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第13回 格ゲーとは面白いのか?

 そこはとある県庁所在地のとある住宅街。

 その一角に存在するのが、ゲーマー妖怪サティスファクション都の屋敷である。

 その屋敷自体も妖怪であり、なので人は近づかない方がいい場所である。

 当然、主のサティスファクション都の不興を買ったものは、そこにいるだけで危険である。

 それが生身の人間ならば、更に危険度は増す。即刻退散しなければ、命が危うい。

 今回はそういうタイミングになります。


「どういうことかしら、美咲?」

 そう、鷹揚にいうのが件の屋敷の主であり、自身も大妖怪を名乗る、サティスファクション都である。

 鷹揚、とは記述したものの、その内心は計り知れない所がある。

 端的に言うとぶち切れ一歩手前。そう言える感じである。冷静を装っているが、抜き身の刀に近いシリアス度だ。

 危険であった。

「もう一度、言ってもらえる、かしら、美咲?」

 相当にキている。やもすれば冷静さを欠いているとさえ言える。

 しかし、その言葉を受けた単なる人間であり学生な犬飼美咲は、茶色い癖っ毛を手軽に弄んでいる。その危険性に全く気付いていない。普通に問いかけられただけと思っている。

 だから、スルっと答える。

「うん、だからね。格ゲーって面白いのかなって」

「ふぁーーーーーーーーーーー!」

「落ち着け」

 そういって、サティスファクション都の頭にチョップを食らわすのは、サティスファクション都の横にいた、これまた人間の大寒桜である。

 当然、サティスファクション都の怒りの矛先は桜に向く。

「なにすんのよ、大寒!」

「格ゲーが面白いかどうか、なんて議論百出の言葉で噴き上がるんじゃねえってんだよ。何年生きてるんだよ」

「ですが部長!」

「何部だ」

「格ゲー部よ」

「せめてeスポーツ部にしろ」

「じゃあそれで」

「……まあいいんだけど、落ち着いたか?」

「クールダウンに付き合ってくれるなんて、いい奴ね、大寒」

「この家の主が噴き上がると危ないから、その時はなんとか落ち着かせろって、城先輩とニシワタリさんに教えられてたからな」

「あいつら、私より信頼されている……?」

「逆だ。あんたが信頼出来ないんだよ、妖怪のサさん」

「さておき、格ゲーが面白いのかって言ったわね、美咲?」

「そういうとこだぞ」

 うるさいわねえ、とサティスファクション都は言いつつ、話を挿げ替える。

「格ゲーは面白いか。これは言った人によって全然趣きが違ってくる話よ。私や大寒くらいになって言うのか、美咲のレベルで言うのか、でね」

「あたしレベルだと、どういう感じになるの?」

 美咲の問いに、やや反射で話していたサティスファクション都は一瞬口ごもる。そこに、桜が被せてきた。

「美咲先輩レベルだと、そもそも格ゲーそのものが面白いかどうか、というのが判別できないってやつですね。格ゲーで何したら楽しいのか分からんとこでしょう」

「そういうとこよ!」

 と、サティスファクション都が指さしてくるので、怪訝全開で桜は問う。

「何が?」

「そういう、私が喋りたいとこもっていくとこがよ!」

「で、美咲先輩の場合では」

「スルー!?」

 うるさいなあ、と更に怪訝を増して、ついでにもっとスルーして、桜は言う。

「……美咲先輩の場合は、まず格ゲーというのが分からないってとこですよね?」

「そうなるのかな? なんというか、今自分が感じているのが面白いなのか、って感じがする」

「まあ、いきなり修行モードで始めたらそうなるかもですね」

「導入が悪かったって言いたいの!?」

 スルー。

「格ゲーを習得するには、やはり修行が要るとアタシは思いますけど、でもそれが第一義ではない、という点を見過ごしたのは認めます」

「でも、修行も楽しいわよ?」

 スルー。

「なので、今回は格ゲーの持つ面白さというのがどういうのか、体験してもらいましょうか」

「何をするの?」

「CPU戦です」

 サティスファクション都は慟哭を始めたが、それも無視された。


 そもそも、と画面を向いている美咲が問う。

