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第三回 キャラ決めよっか。前編

 そこは、とある県のとある閑静な住宅地。その片隅というか隅っこというか端っこには、一つの妖怪屋敷があった。

 ゲーマー妖怪サティスファクション都の住まう、妖怪屋敷が。

 屋敷はいつものように、灰色な空気が立ち込めた、胡乱な状態である。特に雨雲も出てないのに、少し薄暗い。そこは屋敷妖怪がムードを出すためにしているだけなのだが、それのせいで近隣の方々はいつもなんか暗いなあ、という印象を持っている。同時に、あんまりこの辺に行きたくないなあ、とも。

 ゆえに、サティスファクション都の妖怪屋敷に人が来ることはほとんどないのだ。

 だが、そこは今、魑魅魍魎の巷となっていた。格ゲーマーの巷に。

 その主原因である、犬飼美咲が言った。

「そもそも、キャラ選びって?」

 そういう話である。


 今、屋敷のゲーム部屋として使われている大きな和室に、家主のゲーマー妖怪サティスファクション都、その友人で人間の犬飼美咲、その後輩で人間の大寒桜の三名が居る。先ほど、格ゲーの手ほどきをして欲しいと美咲が提言し、それが受理されて手ほどきが始まっている。

 そして、レバー操作とボタン操作についての話が終わった。

 だがそれでもまだキャラの半分の理解しか、という話になって、そこで他の二名と同じように大モニターの前で、小ささが際立つくらいのコンパクトさで正座して話をしていた桜が、ふと気が付いて言った。

「……そもそも使用キャラを決めないと、これ以降の話は難しくないかね、妖怪のサさん?」

 ハッ! と言う擬音が似合う気づき顔で、サティスファクション都は立ち上がり、無駄にポーズを決め、そして言う。

「それもそうね! 使用キャラが決まってないと、ふわっふわになるわね、この話!」

「でしょ。だからここは一旦キャラ選びから入るべきだよ」

「むう、盲点。でも、そうよね。キャラ選びしてから、そのキャラについて理解していきながら、ゲームも分かっていく、の方がどちらかというと大常道ね」

「あのー」

 話がにわかに盛り上がり始めた所で、美咲が問う。

「そもそも、キャラ選びって?」

 あー、とサティスファクション都と桜は何か得心した顔つきになる。あるいは、そこか、という。サティスファクション都は気持ちが落ち着いたので、しゃがんでから胡坐をかく。

 そしてやや斜めの入った横並びに座るのである。

 サティスファクション都は言う。

「そうよね、格ゲーさっぱりなんだから、そりゃあそこからさっぱりわかってないわよね」

「ここの方が盲点っした」

「そんなに盲点だったの?」

「いやあ、あたいらって、キャラ選択なんて殆ど自動的にしてるっすからね」

「反射でやってるの?」

 いやいや、とサティスファクション都と桜は同時に首を横に。

「まず情報を集めて、それから頭で情報をまとめていって、イメージが固めて、イメージ通りか試して、実際使っていくって形ね。今回の『ギルティギアストライヴ』のオープンβも、そういう意味合いでやっている人も多いでしょうね」

