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第6回 ヒット確認。そして対戦へ……。

 ここはとある県のとある街。

 そのよくある一般的な住宅街である。

 特に有名なとこでは、当然ない。

 だが、極々一部の者にはそれなりに有名であった。

 その片隅に、ひっそりというには灰汁の強い気配をだしている屋敷があるからである。

 ゲーマー妖怪、サティスファクション都の屋敷である。

 サティスファクション都は大妖怪なので、こういう妖怪屋敷を使役している。

 家主は我ながらいい所に住んでいるなあ、と思っているが、邸宅の方はこういう家主は嫌だなあ、とか思っていたりする。

 よくよく面倒なことが起こるからだ。

 中で色々起きたりもするし、あるいは屋敷ごと亜空間に飛ばされたりとかもあるから、油断できない。

 それはさておき。

 その屋敷に、現在二名の人間と一名の妖怪がいる。

 人間は、犬飼美咲と大寒桜。

 片やほのぼの系の格ゲー初心者、片やピリッとした小美人系の格ゲー巧者。

 妖怪はサティスファクション都。すらっとしたモデル系で、これも格ゲー巧者。

 この格ゲー巧者二名によって、格ゲー初心者に教えていこう、という展開となっている。

 さておき。

 美咲は、桜のいった言葉を、反復する。

「ヒット確認?」

「そうっす。ヒット確認っす」

 こちらも反復する桜だが、それでは通じないか、と気づき、言葉を変えてみる。

「これも単体の意味では難しくはないっす。ヒット、相手に攻撃が当たっているのを確認して、次の技を打ち分ける、ってとこっす」

「打ち分ける?」

 あー、そこからか、と桜は思い至る。なにぶん格ゲー初心者に相対したことが少ないので、言葉が通じないということを想定してないのだ。

 それでも、なんとか伝えようと桜は考え、言葉にする。

「例示するなら、今、美咲先輩がやっていた、遠SからHSを出してガンフレイムがあるっすよね?」

「そうだね、あたしよくやったやつだね」

 そうっすね、といきなり30分やらせたこと悪く思いつつも、あいまいに頷いて、桜は続ける。

「で、その直前のHSがガードされていればガンフレイムを、当たっていればバンディットリボルバーを、というのが打ち分けるって意味合いっす」

「わりと訳の分からないこと言ってない? そんな簡単に打ち分けられるものなの?」

 情報が叩き込まれて混乱する美咲に、サティスファクション都は言う。

「いいえ、簡単よ。まだ美咲は気づいていないけど、気づけばすぐよ?」

「結構無茶言ってないかな?」

「そうでもないっす。とりあえず、ガンフレイムまでの一連の動きは出来るっすよね?」

「……見せましょう」

 そう言うと、美咲は遠S、HSとつないでガンフレイムまでを完走した。

 どう? という顔に異は思わず、桜は言及する。

「それ、実はバンディットリボルバーに代えてもほとんど同じ動きになるの、分かるっすか?」

「……」

 美咲は無言で遠Sからガンフレイムへの動きをしつつ、最後にボタンをPからKにすることで、バンディットリボルバーを出すことに成功した。

「……ほんとだ。ほとんどと言うか、ボタン一つの違いだ」

 ガンフレイムのコマンド、下>前斜め下>前はバンディットリボルバーでも共通するコマンドである。

 なので、ボタンを換えれば打ち分けることが可能なのだ。

 そういうことっす、と桜は言う。

「だから、遠Sからの動きで、最悪HSの時にコマンド入力していても、ボタンさえ代えれば打ち分ける事が可能っす」

「これがヒット確認よ!」

 と、サティスファクション都は最後でいいところを奪った。ホワイトボードに板書されてもいる。

「でも、再度言うけど、かなりハードル高くない? 初心者だよ、あたし」

 もっともな意見である。だがサティスファクション都はそんな事を歯牙にもかけない。

「そうやって初心者でござい、ってしていて手に入れられるものなんてたかが知れているわ!」

「は、言い過ぎっすけど、これは出来るようになると格段に戦いやすさが増すっすよ。

 対戦するうえでの、一つの武器になるっす」

「一つの、武器!!」

 妙な琴線をかき鳴らしてしまったらしく、美咲は妙に乗り気になった。

 何か自分で戦える為のものが出来ることになるのが嬉しいのだろう。一つの武器と言う言葉には魔力があるのだ。

 さておき、そうとなると美咲は早かった。既に画面に釘付けである。

「で、この武器はどう習得するの?」

「落ち着きなさい? まずメニュー画面を開くの」

「うん」

「で、トレーニング設定のダミーのガードの項目を、ランダムに変えるの」

「うんうん。で、これでどういう意味が?」

「ダミーがガードをしたりしなかったり、ランダムでするってことよ。

 これで、当たっていたらバンディットリボルバーを。

 ガードされていたらガンフレイムを。

 それぞれ打ち分けるのよ。

 単純だけど基本のヒット確認よ。これであなたもひとかどの初級者!」

「どれくらい打ち込めばいいのかな?」