「CPU戦って、何をするの?」

「何をしてもいいです。いくらジャンプしても、ダッシュしても、攻撃を空振りしても、勿論攻撃を当ててもいいです」

「それが面白さと関係があるの?」

「やってみんね!」

 そういうことになった。

 画面にはGGxrdR2のアーケードモードの画面が出ている。美咲は、使うキャラをソルに合わせて、プレイ開始。初戦はチップだ。

「おりゃおりゃー!」

 美咲は、馬鹿の一つ覚えというやつで、遠S>HS>ガンフレイムの流れをもりもりと繰り出す。CPUのレベルが低いのもあり、さくっと一セットを取る。

 そこに。

「美咲先輩、それだけでいいんですか?」

 と、桜が言ってくる。

「他にどうしろと?」

「次は跳んでみまくってはいかが?」

「跳ねるの? 良いイメージないんだけど?」

 そうです、と桜がいう頃には、二セット目がスタートする。

 美咲はとりあえず前に跳ばせてみた。攻撃も適当に出す。地上技につながらないようなタイミングだが、攻撃自体は当たった。

「うん」

 地上に降りての攻撃は、つながらないのだが、それでも美咲は攻撃を出す。ガードされるが、無視してガンフレイムまで完走する。

 美咲は、次は促されることなくジャンプさせた。

 CPUは普通にガードするが、それでも美咲は構わず連携を続ける。

「ジャンプ攻撃はSからHSに繋ぐのがいいですよ」

「ほいほい」

 桜に言われて、美咲はまたジャンプ。そしてS>HSの流れで攻撃を当て、着地後に遠Sを出す。これが連続技として繋がった。

「ん!??!?!?」

「当たり方が良かったのよ。丁度ジャンプHS二段目がぎりぎりで当たったからね」

「は???????」

「……いいからもっと適当に遊びなさい、美咲。そうすれば見えてくるわ」

 妙に謎めかせて言うと、サティスファクション都は腕組みなどをして見の態勢である。

 これ以上問いかけても無駄という姿勢なので、美咲はゲームに向かい合う。

「何してもいいの?」

 と、美咲がぽつりと、サティスファクション都の言葉を受けた言葉を出す。

「言い換えればそうね。隙が出ても出なくてもとにかくヴォルカニックバイパーを無駄に連打してもいいわ」

「ヴォルカニックバイパーって、あのコマンドが特殊なやつ?」

「昇竜拳コマンドという由緒正しいコマンドよ。特殊なんかじゃないわ」

「出せますか、美咲先輩」

「えーと、歩きながらガンフレイムコマンドして、Sだっけ?」

 そうやると、美咲の動かすソルは「ヴォルカニックバイパー!」と叫んで炎を纏って飛ぶ。

「美咲、いつの間にそんなテクを!?」

「家でもやってるからねー」

「マジでジョイスティック買ってたからね、美咲先輩」

 美咲の思わぬカミングアウトに、サティスファクション都は慄く。

「その上で、私に格ゲーのどこが面白いか聞いた訳!?」

「教え方が悪かったのがあったんだよ。修行の側面ばっかりやってるらしいんだ。ダッシュからの基本連携と、後覚えておくべきっていってたコマンド技だけ」

 美咲は素直な子である。が反面、素直過ぎるきらいがある。そうとはサティスファクション都も知っていたが、まさか家でも金科玉条に修行していたとは。

 そう分かった途端、サティスファクション都の涙腺が崩壊した。

「ごめんなさい、美咲! あなたには格ゲーの何が面白いか聞く権利があるわ! それなのに、私はぶち切れてしまった!」

 おろろろろという音を立てて泣くサティスファクション都。

 どういう感情回路なんだよ、と桜は思ったが、この妖怪が泣くという感情を持ち合わせていた事の方が衝撃的だった。そしてその泣く琴線が良く分からないとこも。

 そして更に襲撃的だったのは、それについて美咲が全く見ていなかったことだ。

 美咲は、ヴォルカニックバイパーを無駄に出す遊びを初めて、没頭していたのだ。

「そうかー。これは楽しいねー」

 全くの平熱の感じで、しかしサティスファクション都の所業に気づかないレベルで没頭しているのだ。

 桜も、流石にそれには面食らう。この間の妖怪に命を狙われたのに平素だったのと、これは地続きなのか。そう思わせる何かがあった。