「まだ製品版じゃないから、結構変わってくるかも、って身構えてもいるっすけどね」

「なんか色々大変なんだね」

 と、苦労をねぎらう言葉を発する美咲に対して、サティスファクション都はきつく言い放った。

「その大変なのを今から体験するのが、美咲、あなたなのよ!」

「……え?」

 座っている三名の中央にあるアーケード用スティックを動かして、トレーニングモードから画面を前へと戻しつつ、サティスファクション都は言う。

「唐突だけど、今から美咲には、これが使いたい、というキャラクターを選んでもらいます」

 そして、画面はキャラクター選択画面に。

「この13キャラの中からね!」

 そう言い放った。


 美咲は呆けた顔をして言う。

「本当に唐突だね。でも、あたしは全くキャラクターの情報とか知らないんだけど……」

 うんうん、と鷹揚にサティスファクション都は頷き、そしてのたまう。

「そこはフィーリングよ!」

「感覚なの? 反射ではないって言ったのに?」

「反射と感覚は二項対立にはならないわよ、美咲」

「うーん、そうかな?」

 サティスファクション都のもの言いに流石に首をかしげる美咲だが、そこに桜がいう。

「でも、結局フィーリングから始めるのが一番なんすよね」

 実感のこもった口ぶりに、そういうものか、と一瞬美咲は思うが、すぐに疑問が出る。

「けど、軽率なんじゃあ? 強い弱いとかあるよね、たぶんだけど」

「たぶんじゃなく確実にね。でも、美咲はいきなり超強い状態で天下無敵になりたいわけじゃないでしょ?」

 サティスファクション都の言葉に、成程、と美咲は気づきを得る。

「それもそうだよね。全くの初心者が強い弱いを気にすることはない、か」

「まあ、初心者の場合、強い弱いよりも扱い易い易くないのが重要っすけど」

 そう言うと、桜はアーケード型スティックを手元に持ってきて操作し、キャラクターにカーソルを合わせた。

「扱い易いので話をすれば、まず主人公格であるソル=バッドガイがやることは分かりすいっすね」

「基本近づいて殴る蹴る投げるの暴行を働けばいいものね」

「サさん、言い方! でも、あながち間違っちゃいないか……」

「そうそう。基本的に接近してゴリゴリ押すタイプだけど、必殺技は格ゲー三種の神器、つまり飛び道具、無敵対空技、突進技が揃っているこのゲームの基本のアーキタイプの1人ね」