「とりあえず10回連続で成功したら、でいいんじゃないかしら」

「よっしゃあ! やるぞー!」

 そういうことになった。


 1時間が経過した。バターン、と音がするように、美咲は前のめりに倒れかかる。

「10回連続成功……、しましたよ……」

「情熱だけで突っ走ってその情熱が枯れ果てた感じっすね」

「さっきのがあったからこっちも休憩しろって言ってたのに、しない美咲にも問題あるからね?」

 流石に30分を越えた辺りでさっきの教訓として、一旦休憩を具申はした。

 だが、美咲は頑としてそれを無視。

 なにぶん、開始20分で7回成功までいっていたのだ。

 だから、あと少しで、となったのだが、当然こういう思考は沼るやつである。あと一歩、というところからが、特に深いのである。

 で、そこから40分ほどして、どうにか10回連続は達成された。

「ふふ、でも成功したもの……。初級者脱出……」

 などと、美咲はその気になっているが、ふるふる、とサティスファクション都は首を横に振る。

「その話なら、まだ全然だと言っておくわよ? ひとかどの初級者って言ったでしょ? 初級者として過不足ない感じになっただけよ?」

「それに、トレモで出せるのと実戦で出せるのでは雲泥の差があるっすからね。

 対戦で焦らず安定して打ち分けられる、が初級者脱出の域っす」

「うぐぐ、格ゲー、恐るべし……」

「まだとば口だから、安心して慄きなさい?」

 おごご……、と慄く美咲を横目に、桜がサティスファクション都と打ち合わせる。

「とりあえず、攻撃の基本は見せたし出来るしで、次はどうするよ、妖怪のサさん」

「次としては防御技術としたいけど、ここは一旦対戦させてみるのもいいかもしれないわね」

「いきなり実戦投入?」

「初級者呼ばわりに納得いってないみたいだし、自分の分を知ることも必要よ。

 ということで」

 サティスファクション都は行動を開始する。

「まず、美咲のアカウントに変更よ!」

 あー、と桜はすぐ納得する。

「このまま、だとそうか、天上階になっちゃうか」

「あんたが一人で上げ過ぎなのよ! あたしがやる分も残しておいてほしいわ!」

「それ以前に美咲先輩のアカウントにも入れてるのかよ」

「念の為よ! 念、当たり!」

 そう言いつつ、サティスファクション都はへばっている美咲の手元からスティックを奪い取り、アカウントを美咲のものへと変更した。

 そして言う。

「美咲、美咲、今、あなたの頭に直接話しかけています……」

「普通に耳から入ってるじゃん、それ」

 無視からの続行。

「今から、ネット対戦をしてみるのです……。

 それによって自分の分が分かるでしょう……」

 ガバっと起きる美咲。

 大きな託宣を受けた、と言うバカ顔をして言う。

「はっ、なんか耳からネット対戦しろって電波が!」

「音波っすよ、それ」

「美咲? 丁度いいように、あなたのアカウントでネット対戦が可能になっているわよ」

「おお、有難い! それなら、いっちょやってみちゃおうか、ネット対戦!」

「その意気よ、美咲! それで自分の腕前を知るのよ」

「の前に、色々チュートリアルがあります。まずアバターを決めるっすよ」

 執事風のキャラに、姿について言及され、そこでアバターの見た目を変更するという場面である。

「面倒! デフォルトで!」

 そう言うと、美咲はそのままの姿で押し切った。

「まあ、これでずっとやる訳じゃないから、意気があるうちに突っ切るのはありね」

 その他諸々の手続きを終えて、まずはCPUと対戦ということになる。

「いきなりネット対戦出来ないの!?」

「まず、どれくらい出来るかの試しね。出来る事をぶつけなさい」

「分かった!」

 そして、うおりゃあ! うおりゃあ! と美咲はCPU相手をやり始めた。

「やっぱりもうちょい、最低でもガード概念をより教えるべきだったんじゃあ?」

「攻撃一辺倒でどこまで通じるか、というのが純粋に見たかったという部分があるのは否定しないわ」

「そこまでは聞いてねえよ」

「うおぎゃあ! ガードしてるのにバンディットリボルバーを!」

「でも、CPUが確実な反撃はしてこないのよねえ」

「CPUだし。やるとしたら超反応だけど」

「試金石だから、そこまでしないんでしょうね。初心者にはそれはきつすぎるわ」

 それでもここぞで覚醒必殺技を使ってきたので、美咲はだいぶ頑張ったが敗北してしまった。

「ふふ、激闘だったね……!」

「……格ゲーすると、美咲、ちょっと変になるわね」

「変は言い過ぎ。面白みが増すって感じだろ」

「どっちにしろあんまりいい意味に聞こえないんだけど!?」

 そうつっこむ美咲。しかし、美咲自身も今までの自分にはない何か、何と言えばいいか、蓋が開いたようなのは感じている。それなりに人生生きてきて、初めての感覚だ。

「なんかこのまま対戦勝てるような気がしてきたよ!」

「なんでCPU戦でいっぱいいっぱいで負けた後なのに、対戦で勝てる気がするのかしら」

「変な脳内物質がバンバン出てる感じなんじゃあ?」

