を変える。

「とりあえず、パさんはどうしてここに?」

「パ……、まあいいでしょう。簡単です。あなたのお兄様に呼ばれたのです」

「松兄に?」

 流石に桜は混乱する。パッション郷がサティスファクション都と浅からぬ因縁があるのが、さっきの会話でなんとなく理解できている。

 となると、わりときっちり妖怪な訳だが、それに対して自分の兄、松竹につてがあった、ということが疑問として立ち上がってくる。

 そこを、桜はパッション郷に問う。

「パさん、松兄との関係は?」

「単にクライアント、ですよ。ワタシはこれでも妖怪探偵としてそこそこ名が知られていましてね」

「初めて聞いたわね」

「初めて聞きました」

 明らかに渋面になるパッション郷。サティスファクション都は元より桜にも言われたのがややショックだったようだ。

「そこそこ、ですからね?」

 と、セルフフォローするところに、サティスファクション都はきつめに言う。

「その辺のフォローはいいのよ。どうでもいい話だしね」

「……そうですね。とりあえず、超常現象があったから、ワタシが呼ばれたということです」

「いや、その妖怪探偵を、なんで松兄が知ってたんだ?」

「それは大体お前のせいだぞ、桜」

 そう言って部屋に入ってきたのが、桜の兄、松竹である。お盆に湯のみを乗せている。

 ここにいる名数分あるので、桜たちが到着してすぐに台所へ引っ込んだのだと分かる。

 まずお茶、というは謎の仕草とも言えるが、そういう家なのだろう。

 さておき、松竹はお茶を並べながら言う。

「桜、お前は右馬子の様子がおかしいの、妖怪のせいだ、って言ってただろ」

「うん」

「あんた、妖怪の事、家族にも言ってたの」

「特に隠すことでもないだろ?」

 言い争いになりそうなところで松竹が割り込みつつ、言う。

「だから、俺も妖怪の線で情報を収集してたんだ」

「それで行きついたのがワタシ、つまり妖怪探偵だった、ということですね」

「素人がちょっと調べただけで妖怪探偵に行きつくのはヤバいとは思わないの、パッション?」

「ワタシは危険な妖怪ではありませんからね。むしろ、サティスファクション。アナタが来た方が危険かもしれないでしょう?」

 互いが妖怪だからなのか、バチバチという感じの視線戦に実質的な破壊力があるようにすら見える。巻き込まれたら大変だというのが、如実に感じられた。

 そこを無理やり通る者がいる。松竹だ。

「とりあえず、ここに妖怪の雰囲気と言うか、何か感じるものはありませんか?」

 あまりに雰囲気を読まない松竹に、サティスファクション都もパッション郷もポカンとしてしまう。

「ありませんか?」

 追撃してくるので、流石に何か返さないと、となったパッション郷が、口を開く。

「え、あ、そうですね。何かしら妖怪の気配と言うのは感じます」

「確かにあるわね」

 サティスファクション都も同意する。

「でも、これは、うーん」

「なんだい、煮え切らないな」

「そりゃ煮え切らないってやつよ。これはね」

 とサティスファクション都が喋ろうとしたところで、パッション郷が

「その辺は、ワタシに言わせてもらいたいですね。一応これでも依頼され」

「これは低級の妖怪ね」

「……ですね。ワタシたちに掛かれば造作もないですよ」

 台詞をがっつり取られたので、せめてもの強キャラアピールをするパッション郷に、桜は少し同情した。

 しかし、松竹はその辺は気づいてないらしく、続きを促す。

「となると、ぱぱっと退治出来るってことですか?」

「……」

「……」

 妖怪二名は一律に押し黙る。

「なんで黙るんだよ。低級の妖怪なんでしょ? 弱いんでしょ?」

「それは違います」

 というのはパッション郷である。

「この場合の低級というのは、単純に能の範囲狭いという意味です。ワタシたち高位の妖怪は、異種族と会話したり、強い力を持っています。色々な能を誇っているから高級と言えるのです」