 おろろろろと泣き続けていたサティスファクション都だが、流石に美咲の反応が無いのに気が付いた。ついで、美咲が没頭していることにも。

 自分の行動が全く気にも留められなかったことに衝撃を受ける。そう思った桜の予想は、外れる。サティスファクション都は今度は嬉しそうに泣き始めた。

「ああ! 美咲が格ゲーの楽しさに目覚めたのね! 私の悲しみなど、全く些細なことなくらいに!」

 そんな良い話しかなあ、という疑念は桜も持ってしまうが、美咲が自分の出した疑問に対する答えを得た、というのは確かにそうかもとも思う。

 その後も、美咲は存分に駆け回り、飛び回り、攻撃を出して、更にヴォルカニックバイパーを無駄に撃ちまくった。


「さておき」

 美咲の動きが一段落したところで、サティスファクション都は口を開く。

「こうは言いたくないのだけど、これは大寒のおかげね。言いたくないけど」

「クソタレ言ってるじゃねえか」

「だから言いたくないっていってんのよ! それでも押して言っているんだから、素直に拝聴しなさい!」

「へいへい」

と桜はだらけて答える。

 むぐぅ、と唸りつつ、サティスファクション都は言葉を続ける。

「さておき、美咲。格ゲー面白いかしら?」

 その問いに、美咲は特に気負いなく答える。

「うん、これは面白いものだね」

「特に、どこがかしら?」

「そうだね、やっぱり自分が操作しているのが分かるのがいいね。動かしてる! って感じがあるのがいい、んじゃないかなあ」

 最後が尻すぼみになるが、そこをサティスファクション都がフォローする。

「いやいや、それでいいのよ美咲。格ゲーは、ゲームのジャンルの中でも特に自分の動かしたい気持ちがダイレクトに出るモノなの。

 だから、動かすことが楽しい、それもまた格ゲーの楽しさだし、最初の一歩なのよ」

「そこをぶっ飛ばして修行させてたんだから、あれだ。指導脳だ」

「どうしても修行はしなくちゃいけいないから、いけないから!」

 視線を逸らしつつ、そんなことを間違った力を入れて答えるサティスファクション都。

「いや、でも、あれはあれで面白かったんだけど?」

 美咲の言葉に、サティスファクション都は虚を突かれた。

「……本当に?」

 とおずおずと言う。動揺しているのだ。更に問う。

「型にはまった動きを反復するのもそれはそれで楽しい、ってことで?」

「いや、普通に楽しかったよ?」

「普通」

「普通」

「普通」

 最後に行った美咲が、続ける。

「それもそれで動きだから、出来るようになると面白かったってことでいいんじゃないかな?」

「アナタはどう思うかしら、大寒?」

「それはそれで一理はあるけど、普通の視点じゃない気がするんだよなあ」

「いやでも、案外そういうものなのかもしれないわよ?」

「うーん、事例1で考える事じゃない気がする」

「いや、普通に楽しかったんだって言ってるよね?」

「いやいや、修行がいきなり面白いって、フィクションでもないわよ」

「ノンフィクションなら尚更ですよ。ありえない」

「だから、普通に楽しかったって! そういうあたしの気持ちは間違いじゃないでしょ?」

「…!」

「…!」

 なんかハッとする二名。

「私としたことが、美咲の気持ちを勝手に解釈していたわね。迂闊だったわ」

「それはまあ、そうなんだけど、うーん、それでもやっぱりレアケースだとは思いますよ、美咲先輩」

「レアケースなのはたぶんそうなんだとは思うけど、楽しかったらそれでいいじゃない?」

「腑に落ちねー」

「私は腑には落ちるたわよ? 遅れているのかしら?」

 桜がサティスファクション都にギン睨みする。

「無駄に何年も生きているくせに、こういうのには疎いのかねえ、妖怪のサさん?」

「疎いというか、超越しているのよ?」

 ニマア笑みで返すサティスファクション都。

 わりと眼光が鋭い同士の決戦が行われ始めていた。

 完全に蚊帳の外の美咲は、それを確認してから、CPU戦を続け始めた。

 視線戦のBGMに「ヴォルカニックバイパー!」が鳴り響く。

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