 トレーニングモードに入っているところで、桜はダミーをCPU操作にして、ソルを操作して動かし始める。

 近づいてぼこぼこ殴って蹴って倒して炎が出る。その炎が当たるとまたぼこぼこ殴って蹴って倒す。

 二度目は流石にガードされていたが、近づいてひっ捕まえて地面にたたきつける。

 そしてまた炎が上がり……。

「もうちょっと外連味というか、手心というか……」

 苦言を呈すサティスファクション都にノリノリでCPUをぼこしている桜は言う。

「でも、ソルって大体こういうキャラじゃん」

「わーってるわよ! でもそこまで端的でなくても!」

 桜は厳かに言う。

「つまるところ、ソルとはこのようなもの……」

「はいはいはいはい! 語弊が根付く前に次行くわよ」

 と言っている側から、桜は大技を打っていた。

 ソルが「御託は、要らねえ!」と派手な二段攻撃をぶちかます。響く爆音とともに煙が立つ。

「大寒!」

「へいへい、でも超必も見せておいた方がいいんじゃねえの」

 絶妙な位置を突かれ、サティスファクション都は、うっと口ごもる。

 キャラを魅せるなら、そういう部分も見せるべきだ、というのは実際正しい。そこが抜け落ちていたのは反省点である。

 なので、反省してサティスファクション都は続ける。

「一種類だけ、見せるように。全部見せると混乱するからね」

「大丈夫だと思うけどなあ」


 話は転換する。

「はいはい、次の使い易いタイプ、基本形のキャラを選択しなさい」

 言われ、桜は別のキャラクターにカーソルを合わせる。そしてサティスファクション都が解説する。

「もう一人の基本形はやはり、飛び道具、対空技、突進技の三種の神器がこちらもそろったカイ=キスク。こっちはよりソルより少し遠い位置が主戦場のキャラね」

 言っている内にキャラクター変更は済まされている。すっと対戦移行画面が移り、すっと対戦画面へと移行する。

「うひょー! PS5はいい! ここホント、PS4だと長いんだ」

 と言って、桜はすぐにいいことに気づいた、という笑顔になり、言った。

「これくれ」

「舐めるなよ人間」

 ややガチの怒りになったので、流石に桜も自重することにする。

「冗談だって」

「あなたそういうとこあるやつだって思ってるからね?」

 さておき、桜はカイを動かす。

 遠めでは飛び道具をジャンプ版も絡めて撃つ。ジャンプ版の角度の違いもきっちり使い分けて。

 近くなれば攻撃から飛び道具。あるいはスライディングを思わせる攻撃で倒したりする。

 そこから立ち上がろうというところに、大きな飛び道具が重なり、そこから接近して攻撃を決めていく。

 端まで追い詰めて、側転からのキックで相手を当てると、相手は壁に張り付いた状態に。そこで、

「ライドザ!ライトニング!!」

 と叫ぶと、カイは電気の層を纏って突進して、相手を壁の向こうに吹き飛ばした。

「こういう感じでじっくり立ち回って、自分のターンが来たら一気に。これがカイの戦い方ね」

「ふむふむ、三種の神器のくだりは良く分からないけど、とりあえず、この二人がお薦めなの?」

 サティスファクション都と既にキャラセレクトを始めて居いる桜は首を横に。

「扱い易いってだけよ。でも、扱い易いからこれからやらないか? という時用ね」

「謎の社交辞令?」

「そんなもんっすよ」

 冗談はさておき、とサティスファクション都がワンクッション入れる。

「オーソドックスはそれとして、次以降は結構癖が強いのよね。ギルティギアシリーズの良い所であり、悪い所でもあるわね」

「ということで、まず入門編のキャラから使ってみます?」

 うーん、とする美咲。

「ひとまず全キャラ聞いておいても悪くはないと思うんだ。分からないなりに、聞けば何か分かることもあるかもだし、そもそもフィーリングが大事なんだよね?」

 そうそう、とサティスファクション都と桜は頷く。フィーリング云々を言い出した手前、そこを突かれると肯定せざるを得ない所はある。

 だが。

「結局、自分で使いたいやつ以外、使いたくないじゃない?」

 その言葉に美咲はビビっときた。しっくりきたと言うべきかもしれないが、何か得体のしれない天啓に感じたのだ。

「それは、そうだね」

 妙に神妙に言う美咲に対して、桜はとはいっても、と続ける。

「ゲームの基本が分かっていれば違うキャラクター向けに修正は出来るっすから、気楽に決めるといいっすよ。まあ、たまーに他に応用出来ない独自性のあるキャラもいるっすけどね」

「『ギルティギアストライヴ』にも当然いるけど、そう言うやつは後にまわすわ。じゃあ、どういうキャラがいるか説明しておくわね!」

 そういうことで、怒涛のキャラ紹介が開始される。


 サティスファクション都は語りだす。

「まずはスピードタイプね」

「いきなり新語だね」

 そうね、とサティスファクション都は応答する。

「とはいえ、特に凝った意味はないわ。スピードが速いタイプってこと。その分守る力や耐久力に難があるから、その点を加味しないといけないのが、スタンダードタイプとではちょっと難しいとこね」

「スピードタイプだと、どのキャラなの?」

「明確にスピードタイプなのはこの」

 桜がカーソルが移動して、そのキャラを指す。

「チップ=ザナフっすね」

「どういうキャラ?」

「ちょいお待ちを」

 という間にトレーニングモードに突入する。

「PS5様様、だ」

 と言いながら、桜はチップを操作する。それを見せながら、サティスファクション都はチップの解説をする。

「機動力はこのゲームでも頭一つ抜けた、まさにスピードスター。所謂突進技が豊富で、攻撃の速度も素早くラッシュが強いキャラっすね」

 そう言うだけあり、チップのダッシュやジャンプの速度は早い。「アルファブレイド!」と叫びながら出す突進技も早い。とにかく全体的に素早かった。さっきまでのスタンダードキャラとは一線を画す動きだ。勢い端の壁を走っていたりするのはご愛敬だが。