「? それならやっぱり低級は弱いんじゃあ?」

「それがそう簡単にはいかないのよ」

 続けるのはサティスファクション都だ。

「能がの範囲が狭いのと、その能が強いのとは、競合しないの。分かる?」

「つまり、対応型というより、一点突破型、たとえば立ち回り弱いけど択が強過ぎる尖った性能ってこともありうる、ですか」

「たとえが格ゲーマーな辺りがアンタの兄って感じね、大寒」

「そうだよ、松兄は凄いからね」

 話が噛み合っていないが、気にせずサティスファクション都は続ける。

「だから、低級の妖怪だからとて、油断はできないし、最悪油断もくそもない可能性もあるわけ。

 高級な妖怪なら交渉の余地とかあるからやりやすいんだけど、低級の場合はそもそもコミュニケーションが取れないパターンもあるからね」

「つまり、サさんでも微妙に役に立たない可能性が?」

「そこまで言ってねえでしょうが。普通に物理的に強いわよ私は」

「ワタシはやや搦め手の部類なので、サティスファクションが前衛ということでいいですね?」

「人間よりは前に出なさいよ」

「それは勿論。クライアントですしね」

 なんだか話の運びが早い。もう突撃するみたいな話になっている。

 ここはそこについて危惧を述べるべきだろうか、と桜は考える。

 そもそも、サティスファクション都は最前衛になって最悪盾にされることに気づいていないのだが、そこについて触れるとまたバチバチやり始める事にもなりかねない。

 それに、どの道右馬子と妖怪二名を顔合わせさせないといけない。

 ここでのたくっていてもしょうがないのだ。

 迷ったら攻める、が桜の信条でもある。なので、ここは攻め手に出るターンと考えた。

「じゃあ、右馬子に会ってもらいましょうか」

「だな」

 決まりとなった。


 大寒家の妹、右馬子の部屋の前に全員が集まる。

 そこで、流石にサティスファクション都も気づく。

 自分が体のいい盾にされそうなことに。

「なんで私が先頭なのよ!」

「物理的にはこのメンバーで最硬です。当然でしょう」

「硬さで言えばアンタもどっこいどっこいでしょ、パッション!」

「ワタシの得意分野は搦め手のは、さっきも言ったでしょう。

 そして、搦め手が最前列では、力が発揮できません。

 それとも、人間を前に持っていきますか?」

 完全にはぐらかしているのだが、サティスファクション都はそこには気づかない。

「そりゃあ、確かに妖怪が人間を盾にしたなんてのはまずい話だけどさあ」

「右馬子、入るよ」

「こっち話してんだけど!?」

 無視して、桜は扉を開ける。そしてそそくさと後方に引っ込む。

 ぐだぐだする時間も勿体ない、と暗に言っている。

「しょうがねえわねえ……」

 サティスファクション都は、意を決して、部屋の中に入る。

 右馬子、と呼称される存在はそこにいた。

 そして、この部屋も、特段に変わった所はない。

 ……。

「ここじゃねえわね」

 サティスファクション都の言葉に、突然見ず知らずの人(妖怪だが)が入ってきたことに吃驚する右馬子。

「ちょわ!?」

「ちょわは止めなさいちょわは」

 そう言って、サティスファクション都の後ろから、桜が入ってきた。

「さておき、ここじゃないってどういうこった」

「この家に妖怪はいますが、どうやら妹さんに取り憑いているとかではないみたいですね」

「それ、今更過ぎない?」

 桜の言葉に、周囲の気配を感じながら、サティスファクション都が応答する。

「うーん、ここに気配はほんのり濃いけど、どうやらここはいる事もある場所っぽいわね。

 というか、どうもこの家全体に気配を感じるみたいね」

「感覚ガバガバか?」

「サティスファクションを擁護するつもりはないですが、ガバガバになるのもしょうがないレベルですよ。

 この妖怪は家のあちこちに移動している者のようです。……、成程」

 何か納得するパッション郷。見れば、目の色が赤から黒に変わっている。