 そうこう言っている間にも、美咲のレーティングが完了している。二階からのスタートだ。

「一階スタートじゃなかったわね。意外」

「まー、ガードがおざなりだけど、ヒット確認はわりとなんとかなってたから。っても、どういう理屈で階層が決まるかは分からないからなあ」

「とりあえず、これで対戦出来るんだね?」

「適当な場所にアバターを置いて対戦意思表示して待つか、待っている人のとこで対戦申し込みすればいい、けど、やっぱりわちゃってるわねえ」

 言う通り、対戦の意思表示をして待っているアバターがあちこちにいて、それも近い場所で固まっていたりするから、何が何やら良く分からない状態になっている。

 のちのアンケート結果でネットワーク対戦のこの部分の評価が低かった一因である。

 これが嫌だったのもあり、桜はサティスファクション都とオフライン対戦をしていた側面すらある。

「下の階層は見た時なかったけど、どこも一緒ってことか」

「下の方が人少なそうだから大丈夫かと思ったのだけどねえ」

「これ、どうすればいいの?」

「なんとかいけそうなところでやるしかないわね……」

「あるいは人の少ない所で待ち受けっすね」

「あ、エアポケット!」

 丁度人が空いた場所に、美咲のアバターは滑り込む。と同時に、対戦意思表示。すぐに人が入ってきた。

「うおーっ! 初対戦だー!」

「美咲、落ち着いて攻撃を当てていくのよ!」

「分かった!」

 対戦が始まる。


 以下ダイジェストでお送りします。

「なんかバンディットリボルバー出ない!」

「今度はガンフレイムが出ない!」

「あー!? 攻撃どうさばけばいいのー!?」

「ガンフレイムがバンディットリボルバーになってる!?」

「なんか上から来られて困るんだけど!?」

「こっちも上だー! ジャンプだー!」

「バンディットリボルバーが出ない!」

「あ、当たった当たった! コンボ? 出来る! リボルバー!!」

「とりあえずガンフレイムの後このままダッシュしていいの!? いい手なの!?」

「バンディットリボルバーが出ない!」

「バンディット! リボルバー!」

「バンディットリボルバーが出ない!」

 そんな感じであった。


 初対戦はグダグダだったが、どっちもどっちな感じだったので、辛勝、となった。

「ふふ、あたしの力が怖い……」

 いきなりの増上慢だが、初勝利はそういうものである。

 初めて感じる脳内物質の高まりに、美咲は翻弄されいるのだ。なのでちょっとキャラがブレるのも仕方ないのだ。

「いい感じに盛り上がっているわね。しかし、次もそう易々と勝てるかしら?」

「いやあ、あたし結構無敵だから大丈夫だよー。ヒット確認出来るし」

「すげえ、基本謙虚な美咲先輩が本格的に天狗になってる……。これが格ゲーの力……」

 変な感心をしている桜に、図に乗っている美咲は大きく出る。

「次も、勝つよ。そして3階へ」

「何をしたら3階かはまだ全然分かってないけどね」

 サティスファクション都のつっこみも素知らぬ顔でやり過ごす美咲は、再び対戦に入る。


 以下、またダイジェストでお送りします。

「えー!? なんか相手の攻撃が遠いというか遠い!」

「さっき見たやつだけど、さっきこんな長かった!?」

「ここはあれ? ジャンプ? ってジャンプしても落とされる!」

「ダッシュで近づけないとどうしようもないよー!」

「くそー! もっと近づいて戦えー!」

「あ、なんかダッシュでくぐれた! こっからこっから!」

「ああ! なんか飛ばれて逃げられた! くそー! 待てー!」

「だからダッシュで近づけないとどうしようも―!」

「くそー! 逃げんなー! そしてちまちまするなー!」

「あ、またダッシュでくぐれた! 遠Sをくらえー! なんとかなるかも!」

「やっぱり何ともならない―!」

 そんな感じであった。


 対戦二戦目を敗北で終え、美咲は猛っていた。

 動きが制限されたがゆえに、いい感じに猪突猛進な気分になっているのだ。

 悔しさが一周回ってしまっている。

「次は、あたしやるよ?」

「でも、さっきと同じ相手だと、同じ展開かもしれないわよ?」

 サティスファクション都が挑戦的に言う。猪突猛進になっていた美咲に、それがしっかりと刺さる。

 確かに、さっきは相手のアクセルの長い攻撃に手ひどくやられてしまっている。

 偶にダッシュが決まる時はあったが、それもたまたまだった。

 最終的にはダッシュでしか近づかないからか、相手がダッシュでくぐれる技を使ってこなかった気さえする。

 このままでは、次にまたアクセルだとしたら、あるいはリーチで押してくるタイプだおつぃたらやはりこっぴどくであるかもしれない。

 なので、美咲は教えを乞う。

「都ちゃん、桜ちゃん、どこをどうしたらいいのかな?」

「そういうとこできっちり謙虚なのがあなたのいいところよ、美咲。いいでしょう、次の段階のレクチャーを始めましょう!」

 そういうことになった。

(第七回へ続く)

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