 攻撃も素早い。素早く接近して攻撃しているだけでも、なんか強そうに見える。

 桜は、覚醒必殺技も見せる。素早い動きで連撃を加え、最後になんか術っぽいのをする攻撃だった。

「成程、確かに速いやつなんだね?」

「ただ」

 と、サティスファクション都は付け加える。

「チップ、耐久力がカミなのよね」

「神?」

「違うわ。紙よ」

「紙っすね。ぺらっぺらっす」

「そんなに薄いの?」

 コクコクと二者は首を縦に振る。

「マジで昔から事故でやられる事が多いキャラなのよ。スピードはあるけど、それをクレーバーに使いこなせないといけないの」

「だから、シャカシャカ動いているように見えて、意外とかっちりした動きが求めらるタイプっすね」

「成程」

 そう言っている内に、キャラクターセレクト画面に戻っていて、そして次のキャラにカーソルが移動する。

「スピードキャラならミリア=レイジもいるわね」

「ああ、女の人」

「そうね。この子はスピードキャラだけど、チップとは違って空中行動の多彩さで押すタイプね」

「空中行動?」

「ギルティギアシリーズは空中行動、つまりジャンプからの行動が多彩なのが売りでもあるっすよ。デフォルトで空中ダッシュと二段ジャンプは装備されているキャラがほとんどっすからね」

 で、と桜は解説を続けながら、ミリアを操作している。

「チップも空中行動は色々あるっすけど、そこに対してはミリアの方が一段上手、と言った所っす。チップは三段ジャンプまでが可能っすけど、ミリアは空中ダッシュを二回使える、というのだけでも際立ってるっすけど」

 言いつつ、ミリアをジャンプさせて、コマンドを入力すると、ミリアの足元に花が出る。そこからぴょんと一跳ね。

 かと思ったら、一瞬の停滞の後に高速で下に着地する。

「こういう感じで、ジャンプの軌道を一気に変える技が多いっすよ。あと、所謂起き攻めも強力なタイプっすね」

「起き攻め?」

 ああそれね、とサティスファクション都は解説を受け持つ。

「単純に話せば、倒れた相手の起きるタイミングで選択肢を押し付ける、って感じ」

 桜が、ダミーをダウンさせ、そこに輪を出す必殺技を使う。それが、立ち上がるダミーにしっかり重なる。その時点で、既にミリアは空中ダッシュで輪を出した方とは逆の位置に。

「こうやってガード位置をかく乱するのがミリアの起き攻めっすね」

「つまりごり押すって感じ?」

「まー、言ってみるとそうなるから少しぼかしたんだけど」

「まあ、端的に言っちゃうとそうっすよね、やっぱり」

「強みは分かったけど、弱みは?」

 美咲の問いにサティスファクション都は答える。

「こっちは耐久力も低いけど、それ以上に守る力が若干弱めなのよね。無敵技、まあ相手の攻撃を無視して攻撃出来る技って思っていいけど、それの手持ちが心許ないのよね」

 そう言う側から、桜はミリアに覚醒必殺技を使わせる。演出から、転じて髪を羽根のようにして、ミリアが飛翔し、浮いた相手に追撃をする。

「この覚醒必殺技以外に無敵がないんっすよね。チップは必殺技で持っているので、そこも大きな差異っすね」

 そう締めつつ、桜はキャラクター選択画面に戻している。

 そして、次のキャラを選択する。

「ご新規の、このジオヴァーナもスピードタイプね」

「また女の人だね」

「ミリアとはまた違ったタイプの、ね」

「こっちの人はどういう特徴?」

 画面はトレーニングモードに移っている。桜はジオヴァーナを動かしつつ、答える。

「基本的にガードされてもごり押すタイプっす。必殺技に突進技ばかりもっているキャラクターっすけど、それの隙が少ないというのが特徴っす。だから近づければかなりごり押しが出来るタイプ、つまりより接近戦に偏ったスピードタイプっすね」