「何が成程よ搦め手担当」

「どうやら、この気配を既に経験しています。

 ここに来るまでにどこかですれ違ったかも」

「来るまでにそれらしいのは見なかったけど?」

「何かに擬態しているかもしれませんね」

「低級妖怪が擬態ってのは無さそうだけど?」

「否定しかできないんですか?」

「なんやて?」

 完全に喧嘩腰になり始めたので、桜と松竹が、間に割って入る。

 そして機先を制して、松竹が問う。

「そもそも擬態する能力なのでは?」

「妖気の加減からして、それとは違います。

 それに、妹さんに何かしらの影響が出ているのも感知できます。

 妹さんの周囲に妖気の気配が残っていますから。

 だから、何かしらの悪影響を出すことに特化した妖怪でしょう」

「アンタの妖気感知は信頼出来るから、そうなんでしょうよ。

 でも、ここにはいないんでしょう?」

「影響は濃いんですが」

 どうにも当てが外れた形だが、そこで桜は何か閃くものがあった。

「何かに擬態するんじゃなく、取り憑いているっていうのは?」

 ふむ、とパッション郷が一考する。

「その可能性はありますね。

 しかし、そうなるとそのなにかがなにで、どこにあるかですね」

 そうですねえ、例えば、何かここ最近購入したものは?」

「なんかあったっけ、松兄」

「最近買ったっていうとあれじゃないか? アケコン。右馬子のが壊れただろ」

「ああ、そうだったね。となると、そのアケコンに?」

 アケコンに妖怪が、というのは突拍子もない理屈だったが、右馬子の近くのもので、最近のもの、と言うとそれしか浮かばない。

 なので、桜は右馬子に聞く。

「右馬子、アケコンは?」

「えと、下。リビング」

 ということは、先に面々が話をしていた部屋だ。

「最初に居たとこにあったのに気づかなかったのかよ、パッション」

「アナタも同様に気づいてなかったんだから、ワタシだけ責められるのは納得いきませんね」

 険悪なムードになりつつあるところを、桜は割って入って、話を進める。

「はいはい、リビング行くよ。

 ああ、騒がしくてごめんね右馬子。

 すぐに格ゲーしたくなるようになるから、安心してていいよ。

 じゃあ」

 そう言うと、桜はサティスファクション都とパッション郷の間に入って緩衝体となりつつ、二名を部屋の外へと連れだしていった。松竹もその後に続く。

 結果、右馬子にとっては訳が分からない闖入者がひとしきり喋って出ていった、と言う事実だけが残った。


「言い訳をさせてもらえるなら」

 と、リビングに戻る途中でパッション郷が言いだす。

「どうにも妹さんの周りに強く影響を出していたから、そこが濃くみえたようですね。

 普段はもっと鳴りを潜めているようです」

「何かしら悪影響している時以外は力を放出していないと、なわけね」

 言っているうちにリビングだ。テレビの前にゲーム機、そしてアケコンも並んでいる。

「妹さんのアケコンはどれ?」

「そ」

 言おうとしたところで、その目的のアケコンに動きがあった。瞬時に黒い触腕を伸ばし、それを桜に向けたのだ。

「れ!?」

 と言った瞬間には桜は後ろの松竹の所まで飛んでいた。サティスファクション都が強引に後ろに投げたのだ。

 そして、その触腕はサティスファクション都の体にまとわりつく。

「ふむ。精力吸収ね。並みの妖怪でも厄介なタイプといったところかしら」

 とサティスファクション都が簡単な感想を述べる。

「でも、このくらいだと私を止めるには千年はかかるわね」

 そう言いながら、サティスファクション都は触腕をブチブチと引きちぎった。アケコンに取り憑いてる妖怪がぴぎいいいいい! と叫び声を上げる。

「しかし困ったわね」

「何が!?」

 いきなり後ろに飛ばされて兄とぶつかった影響で、テンションが振り切れてしまっている桜が怒鳴る。

