入ったらそうなる駅
そこそこ栄えたこの町の隅に、今はもう機能していない駅が存在するとか。何かSNSでそんな情報を得た。
地図にも乗らないらしいそれを探しに私、詩春は自転車を漕ぐ。
──駅は、突然姿を現した。
ただ、線路に沿って進んだってだけなんだけど。
「うわ、ボロ。苔だらけだし、もう看板なんて折れてんじゃん」
元々駐輪場だったんじゃないかなってスペースに、自転車を止めておく。髪に蜘蛛の巣がかかったのは、気づかなかったことにしよう。
この駅の名前は、掠れてるけどギリギリ「怪堕主」と読める。明らかに、ヤバそうな名前。
周りが木で覆われてるのも、何処となく不安を煽る。
「……だーれかいませんかぁ、なんて」
静か過ぎて、段々怖くなってきた。
これまで幾つも心霊スポットと呼ばれる場所に行った私だけど、ここはこれまでと少し違う感覚がある。
もう既に、「帰れませんよ」って、門を閉ざされた気がしてならない。
「線路、繋がってないじゃん……。これ何処から続いてたんだろう? やっぱ今も使われてる線路かな。切り離された感じ?」
蜘蛛の巣塗れの改札を通過して、ホーム下を覗く。おんぼろ、と以外には乾燥が湧いて来ない。
両端に眼を向ければ、その先が大きな木で遮られてしまっていた。
使われていない。それ以外に得るものは無し。
「帰るか。無駄足だったみたい」
踵を返して、直ぐ後ろの改札の方に眼を向けた。
「……ん? 何だろう。アレ、切符かな」
改札の隣、窓口に切符が置いてあった。何かとっても目立っていて、気になって仕方がない。
窓口まで歩いて行って、切符を拾う。誰かが置いて行ったものなのか、「怪堕主行き」と書かれた場違いな切符だった。
「てか、何かコレ新しいかも。埃一つ被ってないし、凄い綺麗」
まるで新品とも見れる切符を眺めていたら──
『ジー……黄色い線までお下がり下さい。ザザ終点……み行きの特急列車が……いります』
「……は? 何? アナウンス? 来るわけないじゃん、こんなとこに」
もう、線路は塞がれてしまっているんだし。
まさかアナウンスはまだ無事(壊れてるけど)だとは予想外で、記念に切符とのツーショットをSNSにあげることにした。
プシュー。
「……え? はっ⁉︎ えぇ⁉︎」
SNSに写真をアップした直後、妙な音に振り返った。
暗い、電気もチカチカ点滅している亀裂だらけの電車が停まっていて、私を待つかのように扉が開いている。
何処から来たの、この電車。それより、どうやって来たの。
「ご乗車ください、お客様」
「うわぁっ⁉︎ え……」
改札を出ようとしたら人にぶつかった。綺麗な笑顔の車掌さんだった。
名札に、没・二十八歳と書かれた男性。
「いや、あの……」
「切符を手に取り、改札を通りましたよね? 安心してください、それだけでこの車両はご利用頂けます」
「そうじゃなくて……」
どんどん迫って来る笑顔の車掌さんから下がりつつ、その更に先を見た。
──改札がなくなって、壁に変わってる。
しかもあの壁、人の顔が映ってない⁉︎ 幾つも、幾つも……!
あれ、私の顔もある……?
「ご乗車、ありがとうございます」
「へっ……?」
車掌さんが頭を下げたら、私の視界が扉で閉ざされた。
私、いつの間に電車に乗ってるの⁉︎
「ちょ、開けて! 私客じゃないから! 待って! 発車しないで!」
ドンドン扉を叩く。「開」のボタンを押してもうんともすんともいわない。
窓から見える先で、車掌さんが無線を口元まで上げた。
「黄泉行きの電車が、発車いたしまーす」
「よ、黄泉……?」
電車が走り出して、その間もずっと笑顔の車掌さんを見て、私はその場に腰を落とした──。
どうだったかな……?(ドキドキ