 蹴りから回し蹴りや突撃キック、跳ねて蹴りなど、多彩な蹴り技を見せている。

「欠点は貼りつくまでが大変なことね。ダッシュが、ずっと走るのじゃなくてステップ、既定の距離しか走らないのよね」

 実際に、桜がダッシュを見せる。事実、ジオヴァーナのダッシュは一定距離を進むと止まってしまう。

「ずっと走れないんだね」

 その通り、と言ってからサティスファクション都は続ける。

「だから遠くから攻めてくる相手には上手く隙を突きたいけど、それにしても根本的に攻撃のリーチが短いのよ」

 実際に、桜が通常技を振る。蹴りを連打するが、確かにリーチが短いのが分かる。

「必殺技も、突進技は豊富だけど、相手の動きを止めるとなると、そういう持ち札がないのよ。そして大体の場合相手の方がリーチが長いから、接近を止められたり、逃げられたりすると大変難儀なのよね」

「だからいかに接近するか、いかに接近を維持してダメージを与えていくか。そういうキャラクターっすね」

 逆立ちからの回転蹴りの覚醒必殺技を見せながら、桜はそう締めくくった。

「いや、なんかすごいねその技!?」

「見栄えするわよね」


 桜はキャラクター選択画面に戻しつつ、言う。

「スピードの次はパワーっすね。スピードキャラの対偶は、当然パワーキャラっす」

「パワーってことは、力が、破壊力があるタイプってことだね?」

「大筋では間違ってないっすね」

「ある意味同じこと言ってるしね」

 と、適当なことを言う側から、桜はキャラクターのカーソルを次のキャラに。

「パワータイプの見本はポチョムキンね」

「見るからに大きいね」

 実際デカい。今まで出たキャラに対して横にも縦にもデカい。

「パワーキャラ筆頭っすからね」

 なるほどなー、とする美咲に、桜が解説を加える。

「ポチョの長所は全体的に破壊力が高いことっすね。さっきのチップとかだと、紙装甲ゆえにワンコンボほぼ即死とかされる場面すらあるっす。後、投げキャラ」

「投げキャラ?」

「必殺技に投げをのものがあるキャラを、大体どの格ゲーでも投げキャラって言うっす」

「必殺投げ持っているキャラはこのゲーム結構いるから、そのカテゴライズは無理があるんだけどね」

 と注釈をいれつつ、サティスファクション都は続ける。

「でも、ポチョの必殺投げは今回は超ダメージだから、投げキャラの面目躍如ね」

 桜が動かし、「ポチョムキン、バスター!」とポチョムキンが叫んで、相手の体力が消し飛ぶ。

「これは、半分くらいダメージがあったってこと?」

「大体そうね。こういう、ダメージが大きいことを減る、っていうからよく覚えておきなさい」

「ダメージが大きいのは減る。スラング?」

「スラングだけど、まあやや直截ね」

 さておき、と美咲は遮断して、問う。

「当然弱点はあるんだよね?」

 サティスファクション都は明確に答える。

「ポチョの弱点は、やはり鈍重さね。攻撃も移動速度も遅くて、ダッシュ、空中ダッシュを持たないキャラクターよ。一発は大きいけど、隙も大きい。そこをどうどさくさ紛れに出来るか、が肝要なキャラクターね」