「いやね、私はぶん殴るのは得意なんだけど、引っ張りだすとかは苦手なのよ。

 このままアケコンぶっ叩くと破壊しちゃうじゃない?」

「壊さないように!!」

「となると、業腹だけど、パッションの出番ね」

 そう言うとうなりを上げる触腕に対して、盾になるように位置とって触腕を捌いていく。

 その後ろで、パッション郷が集中を高めていた。

 パッション郷の視線の先に、黒い針のようなものが生まれてくる。

 それは徐々に大きくなり、大きめのドライバーくらいにまでなる。

 大きくなった黒いドライバー状のものを、パッション郷は手に取り、サティスファクション都に差し出す。

「サティスファクション。これを投げてください」

「中々デカいの出してきたわね。アケコン壊れたりしない?」

「それは妖気の塊です。

 物理的な力はオミットしてありますから、あなたのバカみたいな力でも大丈夫ですよ」

「一言多いのよねえ」

 と言いつつも、サティスファクション都は黒い妖気の塊を持つ。

 させじとか、サティスファクション都の体に触腕が絡みついてくるが、触腕などないかのように、サティスファクション都はスムーズに動き、投擲。

 凄い勢いで、黒い妖気の塊はアケコンにぶち当たる。

 とはいえ、破砕音はしない。

 代わりに、ぴうぎいいいいいい! という妖怪の悲鳴が響き渡る。

 同時に、うなりを上げていた触腕も地に伏し、そして消えていった。

「こうなれば」

 とパッション郷はアケコンへと歩を進め、まだ残っていた触腕を引っ張ると、ずるっと何かしらの塊がアケコンから滑り出てきた。

「……これは」

「なんだなんだ?」

 妖怪二名がその塊を囲み、何やら吟味し出す。

 そして、二名は人間には意味の取れない音を出して、会話をし出した。

 完全に蚊帳の外に置かれ、テンションが落ち着いた桜は茫然としていると、松竹が言った。

「これで、お終いってことか?」

「じゃない?

 妖怪も退治したみたいだし。

 なんでこっちに分からん言葉で喋ってるのかが分からないけど」

 その事実がなにやらきな臭い雰囲気を出しているが、とりあえず一件落着、ではあるようだ。

 と、話を終えたサティスファクション都とパッション郷が、桜の所にやってくる。

「とりあえず、妖怪はのしておいたわ。このままウチに持っていくわね。

 それと、ここに妖気が溜まっていると後でまた妖怪が絡んでくるから、パッション」

 あらかさまに嫌な顔をするパッション郷であったが、サティスファクション都にこつかれ、仕方なくと言った風情で息を吸う。

 吸う。

 吸う。

 吸う。

 いくらでも吸い続けて、最後にごくん、と飲み込む仕草をした。

「何したの?」

「この辺りにある妖気を吸いつくしただけです。

 人の精気を吸ってただけはあって、まあまあ美味しゅうございました」

 軽くげっぷなどをするパッション郷は続けて言う。

「とりあえず、元凶は潰しました。

 これで妹さんの不調も良くなるはず。

 そこが改善されないようなら、またご連絡ください」

「あのー、お代の方は」

 松竹の言葉に、パッション郷はそうだった、と気づいた顔。

 そして電卓を取り出し、数値を入力する。

「まあ、簡単な仕事でしたし、妖気もだいぶ頂きましたので……、これくらいで」

「ああ、はい。意外とかからないものですね」

 かなりのお安め値段に、松竹が逆に困惑していると、サティスファクション都が横から言ってくる。

「パッションは地主だから人間世界で生きていくには十分な金持ってるしね。

 この妖怪探偵も単なる道楽、あるいは妖気を吸える合法的な手段ってとこでしょ?」

「その上で人の為になるなら、問題ないのでは?」

 またぞろ視線がかち合って、バチバチ言い始めた。

 この二名、面倒だな、と流石に分かる、桜なのだった。

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