 実際に、ポチョムキンの動きは鈍重だった。前方移動も遅い。ジャンプも鈍い。

「成程なー」

 と言っている側から、アッパーでダミーを浮かして、「ヘブンリー!」とポチョムキンが叫び、空へと昇っていく。そして浮いたダミーを掴むと、更に天高く昇っていく。

 そしてやけに荘厳な映像が出た後、「ポチョムキンバスター!」と地上へと再誕した。

 目を丸くする美咲に、非常にも理解をさせないまま、更にプレゼンは続く。

「メイもパワーキャラって言ったらそうっすね」

「えと」

「そうだわね」

「あの」

 そのキャラ、メイににカーソルを合わさる。

「あ、女の子だ。女の子が、力が強いの?」

「力が強いっす」

「武器が碇だもんね」

「碇」

「女の子パワーキャラはごついブキを持っている、というのは『天外魔境真伝』からの決まり事よ」

「ねえよそんなもん」

 とにかく! とサティスファクション都は大喝して人間をビビらせてから続ける。

「メイは大ぶりな通常攻撃と、使い易い必殺技の組み合わせが特徴ね。特に横イルカのおかげで、パワーキャラだけどスピード感のある攻めを展開することが可能よ」

 そう言うと、既にメイにキャラは変わっている。そして「イルカさーん!」「イルカさーん!」「イルカさーん!」とイルカに乗って突撃していた。

「なんか凄い光景な気がする」

「わりとこのゲームからすると異端なとこあるっすよね」

「しかし、今までも強みだった横イルカだけど、今作で仕上がったわね」

「縦イルカもあるでよ」

 「イルカさーん!」と言いながら、メイは上空に飛ぶ。そして放物線を描く。最後に攻撃は当たらなかったがメイは着地してすぐダミーを投げてダメージを与えていた。

「スカると隙がほとんどないのも相変わらずで、これも仕上がってるっすね」

 ふむふむと聞き入っていた美咲は、当然の問いをする。

「欠点は?」

 うーん、とサティスファクション都と桜は悩む。というのも。

「欠点少ないような気がするっすよねえ」

「あれかしら、やっぱり通常技が大振りな点。無敵技が覚醒頼みなとこ、あと溜めキャラなとこかしらね」

「溜めキャラ?」

 はてな? とする美咲に、サティスファクション都はどう言ったものかと逡巡する。

「えーと……」

 そこに助け船。

「一定方向にレバーを入れてから出す技の総称っす。普通の必殺技はレバーを操作するのでコマンド技と言うっす」

「溜めもある意味ではコマンドなんだけど、その話はややこしいから置いておくわ」

「うん、置いておこう。続けて?」

 わりと気になるとこをさくっと置いておける美咲に密かに慄きながらも、サティスファクション都は続ける。

「溜めキャラは、前に出るのが結構難しいの。前に移動するという事は、溜めを維持できない、ってことだから」

「前に歩きながら溜めればいいんじゃないの?」

 さも名案、とする美咲に、サティスファクション都は一喝する。

「それが出来れば苦労はない……!」

「基本的に、前方向で溜めることは出来ないんすよ」

「そうなんだ」

「前に進むと自動的に溜めが出来ない状態、ってことで理解しておくといいわ」

 と言いつつも、メイはイルカさんからイルカさんを出している。この点に、桜は説明をする。

「とはいっても、横イルカで移動しつつ溜めることも可能っすから、明確な弱点とも言いきれないっすね。だから、攻撃が大振りなのと、無敵技が少ないのが欠点、が言い方としてはありっすかね」

「成程成程」

 納得が理解から来ているのか謎なとこはあるものの、一応話は飲み込めているようである。そこに。

 「グレート、山田さーん!」とデカいクジラが召喚された。

「さっきから気になってたけど、このクジラさんとかどこから出てるの!?」

「法力っす」

「法力ね」

「説明になってないよ!?」

「まあ、そういうものだと思っていなさい。メイは、呼べる」

 サティスファクション都は目をぐるぐるさせながら、そういった。もうツッコミどころじゃないんだな、と美咲は理解し、

「あ、うん」

 とあいまいに受け入れた。

 そして、サティスファクション都は言う。

「さあ、次は、中距離系よ!」

(第四回に続く)

何気に長くなりすぎたので二回に分けてみました。長くても大丈夫なんだろうけど、やっぱり区切りもいいとこというのもありますし。と言い訳はこれくらいで、次回も頑張って書きます。

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